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……… 
……… 
 
目が覚めると、わたしは見慣れない部屋の中にいた。 
ぼんやりとした感覚のまま重い身体を動かそうとするが、力が入らず、何とか上半身だけを起こしてみる。 
見渡すと小さな窓がひとつ、硬そうなソファーと簡素な机が置いてある。 
そんな殺風景な部屋とは不釣合いな小奇麗なベッドの上でわたしは小さく呟いた… 
 
「ここ…どこ…?」 
きっと、寝ている間に主人に連れて来られたのだろう… 
でも部屋の中には主の姿は無かった… 
小さな窓の向こうかすかに見える景色から、外に庭があることがわかった。 
あの人はきっとそこにいる…そんな気がして、わたしはベッドから起き上がろうとした… 
 
「あれっ…? …っどうして?」 
目覚めてからしばらく時間が経っているにもかかわらず、未だに脚の感覚が戻らないようであった。 
わたしが虚無感を抱いて、もう一度ベッドに倒れこむまで、そう時間はかからなかった… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
次に目を覚ましたのはきっとその日の夕方。 
この部屋は時の流れが見え無いから本当に同じ日の夕方なのかはわからないけど… 
わたしはベッドの上で小さな窓の向こう、遠くに見えるきれいな虹を眺めていた。 
あんなにきれいな虹を見たのは初めてだった。 
 
「もっと近くで見てみたい…」 
無意識のうちにそう呟いた…次の瞬間、七色の光の帯が窓から差し込んでくるのが見えた…気がした… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
「ねぇ…ねぇ…」 
…ぼんやりと誰かの声が聞こえる。 
 
「…ねぇ…大丈夫?」 
まだ意識がはっきりとしないまま、わたしはその声に答えた。 
 
「あまり大丈夫…じゃない…」 
そう言ってけだるそうに薄目を開けて、声の主へと視線を送る。 
わたしの狭小な視界の中に、明るみのある茶色の体毛が入りこんだ。 
このポケモンは… 
 
「あっ…怖がらないで…」 
明らかに警戒の目を向けていたわたしに対して、茶色のポケモンは優しい口調でそう言った。 
 
「あなたは野生のポケモンじゃないの?」 
わたしは平静を装い相手に問いかける。 
 
「うーん…、野生のようなそうじゃないような…?」 
掴みどころの無い答えだけど…、過去にそういったポケモンを見てきたから、この仔の言いたい事はなんとなくわかった。 
牧場や育て屋さんに住み着いたポケモンのような、きっと人間の管理区域内で生活をしているポケモンってことなのだろう。 
見たところ襲ってくる気配も無さそうだったので、わたしは少しだけ警戒心を緩めることにした。 
それよりも、今の自身が置かれている状況がまったく把握できていないということのほうが不安だった… 
そういえば…、この仔の話からすると、もしかしてここは育て屋さんかも? 
そう思って辺りを見回すと… 
 
「…っ!? なにここっ……」 
急に呼吸ができなくなる…このままじゃ死んじゃう… 
わたしが恐怖心に目を閉ざした瞬間、何かが唇に触れた気がした… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
…呼吸…できてる? 
 
「もう大丈夫だよ。」 
あの仔が言った… 
 
「…何で…?」 
震えるわたしの身体を抱き寄せて… 
 
「キミが大丈夫と思えばきっと大丈夫だよ。」 
何を言われているのかまったくわからなくて頭が混乱する…けど大丈夫…みたい…? 
 
「…これはあなたの力なのかな?水タイプって便利…」 
「そうだね…もう大丈夫。」 
自分でもなんでこんなに都合よく解釈できるのかまったくわからなかった… 
でも難しく考えていてもしょうがない。 
 
「ここはどこで、あなたはだれで…えーっと…」 
質問攻め…にもかかわらず、彼は出会ったばかりのわたしの問いにきちんと答えてくれた。 
ここは虹の橋の先にある世界のひとつで…? 
どうやらこの世界に関することは説明が難しいらしくて、詳しいことはあまり話してもらえなかった… 
でも一つはっきりとわかったのは… 
幼さの残る容姿と可愛らしい声から最初は判断できなかったけど、彼が頼りになりそうなブイゼルのオトコの仔だということだった。 
 
「…それで…、ボクのお願いは聞いてもらえるかな?」 
そして彼はまいごになったポケモンをさがしているところだった。 
 
「手伝ってあげたいけど、わたしはトレーナーのポケモンだから…」 
「じゃあまずは今日だけでいいよ。」 
「えっ…?」 
「だって、帰り道知らないでしょ?帰る途中まで一緒ってことで…ね?」 
割と強引なところもあるのかな… 
そんなやりとりがあってわたしは彼に付き合うこととなった。 
でも海の中をこんなに自由に泳ぎまわれるなんて…本当に夢みたい…だった。 
 
…そんな夢のような時間は一瞬で過ぎ去っていく… 
 
「今日はここまでだね…」 
彼がさびしそうに言う。 
次の瞬間わたしの視界が真っ白の光に包まれ… 
 
「…明日も会えたらうれしいな…」 
 
遠くに彼の声が聞こえたような気がした… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
目が覚めると、わたしはまたあの部屋の中にいた。 
ぼんやりとした感覚のまま重い身体を起こそうとするが、昨日と同じように力が入らなかった。 
また、意識がはっきりしているにもかかわらず、脚の感覚が戻らない。 
脚だけ…違う…、そうじゃなくて、胴体より下半分がすべて自身から切り離されているような気がする。 
なんでだろう…昨日はあんなに自由に泳ぎ回ることが出来たのに…? 
 
