パワパフママの長い長い三日間 一日目――朝
ケンの部屋のドアをそっと開けながら、ももこはニマニマと顔をほころばせていた。
みんなで約束した「ケンの一日ママになる」。あの時はこちらの一方的な勢いで
押しきってしまったけれど、母親らしいところを見せればきっとケンも喜んで
くれるだろう。その笑顔を想像すると自然と頬がゆるんでくる。
ママだったらまずはやっぱり、おはようのあいさつだ。
ベッドで布団をかぶって丸くなっている息子にももこは、昨夜練習したとおりの
ママの口調で声をかけた。
「ケンちゃん、朝よ。起きなさい」
しかしケンはウーンと何やらうなり、モソモソ動くだけで目を覚まさない。
「ケンちゃん、起きないとママ怒りますよ」
ちょっと早すぎたかな? ……苦笑いしながら布団をめくってやると、ケンは
8歳らしく気持ちよさそうな顔で寝息をたてていた。
「……ナマイキ言わなきゃかわいいのにね〜」
はやくも母親の心境になってしまったももこだが、ふと、ケンの下半身に目をやり
パジャマをピンと大きく張らせているその部分に釘付けになった。
朝立ちである。
ももこも世間一般に思春期と呼ばれる年頃でありそのくらいの事は知っている。
しかし実際に目にするのはもちろん初めてのことだった。
「け、ケンちゃんったら。ママの知らない間に大人になっちゃって……」
それっぽいセリフをつぶやいてみたものの、昨夜のシミュレーションを一瞬にして
崩壊させられたももこは大混乱。布団のはしを握ったままの右手が宙に浮いている。
8歳でもしちゃうものなのか?
こんな時母親として一体どうすればいいのか?
そんなこと、体育の時間に女子だけ集められたあの時にもサッパリ習っていない。
「あ、あの〜。ケンちゃん。起きて……」
朝立ちを茫然と見つめながら呼びかけるももこ。そこはもう起きている。
「もう! 起きないと……いたずらしちゃうんだからっ」
どうしたものやらという困惑の気持ちは、すぐに、どうなってるんだろうという
興味へとシフトした。性的なことへの欲求にも割とアクティブなももこにとって、
目の前のそれは格好な教材。よく読む雑誌風にいえば……ひと夏のあまい経験!
クラスの友達に差をつけるチャンス! だ。
「やっぱりママとしては、かわいい息子の成長具合を確かめておかないとネ」
ムフフと怪しい笑顔をうかべながら、ケンのパジャマに手をのばすももこ。
出っぱってるのがつっかかってしまうかと思ったが、意外にすんなりパジャマを
下ろすことができた。発見した時はそのインパクトのせいか、霊峰富士を思わせる
はるかな頂がそびえているように見えたが、近づいてみるとそれなりにちんまりと
していて、いかにも男の子って感じの白ブリーフの中央をツンと立ち上げている
若々しい丘といったあんばいだ。
それよりも、すんなりいかないのはももこのほうである。
いよいよ布一枚へだてて男の子の秘密の部分が……というこの状況に、にわかに
心臓がドキドキ激しく鼓動しはじめたのだ。鼻息も荒くブリーフに手をかけ、
しかし慎重に、ケンが起きないのを確認しながら足先のほうへ引っぱっていく。
そしてついにそれが、プルン! と音をたてるように元気よく姿を現した。
「う……うわぁ〜」
ももこは思わず生唾をのみこんだ。
父親のなんてよく覚えていない。小学生の頃見たクラスの男の子のとも違う感じ。
それは小さいんだけれど頑張って上を向いて、生命の息吹というか何というか、
春の大地に芽を出すツクシの姿が頭に浮かんだ。
とりあえずつついてみる。思ったよりプニプニしている。横にぐーっと倒すと
おきあがりこぼしの動きで元に戻ってきてちょっとカワイイ。先っちょの、朝顔の
つぼみみたいになってるとこをつまんだりひっぱったりしてみる。けっこう伸びる。
中はヤマモモの色をしていてエイリアンの口みたいな裂け目がある。そいつが
なにやら透明な液をヌルリと垂らしたものだから思わず手を離した。エイリアンの
ヨダレは強力な溶解液である。
「だ、大丈夫よね……」
賞味期限切れのシュークリームを確かめる時みたいに、眉をしかめて顔を近づけ
クンクンするももこ。そのにおいは独特で決していい香りとは言えないけれど、
なぜかドキドキして、体に力が入らなくなってしまう。脳ミソの奥の奥のほうまで
染み込んでもっともっと求めてしまう。そんなにおいだった。
「これ……男の子のにおいだ」
ももこの中の女の子の部分がごく自然にそれを認め、そのままためらいがちに
唇を寄せてそっとキスをした。吐息は熱をおびて、透明な液で濡れているケンの
先端部分をキラキラと光らせた。ぴくり、ぴくりと跳ねるように反応するそこは
息苦しく張りつめて、ママに甘える子供のように、もっともっと愛撫をねだっていた。
「もう〜、甘えんぼさんなんだからっ」
口を強く押しつけると液でスベって逃げていくので、根元のほうを指でつまむと
皮がひっぱられて赤い亀頭がちょっぴり顔を出す。おどおどしながらそこにも
キスをしてみる。それは、甘党のももこにとっておいしいとはいえないヘンな味。
だけどどんどん体が熱くなるふしぎな味だ。つまんでる指を上げたり下げたりすると
厚い皮から赤いのがピコピコ出たり入ったりしてなんだか笑える。あとからあとから
ヌルヌルがどんどん溢れて指と指の間で糸をひいている。それを舐めてると口の
まわりがベトベトになって、シロップたっぷりのホットケーキを頬張ってる時に
よく似た幸せ感に恍惚としてしまう。
「うびゅ!?」
その時、いきなり先っちょから何かが飛び出したもんだから思わず声が出た。
今までのがシロップとすればそれはミルク。シルクのように白いミルクが突如、
本来ミルクが出るはずのないところから噴き出したのだ。
精液である。
たまたま先端をこちらに向けた時に発射されて、激しく噴出したそれはももこの
頬から唇、鼻先、眉や前髪、頭のリボンまで汚していた。大きくて赤いリボンが
白くコーティングされて、まるでコンデンスミルクをかけたイチゴだ。
「なに、今の……」
それが男の射精であることを理解できず、ももこは、汚された顔をぬぐうことも
せずにぼんやりと右手に包まれたままの肉棒を見つめた。それはまだまだ熱の
冷めやらぬようすで、びくんびくんと断続的に反射しながら尿道に残る精液を
だらしなく垂れこぼしていた。
「な、なんか……とてつもなくやばい事をやっちゃったような気が……」
「なにをやってるんだ!」
突然背後から声がしてももこは飛び上がった。
振り返るとケンの父、ユートニウム博士である。
「……お、おはようございます、パパ……あはは」
博士に厳しい目で見下ろされて、ももこは引きつった笑顔をみせた。
(つづく)