挫折というものの味を、分かったつもりになっていた。
あの日、大きな瞳に涙を湛え怯えきった表情のまま走り去ったウーラーを呼び止めようと差し出した手もそのままに、
情けなく立ち尽くす自分の姿がまざまざと脳裏に甦る。
いつからだろうか、彼女が向けてくれる友愛の視線を別のものと勘違いし、あまつさえ独り占めしようと
思いだしたのは。
以来、悶々と己の中に渦巻く欲望と葛藤に苛まれながら、夜毎お気に入りの寝床で輪をかきむしったものである。
その気持ちは、日中気の良い友人達に囲まれていた中でも変わらなかった。
彼女の一挙手一投足にそれこそ一喜一憂し、その姿をいつも視線で追い、彼女と談笑する友人に抑えきれぬ殺気を
放った。
自分は気が触れてしまったのではないか、とマフィン翁に相談を持ちかけたこともある。
その時彼はいつもの慈愛に満ちた視線を投げかけながら、大いに悩みなさい、とだけ諭すように言っただけだった。
悩んで解決するなら、誰も他人にこのような話はしない。
半ば憤然としながら吐き捨てるように言い残し、飛び出してきたことが悔やまれる。
そう、今なら分かる。百獣の王を気取っていても所詮自分はまだ子供。
知識も経験も絶対に不足した、他者への心配りも満足に出来ないガキなのだと。
そっと唇に触れる。
思い悩んだ挙句、彼女を静かな森に呼び出して自分の思いの丈をぶちまけた。
その時の、彼女の困惑しきったような表情が忘れられない。
彼女は、そういう風に感じさせてしまった自分の振る舞いを詫びた。
その上で、今はそのような感情についてよく分からない、と。
だから、貴方の気持ちに応えてあげられない、と本当に申し訳無さそうにぽつりとこぼしたのだった。
そのとき自分は間違いなく逆上していたのだろう。
血の滾る音が耳朶に響いたと思ったその刹那、彼女の汚れも塩辛さも知らなそうな唇を奪っていた。
そして冒頭に至る。
彼女との間にはそれ以来気まずい空気が漂い、友人達の気遣わしげな態度も煩わしく感じられていた。
ああ、自分は一体どうしてしまったというのだろう?