あぶないビデオにご用心!
「うわあっ!」
いきなりのスッ頓狂な声に驚いて、ももこは飲んでいた紅茶を噴いてしまった。
大声の主はかおるだ。
「な、なに。どうしたの」
「うわ、くっ来るな! 来るなっ」
ももこが咳こみながらかおるに近寄ろうとするとホラー映画のモンスターばりの
拒絶っぷりを見せられてしまい、紅茶を噴いた拍子にヒドイ鼻水でも出たのかと
思わず自分の顔をペタペタさわって確かめた。べつに何も出ていない。
あらためてかおるを見ると、異常にあせって目の前のモニターを隠そうとしている。
「なによ〜、なんなのよ〜」
「やっやめろ、見るなっ」
かおるをひっぺがしてモニターを見ると、パンツをはいていない大人の男女が
ベッドの上で何やら声をあげながら組んずほぐれつ、ほぐれつ組んずの映像が。
ももこは言葉を失ってピタリと固まってしまった。
「こ、コレって……」
「う〜ん……アレだよな」
ふたりの間にイヤな沈黙が流れ……画面の中の女の悩ましい声が部屋にひびく。
「かおる……あんたにこんな趣味があったなんて」
「んなわけねーだろ! 昨日録画しといたサッカーのビデオ見ようと思ったらなんか
間違えちゃって、違うのと間違えちゃったんだよ! だから違うんだって!
きっと博士のだよこれ、ったくこんなとこ置いとくなよなースケベオヤジ!」
あたふたと一気にまくしたてると、傍のリモコンを掴んで早いとこ停止させようと
したが、ももこがその手を制した。
「ちょっと待って。……見てみない?」
「はぁ!?」
「いや〜こういうのちょっと興味あるんだよね。みやこーみやこー」
ももこはなんだかウキウキしながら、別のモニターでファッションチェック中の
みやこに声をかけた。はい? と礼儀ただしく返事するみやこ。
「みやこも一緒に見よ、おもしろいよ〜」
「なんですか〜?」
これはいつもの二人のペースに巻き込まれる……かおるは口をとがらせて、
「勝手にしろっ、おれは見ねーからな!」
リモコンを机に叩きつけると離れたソファにどっかと座り、サッカーマガジンを
ひったくって乱暴にめくりはじめた。昨日読んだばかりの雑誌である。
そんなにイヤがらなくてもいいのに……と思うももこの横で、みやこが画面を
眺めながらピタリと固まっていた。
そのビデオはなかなか過激で、モザイクはかかっておらず大事な部分が丸見えだ。
男優がパクパク広げたりしてるところや女優がンパンパ舐めたりしてるところが
アップになるたびキャイキャイ歓声をあげていた二人だったが、事が進むにつれ、
具体的にいうと男優が挿入して腰を動かし始めたあたりから、次第に言葉少なになり
自分の体が熱くなっているのを感じて何やらモジモジするのだった。
「……入っちゃうものね」
「……人体の不思議ですわ」
「なんか私、むずむずしてきちゃった」
みやこはそれに答えず赤い顔でうつむいた。
「ね、さわりっこしようか」
ももこが右手をのばしみやこの太ももにペタリと置くと、
「ひゃ」
感覚が鋭くなっているのか、脚をビクリと震わせてくすぐったいような声をあげた。
その可愛らしい反応にウフフと喜ぶももこ。自分より白くてきれいな脚をうらやむ
ようにムニムニ揉んだりしながら、やがてその手が脚の付け根のほうへ向かう。
「このへん……むずむずしない?」
ゆっくりとスカートのフリフリ部分をもぐって中に侵入し、指が下着を探りあてた。
スカートがめくれ上がったせいでその様子がちらと見え、みやこのイメージ通りの
白くて少し装飾のついたそのカワイイ下着に、ももこの顔が一層ほころんだ。
「気持ちいい?」
ももこに応えるように、顔をほのかに上気させて息を弾ませるみやこ。他人に
敏感なところを触られるという初めての感覚を、彼女なりに楽しめているようだ。
ももこがさらに奥のほうへ手を動かし、人差し指と中指を器用に使って邪魔な布地の
脇から中に入れると、中学生にしては毛の感触がほとんどなくスベスベしており、
ほんのりと汗をかいているのかモチモチ指に吸いついてくる。最も敏感なふくらみに
指先が触れるとみやこの全身がびくんと跳ねた。
「そこ、そこはダメですわ……」
大きく息をついてようやく細い声をしぼり出す。
カワイイなぁ……とまた思って、ももこは、自分も相当にドキドキしていることに
気づくのだった。
「ね、私もさわって……」
「あの〜、でも……」
みやこは口ごもり、ひとり離れて座っているかおるの方に顔を向けた。
かおるは、耳に入ってくるビデオの女のいやらしいあえぎ声にイライラしていた。
なぜ、こんなにも嫌なのか。兄や弟が性的なものに興味を持ちはじめる年頃で
