「うっ……ひっく、ぐす……」  
 町の入口の辺りで、一匹のポケモンが泣いていた。  
 今日はバケツをひっくり返したような土砂降り。外は暗く、人間はおろか、ポケモンすら外に出ていないような天気の中、そのポケモンは泣いていた。冷たい石造りの壁を背にして泣き続けていたのだった。  
 そのポケモンは、クチートという種族であった。頭の後ろから延びる大きな顎、小さな足を守るための袴のようなもの。小さな体は手も顔もそれに準じて小さいものだった。  
 そんな姿をしたそのポケモンは欺きポケモンとも呼ばれ、人間に忌み嫌われ過ごしてきたポケモンであった。  
 
「ひぐっ……お母さぁん……」  
 クチートは弱々しくその口からそう呟いた。目に入ってくる雨水、目の内側からあふれ出る涙を手で払い、再びその場に立った。  
 誰も通らない。当たり前だ。 そんな現状は、まだ子供のクチートには辛すぎたのだろう。しかし、人間の家に入ろうなどとすれば、たちまち酷い目に合わされるのが野生のポケモンの常であった。  
 しかも、それが欺きポケモンとなれば、生まれてきたことすら後悔するような仕打ちを受けることは目に見えている。実際、クチートの体にはいくつもの青痣と切り傷が見える。  
 左腕はもうまともに動かせないのだろうか。右手だけでクチートは目から再び雨水を払った。  
 
「…………」  
 クチートはついに嗚咽を漏らす気力も立っている体力も失った。無機質な壁の前、冷たい路地の上で、凍える雨に打たれて、その場にうずくまる。  
 クチートが最後に見たのは味気なく開け放たれた町の扉と、その奥に見える緑だった。  
 そして溢れる涙を断つようにそっと目を瞑ると、そこでクチートは意識が途切れるのだった。  
 
 目を覚ませばそこはふかふかした物の上であった。まだぼんやりする視界を頼らずにそのふかふかに顔をうずめる。ここはきっと天国なのだとクチートは思ったのだった。  
 そうでなければ、夢心地のような柔らかさを持つ物の上に自分がいることはないと、ひとり合点のだった。  
 しかし、クチートは生きていた。クチートはじきにそのことを知らされる羽目になるのであった。  
「おー、起きたか〜。よかったよかった」  
 ぽふぽふとクチートの頭を撫でる何かがそこにいた。まだ光になれていない目がうっすらとその影を映し出してクチートは驚愕した。影は人の形をしていたのだった。  
 自分を酷い目に合わせてきた人間が今目の前に立っている。それだけでもクチートを恐怖させるには十分であった。 クチートは慌てて目もよく使えないままふかふかの上から飛び降りた。  
 しかし、目の見えないまま飛び降りれば結果は見えている。足が付いたと同時にバランスを崩して、動かない左腕を下敷きにして倒れ、クチートは思わず叫んだ。  
「ひっ…! 痛い!痛いよぉぉっ!」  
 あまりの痛みに人間がいることなど忘れてクチートは大粒の涙を流し始めた。そんな涙を柔らかい何かで拭いてくれた目の前のそれは、やさしく小さなクチートを抱き上げた。  
「おー、よしよし。 泣くな泣くな。泣かれるとオレ困っちゃうよ〜」  
 やっと目が慣れ、視界が潤みながらもクチートは目の前にいるものを確かめてみることにした。目の前にいたのは、やはり人間だった。髪はぼさぼさしており、髭もこまめに剃っていないのか少しだけ目立っている。  
 どう見ても若いとはお世辞にも言えない顔をしていた。そして、眠たそうな目を向けてクチートを片手で抱きながらその瞳の涙を拭った。  
 呆気にとられるクチートを、その人間はふかふかの上に再び降ろした。クチートが見えるようになった目で見てみるとソファの上に毛布を敷いておいてくれたようである。  
 人間に見つかったらまず逃げなければいけないと言い聞かされていたのだが、クチートはそれができなかった。  
 この人間は、普通の人間と違うようにクチートの目に映ったからだ。もしかしたら、自分がクチートという種族だとばれていないのではないか。そう、一人納得しようとしていた。  
 
