それは彼等がまだ虹の園に来て間も無い頃の話。
「ピーサード、ちょっと来てよ」
けだるげにそう言ったのは女性の色気をそのまま
具現化させたような女、ポイズニー。
彼女に呼ばれてやってきたのは歌舞伎…じゃなく、
やはりなかなか端正な容姿のイケメン、ピーサード。
二人はまったくそうは見えないものの、
この素敵闇世界ドツクゾーンの有能な戦士だ。
といっても、いつでも戦っているわけじゃない。
今日は彼等の休日、である。
「虹の園で見つけたんだけど、これどう?」
ポイズニーが何着か服を抱えてたずねる。
それはどれもこれもある意味凄いセンスだった。
チャイナドレス、ナース、豹タイツ(○崎あゆ○)などなど。
「どうもなにも、お前頭大丈夫か」
冷静につっこみをいれるピーサード。
とてもじゃないがこんな格好で出歩いて
何とも思われない世界はそうそうないだろう。
個性際立つ奇天烈な面々がそろうこのドツクゾーンでも、
こんな格好で練り歩いたらいい笑い者にされる。
「似合うと思うんだけどねぇ」
服を見詰めながら呟くポイズニー。
そんな様子にピーサードはすっかり呆れていた。
「お前そんなの着たいのか」
「は、何言ってんの?」
ピーサードの一言で、ポイズニーがきょとんとする。
「私自分が着るなんて一度も言ってないじゃない」
「じゃあ誰に着せる、キリヤにでも着せるのか?」
「ってゆうかあんた用だし」
「…はい?」
一瞬しーんと辺りが静まりかえる。
もともとあんまり音とか無い場所ではあったけど。
「悪い俺耳悪いみたいだ」
「だからあんた用だって言ってんでしょ〜?
キリヤがこんな大きいサイズ着れるわけ無いじゃない」
言われてみればもっとも、全部大きいサイズだ。
それこそ、ポイズニーよりも。
「冗談だろ?」
「メリットにならない冗談私が言うと思う?さ、行きましょ」
パチン、とポイズニーが指を鳴らしたとおもうと
闇の精霊・ザケンナーが縄となってピーサードの体の自由を奪った。
ポイズニーは心底楽しそうに微笑んでいる。
「うふふ、こんな大きい着せ替え人形に恵まれてる私は
本当に幸せ者よね〜」
「止めろ!ふざけるな貴様!はなせ!」
「ふざけてないわよ、ただお遊びにつきあって欲しいだけ」
「勘弁して、本当俺なんて着せ替え人形なんて可愛いもんじゃないし」
「あら、結構可愛いわよ。たっぷり可愛がってあげる」
「おいコラどういう意味でだ!」
「さてね〜」
「ギャー!」
情けない悲鳴を残し、二人は闇の奥へと消えて行った。
「ピーサード〜」
「なんだ」
「まだ怨んでるの〜?」
ぶっきらぼうに返えされ、ポイズニーが苦笑した。
「当たり前だ、貴様一体何を考えてる」
ピーサードはついこの間、体の自由を奪われた挙句にポイズニーの
着せ替え人形にされてしまった。
チャイナドレス、ナース、豹タイツ等などをきせられて気分は最悪。
しかもその格好で写真を撮られ高額で買い取らせられたのだ。
怨んでいない、わけがない。
「この間のお詫びに、これ」
「なんだこのドロドロしたものは」
ポイズニーがお詫びと言って差出したのは
緑色をして、かつ、ドロドロしたグロテスクな液体。
メロンソーダーに中途半端な量の寒天を入れた感じのものだった。
「…メロンゼリードリンク」
「どうして一瞬言葉に詰まるんだ」
「何の事よ、詰まってないわよ」
ポイズニーは必死にポーカーフェイスを装うとしているが、
額に一粒の汗が伝うのをピーサードは見逃さなかった。
ピーサードがにやり、と口角を意地悪く吊り上げる。
「じゃあお前が一口飲め」
