人々が行き交う夕暮れのクローバタウンストリート。買い物客のおばさんととそれを迎える  
店主たち。学校帰りの制服姿、あるいは会社帰りのスーツ姿。小さな子供の手をひいて散策する  
笑顔のお母さん。軒先で丸くなって休む猫。  
 活気あふれる影と影のあいだを縫うように、弱々しく肩を落として歩く少女の背中があった。  
 黒と赤を基調とする、ひどく非日常的な服装に身を包む彼女を、すれ違う誰もが振り返る。  
しかし誰もが、その少女に声をかけることはできなかった。  
 うとましい喧騒はやがて耳を離れ、街のはずれ、木立を分けてさらにしばらく行くと、  
一軒の古びた洋館がその姿をあらわす。いつになく重い扉を開いて中に入ると、じめじめと  
湿り気のある、それでいて埃っぽい独特の空気が鼻をついた。  
「よお。おかえり」  
 ロビーにいた男が少女に気づき、声をかけた。  
 少女はそれに一瞥をくれて、ただ高いヒールの靴音を響かせた。  
「FUKOは集めてきたのかよ」  
 大きな躯体を揺らせて、男がさらに問いかける。少女が男を見ずに口を開いた。  
「……邪魔が入った」  
「邪魔? またあれか? この前言ってた、あのー……」  
「プリキュア」  
「そうだ、プリキュア。伝説の戦士プリキュア。二人組の」  
「いや、三人だ」  
「三人? この前ふたりって言ってなかったか」  
「この前はふたりだった、今日は三人だった」  
「あれっ、その前はひとりって言ってなかったか」  
「少し黙ってくれ……ウエスター……今日はもう休みたい」  
 絞るように声を出しながら、少女は大階段に足をかけた。自室へ向かおうと階上に視線を  
やると、そこにはいつの間にか別の男が立っていて、鋭い目つきで彼女を見下ろしていた。  
「プリキュア……厄介な相手だな」  
「サウラー」  
 髪の長い男は、手摺りに手を置いて静かに、しかし挑発するような微笑みをたたえていた。  
「どうだ、おまえの手に余るようなら――」  
「黙れ」  
 少女がたしかな意思をもって男をにらみつける。言葉をさえぎられた男は目を細め、  
微笑みを少しだけ深くした。  
「プリキュアは私が倒す」  
 階段を上がりきったそのすれ違いざま、少女が男に吐き棄てた。  
「……ふふ、楽しみにしているぞ。イース」  
 男は邪悪な笑みをうかべ、気丈な少女――イースの小さな背中につぶやくのだった。  
 
 イースは焦っていた。  
 自室に入るとすぐ、襟と裾が大きく広がった、燕尾服の突然変異のようなジャケットを  
脱ぎにかかる。胸の中央のダイヤ型をしたホックを外すと、窮屈なレザー生地に締めつけ  
られていた成長途上のふくらみがふたつ、みずから跳ねるように前をはだけさせる。  
 上着の黒い光沢としなやかな白い肌と、その先端の淡いピンクがコントラストをつくる。  
 それは腹部分にあるもうひとつのホックを外し、肩をくねらせ上着をとってしまうと  
すぐに消えて、かわりになめらかな鎖骨や、ゆるやかな腰のラインや、すらりとした  
縦長のヘソの姿があらわになる。  
「ふう……」  
 ハンガーに掛けようとした燕尾のシッポの部分がいやにトゲトゲしい。そんな些細な  
ことにもいらいらしている自分に気づいて、イースはひとつ大きく息をついた。  
 同じくエナメルの光るロンググローブを、ぎゅっぎゅっ革の音を鳴らしながら外す。  
 ベッドに腰かけて、真っ赤なヒールと膝上ほどもあるブーツを脱ぐと、手と足に触れる  
冷たい空気が、なだめるようにイースを包みこんだ。  
「……プリキュア」  
 思わずつぶやいてしまうのは、やはりその名だった。  
 自分と同じくらいの歳の女たちなのに、とても人間技とは思えない身のこなしに加え、  
ナケワメーケを一瞬にして無効化してしまうあの怪光線。伝説の戦士の名にたがわぬ  
強さである。  
 しかも、あいつらは増えている。ひとりずつ着実に増えているのだ。  
 何よりこの事実がイースを焦らせた。今度会った時には四人になっているだろう。  
そこで倒せなければ、次は五人だ。さらに強い。その次は六人。七人。八人――  
「勝てない……」  
 慄然とした。イースはあわてて普段着のフードワンピースをかぶろうとして、髪飾りを  
つけっぱなしにしていたことに気づいて乱暴に髪から引き抜いた。じきに髪の色が濃く  
変化し、東せつなへと転ずることになる。  
 せつなの商売道具でもある、水晶玉の前に座って手をかざした。  
 何か、奴らを倒す手だてはないか。何でもいい。何でも――。  
 玉の表面にあわただしく細い指をすべらせていると、やがてその内部にひとつの点が  
あらわれた。点はやがて像となり、動き出す。未来予知の映像である。  
 