「……よーし、痛くないか〜?」  
「ひんやり、する……」  
「おー。よかったよかったー」  
 にっ、と笑った人間はクチートの腕にポケモン用の傷薬を使っていた。青色っぽい色をした傷薬を取り出すと体中の切り傷に向けてスプレーを噴きかける。左腕は先ほどのこともあって人間はオレンジ色を見せる傷薬を噴きかける。  
 体中の傷から発する熱を吸い取ってゆく傷薬をクチートは興味津々な様子で見つめる。空になった2本に穴を開けると人間はテーブルの上に空の傷薬を置いた。しばらく落ち着いていると体から徐々に熱と清涼感が同時に抜けていくように感じた。  
 感動しているクチートはハッと我に返ると慌てて人間に言った。  
「お母さん! お母さんの所に……」  
「ん? おわぁっ!? ちょっ、引っ張んないで〜」  
 浴衣に近いような恰好をした人間をぐいぐい引っ張るクチートに落ち着くように伝える。クチートが慌てて人間に母の状況を言った。  
「つまり、キミのお母さんが病気にかかったから治してほしいってことね〜……。  
 運が悪かったなぁ……この街にはポケセンもポケモン用の診療所もないんだよ」  
 クチートは首を傾げながらも今の状況が好ましくないのだと人間の顔を見て判断する。すでにどれだけ寝ていたか分からないクチートはその僅かな間でも焦燥感を募らせる。  
 人間は戸棚からごそごそと金色のスプレーと淡く輝く鉱石のような物の塊を取り出して懐に入れた。着ている服が寝巻に見えなくもないのだが、その人間は傘を用意するとクチートを背負って家を飛び出し、町の門まで駆けだしたのだった。  
 カランカランと下駄の音が土砂降りの街の中に響く。門を抜けるとクチートは林の方を指差して人間に行くべき場所を伝える。人間は、歩みを止めることなく自分の親を探すかのように必死になって走った。  
 林の中に入ってしまうと木によって雨粒が遮られ、傘をささずに林の中を走っていく。だいぶ中へと進んだであろう場所に、二本の木によって入口が見えにくくなっているような場所を見かける。  
 クチートが必死になってそこを指差すのを見て人間は躊躇うことなく獣道のようなその場所へ分け入ってはいる。  
 
 人間には隠れ穴と呼ばれるその場所に、一匹のポケモンが横たわっていた。今背負っているクチートよりもふた回りほど大きい野生のクチートが最奥の草の上に横たわっている。  
 眠っているような恰好のそのクチートの前に人間は駆け寄る。背中から降りたクチートが必死になってその母親であるクチートを揺するが、反応はなかった。  
 人間は冷静にクチートの喉元と手首に手を当ててみる。予想はしていたが、命の鼓動は既に止まっていた。死んでしまったポケモンには、元気の塊も意味を成さない。 木が激しい雨水を受け止める音の中にクチートの泣き声が響いた。  
 
 母の亡骸に縋り付いて泣きじゃくるクチート。人間はクチートのそばからそっと立ち上がると少しだけ離れたところで立ち止まった。今は一人にしておかなければならないような気のした人間はこの不憫なクチートを見てその目を細めた。  
 どれほどに時間が経っただろうか。雨脚は弱くなり、この開けた場所にも雨粒は落ちてこなくなった頃、クチートは鼻を啜りながら立ち上がっり、そっと人間の方を向いた。人間が近寄るとクチートはその足に抱き着いた。  
 泣き腫らした目を堅く瞑ると人間のぶかぶかな浴衣のような服に顔をうずめるのだった。そんなクチートの頭をそっと撫でて人間は亡くなったクチートの母親に手を合わせた。  
 昔、ポケモンを飼っていた人間はポケモンにも土葬という習慣があることを知っていた。手ごろな木の枝を手に持つと隠し穴の奥に地面に穴を掘り始めた。クチートも再び大きめの瞳から涙をこぼすと小さな手で人間と一緒に穴を掘り始めた。  
 
 クチートの助力もあってさほど時間のかからないうちに土葬を完了した。クチートが泣き止むのを待ちながらその飾り気のない墓の上に花を一輪、人間は手向けた。  
 
 母を病で亡くし、住処を守る力すら失ったクチートが自然の中で生きて行けるかどうか。人間にも、クチート本人にもその答えは分かっていた。人間は文句ひとつ言わずにクチートを慰めると家へ連れ帰り、温かいココアを入れてやった。  
 初めて見たその飲み物にさっそく興味を見せるクチート。まだ顔は浮かないままではあったが甘い匂いを発する目の前の物には子供特有の好奇心が働くものなのだろう。  
 人間が熱いから気を付けるように声をかけるとクチートはおもむろにマグカップに触れようとしていたその手を引っ込めた。  
 鋼タイプのポケモンだからだろうか、熱さには警戒を怠らない様子である。  
 