「あっ…」 
よく考えてみると、わたしはあの仔に身を委ねていただけだったのかもしれない… 
そういえばヒレも持たないわたしが、あの仔と同じような泳ぎ方ができるはずもなかった… 
もしかして…わたしは… 
 
悪い考えばかりが頭をよぎる。 
気持ちを切り替えるために、わたしは昨日の出来事を必死で思い起こそうとする。 
そう、あの虹の橋を渡れば彼に会えるかもしれない… 
でも…、あの仔がいるあの海は虹の橋の先にある世界のひとつ… 
もしも違う世界に行き着いたとしたら… 
まともに立ち上がることすら出来ないこんな状態で… 
 
「あの仔に会いたい…」 
わたしはそう呟いてそっと目を閉じた… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
「ねぇ…ねぇ…」 
…ぼんやりと誰かの声が聞こえる。 
 
「ねぇ…」 
この声は聞き覚えのある…わたしははっと目を開く。 
 
「あっ…お部屋…勝手に入っちゃってゴメンネ。」 
目の前に額に手を当てたブイゼルの顔があった。 
 
「えっ…何で?」 
わたしは目を丸くして無意識のうちにそう発した。 
 
「呼ばれたような気がして…本当は勝手にこういうことをしちゃダメなんだけど…」 
「それってどういう…、あっ…でも、うれしい…」 
何がいけないことなのか特に理由は聞かなかった…と言うよりもそのときはうれしさのほうが勝っていた。 
しばらくお互いの顔を見つめあった後、彼がわたしを誘った。 
 
「今日も虹の橋を渡ってみる?」 
彼の誘いはうれしかった…でも今のわたしは歩くことはおろか、立ち上がることさえ出来ない。 
わたしが回答を拒んでいるのを見て、彼はこう言った。 
 
「大丈夫、ボクがおんぶしてあげる。」 
「えっ!?なんで…?」 
わたしが彼の誘いに対しての返事を出す前に、彼はわたしの身体を抱え上げていた。 
 
「じゃあ行こうか。」 
彼の声を聴いた瞬間、わたしは七色の帯に包まれていた… 
 
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目を明けるとわたしは木々が生い茂る森の中にいた。 
 
「今日もまいごさがしに付き合ってもらってもいい?」 
彼はわたしに尋ねる… 
 
「えっ…本当は困るんだけど…」 
本当にわたしは素直じゃない… 
 
「そうそう、昨日聞かなかったけど、まいごって誰をさがしてるの?」 
「えっと…あまり覚えてないんだけど、きっと会えば思い出すよ?」 
「なにそれ…適当すぎる…」 
 
まいごさがしは口実で、本当はわたしが狙いだったとか…? 
でも、それならさっき寝てるときに何かされてても…? 
それにこの仔が他人を騙すようには見えないから… 
いろいろ考えては見るものの、彼を疑う気にはなれなかった。 
どうしても都合よく解釈してしまう自分がいた。 
 
彼に背負われて静かな森の中を散策する。 
彼と一緒にいるからだろうか、何故かこの森は懐かしく、また心地よい場所であった。 
そんな道中で、わたしは彼にどうしても気になったことを質問する。 
 
「なんでわたしが歩けないってわかったの?」 
彼は歩みを止めて、少し悩んでからわたしに告げる。 
 
「それが…キミがここに来た理由だから…。」 
どういうことなんだろう…? 
いつの間にか大きな木の根元に来ていた。 
 
「この木はね…、…って言ってね…この世界で出会った仲良くなりたいポケモンのことを想いながら木の実をお供えするとね…後はナイショ…」 
彼がわたしの目を見てウインクする。 
…自分の胸が大きく弾んだのがわかった… 
 
「じゃあ今日はここまでだね…」 
彼がそう言うと目の前に白い光が差し込んでくる… 
 
「まって、明日も迎えに来てっ!」 
 
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目が覚めると、わたしはまたあの部屋のベッドの上で仰向けになっていた。 
そのまま天井を見上げて、別れ際のあの仔の言葉を思い出す。 
あれはわたしの夢の中での出来事だったのか…、それとも彼が本当に…? 
そしてわたしは昨日の出来事を思い起こそうとする… 
 
そんな中、彼のある言葉が頭の中を駆け巡った。 
 
「なんでわたしが歩けないってわかったの?」 
「それが…キミがここに来た理由だから…。」 
歩けないから…もしかして… 
何とか立ち上がろうとしてみるものの、どうにもならない…それよりも自身に本当に脚があるのか…?そんな疑問までも生じてしまうぐらい… 
わたしは上半身だけを起こして、両手で恐る恐る自分の脚に触れてみた… 
 