「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」  
 水晶玉の中の未来。イースの前に、まさにその敵が立ちはだかっていた。  
「あらわれたなっ、プリキュア! 今日こそ――」  
 イースが声を張りあげると、それをさえぎるように新たな影が大見得を切る。  
「つみたてフレッシュ! キュアベリー!」  
「とれたてフレッシュ! キュアパイン!」  
「キュアバナナ!」「キュアチェリー!」「キュアプラム!」「キュアメロン!」  
 次から次へと出てくる出てくる見たことないプリキュアがどんどん出てくる。  
「キュアオレンジ!」「キュアアップル!」「キュアキウイ!」「キュアグレープ!」  
「キュアマンゴー!」「キュアアセロラ!」「キュアドリアン!」「キュアパーシモン!」  
「うっ……うあああ」  
 途切れることのない彼女らの名乗りにイースが頭をかかえた。  
「おっ、おまえたちはいったい何人いるというのだっ!」  
「さあー。私たちにもわかんない」  
 一番最初に名乗ったプリキュアがあっけらかんと答えた。  
「わかんないけど、全員、あなたの敵だよ」  
「う、うぅーっ」  
 その言葉は圧倒的な力をもってイースを襲う。戦いは一方的なものとなった。  
 そこらの物をかたっぱしからナケワメーケ化させるも、それは悪あがきにも至らず、  
ゆうに百人は超える敵の光線であっという間になかったことにされてしまう。  
 完全に周りを取り囲まれてしまって、逃げることもかなわない。  
 彼女が収集するはずだった恐怖と絶望というものを、みずからの体で感じていた。  
「とどめを……さすがいい……」  
 リーダー格である三人の前に膝をつき、イースが声を絞り出した。黒光りしていた  
お気に入りの衣装は光線の流れ玉ですでにボロボロだった。衣装の隙間からのぞく  
青白い肌は、砂埃の舞う戦闘地帯でその若い輝きをぼんやり鈍くしていた。  
 精魂尽きたようすのライバルに向けて、ピーチが必殺技の体勢に入る。  
「ようし。悪いの悪いの〜」  
「待って、ピーチ」  
 それを止めたのは、ベリーだった。  
 ベリーはしゃがみこんで、弱々しく尻をつく少女に切れ長の目をじっと向けた。  
「あなた、よく見たら結構きれいな顔してるじゃない」  
 ささやくように言うと、イースの頬にそっと手をふれ、唇に唇を寄せた。  
「んっ!」  
 いきなりの予期せぬ行動に言葉が出ず、声だけが漏れた。  
 
