ここはマサラタウンのレッドの家。
四天王達との激戦の後、レッド・グリーン・ブルー・イエローの四人は、つかの間の穏やかな日々を過ごすべくそれぞれの故郷に戻っていた。
「ピカはイエローに着いていくことになったし、ゴンはパワーなら頼れるけどそれ以外が不安かな・・・・ようし!」
レッドは自室で手持ちポケモンについて考えていた。
ずっと共に戦い続けているフッシー・ニョロは絶対に外せないし、三つの属性を自由に出来るブイも頼れる。
各地を回るためにはプテラもいてほしい。
・・・後の二体をどうしようか、レッドは悩みに悩んでいた。
「・・というわけで、もう一回旅に出ようかなって思うんだよ」
「お前らしいな、レッド。どこまでも強さを求めるか・・・・」
「あぁ。シバには何とか勝てたけど、きっとシバ以上のトレーナーも出てくるだろうしな」
レッドの話を聞いたグリーンは、あまりにレッドが直情なため苦笑した。
「旅立つと言うのなら、イエローを連れていってやれ。あいつはお前を慕っているし、お前といればあいつも否応無しに鍛えられるだろう」
「それもそうか・・・。よし、トキワに行こう」
恐らくは既に用意を終えていたのだろう。
リュックを背負い自転車に跨ったレッドは、すぐに走り出した。
トキワにて。
「散歩したら汗かいちゃったな・・・・」
長時間の散歩を終えたイエローは、家の前で呟いた。
いつもの服が汗でベトベト。
こんな姿を恋い焦がれるレッドに見られた日には。
「うぅ、嫌われちゃうよね?」
泣きそうな顔になるイエロー。
まだ年は若い(というより幼い)が、彼女も立派な恋の虜の女の子だ。
「よぅイエロー」
「ひゃああっ!?」
流石に恋する少女も背後からの声には勝てないらしい。
イエローは飛び上がるようにして声をあげた。
驚きで腰を抜かしたのか、イエローはへなへなと地面に崩れ落ちる。
「お、おい!?大丈夫か!?」
「・・・レッドさん?」「わ、悪いな?そんなに驚くとは思わなかったから・・・」
「・・・ふぇ」
どうやら声の主がレッドと確認出来て気が緩んだのか。
イエローは、泣き出した。
「ふぇ・・・ふぇえ・・・すっごく驚いたよぅ・・・」
「うわ・・・・」
「レッドさん・・・」
涙目でレッドを見るイエロー。
レッドは中性的な顔立ちのイエローの顔に、どこかときめいてしまった。
ここで問題はレッドが未だにイエローを男として見ていることだ。
男女の関係についてはカスミやブルーという勝ち気な女ばかりと付き合いが多い為、あまり好きではないレッド。
そんなレッドにも男同士が恋をするのが変だとは分かった。
(うわ・・イエローってかわいいんだな・・・)(レッドさんに泣いているところ見られちゃったよ・・・・)
地面にへたりこんだままレッドを見つめるイエローは、とあるものが催すことにまだ気付かない。
「だ、大丈夫か?」
自転車から飛び降り、レッドはイエローに近寄る。
そして、様子を伺うように、レッドはイエローの顔をのぞき込む。
(やっぱ可愛いよなぁ・・・イエロー)
(レッドさんの顔がこんなに近くに・・・・)
レッドがイエローを可愛いとぼうっと思っているうちに、イエローは何処か振り切れたらしい。
腰が抜けたまま、顔だけを動かし。
レッドにキスした。
イエローの顔が動いた時、彼女の頭の麦わら帽子がはらりと落ちて、イエローのポニーテイルが露わになる。
(!!・・・イエロー・・・女だったのか!?)
レッドは未曾有の驚きにとらわれて。
しかし、唇に触れるイエローのそれの柔らかさを感じて、イエローを抱き寄せた。
やがて、唇が離れて。
「ボク・・・」
「イエロー、女だったんだな・・・?」
「黙っててごめんなさい・・・」
「いや・・・いいさ。男にしちゃ可愛いなって思ってたんだけど・・・女ならそれも分かるな」
ははは、と笑うレッド。しかし想い人に可愛いと言われたイエローは、舞い上がらんばかりの歓喜を感じた。
そして。
「レッドさん・・また旅に出るんですか?」
「あぁ。で、お前も行かないかなって思ってな」「行きます!絶対に行きます!」
そうか、と破顔一笑するレッド。
イエローにしては、経験が浅い自分がレッドのテクニックを盗むチャンスでもあるし、好きな人とずっと一緒にいられる機会でもあるのだ。
旅立つ為の用意をする最中も、イエローは顔が緩むのを押さえきれない。あれほど会いたかったレッドを、独り占め出来る。
カスミやブルー、エリカよりも近くにいられる。イエローは、自分を連れていくように助言したらしいグリーンに心底感謝した。
−それから、数年。
レッドやイエロー達は、バトルフロンティアという最強のトレーナー達のいる場所を制覇し、事実世界最強のトレーナーと呼ばれるレベルにまで成長した。
修行の旅の最中、レッドは全く恋愛沙汰のことは話題にしなかった。
いつも優しい目を向けられているポケモン達に嫉妬することもあった。
寝ているレッドにそうっとキスすることなんて一度や二度じゃない。
しかし、すべてを終えた二人は、一緒に暮らすことを約束していた。
「・・・レッドさん」
「綺麗だぜイエロー」
思うところがあって延ばし続けた髪をくしゃくしゃと撫でられて、イエローはくすぐったそうに笑う。
ピカとチュチュは既に第二子を産んでいる。
次は自分の番だとイエローは予感し、顔を綻ばせた。
−今晩は、夫婦になった二人の新婚初夜−。