…きっとここにはわたしの主はいない… 
もしかするとこのベッドはあの人がわたしのために用意してくれたものなのかもしれない… 
動く気配の無い自身の脚に触れ、不安から確信…というよりもささやかな希望が落胆へと変わった。 
 
育て屋さんって、もっと他のポケモンがいっぱいいるイメージがあったんだけど… 
やっぱり繁殖目的だとこんなふうに隔離されちゃうのかな… 
不思議と涙は出なかった。 
でもひどい倦怠感にとらわれて、そっと目を閉じた。 
そして、そのまま眠りに付くまでの短い時間、自らが生み出した暗闇の中でひとつのシナリオを組み立てていた。 
 
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次に目を明けたとき、わたしの顔を覗き込む彼の姿があった。 
 
「おはよう…?」 
「…何で起こしてくれなかったの?」 
わたしは少しだけ不機嫌そうに言ってみた。 
 
「…ごめんね。昨日と違って気持ちよさそうに眠ってたから。」 
そうだった。昨日までと違い、わたしはこれから自身のすべきことが何であるのか、わかったつもりでいる。 
 
「じゃあ今日も虹の橋を渡って…」 
「待ってっ!」 
彼の言葉を遮ってわたしは言葉を続ける。 
 
「二日続けてまいごさがすの付き合ってあげたんだから、今日はわたしのお願いを聞いてほしいんだけど…」 
「…お願い?」 
彼が少し驚いた表情でわたしに聞き返す。 
ここから先、上手くいくかわからないけど… 
 
「ちょっとお話が長くなるけどいいかな?」 
彼が首を縦に振ったのを見て、わたしはゆっくりと語りだした… 
 
わたしは元々トレーナーにバトル用に育てられたポケモンだったはず… 
でもこんな状態ではバトルなんてできないから… 
きっとわたしの主人が望んでいることは戦えなくなったわたしの代わり… 
そのためにわたしをここに置いて… 
でもこの主の選択はわたしにとっては、それほどまでに受け入れ難いものではなかった… 
遅かれ早かれバトルを引退したポケモンにはその機会が訪れる…はずだから… 
また、わたしが優秀なポケモンだったって主に認めてもらえたってことだから… 
 
わたしが話をしている間、彼はずっとうつむいたままだった。 
 
「…そういうことで、タマゴが欲しいんだけど…」 
わたしが一通り話し終えると、彼が重たい口を開く… 
 
「…そこまでわかってたんだ…」 
「えっ?どういう…」 
「キミはバトル中の事故でひどい怪我を負ってしまって…」 
 
「…何であなたがそんなことを」 
「それはわからない…」 
 
「…じゃああなたがわたしに近寄ってきた目的は…?やっぱりあの人に言われてわたしとタマゴを…」 
「…そういうわけじゃないよ…」 
 
「…じゃああなたのほかにわたしの相手がいるの?」 
「…そういうわけじゃない…よ…?」 
彼の態度にこれ以上平静を装うことが難しくなりそうだった… 
でも…彼のほうがまるでタイミングを計ったかのように… 
 
「さっきのキミのお願い…ボクのほうはOKだよ…?もう心変わりしちゃったかな?」 
突然の返事…、わたしはあっけにとられて首を横に振る… 
 
「ううん…っと…、でも、わたしはあなたじゃなくても…」 
こんなときでもわたしは素直じゃなかった。 
 
「ボクはキミを他のポケモンにとられちゃうのはイヤだよ…」 
 
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わたしの初めての行為はほんのひと時で終わりを告げることとなる… 
ベッドに仰向けになったまま、何が起こったのかもわからない… 
性に対する興味を持ち始めた頃から今までずっと、わたしの中にあった憧れ・不安…そういったものを思い浮かべることさえもできなかった。 
彼も何一つ感じることの無いわたしに気を使ったのか…早々と行為を終え…、 
その後、彼の口付けを拒んだわたしを攻めることすらしなかった。 
 
「タマゴできるかなあ…」 
「わかんない…けど…できるといいね…」 
彼は申し訳なさそうにそう言った… 
 
「できるまで毎晩してね…、いやかな…」 
「…う…うん…」 
歯切れの悪い返事から彼の気持ちが伝わった…ような気がした… 
わたしはそのまま目を閉じて…深い眠りの世界へ落ちていった。 
 
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上半身を起こし辺りを見回す…やっぱりわたしはいつもの殺風景な部屋の中にいた。 
隣にあの仔の姿は無く、昨日の行為で汚れたはずのシーツはきれいなまま…わたしの破瓜の痕跡も何一つ残っていなかった。 
あれは夢だったのかな…?嫌に生生しい…少し陰鬱だけど、それでもわたしは心地よさを感じていた。 
そんな時、コンコンとドアをノックする音が部屋の中に響く… 
 
