秋の日は釣瓶落とし。もうほとんど山に沈んでいる太陽の陰で、二頭のポケモンが争っていた。ニドリーノとアブソルである。  
 舞台は森の中。視界は極めて悪い。ニドリーノは首をあちこちに向けて敵の居場所を探っていた。その体は無数の生々しい裂傷が刻まれていた。  
 「……!」  
 ニドリーノが耳をピクリと動かしたかと思えば、振り向き様に二度蹴りを繰り出した。その先には何もなく、拳大の石が転がっている。  
 「しまっ」  
 た、と言う前にニドリーノは顔面から地面に叩きつけられ、勢い余って地面を滑って木に激突する。致命的な一撃だ。  
 「最近覚えたんだよね、”ふいうち”」  
 倒れ込んでいるニドリーノの前に現れたのはアブソルである。作戦が上手くいったせいか満足気な様子だった。  
 アブソルがニドリーノに近づくと、胴体に巻いている鞄がガラガラと音を立てた。  
 「おかげ様で親から貰ったあの技も忘れることが出来ました」  
 ニドリーノの目の前で腰を落とす。アブソルは、ほとんど汚れていない体毛を悠長に繕いながら続けた。  
 「ま、”どくどく”と併せた所であの程度の技じゃね」  
 「……何が言いたい」  
 しびれを切らしてニドリーノは聞いた。  
 「言いたいことは最初に言ったさ。ニドリーナを寄こせって」  
 アブソルは前脚を顔の前でくるくるさせている。両者の緊迫感は氷と炎ほどに乖離していた。ニドリーノにとって不幸なのは、その氷が絶対に溶けないということであった。  
 
 「溜まってんだよね、最近」  
 「ふざけるな! お前なんかにあいつを差し出すぐらいなら……」  
 「死んでやるって? お前が死んだらニドリーナまでフリーパスなのに?」  
 ニドリーノが歯噛みをする。生傷からの出血がじわりと増える。怒りが、残り少ない体力を、彼から逃がしている。  
 「ま、そっちがその気なら、お望み通りにしてあげよっか。もう飽きた」  
 アブソルは後ろ脚を鞄の下に突っ込んでガリガリと横腹を掻いた。おもむろに立ち上がる。  
 「……さてと。じゃあトドメでも刺しますか」  
 言いながらアブソルは体を翻し、舞いを始めた。ニドリーノはその舞いを見るともなく見ていたが、やがてそれが”つるぎのまい”だと悟って吼えた。  
 「貴様……」  
 「極力苦しまないようにって配慮だよ」  
 アブソルが舞いを終えた。  
 「ま、女は殺さない主義だから彼女と会えるのは随分先になるけど、我慢してよ」  
 なんとか生き長らえようと体を引きずるニドリーノに、ゆっくりと歩み寄るアブソル。二人の争いは幕を閉じようとしていた。  
 ――引き分けという形で。  
 アブソルの鋭敏な感覚が、それを察知した瞬間、アブソルは後方に飛び退いた。  
 瞬間、アブソルが先ほどいた空間を強烈な熱と光が突き抜けていった。火炎放射だ。アブソルを捉え損ねた炎の弾丸は、そこら中に火の粉を撒き散らしながら大樹に激突し、葉に燃え移った。  
 アブソルは舌打ちしながら火炎放射の飛んで来た方向に目を向ける。途端眉間に寄っていた皺がするすると音を立てて消えた。  
 「これはこれは、かわいらしいお嬢ちゃんだ」  
 現れたのは、ロコンである。その背後にはニドリーナが、ロコンより大きな体をなんとか縮めてロコンに隠れようとしていた。  
 「……これ持って彼と逃げて」  
 ロコンは筒状の薬瓶をニドリーナに渡して囁くように伝えた。ニドリーナは多少の逡巡を見せたが、彼に目を向けると躊躇なく足を蹴り出して、彼氏を引きずるようにしながら森の中に消えた。  
 「……アンタこういうことしてて恥ずかしくないわけ」  
 ニドリーナたちが消えると、ロコンは燃え滾る瞳をアブソルに向けた。  
 「どういう意味か僕には分からないね」  
 その炎に晒されても、アブソルの瞳は凍りついたように冷徹だった。  