 薄いけれどやわらかな唇の感触のあと、ぬるりと侵入してきた舌先はたぎるような  
熱をおびていて、顔をそむけなければとか、口を閉じなければとか、拒絶するための  
思考回路はその熱ですぐだめになってしまった。  
 かわりに回路を流れる電流は、粘膜と粘膜をこすり合わせる快感である。  
「ふっ……っ」  
 ベリーの甘い舌がイースの狭い口内をまさぐる。無遠慮に歯茎の裏をもてあそび、  
かと思ったら一転、やさしく丁寧にこちらの舌の上を這わせてくる。密着した唇から  
出せる呼気がなく、苦しい鼻息の音がすん、すんと断続する。その苦しさがまた、  
いっそうイースの体温を上げ、意識をかすれさせる。  
 イースが、ほかの誰かとこんなにもくっついたのは、はじめての経験だった。  
 いつしかベリーに合わせて、自分も舌をゆるゆる動かしていた。唾液を味わい、  
飲みこむと、食道や胃まで他人に侵されている感覚に脳がしびれる。目はうつろで、  
すぐ前で目を閉じているベリーの長いまつ毛も視界には入らず、世界が真っ白なのか  
真っ黒なのか何もわからない。  
「……ふう。こんなもんで、いいかな」  
 永遠とも思える時間をおいて、ベリーがようやく唇を離した。イースの薄い唇から  
名残惜しそうなしずくがひとつ落ちた。  
「ふふふ、あたし完璧っ」  
「あのー、ベリー……あなたはいったい何をやっているの」  
 呆然と見守るしかなかったピーチが、なんとか動揺を隠しながら言った。  
「なんかさ、この子このまま消しちゃうのはもったいないなーって思って」  
 ベリーはそう答えると、体液で光る唇をひと舐めした。  
「だからさ、あたしたちのどれ……仲間にしちゃおうよ」  
「いま奴隷って言おうとしなかった?」  
「言ってない言ってない」  
 笑ってごまかして、ピーチの隣で顔じゅう真っ赤にしている少女を見た。  
「ね、パインもそれがいいよね?」  
「えっ? あ、あの……、私は……」  
 パインが口ごもっていると、地の底でうなるような声がした。イースだ。  
「ふざ……けるな……」  
 イースの心に、失いかけていた悪の矜持がもう一度沸きあがってくるのを感じた。  
「貴様らの……奴隷になるくらいなら……っ」  
「奴隷じゃないってばぁ」  
「そ……そうよ。奴隷なんかじゃないっ」  
 パインがしゃがんで、その曇りない純粋な瞳でまっすぐイースの瞳を見つめた。  
「あなたは私たちが邪魔。でも、あなたが悪いことをするから私たちはこんなに  
 増えてしまったの。あなたが悪いことをやめれば、私たちもいなくなるの。ね?」  
 いたずらした小さな子供に言い聞かせるように、丁寧に語りかける。  
「だからね、私たちとあなたが、お友達になればいいと思うの」  
「お……ともだち……」  
「ベリー。私、協力するっ」  
 パインの言葉にベリーが、そう来なくっちゃと笑みを浮かべた。  
 
「じゃあ、パインは胸をかわいがってあげて」  
「あの……よろしくおねがいします」  
 パインがイースの前にちょこんと座り、頭を下げた。少し息が乱れ、体が紅潮  
している。抑えられない緊張が見てとれた。  
 おそるおそる手をのばし、イースの胸のホックに触れる。それは度重なる衝撃で  
もう取れかかっており、熟した果実が枝から落ちるようにイースを離れた。  
「きれい……」  
 擦り切れた上着がはだけ、胸がさらされる。パインは思わずため息をついて、  
右手でそのふくらみの感触を確かめた。イースがぴくりと身を震わせた。  
「結構、大きいね」  
 うらやましがるように微笑んで、同年代にしては豊かな胸のラインを、左手も  
そえてなぞる。たどたどしい動きがじれったく、パインの指の先、手のひらから、  
じわじわと快感が伝わりイースの胸の中に溜まってゆく。  
「……汚れてる」  
 胸の谷に、戦いでついた小さな汚れを見つけて、パインがつぶやいた。  
「きれいにするから……」  
 顔を寄せ、キスをした。汚れを舐めとるようにピンクの舌を這わせた。  
「んうっ……!」  
 溜まっていたものがあふれるように、勝手に声がこぼれてくる。舌は胸の谷から  
ふくらみをゆっくりとのぼって、やがていちばん上の、いちばん気持ちいいところに  
たどり着く。  
「ふっ、ぅあ、あぁっ」  
 息をするたび、どうしようもなく声が出る。かつてない激しさで心臓が脈打ち、  
息が荒くなり、声が高くなる。ゆるやかに刺激された先端が固くなり、パインの  
やわらかい口の中でその存在をみだらに主張する。  
「気持ち……いいの? ふふっ、かわいい……」  
「やっ……やめろっ……! やめろぉ……っ」  
 パインを、そして反応してしまう自分の体をとがめるように、イースがうめいた。  
「私たち、きっと仲良くなれるよ。私、信じてる」  
「そんな……そんなこと、ないっ……」  
 快楽におぼれる寸前で耐えるイースに、ベリーがふたたび迫った。  
「しぶといわね。口、ふさいじゃお」  
「んむぅっ」  
 またベリーの唾液が、舌とともにイースの口中に注ぎこまれる。さっきよりも  
唾液はいっそう甘く、舌はいっそう熱い。口が、胸が、気持ちいい。  
 もう体が、彼女たちを受け入れている。  
 