「入って」 
「おはよう」という挨拶と共にあの仔がドアを開けて部屋の中に入ってきた。 
いつもは勝手に入ってきてるみたいなのに… 
 
「じゃあさっそくだけど行こうか…」 
…そしてわたしは七色の帯に包まれる。 
 
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今度はわたしは大きな鳥ポケモンの背にいた。 
青い空と白い雲って…まるで絵に描いたようなきれいな景色… 
 
「雲をさけてまっすぐにあの虹のゲートまで行ってみよう。」 
遠くに虹が見える…わたしは彼に言われたようにまっすぐに… 
実際に空を飛ぶのは大きな鳥ポケモンだけど、曖昧なわたしの指示にもかかわらず、そのポケモンは思い描いた通りの道筋を選んでくれた。 
 
ゲートをくぐると白い光に包まれて…わたしはいつもの場所に帰りつく。 
大空の旅はたった数分間の出来事のように感じられたが、きっと瞬く間に時が過ぎていたのだろう。 
 
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「楽しかった?」 
ふと誰かに話しかけられる…とはいっても声の主は一匹しかいない… 
 
「うん。とっても。」 
「そう、よかった。」 
「今日はまいごはさがさなくてもよかったの?」 
「…うん、そろそろ見つかりそうな気がするから…?」 
「えっ?何かわかったの?」 
「ううん…なんとなく…」 
「なにそれ…」 
わたしの呆れた顔を物ともせずに、彼はわたしに向かって優しく微笑んだ。 
 
「まいごが見つかるのと、タマゴができるのはどっちが先かな…?」 
彼はクスリと笑った… 
 
「タマゴが先じゃないと困る…」 
わたしはそう言って彼に向かって両手を伸ばした… 
 
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「んっと…どう…見える?」 
「…うん…」 
「でも…この体勢はちょっときつい…」 
「あっ…チョットまって……」 
今日はちょっとだけ無理を言って、わたしが彼の上に乗せてもらっている。 
はしたないポケモンだと思われるかもしれないけど、今のわたしにとっては視覚だけが頼りだから… 
彼とつながっているという事実を確認しておきたかった。 
 
「やっぱりダメだよね?」 
「…ごめんね、まったく動けないから…」 
今のわたしは自分で身体を支えられないから、身体のすべてを彼に委ねている。 
この状態では彼を満足させることはできない…、…そうじゃなくてわたしができることは何も無いから彼に勝手に満足してもらうだけ… 
でも今の状況を見つめると、わたしは彼にとってただの重石でしかない…というのが正しい気がする。 
 
「…ありがとう…もう降ろして…」 
彼は無言でうなづき、上半身を起こしてわたしの肩に手をかけようとした… 
その動作の最中… 
 
「あっ…」 
下腹部の奥深く…初めて経験する、何か異質な感覚があった。 
 
「ねぇ…、チョットだけ動いてみてくれない…?」 
彼は小さくうなづくと、わたしと抱き合ったまま小さく腰を揺らす… 
 
「あっ…やっぱり…」 
痛い…とか、気持ちいい…という感覚ではないけど、昨日と違って、確かにわたしの中に何かが入り込んでいるという、不思議な感覚があった。 
これって、もしかすると… 
 
「うん、キミがその気になれば…きっと治るよ…」 
彼の言葉がわたしに芽生えた希望と勇気を後押しする… 
 
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家のそばに畑があるなんて知らなかった… 
 
わたしは彼と一緒にもう一度歩くためのトレーニングを始めることにした。 
今日は前に訪れたことのあった、小さな森を散策した。 
前回は彼に背負われたままだったけど、今回は自分の足で…まだ足を引きずって地面を這っただけだけど… 
 
少しだけトレーニングをして、いつもの場所に戻ってきた。 
森で拾ったオレンの実を畑に植えるために… 
彼は慣れた手つきで土を掘り返し、そこにオレンの実を沈める。 
 
「上手だね…」 
わたしが声をかけると… 
 
「キミもすぐにできるようになるよ。」 
彼は優しく微笑んでそう答えてくれた… 
その笑顔を見るとわたしは自分の胸が弾むような気がする。 
 
「オレンの実ってどれぐらいで収穫できるの?」 
「うん…、と…丸一日…二日かな?」 
「はやいね…わたしもそれぐらいで歩けるようになれたらなあ…」 
 
彼はまた優しく微笑んで、こう呟いた… 
 
「なれるよ…キミがその気になれば…きっと…」 
 
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わたしの顔の前には彼がオトコの仔であることを主張する部分が… 
わたしは怖々ながらそっと手を触れて見る… 
ぷにぷにとした感触…面白い…? 
想像していたものと違い…小さく、そして柔らかい…それは本当に可愛く、愛おしい存在のように思えた。 
わたしはその可愛らしいものに手を添えたまま、そっとそれを口内へと導く… 
舌の上で転がし…唇で食む…、今のわたしにできることはこれぐらいしかないけど… 
唇に伝わるプリプリとした弾力…また舌の上でぷるんと震えるのもわかる… 
本当に食べてしまいたいぐらい… 
 
しばらく口内を転がした後、わたしが咥えていたものを放すと… 
小さいながらもそれはキッチリと自らの役目を果たさんと、意気込んでいるような姿に変化していた。 
 
彼のほうはさっきからずっとわたしの♀を刺激してくれている…はず… 
昨日よりもずっと…すごく曖昧で伝わりにくいけど、何かが触れていることだけはわかっていた。 
きっと彼のことだから、優しく丁寧にしてくれているのだと思う…だからわかりにくい…?そう考えるとチョットだけうれしくなった。 
本当は恥ずかしいという気持ちがあるはずなのに…わたしはこんなにえっちなポケモンだったのかな…? 
 