 「文明的な生活を送ってない野良ポケモンに何をしても、文句も言われなければお咎めもないじゃないか」  
 「同族に向かってよくも……同じポケモンなのにどうしてそんな見方ができるの」  
 「だって罪にも何も問われないし。だったら好き勝手弄っちゃうが吉って奴じゃないかな。尤も、」  
 笑顔によって再び剥かれた牙は、折から顔を出した月によって怪しく照らされていた。  
 「こういう場所なら野良じゃなくてもアレコレしちゃうかも」  
 どういう意味かはロコン本人が一番分かっている。  
 
 「君に拒否権はある」  
 ズッと頭を下げて、アブソルがロコンににじり寄る。へらへらと笑っていた頃の腑抜けた雰囲気が霧散する。ロコンはたまらず後ずさる。  
 「そして僕には行使権がある」  
 「待って」  
 「逃がしはしない」  
 「逃げはしないわ」  
 いつ戦闘が始めってもおかしくはない。その雰囲気の中で、言葉が交錯する。ロコンは臨戦態勢にこそ入っていたが、すぐに事を構える様子ではなかった。  
 アブソルが脚を止める。  
 「何か言いたいことでも」  
 「……あの噂の話なんだけど」  
 ロコンが「噂」という単語を口にした途端、アブソルを取り巻く空気がまたしても弛緩する。ロコンが構えてる目の前で腰を降ろして、得意気に笑った。  
 「女の子限定、僕に勝てたら好きな道具をなんでも一つ、ってアレ? わざわざご来店どーも」  
 「……反故にしたりはしないんでしょうね」  
 「そりゃそうさ。力で勝てない相手じゃ反故にしようもない」  
 「……じゃあ、」  
 「勿論僕が勝った場合でも約束は反故にしないさ」  
 ロコンの言にアブソルが被せる。顔は未だに笑っているが、声色は必要以上にしっかりとしている。  
 「好きな道具の代わりに極楽を見せてあげるよ」  
 「……地獄の間違いじゃないの、それ」  
 「地獄の沙汰も君次第。地獄だと思うなら、僕に勝てば良いだけの話さ」  
 両者口を噤む。一陣の風が、二人の毛皮を揺らす。太陽はもう完全に沈んでいて、月明かりも強まっていた。  
 「……で、僕に勝ったら何が欲しいんだい」  
 長くはない沈黙の後で、話を再開したのはアブソルだ。  
 ロコンは答える。  
 「炎の石」  
 「炎の石?」  
 アブソルは目尻を下げて首を傾げる。  
 「地獄と天秤に賭けて良いもんかい、それ。大抵の女の子は、僕じゃとても用意できそうもない物ばっかり要求してきたんだけど」  
 「どういう意味よそれ。用意もしてないのにこんな賭けさせるわけ」  
 「そりゃ僕が負けるわけはないからね」  
 ロコンの体毛が立ってくる。小さな犬歯が顎の間から現れる。  
 「まあまあ。炎の石は持ってるよ」  
 そういうと、アブソルは胴体に巻いていた道具箱を開き、中から臙脂色に光る鉱石を取り出した。  
 「ほら。君が欲しいもの。もう用意してあるから安心しなよ」  
 「なんでそんな都合よく炎の石を持ってるわけ」  
 「生まれたてのロコンを見つけた時に持ってないと勿体無いからさ」  
 ロコンはその発言の意味を理解するのに一呼吸必要だったが、理解すると大きく鼻を鳴らしてアブソルへの嫌悪感を示した。  
 「進化したらほとんど技覚えられないの知ってるでしょ!?」  
 「未遂未遂。未遂で人を罰せる罪状は少ないのです」  
 ケタケタケタと乾いた笑いを発する。そしてその笑いを唐突に終わらせる。  
 「で、これ以上聞きたいことはないよね?」  
 アブソルが能面に戻っている。ロコンはその質問に、無言で返した。  
 アブソルが舌なめずりをした。  
 
 「じゃあ遠慮なく――」  
 アブソルは跳躍する。二人の距離が急激に縮まる。アブソルの前脚が紫煙をあげる。”どくどく”だ。  
