セデューサ・リターンズ!  
 
 寝る前の甘いものタイムはももこにとって、一日いちばんの至福の時間だ。  
今夜のメニューはカスタード饅頭。金時堂オリジナル「カスタあん」の  
ミスマッチぶりが癖になる、ももこをはじめ固定ファンが多いお菓子だ。  
宿題もして風呂も入って歯もみがいて、さぁ満面のえびす顔でかぶりつこうとした  
その瞬間にベルトがピコピコいいだしたものだからたまらない。  
「夜おそくすまない! 街で洋服や靴が奪われる事件が発生! モンスターだっ」  
 博士の必死の叫びを軽く無視して饅頭をつめこもうとしたももこだったが、  
事件がつい先日のそれと同じ状況であることを不思議に思ってその手を止めた。  
「それってもしかして……セデューサ?」  
「おそらく……。なぜまたセデューサが……それはわからないが」  
 セデューサの正体は金時堂の看板娘、桜子である。彼氏との仲がうまくいって  
ないのだろうか。そういえば、店に行った時少し元気がなかったような気もする。  
「とにかく出動してくれ、パワパフZ!」  
 話はそれからね……ももこはつぶやいて、手早くリボンをつけるのだった。  
かたわらの饅頭をうらめしく見つめながら……。スーパーヒロインはつらいよ。  
 
 ガールズたちが出動したのはいつかの洋品店。きらびやかなドレスや装飾品が  
所狭しと並んでいる。その中央にバブルスが、ロッドを片手に陣取っていた。  
「……というわけで、彼女はきっとまたここに来ます」  
「今度こそドレスを奪いにくるってことね」  
 自然とぐっと引き締まった表情になるブロッサム。の横で、バターカップが  
思いきりあくびをした。  
「しっかし、なんでまたセデューサが? 桜子さんはアレでめでたしめでたしじゃ  
 なかったのかよ。どうなってんだまったく」  
 いらいらと頭をかくバターカップの言葉にふたりもウームとうなる。当然の疑問だ。  
「まぁ……女の子にはいろいろあるのよね、こと恋愛に関しては」  
「とにかく、捕まえることが先決ですわ」  
 それには異議なし、と、バターカップが言おうとしたその時だった。  
 店内の明かりがすべて消え真っ暗になったのである。  
「うわっ、なんだなんだ」  
 おろおろと闇の中を手探りするバターカップ。何か大きくてモフモフしたものに  
触れた。すかさずブロッサムの声がする。  
「ちょっと、私の髪さわってるの誰」  
「あ、おれだ。これ髪の毛かぁすごいな。どれどれ」  
「いたたた、ひっぱらないでよ! もう、どうなってるの一体!」  
「私、ブレーカーを探してきますわ。ちょっと待ってください」  
 バブルスがそう言って、あちこちにコツコツ足をぶつけながら部屋を出て行った。  
 暗闇に似た沈黙がしばらく部屋をつつむ。  
 残されたふたりの目が闇に慣れ始めたころ、チチチと小さな音をたてて蛍光燈が  
次々と復旧し、まぶしくて逆に目を閉じるはめになった。  
「ありがと、バブルス……」  
 ブロッサムが目をシパシパやりながらバブルスをねぎらうと、  
「あなた……あなたたちは本当に、ブロッサムとバターカップですか」  
という謎の言葉が返ってきて、へ? と思わず間の抜けた声をあげた。  
 
 セデューサは変装の達人である。自分が部屋を出て行ってる間に彼女が本物と  
スリ替わったのではないか、というのがどうやらバブルスの主張らしい。  
 すかさずバターカップがくってかかる。  
「んなわけねーだろ。おれとブロッサムはふたりでここにいたし、何も変わった事は  
 なかった。入れ替わるような時間も空間もなかったぜ」  
「ブロッサムが入れ替わったのに気づかなかっただけでは? いえ、そもそも、  
 バターカップでないかもしれないあなたの言うことを鵜呑みにはできませんわ」  
「ふざけんな! ……てかさ、その理屈だとバブルス、おまえだってニセモノかも  
 しれねーじゃねーか。むしろ一人で行動してたおまえの方が……」  
「私がニセモノ? ヒドイ、ヒドイですわ。そんなヒドイことを平気で言うなんて、  
 やっぱりあなたはバターカップではありませんね!」  
「なんだって!」  
「ちょっと、ちょっとちょっと! 待ちなさいよふたりとも!」  
 鼻息荒いふたりを見かねてブロッサムが割って入る。  
「あのさ、セデューサの変装を見破る大事なポイントがあったでしょ。覚えてる?  
 それは化粧。セデューサの変装はきつい化粧の匂いがするのよ」  
「そうでしたわ」  
「そうだよ。するか? 匂い」  
 そう言ってバターカップがぐっと胸を張ると、  
「ちょっと失礼……」  
と、バブルスが顔を近づけ匂いをクンクン嗅ぎ始めた。ぬるい鼻息が頬をくすぐり  
思わず鳥肌をたてるバターカップ。  
「おい。近い、近いって」  
と、もじもじするのをよそに、より顔を密着させ一心不乱にスーハーするバブルス。  
やがて唇をうすく開きベロを出してゆっくりとバターカップの頬をなぞった。  
「わ!? 舐めた! いま舐めたろ!」  
「化粧の味がするかどうか見てるんですわ」  
「し……したかよ。しねーだろ匂いも味も!」  
「ええ……でも……巧妙に隠しているのかも……」  
「んなわけねーっての!」  
「彼女が、弱点をそのままにしておくとは考えにくいですわ」  
 耳もとでささやく声は本気で言ってるのか何なのかバターカップには測れない。  
ただその吐息は熱く色を帯び、普段のみやこからは想像もつかないほどの強さで  
耳の穴から胸の奥に侵入しモヤモヤした部分をつついてくる。  
「あ、うん、それは言えてるかも」  
 ブロッサムが余計な合いの手を入れたが、つっこむのがもう面倒なくらいに、  
バブルスの柔らかなベロの感触に酔い始めていたのだった。  
 