お互いの準備が整ったと判断したのか、彼は身体の向きを変えて、いつものように… 
今日は彼がわたしの中に入ってきたのがわかったような気がした… 
 
何となく…気持ちいいことがわかってきた気がする… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
次の日、わたしは彼に背負われながら山道を進んでいた。 
急な斜面や、小石の多い道はわたしが這うには危険すぎる…彼がそう判断してくれたから… 
 
少し進んで見通しのいい高台にでたところで彼はわたしにこう言った。 
 
「ちょっと休憩しようか?」 
「うん。」 
ちょうどわたしもそう思ってたところで、わたしを背負いながらこの山道を登るなんて…いったい誰のためのトレーニングなんだろう… 
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 
 
彼は近くの平らな岩の上にわたしを降ろして、バッグから青い木の実を取り出した。 
 
「あれ?いつもバッグなんて持ってた?」 
「今日は特別だよ。」 
いったいどこから持ってきたんだろう…? 
そういえば、彼は人間の作ったものをよく知っている…みたい? 
わたしの部屋にも勝手に入って来たし…、あとは畑の耕し方に、木の実に水をやるためのじょうろの使い方までも… 
もしかして、トレーナーのポケモンだったことがあるのかな? 
でもそれは聞いちゃダメなような気がした… 
 
「はい、どうぞ。」 
彼から青い木の実を手渡された。 
 
「これって前に埋めたオレン?」 
「うん。」 
「…本当に育ったんだ…食べていいの?」 
彼は優しくうなづいた。 
鮮やかな青い実を齧りつくと、みずみずしい果汁が飛び散った。 
そしてずっと忘れていたような新鮮で爽やかな酸味とすっきりとした甘みが口いっぱいに広がる。 
 
「おいしい…」 
わたしが感動の声を上げたと同時に彼はうれしそうに笑いながら、青い木の実をもう一つわたしに手渡してくれた。 
わたしはそんな二つ目の木の実も勢いよく平らげてしまった。 
 
でもなんでだろう…もう何日も何も口にしていなかったのに… 
わたしの身体は自由に歩くことができないという点以外は何も不具合が無い…? 
まるで食事の存在自体を忘れていたような気がした。 
 
「それは元気になってきた証拠だよ…」 
またわたしの考えることがわかったのか、彼がそう励ましてくれた。 
いつものように都合のいい解釈だけど、わたしは彼の言葉に安心したみたいで…その後すぐに、満腹感と共にやってくる睡眠欲に屈してしまった。 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
「…おはよう?」 
 
きっといつもの部屋のいつものベッドの上だろう… 
彼が心配そうな顔をしてわたしを見つめている。 
…なにその顔?と思った矢先…、あっ…ちょっと… 
これはきっと…でも… 
 
「っ…ごめん…、外に連れて行ってっ…はやくっ!」 
彼はわたしを抱き上げてそのまま部屋の外へと走り出す。 
彼の足が地面に触れるたびに、小さな振動がわたしの身体に伝わる…これはまずい… 
 
「どこでもいいからっ…人目につかないところで…」 
これってどこでもいわけじゃないけど…もう… 
 
「降ろしてっ!はやくっ」 
彼はわたしを優しく地面の上に降ろそうとしていたが、わたしは無理やりに彼の手を振り払うようなことをしてしまった… 
結果、彼はバランスを崩してしまい…わたしは地面の上に後ろ手を突いて座り込む形となった…彼の目の前で大きく足を投げ出したまま… 
 
「あっ…」 
何とか間に合ったのか間に合わなかったのか…地面に降ろされた衝撃が引き金となり、わたしの股の間から暖かい水分が溢れ出した。 
 
「…やっ…とまらな…」 
水門を開いたかのようにとめどなく水が流れ出すようだった… 
 
「ずっと我慢してたからだね…」 
彼は落ち着いた声でわたしに話しかける。 
そしてわたしの隣にしゃがみこんで… 
 
「ボクもずっと我慢してたんだよ…」 
そう言うと、彼はわたしから見えやすいように脚を開いて… 
彼の♂の仔の部分がぷくっと膨らんだかと思うと次の瞬間、勢いよく線上の水分が噴出された… 
わたしの目がただ一点に集中する… 
…ほんの少しの時間なのに…すごく長い持間だったように感じた… 
 
