時をかけるみやみや  
 
「はいてないんですか?」  
 大江戸蘭学所からの出発を前にして、バブルスが目を丸くした。  
「はいてるんですか?」  
 と、同じ表情になっておみやが返す。  
 時は江戸。カレを封印する方法は、時空をこえて飛び散った白い光を集める  
ことだとわかった。さっそくダイナモZで出撃……の前に、元気な少女たちの  
おしゃべりに花が咲く。  
 自分たちにそっくりな彼女たちに、おたがい興味が尽きない。  
 ブロッサムはももとあんみつ屋さんの話で盛り上がり、バターカップは  
おこうにサッカーを教えるのに苦労している。  
 そしてバブルスはおみやとコスチュームの話になって、冒頭の台詞である。  
「はー……」  
 バブルスは丸い目のままおみやの下半身を見た。  
 ブルーの和装の帯の下は短くて、自分のスカートにくらべるとタイトながら  
丈は変わらない。しなやかな脚をつつむ……これは地下足袋と呼んでいいの  
だろうか、現代でいう白のハイソックスは太ももまで伸びているが、おみやの  
言うとおりならば、彼女の大事な部分は短い薄布一枚でかろうじて守られている  
ことになる。  
 たしかに、昔は下着をはいていなかった、というのは聞いたことがあるけれど。  
 こう実際に目のあたりにして……スカートの下限と、ソックスの上限の間で  
ちょっぴり露出している太ももの肌色を見ているとなんだかドキドキしてきて、  
バブルスは思わず目をそらした。  
「お腰だけです、ほら」  
 おみやが帯の下の、合わせの部分をちらとめくって中の白い布を見せる。  
女性が着物の下につける腰巻というものだ。とりあえず、薄布一枚という  
わけではないのがわかって、ちょっと安心する。  
「ばぶるすさんの格好も、とっても良いですわ。とってもちゃきちゃき」  
「でしょう?」  
 ちゃきちゃきの意味はよくわからないが、ほめられてるのはわかる。  
 うれしそうにジャケットを広げて軽くポーズをとってみせるバブルス。  
「その、法螺貝のような結髪も奇抜で素敵です」  
「ホラ貝……」  
 ほめられてるのはわかる、たぶん。  
「このひらひらの中は、どうなっているのですか?」  
「あっ」  
 おみやがバブルスのスカートに手をのばして、そば屋ののれんをくぐる  
みたいな格好で中を覗きこんだ。吐息のかかる距離である。  
「へぇ〜……ふむふむ……」  
 いくら女の子どうしとはいえ、そう興味津々にまじまじと股間を見つめ  
られるとやっぱり恥ずかしい。かぶさるスカートからはみ出た、おみやの  
おだんご頭がくりくり動くのを見下ろしながらバブルスは顔を赤くした。  
「素敵。褌みたいです」  
「ふんどし……」  
 ……ほめられてるんだろうか?  
 
 おみやにとって、ガールズのコスチュームは未知の素材。その肌ざわりや  
伸縮性なんかを確かめようと、子供のように瞳を輝かせながらバブルスの  
股間をぺたぺた触りはじめた。  
「ひゃんっ」  
 くすぐったくて思わず声が出る。  
「本当、可愛らしいですわ」  
 そのバブルスの反応もふくめてニコニコと楽しむおみや。  
 スカートを引っぱったり、中の三角地帯の香りを調べてみたり、ついでに  
健康的な太ももの張り具合を確かめてみたり。おみやの遠慮のない、だけど  
悪い感じはしない動きに、戸惑いの笑顔をみせるバブルス。  
 しかし突然、レオタードの股の部分がグイと引っぱられ、見せてはいけない  
ところが露出しそうになってさすがに腰を引いた。  
「ちょ、ちょっと、そこは……」  
 困りきった声をあげても、おみやは相変わらずの笑顔だ。  
「あら、失礼しました。それでは……」  
 今度はバブルスの後ろにまわり抱き締める格好になって、ジャケットの  
中のわき腹や胸に指をのばす。か細い鎖骨の浮いた胸もとの肌は真白くて、  
「綺麗……未来の人って」  
 と、うらやむ言葉が口をつく。胸に這わせた指の間では、現代の飽食の  
恵み、豊かな肉づきが心地よい弾力を返してくる。  
「不思議です。見た目は私と同じくらいなのに、とってもやわらかい」  
「やぁ……ん」  
 耳もとで甘くささやかれて、たまらずバブルスが身をよじった。  
 他人とは思えない、自分にそっくりな女の子に体を触られるその感覚は、  
普段ももことじゃれ合うのとは違う、もちろん自慰とも違う、えもいわれぬ  
一体感と浮遊感。おみやの指先が動くのに合わせて胸がおどり、じっとりと  
汗がにじんでレオタードのブルーが濃くなる。息が乱れ、執拗にいじられて  
胸の先端を固くしてしまっているのを感じる。  
 後ろのおみやのさらに背後から、ブロッサムやバターカップたちの楽しげな  
しゃべり声が聞こえる。――そんな距離で感じてる自分がいる。  
「ん、んっ」  
 声を殺したまま、おみやの手に自分の手をぎゅっと重ねた。  
 その手がなめらかな動きで、腰のベルトを越えて再び下半身へと向かう。  
 手に力をこめるバブルスの精一杯の抵抗は、簡単にふりはらわれた。  
 