 バブルスはバターカップの唇にこそ触れなかったものの、頬からおでこ、耳たぶ、  
首筋をへて、ぴくり、ぴくりと敏感に反応する胸元をコスチューム越しに愛撫し、  
その匂いと味を確かめていった。確認された部分は、バブルスの唾液によって  
コスチュームの緑を濃くしていた。  
 つづいてスカートの中に鼻先をつっこむと、さすがにバターカップは身をよじった。  
「こらー! どこまで嗅いでんだ!」  
「ここが一番大事なところですわ」  
「どっ、どこの世界に股間に化粧する奴がいるんだ!」  
 正論である。しかしもはや正論など通用しない空気でもあるのだ。  
 発情した犬みたいにグイグイと、無遠慮に鼻先を押しつけてくるバブルス。  
布一枚へだててバターカップの、自分でもよく知らない女子の大事な部分がある。  
そのとてつもない恥ずかしさと、どうしようもない心地よさに、バターカップはただ  
顔をまっ赤に熱くして唇を結ぶことしかできなかった。  
「う……や、あんまり……クンクンすんなって……」  
「汗の匂いがしますわ、それと……」  
「ひゃっ!」  
 布地に浮かぶタテ線をなぞるようにバブルスがベロを這わせると、普段のかおる  
からは想像もつかないほどの高い声で反応した。  
「この匂い、これが……バターカップの匂いなのね」  
「そ、そうだ……おれは……セデューサなんかじゃねえっ」  
「そうですわね……。私がバカでしたわ。本当にごめんなさい」  
 涙目でペコリと頭を下げるバブルス。その様子を見守っていたブロッサムが  
ここぞとばかりのリーダー面でふたりの肩に手を置いた。  
「これでいいわね? バブルス」  
「ええ、本当にごめんなさい……」  
「よし、じゃ、次はバターカップ! あなたがバブルスを味わう番よ!」  
「うるせえよ! 味わうまでもねえっ」  
 バターカップはそう言い放つとバブルスをギロリ睨んで、  
「おまえがセデューサだろ!」  
「えっうそ!? バブルスが!?」  
「いやおかしいだろ明らかに! 気付けよっ」  
 うふふふ、とバブルスがいたずらっぽく笑って、クルリとセデューサに変化した。  
「おいしかったわバターカップ。ごちそうさま」  
「あんたねえ、私を差し置いておいしい思いしないでよ! 饅頭タイム返せ!」  
 言うが早いかヨーヨーをブン投げるブロッサム、それを軽くかわすセデューサ。  
「バブルスは向こうで気絶しているわ……じゃ今夜はこのへんで。ごきげんよう」  
「あっ……待てえっ!」  
 ふたりと十分な間合いをとりセデューサが逃げる体勢に入る。しかし、ふたりと  
対峙していたせいで背後に現れたバブルス(本物)に気づくことはできなかった。  
「バブルローッド!」  
 ロッドでしばき倒す、バブルとは名ばかりの大技が炸裂し、勝負ありである。  
 
 なお翌日、桜子に探りを入れてみたところ、最近ちょっと元気がなかったのは  
彼氏とラブラブすぎて「幸せすぎてこわい」だからだと。だからなんとなく  
口紅を手にしてしまったのだと……。ストレス解消に使われちゃったかおるさんに、  
どう説明していいのやら悩みに悩むももこでありました。リーダーはつらいよ。  
 
(おわり)  
 

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