 クチートの座るソファにテーブルを挟んで置かれている反対のソファに人間は腰を下ろす。ココアはすでに人肌程度までになっており、冷めきる前に早く飲むようにとクチートを促す。クチートが小さな両手でマグカップを包むように持つとそれを口元に持っていった。  
 マグカップを傾け口の中にココアを流し込む。すると、すぐに半分以上ココアの残っているマグカップを元へと戻し、不思議そうな顔をした。  
「あ、あれー。こういう味嫌いだったかな?」  
 人間がポリポリ頭を掻きながら苦笑いを浮かべて訊いた。すると、クチートは首を小さく横に振っていった。  
「ううん。 すごく、甘い…。 すごくおいしい」  
 最後の言葉を発するときにはずっと浮かない顔をしていたクチートの表情が和らいでいた。それから残りのココアも飲みきると人間と向かい合った。決して明るい表情ではないが、暗く力のない表情は見られなかった。  
 
 人間は顎に手を当てクチートを見る。母との体の大きさの違いを思い返してみると、まだまだ子供のままであるのだろう。なにより、一度家に連れ込んでしまったのだからこのまま追い返すわけにもいかないし、人間はそんなことすら考えはしなかった。  
 外に人間が視線を移すと未だに勢いを弱めない土砂降りであった。まるでそれがクチートの心境のような気までしてきたもので、人間はクチートに向き直っていった。  
「……ねえ。行く当てがないなら、オレの家に住まない?」  
「えっ……」  
 急に話を切り出したからか、突飛なことを提案したためかクチートは戸惑った。そわそわと辺りを見た後に人間の目をその大きな瞳で見つめた。  
「いいの?」  
 小さく、雨音に消えて溶けてしまいそうな声でそう訊いた。  
「もちろん。いいよ。 クチートちゃんがよければ、だけど」  
「っ……」  
 やはりこの人間は全てわかっていた。自分が欺きポケモンだということも、分かったうえで母のもとまで雨の中、クチートのために駆けてくれたのだ。それを思うと自然に目頭が熱くなった。  
 欺きポケモンであることを知っていて自分の言うことを疑わなかった人間。自分の今までを思い返すと奇跡としか言いようのない状況で、その幸運が涙腺を刺激した。  
「おわわっ。オ、オレなんか悪いこと言った?」  
 慌てて人間がクチートの涙を服の袖で拭うがクチートは首を横に振ると言った。  
「私…、私……クチートなのに……ありがとう」  
「えっえっ?」  
 クチートの言葉の意味が分からず焦る人間にクチートは言った。  
「わ、私…。欺きポケモンって…言われててっ……」  
「あ、ああ……。 大丈夫大丈夫。オレはクチートちゃんがいい子だってわかってるから。安心して」  
 今まで欺きポケモンとして生きてきたクチート。そんなクチートを包み込んだこの人間の温かさは、今のクチートにとってどんなものにも代えられない喜びだった。瞳からあふれる嬉し涙を拭われながら骨の目立つ手がクチートの頭をやさしく撫でた。  
 人間は、クチートの嗚咽が収まったのを見て、そっとその小さな体を抱きしめた。  
 
 
 
 それから、落ち着いたクチートを前にして人間は口を開いた。  
「オレの名前は優一。よろしく、クチートちゃん」  
「ユーイチ?」  
「そうそう」  
 優一は頷き、クチートを見た。クチートは野生のポケモンであったわけだし、固有の名前はない。じっとクチートを見る優一とクチートの視線が交わる。  
 優一は特に何も思ってはいなかったのだがクチートは子供だからかはにかんでいる。優一がそんなクチートを見てクスクス笑うとクチートはその顔を見てムスッとした顔を見せる。優一がソファから身を乗り出しクチートの頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めた。  
 ころころと変わる表情に優一が微笑みしばらくはクチートと戯れていた。  
 クチートとの暮らしが、始まったのだった。  
 