 高い位置から振り下ろされた爪撃は小さなロコンの胴体を正確に捉えた。アブソルは土や石を撒き散らしながら着地し、大きく前へ踏み出した。直後、前胸部から右前肢の付け根にかけてしたたかな痛みを覚えた。火傷を負ったのだ。  
 ”おにび”か、と呟きながらアブソルが振り返ると、ロコンの毛皮が小さく削られているのを確認できた。傷口はその小ささに似つかわない出血量を呈していた。  
 「今のうちは痛くないだろうけど、やがて君は全身が引き裂かれるような痛みに襲われる」  
 アブソルはロコンに演説を始めた。”ふいうち”を決めるためだ。最初の一撃で距離を取ったのもこのためである。  
 アブソルの狙い通り、距離が空いていることに油断したロコンはアブソルの戯言に耳を傾けている。  
 「普通の毒は神経毒だ。でも”どくどく”のどくは出血――」  
 言いながら全身のバネを使って再びロコンとの距離を狭めた。ロコンが身構える。次の刹那には両者の技が炸裂していた。アブソルはロコンの柔らかい首筋に深い咬傷を残して、再び距離を取った。  
 ロコンは、アブソルの火傷を爪で抉っていた。アブソルはその不愉快な痛みを感じている。前胸部だ。  
 しかし、アブソルの意識は、その倍化された痛みではなく、ロコンの繰り出した技そのものに向けられていた。  
 「”たたりめ”……?」  
 「滅多にお目にかかれないでしょ」  
 ロコンが剛気にアブソルに答える。しかしながらその呼吸は荒い。”たたりめ”をまともに食らったアブソルのダメージも少なくないが、元々のレベル差がある。ロコンが耐えられるのは精々後二、三発だ。  
 「……君はどこでそんな技を」  
 「遺伝よ。これのせいで私とお父さんの血が繋がってないって分かっちゃったけどね!」  
 アブソルはそれに返答しなかった。固まったように動けなくなっているアブソルと、体を上下させながらなんとか辛そうに息をしているロコンの間で時間が止まる。  
 アブソルの声を低くした。  
 「そんな使いづらい技、どうして今も覚えてるんだい」  
 「親を探す手がかりだから! もういいでしょ!?」  
 言うや、ロコンは前触れなく”かえんほうしゃ”を使う。急激に上昇する光度と温度がアブソルを襲う。  
 アブソルはそれを避けるでもなく、まともに食らった。エネルギーの渦にアブソルの姿が飲み込まれ、見えなくなる。  
 ロコンの目に一瞬、勝利の予感がよぎった。  
 そしてその目には、火炎の間から飛び出してくるアブソルの姿が映された。  
 アブソルはロコンの鼻面に掌を振り下ろし、地面に叩き付けた。ロコンはこれに全く反応できず、回避も受け身も全く取れず、その衝撃の全てを受けてしまった。  
 ぐっ、と鈍い声がして、ロコンの体から力が抜ける。アブソルは、体毛のあちこちを焦がしながら、そんなロコンを見下ろしていた。  
 「勝ったと思った瞬間が一番危ないんだよ……」  
 だから”ふいうち”なんかを急所に食らうんだ、と届かない忠告をした。  
 
 「……ん」  
 気絶したロコンが小さく唸ったのを、アブソルは聞き逃さなかった。  
 火傷治しやら傷薬やらで回復した後の独特の倦怠感の中、アブソルは最早ロコンとは呼べないロコンの所へ体を持って行った。  
 「良く眠れた? キュウコンさん」  
 アブソルが声をかけた先には、拘束されたキュウコンがいた。  
 とっぷりと夜の帳が落ちた中でも仄かに輝いて見える体毛に覆われた狐が、前脚を高く掲げた状態で大木に繋がれて、後脚を投げ出すようにして無防備な腹を晒している。子育てするには十分熟した体だが、若さ故の瑞々しさは十全に備わっている。  
 相当の美形だ。アブソルは背徳的な情感に浸っていた。  
 「毒と傷だけは治しておいたよ。それでも戦うだけの元気はないだろうけど」  
