(5861……5862……5863……5864……)
「ね〜え〜っ、キ〜ンちゃん♪」
日課である『小指立て伏せ10000回』に励んでいたキントレスキーのもとに、プリキュアとの最終決
戦以来の腐れ縁であるミズ・シタターレがしな垂れかかってきた。
(こやつ――あれほど、トレーニング中は邪魔するなと言っておいたのに……5865……)
胸の内で軽く舌打ちした。無視してしまいたかったが、怒ってヘソを曲げたミズ・シタターレは、それ
はそれで面倒な相手なので、取りあえず話を聞くふりだけはしてやることにした。
「なんだ。一体どうしたと言うのだ?」
「?私ねえ、すっっっっっごく良いこと思いついちゃったぁ♪」
キントレスキーの『戦士としての本能』シグナルが黄信号を灯した。この女の言う『良いこと』はロク
なことではない。いつも付き合わされ振り回された挙句、心身ともにヘトヘトになってしまうのがオチだ。
(こんなに、毎日鍛えてるのに……)
「ほう、それで?」
(どうか、ウンザリしてるって気持ちが表情に出てませんように)
と、祈りながら合いの手をだす。
(私は何故、こんな女と一緒にいるのだろう?)
それは、永遠の謎であった。
「私達ってさぁ、この緑の郷のやっかいになって随分と経つじゃない?」
「――まあ、そうだな」
「異世界の住人である私達が、この世界でただ安穏と過ごしてるのって申し訳ないじゃない? 私達
は私達で、緑の郷のために何かしら貢献すべきだと思うのよ」
キントレスキーは、彼の人生哲学において在り得ない行動にでた。すなわち――トレーニングを途中
で放棄したのである。そして隣にいるミズ・シタターレの顔をマジマジと見つめた。
(この女の言うことにしては、一理ある。しかし、まさかこの女の口から『社会貢献』などという言葉が出
ようとは……一体、何の天変地異の前兆だ?)
「なるほどな。お前にしては……いや、実に君らしい素敵なアイディアだが――具体的にどうするんだ?」
「キンちゃんはさぁ、この世界に起きている大問題って何か知ってる?」
「ううむ、私はTVや新聞は見ないから、よく知らんのだが……年金とか戦争とか環境破壊とかってやつか?」
ミズ・シタターレが不満気に唇を突き出し、足を踏み鳴らす。
「んもう、キンちゃんてばっ! そんなの私達でも、どうしようもないじゃないっ!」
キントレスキーもイライラしてきた。
「じゃあ、お前は何だというのだっ!」
「ズバリッ、『少子高齢化』よ!」
人差し指を突き出し、ミズ・シタターレが高らかに宣言した。
「しょうしこうれいか?」
「そうよ。いま世代別のバランスが崩れて、お年寄りが増える一方で若い人達がどんどん減っているんで
すって。この日本って国の場合、50年後には人口が1億人を割り込んで100年後にはいまの半分ほどにな
っちゃうんですって――これって、すっっっっっっっごく大変なことだと思わない?」
「――ああ……」
「でしょう? それでね、私考えたの。ここは一つ、私達が微力ながら少しでも若い世代を増やすために、子
作りに励んで――」
「ちょっと、外へジョギングに行って来る」
『戦士としての本能』が赤信号を灯した。『この場から、一刻も早く退却してくださいっ!』と警告音が、がなり
立てる。
「話は最後まで聞きなさいっ!」
女とは思えない凄い力で肩を掴まれ、引き倒された。エリート戦死である自分が、いとも簡単に背後を捕られ
たことにショックを受けつつ(後で確認したら、肩口に手形の痣がくっきりと残っていた)流石に頭にきた。
「いい加減にしろっ! 突然、何を言い出したかと思えば……お前は結局、セ。〇〇がしたいだ
けだろーがっ!!」
「オホホホホホホホホッ、キンちゃんてば本当に運動オタクなんだから。いいわ。そんなに運動
がしたけりゃ、ここで二人で『運動』すれば良いのよ。私は〇ッ〇スを楽しめて、ついでに緑の郷
に貢献出来るかも知れなくて、これぞ一石三鳥! ねっ?」
いつの間にか優雅に結い上げてあった髪が乱れ解れ、瞳もギラギラと欲情に揺らぎ、ただでさ
え妖艶なミズ・シタターレの顔が、いよいよ物凄いことになっていた。
「『ねっ?』じゃねーよっ!」
「ええーい、問答無用!!」
「お、おい……ちょ、待てミズ・シタターレ! 落ち着け、頼む……のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、キンちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁんんんんんっ!!」
神は天にいまし、すべて世は事もなし
医者 「おめでとうございます。三ヶ月ですね」
ミズ 「――嘘……」
つづく?