 
「掃除?」  
「あー、うん。手伝ってほしいんだよね〜…」  
 それはクチートが優一宅に住み始めてから五日目の昼間の事だった。毎朝優一の散らかった部屋の物につまずいて転びそうになったり、少し触っただけで物が崩れてきそうな棚を横切るクチートを見てひやひやし始めた優一が掃除を始めようとしたのだった。  
 幸い部屋以外はそれなりに危険が少ないのだが、寝起きする部屋が一番危険なのでは元も子もない。クチートに別室で寝ることも勧めてみたがいつも優一から離れようとしないクチートが当然首を縦に振ることはなく、文字通り寝食を共にすることになってしまっている。  
「まあ掃除といってもこの部屋の物をある程度どかせば平気だと思うから〜」  
 そう言って雪崩の起こりそうな棚の物を上から順に降ろしていく優一。いまいちよく分かってないクチートであったが床に散らばっている分厚い本や段ボールを部屋の隅に置き始めた。  
 
 こうして雨風凌げて温かいご飯まで提供してくれる家に住まわせてもらってる優一への感謝を示そうとしてせっせと働くクチート。相変わらず優一は遅くもなく手早くもなくといった様子で棚に物を戻している。  
 雑多な物が並べられていく棚を見て、クチートは床の物が大体まとめられたのを確認してベッドの足元の方へと移動した。  
 そこには埃をかぶった何かの辞典や図鑑。そしてその脇になぜか顕微鏡の入った透明のケースが置かれている。どれも重い物であるが不思議な力を持つポケモンは人間とは体力が根本的に違う。  
 辞書を一冊ひょいと持ち上げる。すると、その下に何やらポケモンの絵が描かれた本を発見した。辞書を隣に置きなおすと、興味本位でクチートはその本の表紙に手を伸ばした。  
 
「あれ? クチートちゃん〜?」  
 優一が棚に物を置き終え後ろを向くとそこにクチートの姿がなかった。落ち着いて部屋を見回すとベッドの後ろの方でクチートの頭から伸びる大顎がもぞもぞしているのが見えた。  
「おーい、クチートちゃん〜……。 ……ん?」  
 見ればクチートが体全体をもぞもぞさせながらそこにいた。埃っぽいのが優一にとっては辛かったが、そこを我慢しつつクチートの肩に手を置いた。クチートが一瞬びくんっと短く反応してくるりと優一の方を見た。  
 優一と目の合ったクチートの顔は紅潮しており、何やら目が泳いでいる。優一が先ほどまでクチートの見ていたものに視線を移すと優一が珍しく大声を発した。  
「おおおおああああっ!!? く、クチートちゃん、ちょっ、タンマ!」  
 突然の声にびっくりしたクチートが目を瞑った隙に優一は本を取り上げる。ちょうど開かれていたページにはバクフーンの雌が正面から人間と合体している様子がそれはそれは官能的に描かれていた。  
 そういえば以前購入した物を捨てずに保管していたのだが、それも数年前の話でありすっかり忘れていた。優一が顔をしかめ頭を掻くとクチートの視線が優一に刺さった。  
「ユーイチ?」  
 クチートはきょとんとした顔で優一を見た。まさかクチートに見つけられるとは思わずに言葉を詰まらせる優一。何とも情けないが言い返すに言い返せないのだった。  
「……ユーイチ…?」  
「あ、あぁっ、何かい?」  
 あまりにも心配そうな瞳で見つめられたので上ずった声で優一はそう返した。正直、目が合わせられない自分に嫌気がさしてきた優一であった。クチートはそんな優一を見て言った。  
「ユーイチ。ひとつお願い事、あるんだけど…」  
「…お願い事?」  
 優一が疑問に思ってそう返した。このタイミングで何かお願いされるようなことがあるのだろうかと思案している優一にとんでもない言葉が聞こえてきた。  
「番(つが)い、なろう?」  
 
「ゑ?」  
 日本語なのか怪しい発音でそう優一は声を発した。  
 
 
 