「あのー……私、何かできることないかなあ」  
 三人の少女の横。ピーチが手持ちぶさた極まれりといった感じで、文字どおり  
指をくわえていた。  
「待ってました」  
 ベリーが唇を離して、あえぐイースの下半身を目で示す。  
「いちばん大事なところ、とっておいたんだから」  
「はーい。ほら、脚を開いて……」  
 へたりこむイースの膝頭に手をやると、ほんの少しの抵抗のあと、意外なほど  
小さな力で両脚が開いた。  
「や……め……」  
 かすかに発せられる声にはなんの力もなく、ピーチにされるがまま黒のエナメル  
パンツを脱がされていく。下着は濡れて肌に張りつき、隠さなければいけない部分が  
透けて見える。もはや下着としての体をなしていなかった。  
 そしてその、わずかに残る理性の薄布も、あっさりと取り去られた。  
「すごいね。感じやすいんだねえ」  
 冷たい空気が直接そこに触れる。それに反するように若い肉体が、ぐつぐつ熱を  
たたえて感じる。未知の感覚が、よろこびとして受け止められている。  
「ほらすごいよ〜、みんなに見られてるよ〜」  
「うぅあっ……」  
 恥ずかしさに身をよじるイースの太ももにピーチの指先が触れる。張りのある  
白い太ももはじっとりと汗ばんで、指が吸いつくような水音をたてる。  
「ここ、早くさわってほしそうにしてる」  
 ピーチが笑って、太ももの間でひくひく動いている唇に顔を近づけ、ふぅと息を  
吹きかけた。はじけるような短い悲鳴とともに、イースの敏感な部分が鋭く反応した。  
「っあ!」  
「すっごいにおいだね」  
 その反応を見て、すかさずピーチが充血したクリトリスに吸いつく。  
「ひぁあっ」  
 人生で一度も出したことのない声をあげて、イースがびくりと背を反らせた。  
 
 パインが背中を支えてそのまま横にさせてやる。仰向けのツンと立った胸を見て  
ベリーが思わず指をのばした。  
「パイン、替わって」  
 そう言うとベリーは、痛いほど膨らんだ乳首をぎゅっとつねった。  
「あうっ!」  
「ちょっと痛い? でも、いいでしょ?」  
 体中にびりびり快感が走る。イースの口の端からよだれが垂れて、それをすくう  
ようにしてパインが唇を重ねる。ベリーとは違う甘い蜜の味とにおいが口いっぱいに  
広がって、頭が真っ白にとろけてゆく。  
「そろそろかな」  
 イースの股の間に顔をうずめていたピーチがつぶやいた。  
 それに返事するかのように、はじめての快楽を知ってしまった桃色の突起が  
大きく張りつめ、下の部分からは透明な液があとからあとから出てくる。  
「ほら、もっと感じて。私たちを感じて」  
 気持ちいいところを吸われて、いじられて、こねられて、あふれ出る。  
 自分の中の黒い扉が開き、どろどろしたものが解き放たれる。  
 まったく新たな自分へとスイッチ・オーバーする瞬間。  
 心が満たされて大空に飛び発つ、怖いけれどドキドキして、ワクワクする。  
 ベリーが、パインが、ピーチが。みんなが自分を気持ちよくしてくれる。  
 イースの全身が、沸きたつ快楽に震えた。  
「幸せ! ゲットだよっ!!」  
 ――幸せ? これが、これが幸せ? 不幸の反対の、幸せ?  
 これが――。  
 いつしか、イースは意識を失っていた。  
 その表情はとても恍惚として、静かで、安らかで、  
「――うん。幸せそうだね」  
と、顔をのぞきこんだピーチが笑った。  
 
 
 イースは体調不良から、次のクローバータウン襲撃をウエスターに任せた。  
 帰ってきたウエスターに、プリキュアが三人のままだったということを聞くと、  
口もとをわずかにゆがめて「そうか」とだけ言った。  
 
(おわり)  
 

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