 「……どうして私を進化させたの」  
 「あれ? 不満だった? てっきり進化したいがために炎の石をせがんだんだと思ったけれど」  
 ケラケラケラ。アブソルが笑うとキュウコンは真一文字に口を絞る。  
 「……僕も君の進化した姿を見たくてね。立派なもんじゃないか」  
 「勝手な人」  
 「いーじゃない元々それがお望みだったんでしょ?」  
 アブソルがキュウコンに近づいたが、キュウコンは抵抗する素振りを見せなかった。  
 「……あれ。火の粉ぐらい吹っかけられると思ってたけど」  
 「約束は約束。全部承知のことだったんだから」  
 「ハッハ。プライド?」  
 キュウコンのすぐ側にまで近づいたアブソルが、鼻をキュウコンの首筋に近づけて、スンスンと匂いをかいだ。  
 「良い匂いだ。大切にされてきたんだろうね」  
 「……私を拾ってくれたお父さんは、ね」  
 「親を探すだとかなんとか言ってたよね、さっき」  
 「捨てられたのよ、私」  
 「そ」  
 アブソルは特に驚きもせずにキュウコンと会話していた。  
 
 「良かったじゃない、良い人に拾われて」  
 「本当に。お父さんはタマゴから育ててくれたから、本物のお父さんもお母さんもそこまで恋しいとは思わないのだけれど」  
 「その割には”たたりめ”は覚え続けてるんだね」  
 アブソルが指摘すると、キュウコンは返答しなくなってしまった。  
 「ほんとかわいーよね。君」  
 そういう意地っ張りな所、俺大好きなんだよね。アブソルは耳元で囁く。  
 アンタに好かれるぐらいなら言うわ、忘れるのには忍びないの。キュウコンが漏らすように呟く。  
 ああ、そういうのは一番かわいーんだよ。  
 じゃあ鬼火と相性が良いから覚えてるだけ。  
 そっか。そういうことにしといてあげるよ。  
 「前脚、気持ち悪いんだけど」  
 アブソルはキュウコンのお腹を撫で回して、その感触を楽しんでいた。  
 相手を傷つけて屈服させて強姦するのも勿論楽しいが、こういう相手の時はそういうのは向いてない。  
 多少なりとも和姦のような雰囲気を作りたいのである。  
 「進化したてだからかな、触っててすごく気持ちいいよ」  
 「前脚気持ち悪いんだけど」  
 「さっき聞いたよ」  
 そう言って、キュウコンの口に自分の口を重ねた。  
 キュウコンは力無くその接吻を受け入れた。ああ、本当に抵抗する気がないんだ。アブソルは感心した。  
 進化して一時間も経っていない真新しい口腔に舌を入れる。さすがにあちらから舌を返したりはしないようだ。  
 横たわってるそれに自分のものを絡めて、巻き付け、愛撫する。前脚を背中に回し、背中側の感触も楽しむ。唾液を啜り、口腔の隅々まで舐め上げて、キュウコンの味を堪能する。  
 いつもならばもがき、暴れ、喚いている相手ばかりを味わっていたアブソルは、久方ぶりの甘美な心持ちに幸福を感じていた。  
 いくつかある小さな乳首に手が触れると、キュウコンはびくりと体を強張らせた。  
 「そこが弱いんだろ? 知ってるよ」  
 アブソルは舌をほどいた。腹の辺りを執拗に撫で回す。複乳を持つポケモンではこういうことができるのが魅力だ。アブソルはこの愛撫を施す時にいつもそう思うのだ。  
 無言のキュウコンの耳を咥えつつ、前脚の動きは止めない。キュウコンの鼻息を間近に感じる。耳が弱いことも、アブソルは分かっていた。耳穴に舌を這わせると、喘ぎとも呻きとも取れない声をあげた。  
 耳から口を外す。  
 
 「気持ち悪い?」  
 「当たり前じゃない」  
 「そっか」  
 短いやり取りをして、また耳をかじる。その気色悪さがやがて性感に変わることを、アブソルは知っていた。アブソルの動きに合わせるように、キュウコンは息を荒げたり、静めたり、面白いように反応してくれている。  