 部屋の埃を外とゴミ箱に追いやり、互いにベッドの上に座り向き合った。優一は、自分の耳が腐ってないことを祈って聞いた。  
「えっと〜…。クチートちゃん、もう一回聞いていいかい? 何をお願いしたいのかな?」  
「うん。ユーイチと番に、なる」  
 クチートははっきりそう言い切った。優一にとっても、クチートにとっても、これは交際を申し込んでいるのと同じ状況である。確かに優一に交際している相手はいないし、半ばそういう情事に関しては諦めていたのだが。  
 まさか家に連れてきたこの小さな子供からそんなことを言われるとは思っても見なかった。  
「え、えっと…。その、早くない?」  
「……お母さんには、好きな人を見つけたら、その人と一緒にいることを最優先。って、言われた。 そのための、番い」  
 優一は頭を掻きながら野生ポケモンの習慣を思い出していた。ポケモンと言えば、生まれてから二、三年すれば交尾ぐらいできる体に成長するのだ。  
 このクチートも、それぐらいの年のいっていそうな"子供"であった。子供であることには変わりないという現実が理性の歯止めを利かせていた。  
 番いと言えば、当然、することは交尾である。元はと言えば子供を作るための行為である。それを、人間とクチートが行うことにもいささか疑問を感じる。何をどうやっても卵などできるはずがないのだ。  
「……クチートちゃんは、オレと番いでも、いいのかい?」  
「ユーイチじゃなきゃ、ヤダ」  
 子供の純粋なその瞳と飾り気のない言葉の前に、優一は反対する言葉を失っていた。クチートが後悔しないというのであれば、受け止めるべきである。それを思いつつ、優一はその腕の中にクチートの体を収めた。  
 
 
 優一が部屋のカーテンを閉めるとベッドの上に横たわるクチートの頬を撫でた。目を細めるクチートの小さな口に優一は自分の唇を重ねた。  
「ん……」  
 クチートが小さく声を漏らす。優一は頭を撫でながらクチートのその小さな口の中に舌を入れた。クチートが一瞬抵抗しようとしたかのように見えたが、特に突き飛ばされることもなく落ち着き。  
 クチートの舌に自分の舌を絡ませ、歯の裏側まで舐め、優一はそっと口を離した。  
 クチートの頬は紅く染まっている。そんなクチートと軽い口付けを交わし、クチートの体に指を這わせた。胸の膨らみというものは全くない辺り、やはり子供である。  
 胸はとりあえず置いておき、クチートの足の付け根を手で包むように触ると小さく揉んだ。  
「う……ユーイチ…」  
 少しだけ不安そうな顔をするクチート。そんなクチートの頬を撫でると「大丈夫」と声をかけ、足を開かせる。正直何が大丈夫なのかと思うのだが仕方がない。こういう状況は雄がリードするべきなのだ。  
 クチートの恥部の辺りを軽くまさぐってみると、体と一体になっている袴に細い切れ込みが一筋は言っていることに気が付いた。そこから中に指を侵入させると温かい割れ目に指先が触れた。  
「あっ…」  
 クチートがそう声を漏らす。優一は袴の割れ目から内側を見る。そこにはアイアンブルーの皮膚に、薄い桃色がかった割れ目があった。二本の指で広げると中も綺麗なピンク色で指がしっとりと濡れてくる。  
 クチートの足が震えているのを見て言ったん指を離すと指先のてらてらと光る愛液を一舐めした。  
「ユ、ユーイチ!」  
 クチートが慌てて優一の名を呼ぶが既に優一は愛液の味を知った後であった。甘酸っぱさの中に、多少のしょっぱさも混じっている。こんなことを言うのは恥ずかしいのだが、優一は慌てるクチートに言った。  
「…クチートちゃんのおいしいね〜」  
 そういって微笑みかけるとクチートは顔を両手で隠して可愛らしい「ばか」を連呼してる。そんなクチートの袴を再び開き、優一は割れ目に口を近づけたのだった。  
「ひゃっ!」  
 優一がクチートの恥部を舌で刺激する。ぴちゃぴちゃと溢れる愛液をすくいつつ幾度も割れ目に沿って舌を這わせた。  
 舐めれば舐めるほどに愛液は甘味を増し、虜にされるのではないかと思えるほどに甘美な味わいを秘めていた。  
 そんな割れ目の中に、舌を潜り込ませ直にその愛液を堪能し始めた優一。クチートが小さく喘ぐのを耳に、雌の匂いを吸い込む。脳が蕩けるのではないかと思うほどに理性を狂わすと味と匂いを前に、優一の雄の象徴が早くも己の主張を始めた。  
 