そう一言、ポイズニーの握るグラスを押し戻す。
ポイズニーの顔に確かな動揺の色が現れた。
「え?」
「どうした、ただのメロンゼリードリンクなら飲めるだろ?」
そんなポイズニーの様子が楽しい模様。
しどろもどろするポイズニーを見てこの間の鬱憤を晴らすとは、
ピーサードもなかなか趣味がいい。
「飲めないのか?」
「飲めるわよ!飲めばいいんでしょ!」
「あ」
ふっきれた様に、ポイズニーはごくごく喉を鳴らして
グロテスクな液体をコップの3分の1くらいまで一気に飲み干した。
「ほら!これでわかったでしょ?」
「あ、わか…りました」
「じゃあ飲みなさいよ」
ポイズニーの迫力と剣幕に負け、ピーサードはおずおずとコップを受け取る。
受け取るものの、やはりそのグロテスクさに口付けが躊躇われる。
コップを両手で持って中身を見詰めたまま、固まってしまう。
「さっさと飲みなさいよ」
それを、そう促すポイズニーの視線の痛さに耐えかね遂にピーサードは
そのドロドロを口内に押し流した。
と、それは確かにメロンゼリーをジュースにした様な味だった。
「う…うっ」
しかし触感がどうにも気色悪い。
喉の中を占領するドロドロに不快感をあらわにする。
しかしコップの中に吐き戻すと言う醜態は流石に晒せないので、
根性でそれを全部飲み込んだ。
「お味はどう?」
にこにこ尋ねるポイズニー。
「味は悪くないが触感が最悪だ」
それに、白い唇を伝う緑のドロドロを親指で拭いながら
ピーサードがげんなりと答えた。
「そう、それは良かったわ」
にたり、と微笑むポイズニー。
その不気味さにピーサードの背筋がゾクゾクした。
「なななんだ!?」
「え〜何でもないわよ〜それより、それ」
ポイズニーの細い指がピーサードの握り締めたコップを指す。
「返して頂戴」
「ぁ?…ぁ、あぁ」
「どうも、じゃ〜あね〜♪」
上手く話を変えて、ポイズニーはさっさとその場を後にした。
ピーサードだけがその場にぽつん、と立ち尽くす。
「俺も部屋戻ろ…」
深く溜息をつき、ピーサードはとぼとぼ自分の部屋へ向かった。
部屋に戻ったピーサードは、
風呂に入り歯を磨き秘密鍵つき日記(プリキュア手帳では無い)に記帳し、
そうしてやっとベットに入った。
入って暫くして、体の異変に気付く。
無性に、体がじんじんと熱を帯びてきているのだ。
そこへトントン、とタイミング良くノックの音。
「ぁ?夜遅くに誰だ」
「ザケンナ〜」
「なんだ、入れ」
許可が下りると、ザケンナーはドアを擦り抜けするする部屋に侵入した。
その手には何やら手紙が握られている。
それを渡すと、ザケンナーはとっととお家(は無いけど)に帰ってしまった。
「なんなんだ」
ピーサードが部屋の明かりをつけその手紙を開くと、
そこにはこう書いてあった。
ピーサード、言い忘れたわ。
さっきのメロンゼリードリンク、あれ新種の媚薬なのよ。
そろそろ体がたまらなくなってきてない?
ここまで読んで、ピーサードの顔色がさあっと青くなった。
そして、手を震わせながら恐る恐る続きを読む。
今日中にしなきゃいけない事でやり残したあったらしておきなさい、
もうすぐ90%近くの理性が吹き飛ぶと思うから。
でね、飲ませといた後で一人でうずうずしてるのも可哀想だと思ったわけ。
きゃ〜私って優しい〜!それで、そんな貴方の為にプレゼントを用意したわ。
もう暫くしたら届くはずよ、でもあんまり乱暴に扱っちゃ駄目!
優しくしてあげてね(は・あ・と) ポイズニー
「な…に〜!?」
絶叫が一人部屋に響いた。