 抵抗しているつもりなのだろうが、既にこの娘は僕の手中だ。アブソルは確信した。  
 「その姿勢辛いだろ」  
 だから、余計な縛めを解くことにした。  
 目を丸くしたキュウコンを尻目に、縄を一箇所だけ引っ張ると面白いようにほどけてキュウコンの前脚が自由になる。キュウコンは体を捻って四足で地面に立った。  
 「……どういうつもりよ」  
 「単にあんなカッコじゃ僕も犯し辛いってだけ」  
 複雑な不快感を眉間に表現するキュウコン。それ以上の反応がない辺り、体が自由になっても逃げるつもりはないらしい。  
 「そろそろ僕も気持ちよくして欲しいんだよね」  
 アブソルがそう言うと、キュウコンが吐き捨てるように言う。  
 「手でいい?」  
 「口だ」  
 キュウコンは眉を顰めたが、仁王立ちするアブソルの傍らに重い足取りで侍り、その股間に顔を突っ込んだ。  
 キュウコンが見たアブソルのイチモツは既に欲望の体液をぬらりと分泌していた。月光に照らされた陰茎は重量感のある動きで脈動し、刺激を今か今かと待ち望んでいるようだった。  
 キュウコンが肉欲の塊に舌を這わせると、アブソルは低い声で唸った。  
 「くわえこめ」  
 キュウコンは指示に背かなかった。アブソルは熱く感じられるほどの温かみを感じていた。気怠そうな動きが酷く官能的で、アブソルは口の中で更に硬度を増す。  
 「歯は立てないように……そう。吸って」  
 ギュッと口腔に締め付けられて、思わず声を漏らす。キュウコンの口淫は新鮮だった。加減も知らない刺激の一つ一つに意外性があった。尿道を何度も責めれられて腰砕けになりそうだ。今までにない感覚だった。  
 股の下でキュウコンが息苦しそうな息を吐く。加虐心が唆られる。アブソルはにわかに前脚を挙げて、突き出されたキュウコンの腰を掴む。  
 
 「ム……ムグゥッ」  
 そのまま、自身のブツをグラインドさせると、キュウコンがまたしても苦しそうに声をあげた。それでも陰茎を咥えて離さない殊勝さはアブソルの情欲を煽る。アブソルは構わず、腰を振り始めた。  
 「あ、あう……」  
 情けなくなるような声しか出なかった。絡みつく舌が絶妙だ。腰を掴む前脚に力を込める。口を犯されているキュウコンが前脚で押し退けようとしてるのが分かる。その程度の抵抗では寧ろ気持ちを昂らせるだけだ。  
 アブソルが夢中になるに連れて、快楽の波もうねりを増していく。気づかない内に女のように喘ぎながら、必死に腰を動かす。逃れようとするキュウコンを意地でも逃がさない。淫靡な音が周囲に木霊する。知らず知らずの内に、アブソルはキュウコンの体に爪を立てていた。  
 何かが底の方から込み上げてくる感覚がアブソルを襲った。もう限界が近いようだ。いつもに比べてずっと早い到達だった。アブソルは腰の動きを深める。  
 一度目の射精は、その直後に起こった。  
 「あっ、で、でるっ」  
 アブソルは急いで陰茎を引きぬき、キュウコンの頬に押し付ける。途端に精液が吐き出される。瞬きすら困難な快楽の中で、アブソルは清らかな娘を汚す後ろ暗い喜びに陶酔していた。  
 満ちた波が引くように、急激に快楽の波も引いていった。余韻に浸りながら、キュウコンの上から体をどける。  
 「顔を見せてごらん」  
 キュウコンは項垂れたまま動かなかった。アブソルが覗きこむと、キュウコンの顔面は無残なまでに白く汚されていた。  
 アブソルは満足してキュウコンに尋ねた。  
 「飲ませた方が良かったかな?」  
 「……もう十分でしょ」  
 キュウコンが前脚で精液を拭いながら踵を返した。足取りは鈍重で力が無い。  
 その背中を呼び止める。  
 「何言ってんの。月が落ちるまでは解放しないよ?」  
 キュウコンの足が止まり、頭だけを振り返らせた。  