彼はどこからか大きな布を持ってきて、わたしの身体を優しく拭いてくれた。 
わたしの身体もあふれ出た水分も…みんな彼が洗い流してくれた。 
水タイプって本当に便利…そんなことを考えていた… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
わたしはいつもの部屋のいつものベッドのふちに腰をかけている。 
開いた両足の間には彼が座り込んでいる。 
彼は両手をわたしの♀の部分に添えて… 
わたしの♀は彼の手によって、その滑りのある粘膜に包まれた内部空間をあらわにしている。 
その空間は所有者であるわたしの目からしても少し不気味なものであり、彼が持つ♂の仔の可愛らしい外見と比較すると… 
すこしため息の出るような不甲斐ない気持ちになってしまう。 
しかしながら、彼はそんな箇所に舌を這わせて、優しく舐めあげてくれる。 
 
彼の舌が触れるたびに、わたしの♀の部分が熱を帯びるのがわかる…きっとこれが気持ちいいという感覚なんだと思った。 
それにしても、あまり他人に見せないどころか…普段自分でも目にすることの無い部分をあけっぴろげにして… 
ましてや異性に触られ…舌を入れられるっていうのは… 
今までのわたしだったら恥ずかしさで耐えられなかったんじゃないかな…? 
さっきはお漏らしするところまで見られちゃったし… 
こんなことを考えると恥ずかしい気持ちでいっぱいになるけど、それは嫌という感覚ではなくて… 
また恥ずかしいことを考えると、何故か…わたしの♀の部分がより暖かい熱を帯びるような気がした… 
 
「そろそろいいかな…?」 
彼がわたしに問いかける… 
 
「うん…でも今日は…」 
わたしは彼におかしな注文をつけてみた… 
 
「今日はね…トレーナーがちっちゃなポケモンにおしっこさせるみたいにね…うしろからだっこして…」 
彼はわたしの指示に従順だ… 
 
「そうそう…でも大変そうだからベッドに座ったままでいいよ…」 
恥ずかしい格好で抱き上げられたわたしは、自分の♀に彼の♂が突き刺さるのを見て、 
胸がいっぱいになるような恥ずかしさと…それ以上の満足感を覚えていた… 
 
…きっと…気持ちいいってこういうことなんだ… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
それから数日…、日中はトレーニングと称した散歩をして、夜はタマゴをつくることがわたしたちの日課となっていた… 
わたしの脚は日に日に良くなり、今は短い時間であればある程度自由に歩き回ることができるようになっている。 
たまに脚元がふらつくこともあって、長時間に渡るトレーニングやゆったりとしたペース以外での歩行はまだ試したことが無かった。 
でも、自分の中では、もう跳んだり、走ったりというような少しハードなトレーニングもできるような気がしている。 
このまま行けばそう遠くない内に、バトルに復帰できるんじゃないかな…そんなことを考えるようにまでなっていた。 
 
こんな状況ではあるけど… 
毎晩の彼との営みは続いている… 
もしもわたしがバトルに復帰できるようになれば、すぐにはタマゴは必要ないかもしれない…? 
でもわたしの♀としての本能がそうさせるのか、どうしても彼との間にタマゴが欲しいと思っている。 
なんでだろう…? 
…彼が温情でわたしに優しくしてくれているとしたら…タマゴは彼をつなぎとめておくための手段となり得る…? 
…そんな卑怯なことを考えてしまう自分が少し嫌になった… 
 
彼の手がわたしの♀に触れる…彼の手によってこじ開けられたわたしの♀の内部が外気に触れる… 
彼の舌がわたしの♀の内側に優しく触れる…彼の♂がわたしの身体の中心に触れる… 
タマゴをつくる行為は、本当に気持ちがいい… 
 
彼はどうなんだろうか… 
わたしの願いを聞いてくれているだけで、彼は本心では楽しんでいないのかもしれない? 
たとえば…♂は性的興奮を感じるとその♂の突起物を大きく主張させるはず… 
だけど、わたしの♀を刺激している間は、彼の♂の仔の部分には何の変化も見られなかった。 
一方でわたしが彼の♂の仔を弄ぶとき…わたしは自身の♀の部分が熱を帯びていくのがよくわかる。 
 
わたしも彼も行為の最中にはあまり顔色を変えず一切声を発しない… 
お互いに真剣に向き合うためなのかよくわからないけど… 
もしもわたしがきちんとした形で処女を失っていたとするならば、破瓜の痛みに苦痛の表情を浮かべ、声を上げていたはず…? 
また、もっと感覚が優れていたとするならば、行為を重ねることにより得られた快感に喘ぎ声を漏らしているかもしれない。 
また、もしも彼に嗜虐嗜好があったとすれば…? 
 
…彼の喜ぶ顔が見られるかもしれない? 
 