「きゃっ、すべすべですぅ」  
 バブルスのうなじに鼻息をかけながら、おみやが内ももを撫でまわす。  
無邪気なようでいていやらしい指の運びが、バブルスの膝をふるえさせる。  
「や、やめ……」  
 やめてください、と言おうとして躊躇する。  
 そう一言、口に出せば事は終わるかもしれないのに。  
 顔をすこし横に向けると、鏡を見ているようにおみやの顔がある。  
 彼女になら、自分のどんなだらしない顔も見せていいような気がしてしまう。  
「――ん?」  
 何かを訴えかけるような瞳で見つめるバブルスに、おみやはほほえんで  
すこし首をかしげた。それから、ちょうど良い位置にあったバブルスの  
耳のアクセサリーをゆっくりと舐めて、口にふくんだ。  
「あっ」  
 バブルスが息をのんだ。耳たぶに口づけされたからではない。同時に、  
股間にあるおみやの指先が敏感なところを刺激したせいである。  
「これ、邪魔じゃないですか?」  
 レオタードごしにそこをクリクリいじりながら、おみやがささやく。  
 指先の圧による布との摩擦で、たとえようのない強烈な感覚が突き抜ける。  
「んんっ、う、う……」  
 左手で口をおさえて、なんとか声をあげまいとするバブルス。  
 そんな思いを知ってか知らずか、おみやが手を止める気配はまったくない。  
 ついにその、幅の小さな布の端っこから、指先を中にするりと潜りこませた。  
「ゃあ!」  
 ――自分でも驚くほど大きな声が出てしまって、バブルスは目を見開いた。  
「ん? どうしたの?」  
 後ろでブロッサムの声がする。  
 この弾んだ息と乱れた髪とぬめった股をどう説明すれば。  
「バブルス?」  
「……あ〜アハハ、厠ですか? 私ご案内しますぅ」  
 おみやが笑顔で取りつくろって、足に力の入らないバブルスをかかえる  
ようにして部屋を飛び出した。  
「なんだ、かわやかぁ。……かわやって何?」  
 ブロッサムの能天気な声をぼんやりした頭で聞きながら、バブルスは  
とりあえず息をつくのだった。  
 
「あ、おかえり……うわぁ〜!」  
 部屋に戻ってきたふたりを見て、ブロッサムたちが驚きの声をあげた。  
 ふたりのコスチュームが入れ替わっていたのである。  
 なにぶんそっくりなふたりなので、髪型あたりで見分けるしかないが、  
バブルスがちゃきちゃき娘。おみやがガールズの衣装を着けている。  
「せっかくなので、お着物を交換してみましょうってお話になって……」  
 と、説明するのはバブルスの格好をしたおみや。  
「いいじゃな〜い、かわいいかわいい!」  
 ブロッサムとももが目を輝かせて、ふたりの姿を交互に見る。  
「まあ、悪くはないよな」  
 バターカップとおこうはあまり興味がなさそうだ。  
 そんな彼女たちの反応に笑顔で応えるおみや。いっぽう、隣のバブルスは  
あまり表情が晴れない。  
 ――厠に行くと言って部屋を出たところで、なかば強引におみやの提案を  
受けさせられた。たしかに、ちゃきちゃき娘のコスチュームはかわいい。  
フリフリの袖にギュッと締まった帯、脚がキレイに見える白のハイソ、  
風通しの良い下駄。みんなバブルスの好みのデザインだ。  
 しかしこの衣装には重大な弱点があって、今まさにそれをバブルスが  
体感しているのである。  
「――どうですか?」  
「スースーします……」  
 おみやとバブルスがひそひそ話す。  
「何? 何がスースー?」  
 そこにブロッサムが笑顔で割りこんできて、あせったバブルスは、  
「すー、すばらしい着ごこちですわ〜」  
 と、なんとかごまかした。  
 体が熱くて、勝手に息が乱れてくる。一歩動くたびに股の間でぬるりと  
した感覚があって、太ももに垂れてしまってはいないかそればかり気になる。  
いつブロッサムにこの短いスカートをめくられて、中の素肌をみんなの前に  
露出してしまうことになるか考えるだけで頭が真白になる。  
「いっそのこと、このままで出発しちゃうのもいいんじゃないですか?」  
 もじもじするバブルスを見ながら、おみやがいたずらっぽく言った。  
 それはダメっ! と言おうとして、バブルスは躊躇した。  
 
(おわり)  
 
 

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