 「ふざけてるの」  
 「ふざけてないよ? 分かったらさっさと仰向けになるんだ」  
 
 キュウコンは一層厳しい眼光でアブソルを睨みつけたが、崩れるように体を横たえて、仰向けになった。  
 アブソルは目を細めて、その体に自らの体を重ね、軽く口付けをした。  
 「大人しい良い子だ」  
 アブソルはそれだけ言って、キュウコンの股ぐらに口先を移した。しっかりとほぐしてやらなければ、とても行為には及べないだろう。  
 「ひっ……」  
 アブソルがキュウコンの肛門に舌を這わせるとキュウコンが小さく悲鳴をあげた  
 「本気なの……」  
 「処女だけはとっといてやるってことだよ」  
 そう返しておくと、キュウコンはそれ以上話さなくなった。  
 ねっとりと唾液を絡ませて、きつく閉ざされた菊門に塗りたくる。爪を仕舞った指先を押し付けると、意外なほどすんなりと割って入ることができた。  
 「ぐぅ……」  
 「驚いた……あっさり入ったよ」  
 指先がキュウキュウと締め付けられる。アブソルはそれを意にも介さず、ゆっくりと指を出し入れした。  
 「あっ、やめて、やめて」  
 「やめない。解さないと痛いぞ?」  
 もう片方の前脚で複乳を愛撫しつつ、器用に肛門を広げる。蠕動で蠢く内部が見える。ここに肉棒を突っ込んだらどれほどの快感になるだろう。  
 アブソルは鼻息も荒く、指を二本に増やす。多少の抵抗感こそあったが、キュウコンの肛門は柔軟で、これも受け入れてしまった。  
 「きつい、苦しい」  
 声色がどんどん弱さを帯びてくる。アブソルは内部に侵入した指を腸壁に押し付ける。キュウコンが声をあげる。奥深くまで押し込んで、急激に引き抜く。  
 「あっ、あう」  
 アブソルは再び指を突き入れて、キュウコンを蹂躙し始めた。頻りに体をくねらせている。未経験の違和感に耐えているのか、或いはもう良くなってきているのか。  
 アブソルが指を引き抜くと、キュウコンの熱い吐息が聞こえた。息を整えているのだろう。乱れるのはこれからだと言うのに。  
 
 「じゃ、入れるから」  
 体を乗り出す。キュウコンの瞳孔が小さくなるのが見えた。  
 軽く先端をあてがい、体重にキュウコンに預ける。たったそれだけのことで、ぬるりとペニスが飲み込まれていった。  
 「うぅっ!」  
 「まだ半分ぐらいしか入ってないよ? もう限界?」  
 じわり、じわりと体を沈めていく。あ、あ、とキュウコンは悩ましく胴体を捻って、後ろを犯される感触に耐えていた。結局、アブソルの男根のほとんどを飲み込んだ所で、先へ進めなくなった。  
 「すごく温かいよ」  
 言いながらアブソルはキュウコンにキスを求めたが、キュウコンは応じなかった。それだけの余裕がないのだ。代わりに、首を甘噛みして、囁く。  
 「ゆっくり動くから」  
 「や、やめ、あ、あああ」  
 粘液が糸を引くほどの速度で、アブソルは陰茎を引き抜き、半ばほどで差し入れる。面白いようにキュウコンが反応する。  
 首に噛み付きながら、この緩慢にまとわりつく肉の感触を味わう。独特のぬめりと体温、それにキュウコンの喘ぎがアブソルの胸の中に黒いものを注いでいく。  
 「うっ、うう、ん、あっ」  
 キュウコンの喘ぎはじきに苦しみの色を失っていた。その声を聞いて、アブソルは腰に力を入れる。キュウコンが嬌声に似た声を一瞬あげて、すぐに黙り込んだ。  
 「ついつい良い声が出ちゃったね」  
 アブソルはそう言いながら、キュウコンを揺さぶるように腰を打ち付けた。キュウコンのくぐもった快楽の声が聞こえる。素直じゃない。  
 
 「うぁっ?!」  
 アブソルはキュウコンの体を抱き締めて、引き上げ、座り込むような形にした。対面座位だ。  
 「自分から動いても良いからね」  