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その日はきれいな公園を歩いた。 
ところどころにポケモンをかたどった遊具やモニュメントがあって、まるでそこは小さな遊園地のようだった。 
わたしと彼は気になるモニュメントがあれば足を止め、時には遊具に跨り、小さな子どものポケモンのようにはしゃいだ。 
そんなことをしているとどんどん時間が過ぎていき…最後にはいつもの白い光がわたしたちを迎えに来たようであった。 
 
白い光に包まれながら、わたしは…この幸せな時間を決して忘れてしまわないように、自分の中にキッチリと書き留めたいと思った… 
自分の身体が回復に向かうことにより、この幸せな時間の終わりがどんどん近くなっている… 
何となくそれが分かっているから… 
 
本当はもうタイムリミットが目前に迫っているのかもしれないけど… 
 
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「今日はあなたの好きなようにしていいよ…」 
わたしはベッドに寝転んで彼に声をかける… 
 
「好きなようにって?」 
「好きなようには…もう…いつもはわたしに気遣ってくれてるみたいだから…、今日は何してもいいよってことなんだけど…?」 
 
わたしが突然こんなことを言ったもんだから、彼も少し困った様子で…少しうつむいて、首をかしげて…、そして… 
 
「じゃあまだやってないし後ろから…してみる?」 
「えっ?」 
彼がわたしを抱き上げたと思うと、すぐにわたしは腰を浮かせて押さえつけられた形になる… 
 
「後ろから見ると…こうなるんだね…」 
「えっ…やだ…」 
「じゃあ、まずは…」 
ぴったり閉じているはずの♀の部分に彼の♂が触れる… 
彼はそのままわたしの♀の割れている部分に挟み込むように自身の♂の仔の部分を擦り付ける。 
手で弄られるのとはまた違う感触で、すぐにわたしの♀が熱を帯び始める。 
わたしの♀から粘度のある液体が溢れ出すと、くちゅくちゅっという隠微な音が聞こえ始める。 
 
「じゃあ入れちゃうね。」 
彼はそういうと、いつもより大胆にわたしの中に♂を突き入れた。 
 
「あっ…」 
わたしは自然と声を発した。 
彼はすぐに腰を前後に動かし始める。 
その動きはいつもより大げさに…、いつもよりも速く…、そして激しく… 
彼はわたしの奥深くをえぐるように自身の♂を突き立てる。 
 
「あっ…あっ…んっ…」 
自然とわたしの口から声が漏れる… 
…彼はさらに腰の動きを速める。 
 
「んっ…ん…やぁ…」 
「ううん…っと…かわいい…もう出ちゃう…」 
彼の仔種がわたしの奥深くに注がれているのがわかった… 
そして、彼はわたしの腰に手を回してわたしを抱き上げると、そのままの姿勢を変えずにベッドに腰を下ろす… 
 
「あし…ひろげてみて…ほら…」 
彼の指示に沿ってわたしはそっと脚を開く… 
わたしの♀が彼の♂をしっかりとくわえこむ姿が見えた。 
 
「好きでしょ?こういうの…」 
彼はわたしの頬に唇を寄せ、そう問いかける。 
 
「…うん…好き…」 
わたしは一言呟くと、目をつぶって、そっと彼と唇を重ねた… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
目が覚めるとその日はまだ夜が明けていないかのように薄暗いままであった。 
きっと今日は雨が降るんだろう…わたしは彼に尋ねる。 
 
「ねぇ…?今日はお散歩やめておく?」 
「…ううん…いかなくちゃ…」 
彼はわたしの問いに対して、優しく微笑んで答える。 
でも、わたしには彼のその目がいつもと違うようで、何かさびしそうに見えた。 
 
薄暗い空の下、小さな森を行く… 
いつもなら森に住むポケモンが出迎えてくれるはずなのに…今日は何故か誰とも出会っていない。 
お天気が悪いからかな…? 
少し奇妙な感覚を抱きながら、わたしは彼の後をゆっくりとついて行く…と…、突然、彼がその歩みを止める。 
 
「あった…」 
彼は何かを拾い上げわたしの顔の前に持ってきた。 
 
「これはね、あの仔が持っていた木の実だよ…」 
見ると、彼の手の中には黄色いがくに包まれた、宝石のような蒼い木の実があった。 
 
「あの仔って…?あっ」 
「そうだよ…そろそろ見つかる…はず…」 
そういえば…、彼がまいごのポケモンをさがしていたことを思い出した… 
こんなに時間が空いてしまったのに…まだまいごのままだったの? 
もしかして…彼とその仔に悪いことをしてしまったかな… 
 
「ゴメンナサイ…わたし、まいごのことすっかり忘れてて…」 
「ううん…ボクは忘れてないよ、ずっと探してたから…大丈夫。」 
彼はいつものように優しく微笑んで… 
 
「それにね、もうすぐ見つかるんだ…、ねぇ?この木の実、何かわかる?」 
彼はわたしに拾った木の実を手渡してきた。 
あれっ…この木の実は… 
 
…わたしが何かを思い出そうとした矢先、薄暗い空からわたしの頬に大きな雨粒が落ちてきた。 
 
「あっ、降ってきちゃった?」 
そう呟いて、わたしが彼に視線を向けた瞬間… 
 
彼がわたしに向かってみずでっぽうを放ってきた… 
 
…鋭い痛みが身体を伝わる… 
 
「ちょっとっ!何っ!?」 
わたしは声を荒げて顔をあげる… 
いつの間にか本降りになったようで、空からは大粒の雨が降り注いでいた… 
彼はわたしを挑発するように… 
 