そういうビデオで自慰してるのを見てしまった事があるのも原因のひとつだろうが、
彼女自身にもよくわからない。とにかくイライラするのだ。
胸がもやもやして頭がくらくらして、なんにも考えられなくなってしまうのだ。
「ねぇ、かおる」
「うわあっ!」
だから、ももこにいきなり後ろから抱きつかれてひどく驚いた。
「な……なんだよっ」
「いやぁ、あのね。私たち二人だけで楽しむのも悪いかな〜なんて」
ソファの背もたれをはさんで首から腕を回され、ももこの顔がすぐ横にある。
いたずらっぽくささやくももこの息が耳をくすぐり、かおるは鳥肌をたてながら
激しく頭を振った。
「お、おれはいいっつってんだろ!」
「またまた〜。聞き耳たててたく・せ・に」
「たててねーっ」
「だって、そのサッカーマガジンさっきから全然ページめくってないでしょ」
鋭く図星を突かれたかおるは、
「じゅ、じゅじゅ熟読してんだよ! いい記事だから何回も読んでるの!」
と、苦しく言い訳をしたが、その開いているページがスポーツ用品の広告ページで
あることに気づいて顔を赤くした。
「……かおるもドキドキしてるくせに」
言いながらススと手を胸に這わせるももこ。速まった鼓動が伝わってしまうのが
恥ずかしくてその腕をはねのけようとしたが、今度は目の前に例の、大人の男女が
激しく結合している映像があらわれて思わず力が抜けてしまった。
みやこがわざわざモニターを持ってきたのである。
「そうですよ〜、みんなで見ましょ」
あぁ、やっぱりこの二人のペースだ……かおるはまた、何も考えられなくなった。
ビデオの男女はあれこれと体位を変えて、今は騎乗位で女が腰を振っている。
「ほら〜すごいよ〜見て見て」
ヌチヌチと音をたてながら出し入れされる男性器は、かおるにとって、とても
見ていられるものではなかった。全身が心臓になったみたいにドキドキして、
頭がショートして煙を噴き出して、目がかすんで息が切れ苦しくなるのだった。
その感覚は、マラソンの最後でスパートしてる時にすこし似ていた。
ももこの手が胸のあたりに触れている。もぞもぞと動いて微妙にふくらんでいる
ところを撫でられる。首筋や耳にキスされる。ももこの唇は薄いけれど確かな
存在感があってキスされたところがじんじんと熱くなる。画面ではまた体勢が変わり
男が後ろから突いている。今のももこも、この男の気持ちなのだろうか。攻められ
激しい声をあげている女の姿に自分が重なって、でも、不思議とイヤな気持ちは
しなかった。
みやこが下腹部に手をのばしてくる。いつのまにかズボンがずり下げられていた。
すこし脚を動かすと股にヌルリとした感触がある。なんだろう。ヘソのあたりに
キスされる。みやこの唇はちょっと厚くてムニムニしている。くすぐったい。
そのムニムニが下にきてパンツ越しに一番敏感なところを刺激される。思わず背筋が
のびてしまう。
「ちょっ……そこ、」
汚いって言おうとしたけれど言葉が出てこない。気がつくと自分も画面の女と
似たような声を出していた。ももこにシャツをたくし上げられて直接胸をいじられる。
先っちょが固くなってるのが自分でもわかる。耳たぶに甘噛みされる。ねっとりした
吐息が耳の産毛をくすぐる。みやこがパンツの端をつまんでゆっくり引っ張る。
……脱がされる。全部脱がされてしまう。
「あっ」
――ももこが不意に声を上げたので、みやこも動きを止めてももこを見上げた。
「……終わっちゃった」
ふりむいてモニターを見るみやこ。そこではすでに射精した男が息を切らして、
精液にまみれた女が恍惚の表情を浮かべていた。
一息ついて、場の空気が急速にゆるむのを感じる三人。
「どうしましょう……」
「う〜ん……それじゃあ、巻き戻してもう一度」
ももこがそう言うが早いか、
「ふざけんな! やめやめやめー!」
かおるがあわてて衣服をなおしながら声を張り上げた。
「え〜」
「え〜じゃねぇ! おれはもう帰る!」
キスされたところをゴシゴシやりながら逃げるように部屋を出ていってしまった。
残された二人が顔を見合わせる。
「あんなにイヤがらなくてもいいのにねぇ」
「ね〜」
「んじゃまぁ、続きは次の機会で!」
「楽しみですわ〜」
ウフフと笑うこりない二人であった。
なお、問題のエロビデオはユートニウム博士の仕組んだ巧妙な罠であり、三人の
いけない遊びは室内に仕掛けられた64個の隠しカメラによって余すことなく記録。
博士の秘蔵コレクションに加わる事となるが、そんなこと三人は露ほども知らない。
(おわり)