 そう言ってキュウコンを下から激しく突き上げる。短い鳴いてキュウコンがのけぞる。衝撃で豊かな九本の尻尾が淫らに揺らいだ。  
 そこから先に小手先の技術は必要なかった。アブソルは力の限りキュウコンを揺さぶる。キュウコンは体の奥底から湧き上がる快楽に身を任せる。雄と雌の純粋な交尾だ。  
 望んでいないはずだった性行為でよがってしまっているキュウコン。その彼女が浮かべる絶望的かつ妖艶な表情を前にして、アブソルはたまらない情念に脳を焼かれてしまった。陰茎から全身に広がる感覚がはらわたを支配している。  
 「も、もう、や、やめ」  
 抱き締めて、彼女を股間に落としこみ、唇を塞いで黙らせる。舌が入ってきた。吸い上げる。彼女の強く閉ざされた瞼からはいくつもの光る露がこぼれ落ちていた。  
 「ぐ、うぅ」  
 二発目も思っているほど長くは持たない様子だった。アブソルはもう一度キュウコンを押し倒して、地面に押さえつける。吐き出す種子を全て受け止めて欲しかった。キュウコンに自分の全てを受け入れて欲しかった。  
 アブソルの想いが頂点に至った時、アブソルは達した。  
 「う、ぐおお」  
 締め付けられるような、切なくも深い絶頂にアブソルは思わず仰け反った。キュウコンの鼓動と、吐精の感覚がアブソルの陰茎を鋭く責め立てて、泣きたくなるような不可思議な気持ちをもたらす。  
 くすぐったいような、もどかしいような感覚が会陰部を走り抜ける。これだけのオーガズムを感じるのは久しいことだった。  
 高まった意識が融解してゆく。  
 そう長くはない数秒の出来事が、長い長い夜明けの後のように思えた。気がつくと、アブソルは放心した状態で深い呼吸をしていた。前脚の間に横たわっているキュウコンはアブソルに横顔を見せ、なんとなく虚ろな眼光をどこともしれぬ場所に向けていた。  
 
 意識の融解が停止する。  
 何も言わず、アブソルは自身の体をキュウコンにうずめて、彼女の額の涙を拭ってみた。数回瞬きするだけだ。アブソルは甘噛みしようとして、思いとどまった。  
 欲望を吐き出した陰茎は、その硬さも大きさも失って、いつの間にかキュウコンとアブソルの繋がりを解いていた。  
 「……気持ち悪い」  
 肛門内の喪失感のことを指しているのだろうか、キュウコンがそう呟いた。  
 アブソルがゆっくりと体をどけると、キュウコンはのろのろと体を起こした。鼻先は地面を向いている。顔をあげようとしない。目を合わせようとはしない。  
 「……今度は何をするの」  
 キュウコンの声で、アブソルの心持ちは幾分か冷静さを取り戻した。  
 「もういいよ」  
 これ以上は蛇足のような気がしたし、これ以上彼女を弄ぶ気にもなれなかった。  
 アブソルは鞄からオボンの実を取り出した。  
 「疲れただろうし、食べながら帰りなよ」  
 言いながら、キュウコンの足元にオボンの実を転がした。  
 「結構よ」  
 キュウコンはオボンの実を触れることもなかった。  
 そうか、それじゃあ、お元気で。  
 アブソルがそう言って前脚をあげると、キュウコンは何も返さずに背中を向けて森の中へ消えていった。  
 私、情けないわ。  
 消える直前、キュウコンがそういうのを確かに聞き取った。  
 その言葉に、その涙声に、その後ろ姿に、アブソルは昔々に作った、最初で最後の愛人の姿が重なっていた。  
 アブソルはため息をついて、キュウコンを縛ってあった大木に寄りかかり、匂いを探った。まだ残っている。アブソルはその木の根本に横たわり大あくびを一つして、頭を前脚の上に乗せて、目を閉じた。  
 どこか遠くで、悲しみに暮れる獣の叫びが聞こえたような気がした。   
 

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