「今度は手加減しないからね…っ」 
そう言って、わたしに対して再びみずでっぽうを放つ。 
 
…さっきとは比べ物にならないような痛みが全身を駆け抜けた… 
…これはふざけてるわけじゃない… 
今まで見せたことのない鋭い目付きから、わたしは彼の敵意を感じ取った… 
 
「次で終わりにしよう…」 
彼の周りに水しぶきがあがる… 
次の瞬間、彼は水の幕を纏ってわたしに向かって突進してくる… 
 
それは一瞬の出来事だった… 
わたしの頭の中で彼と出会った日から…今までの… 
いろんな思い出が通り過ぎて行く… 
 
「こんなのヤダぁっ!」 
 
突如わたしの足元から立ち上がった紅が目前の蒼を覆い尽くす… 
…そして視界が真っ白に染まる… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
目が覚めるとわたしは木々が生い茂る森の中にいた… 
さっきまでの雨空が嘘のように、頭上には雲ひとつない晴れ晴れとした蒼空が広がっている。 
木々の間からはまぶしい光が差し込み、空の向こうには鮮やかな虹のアーチが架かっていた。 
まるでさっきまでの出来事が夢だったかのよう…? 
そう思って辺りを見回すと…小さなかばんが一つ… 
 
「…これって…」 
わたしはそっと目を閉じて…まぶたの上から両目を強くを押さえた… 
…少し間をおいた後、わたしはそのかばんを首にかけ、遠くに見える虹に向かって走り出す… 
 
…それほど時間はかからなかった… 
わたしは大きな木の根元に立っている… 
 
「この木はね…、ゆめの木って言ってね…」 
彼の言葉を思い出してもう一度自身の声で複唱する… 
 
「仲良くなりたいポケモンのことを想いながら木の実をお供えするとね…」 
わたしは彼のかばんをひっくり返す…あった…青い木の実がひとつ落ちた… 
 
「これで良いんでしょ?お願いっ!…わたしの想いを……… 
 
……… 
……… 
……… 
 
「あっ、起きたみたいね?」 
「おはよう。」 
 
…ここはどこ? 
 
「今回は大分長い間休んでもらったから…」 
「まだ頭がぼーっとしてるのね…?」 
ひとつは聞き覚えのある声だった… 
もうひとつの声は覚えていない… 
大きな手がわたしの頭を優しく撫で上げる… 
 
…ああ…そっか… 
帰ってきたんだ… 
 
…でも行かなくちゃっ 
わたしは頭の上の手を払いのけると同時にその手の主の服の袖を咥えて引っ張る… 
そして、徐に立ち上がると、外へ向かって駆け出した。 
 
「あなた…脚は…?」 
手の主が驚いた声を上げ、わたしの後を追ってくる… 
わたしは建物の外に出て数歩歩いて立ち止まる。 
 
「ねぇ、どうしたの…?」 
手の主…わたしの主人であるトレーナーがそう言った… 
 
「これ…忘れ物…」 
もう一人の知らない声の主が後から歩いてきて、わたしの主人に何かを手渡たそうとした。 
そして彼女はわたしに語りかける… 
 
「あなたは覚えていたのね…、だってあなたもあの世界から…」 
わたしは小刻みに何度も首を縦に振る… 
 
「急いでるみたいね…ほら…いってらっしゃい。」 
主人が知らない声の女性から何かを受け取った瞬間… 
視界がぐにゃっとゆがんだような気がした… 
 
……………………………………………………………………………………………………………………… 
 
気がつくとわたしは主人と一緒に、薄暗い、さびしげな広場にいた… 
そしてわたしは何かに導かれるように、主人を置いて走り出す… 
うっそうと、木々が茂る森の中へ… 
繰り返される同じ景色… 
どのあたりを進んでいるのかすらわからないけど… 
それでも、わたしはこの森の奥に…何か大切なものがあるという…そんな気がしていた… 
 
いくつもの木々の間をすり抜け…不自然に開けた空間に出る。 
…きっとここが最終地点… 
 
そこにはぽつんと一匹のポケモンが佇んでいた… 
まるでわたしが来ることを予測していたかのよう… 
わたしは息を整えて、そのポケモンに向かってゆっくりと歩みだす… 
 
「久しぶり…かな?」 
わたしは精一杯の笑顔を作って、そのポケモンに呼びかけた… 
そのポケモンはいつもと同じように優しく微笑む。 
 
そして、わたしに向かって言う… 
 
「やっと見つけた…」 
 
「…まいごの…、ロコンちゃん…」 
 
わたしは顔を歪めて彼に体当たりをする… 
彼はわたしを受け止めたまま仰向けに倒れた。 
 
「…あなた…バトルは苦手…?」 
「もう、キミには勝てないかもね…」 
 
そう言って彼は顔を近づけて、わたしの頬を伝う水を舐め上げる… 
 
「わたしも…もうどこにも行かないから…」 
 
わたしは彼を押さえ込んだまま…大きく息を吸い込んで…、彼の唇を塞いだ… 
 
木々の間からはまるでわたしたちを祝福するかのように、強く暖かい陽の光が差し込んでいた… 
 
 
fin.

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