「おっはよ〜!みやこ!」
いつものように下足室でももこさんに声を掛けられる。
「あ、ももこさん〜。おはようございます〜」
返事をしながら靴箱を開ける。
ガチャッ
ドドドドドドー
手紙がまとめて落ちてきた。
「うひゃ〜相変わらずすっごい量ねぇ☆全部読んでるんだよね」
「はい、折角頂いたものですから〜。」
返事をしながら、かがみこんで床に落ちた手紙達を拾って鞄に詰め始めると、
ももこさんも一緒に座って手伝ってくれた。
ジリリリリ
「いっけない!始業ベルだわ!急いでっみやこ」
「はい〜っ」
ギリギリセーフで駆け込むと教室にはかおるさんがもう座っていた。
「おっす」
最近かおるさんの方からも挨拶したり話しかけてくれるようになって来た。
元々スポーツが苦手な私にとっては憧れの存在。
パワパフZがきっかけで仲良くなれて本当に嬉しいなぁって最近思う。
正直、今、鞄に詰まっている手紙より、ももこさんとかおるさんとお話ししたり
遊んだりすることの方が最近の私の心の中を大きく占めている。
でもせっかく頂いた手紙。ちゃんと読まなくちゃ。
1番後ろの席ってことも手伝って先生から見えないよう、
コソコソ脚の上に広げた。
・・・
<いつも見ています。大好きです。>
<あなたのことが好きだ。>
好意への嬉しさと同時に応えられない申し訳なさを感じる。
それでも読むことが誠意に繋がると信じたい。
何枚か目を通す内に気になる手紙を見つけた。
<あなたのことが好きです。
だからなんでも知っています。
いつも授業を抜け出してどこに何をしているかも。。。
ヒミツにしておきたいなら放課後視聴覚室に来てください。
他の2人には言わないこと。さもないと2人を、
特にかおるさんを、ひどいめに遭わすことになってしまう。
必ず約束は守ってね。待ってるよ。>
「!!」
どうしましょう・・ ヒミツってパワパフZのことですよね。
2人に相談、したいけど、どこで見てるかわからないし。
放課後、結局1人で視聴覚室に向かうことにした。
私の事が好きな人なんだったら、2人には迷惑かけられないもの。
部屋の中は暗くて、まだ誰も来ていないみたいだった。
「一体誰なのかしら・・・」
ガチャッ
その時、後ろのドアが開いて人が入ってきた。振り返ると、
そこには知らない顔の男の子、たぶん上級生?が1人で立っていた。
「やぁ、みやこちゃん、手紙、読んでくれたみたいだね」
「あの、あなたは一体誰ですか?」
「ひっどいなぁ。僕は君に何回か手紙を出したことあるんだよ?
下駄箱に返事見つけた時、嬉しかったなぁ。でも僕の思いに応えられないんだって?
僕の気持ちを甘くみてもらっちゃ困るんだよな〜、うん。」
ベラベラ喋り出した彼。
頭の中で思い当たる手紙を見つけた。
いつも5枚以上にわたって、私への気持ちを綴った文章を送ってくる、あの手紙。
宛名の下駄箱に、お返事はきちんと返していたつもりだったけど、、
全く気持ちが通じてなかったみたいで、背筋がツゥーと凍りついた。
「まぁ過去は過去。コレでも見てもらおうか。」
彼はビデオテープを取り出し、機械にセットし、
再生ボタンを押した。
『・・ザザ・ローリングバブルスっ ・・パワードバターカップ ・・』
「これは!」
そこには屋上で変身していく私達3人の姿が一部始終カメラに収められていた。
「君の事が大好きだから、いっつも見ていてあげられるように、
みやこちゃんの姿をビデオに収めていたんだ。
びっくりしたよ〜。まさか君がパワパフZだったとはねぇ。」
「・・・・・・」
どうしよう完璧にばれてる。でも、市長さんにお願いして、
彼にばれてしまいました、ごめんなさいって謝っちゃったら
大丈夫??かしら。。。とにかく、ももこさん達にも相談しないと。
「あの、ちょっとココで待っててもらえますか・・?すぐ帰ってきますので・・」
その場から走り出そうとしたら、
ガシっ
「おおぉっと、逃がさないよ」
腕を掴まれてしまった。
「まぁ、焦るなって。みやこちゃん。実はもう1本見てもらいたい物があるんだ。」
彼はさっきとは別のビデオテープを取り出し、再生した。
「・・・・!?まさかっ!!?」
目を疑った。
この間のパワパフZの戦闘シーン。
私の様子と、ももこさんと、あと、かおるさんが・・・・
「そんな・・・ これって・・・」
「そう。下から撮ったからよく撮れているだろう?