 優一が浴衣を脱ぎ、下着も脱ぎ去るとクチートが声を上げた。  
「わっ……」  
 クチートにしてみればやはり大振りなのかと思われるその肉棒を見せる。後はすでに、やることは決まっている。クチートの雄を迎え入れる準備のできているその秘所に一物を埋めるのだ。  
 優一がクチートの上に優しく覆いかぶさるとクチートの袴の中に肉棒を入れる。秘所を探り当てると片手で肉棒を押さえながらゆっくりと挿入を始める。  
「んぅぅっ…!」  
 やはり雄を受け入れるのは初めてのそこはとてもきつく、膣壁を押し広げつつ奥を目指してゆく。しばらくの挿入から、肉棒の先端に何かが触れる。未だに深くまで入れている実感のないところからして、クチートの純潔の証なのだろう。  
 これを破るのは、苦痛を伴うものなのだと優一が複雑な思いを抱きながらクチートに言った。  
「クチートちゃん、痛むかもしれないけれど…平気かい?」  
「う、うん……ユーイチ、だから……」  
 そう言って右手で優一の頬を撫でるクチート。その仕草と言葉に胸を高鳴らせながらも、肉棒を膜へと押し込んだ。少しの抵抗を感じた肉棒だったが、その抵抗が消え肉棒は一気に奥まで収まった。  
 狭い膣内でうねる膣壁に圧迫される快感を感じながらクチートを見るが、そこまで痛みを感じなかったのか息を荒くしながら焦点のあっているか分からない瞳で優一を見ていた。人間よりもずっとタフであることに感謝しながら優一は肉棒を引き抜く。  
 侵入を拒んでいた膣壁が次は戻すまいと肉棒に絡みつく。その快感に耐えつつ抜ける前に再び膣内へと肉棒を収める。ねっとりと絡み付きつつ潤滑油として働く愛液が溢れ出るのを感じつつ優一はピストン運動を速めてゆくのだった。  
「あっあっ、んあぁぁっ!」  
 クチートは両腕で優一にしがみつき、優一と同じく快楽に耐えている様子であった。そんなクチートに軽い口付けを交わすのと同時に優一は腰の動きを速めた。  
 結合部から聞こえる卑猥な水音を聞きながら、立ち込める甘ったるい空気を吸いながら、互いは互いを求め合った。  
「ク、クチートちゃんっ…で、出る……っ」  
「ふぁ、はぅぅっ…!」  
 クチートはすっかり快楽の波に流されているのか、聞こえているかどうかすらわからなかったが、優一も今更止まることなどできなかった。より一層激しく腰を振ると、最後の一突き、子宮口を亀頭に感じながら子種をクチートの中へと流し込んだ。  
 小さなその体に受け止めきれず、逆流して流れ出てきた子種が初めての物と混ざり、ピンク色のような色をして流れ出てきた。互いに汗をぐっしょりとかきつつ、深いキスを交わし、疲れ切ったその体で抱きしめながら、眠りに落ちた。  
 
 
 
 
「ユーイチ! 起きて!起きて!」  
「げふぅ……」  
 朝日が窓からさんさんと優一の顔の上に降り注ぐ。しかし、もっともっと眩しい笑顔を見せるポケモンが優一の腹の上で飛び跳ねていた。優一が目を覚ますと飛び跳ねるのをやめて優一の顔を見る。  
「あぁ…おはようクチートちゃん……」  
 腹の上に乗るクチートの頬を撫で、足の上にクチートを移動させると上体だけ起こしてキスを交わす。もはや、これが日課になっているような気がすると照れる優一にクチートは笑いかける。  
 
 あの一件から、クチートは「ユーイチのお嫁さん!」と張り切っていたようだ。子供の発想の範囲内だけだが、それでも精一杯頑張ってくれるクチートに優一はいつもつられて笑わされてばかりだった。  
 頭を撫でながら「ありがとう」と伝えると一緒にキスもねだってくるクチートに一日に何回口付けを交わしているのかお互い知りもしなかった。  
 今日もそんな楽しい日が始まるのだろうと足の上でにこにこと笑いながら座っているクチートを見る。クチートがふと下を見ると、優一の一物の辺りが多少膨らんでいる。クチートがにこっと笑うと再び優一をベッドに押し戻して優一のその場所をまさぐり始めた。  
「ちょっ、クチートちゃん、それは朝勃ちだって何度も……うぁっ」  
「〜♪」  
「オレはもうそんなに若くないんだからおわわわわわっ」  
「ダメ〜」  
「ねぇ、何がダメなの〜!?」  
「昨日いっぱい、出したのに」  
「そういうことなの〜っ?」  
 
 
 優一の困ったような声とクチートの明るい元気な声が一室で響いたのだった。  
 
 
 
 おしまい  
 

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