僕もまさかとは思ったよ。あの松原かおるさんが
ノーパンだったとはね。」
顔から一気に血の気がひくのが自分でも分かる。
「どうする気なんですか!?」
「どうもこうもないさ。僕は別に松原さんをどうにかしたいわけじゃないんだ。
みやこちゃん。好きなのは君なんだよ。
だからね、君が僕の言うことさえ聞けば大丈夫なんだよ。
でも、それが出来ないのなら、あのビデオがどうなるか、分かっているよね?」
「・・・・」
目の前が真っ暗になる。
どうしたらいいのかわからない。
でも、ひとつ確かな事。
かおるさんを傷つけたくない。
グチャグチャになる頭の中で、これだけはハッキリしていた。
「どうすればいいんですか?」
「普段ぼーっとしてるのに物分りが早いねぇ。
やっぱり友達は大切なんだね。
じゃぁまず、大事なお友達、ひとりにだけ
恥をかかすなんてこと、みやこちゃんには出来ないよね?」
なにを言う気なんだろう。この人は。
「今ここで、君もパンツを脱いでもらおうか」
「!?」
「ほら。早く。ちゃんと今日もビデオカメラは
持ってきてるんだから。しっかり撮ってあげるからね。」
ドクッドクッドクッドク・・・
心臓が頭にも、お腹にも、全身にあるみたいに
早鐘が鳴り響いている。
手が震えている。
なんでこの人はこんなことをさせるんだろう。
なんでこの人は笑ってビデオを構えてるんだろう。
眼が潤んで、視界が霞む。
腕を曲げて、手をスカートの中に滑り込ませた。
中の布に手をかけると、腰を曲げて、一気に
下まで降ろした。
「じゃぁそれはもらっておくよ。」
彼はセカセカと私から下着を奪い取った。
「悔しいだろ?ほら。ビンタでもしてみろよ。」
突然頬を差し出してくる。
「どうだ?殴らせてやるんだよ。俺の顔をな。やってみろよ。」
わざと逆撫でさせるような声出してるって私にでもわかる。
「じゃぁ、こうしようか?
バブルスさま〜 どうかビンタして下さいよぉ〜?」
今度は深々と頭をさげてきた。
まったく訳がわからない。本気で腹が立ってきたのと
さっさと止めさせたいのとで、彼が頭を上げてきた時に、
ペチッ
右手で彼の頬を叩いた。
「痛っ〜!!!あ〜〜!!!いってぇよ!おまえ!
なにすんじゃこのボケッ!!」
彼はふざけた瞳と乱暴な言葉遣いとを混じらせながら
こっちに向かってきた。
バンっ
思いっきり肩を押されて、後ろのが壁にぶつかる。
「いたっ・・」
背中が痛い。。
「ははっ ごめんねぇ。大丈夫?みやこちゃん?
ほら、よしよし〜」
無理矢理彼の腕の中に収められる。
締め切った視聴覚室の篭った空気、
目の前には嫌な男の胸。息が苦しくて
窒息してしまうのかもしれない。
蒸し暑いのと、イヤな気持ちとで、皮膚がジトジト湿ってきている。
瞳は水でいっぱいになっている。
もしかしたら 私は、溺れ死ぬんだろうか。
数秒経ったころに、私からスッと離れて彼はこう言った。
「んー。今日はここまでにしとこうか。
みやこちゃんに守ってもらいたいお約束1つ目。
貰った手紙は読まずに捨てること。」
溜まった涙で前がよく見えない。
「それからもう2つ目。
明日からも、この状態で下着を着けずに学校へ来ること。
とりあえずこれだけ。OK?」
NOって言えないのわかってるくせに。
声が出なくて、代わりに顎を下に傾けた時に
溢れ出た水が、瞳から床に落ちた。