きょうは寒々としていて絶好の不幸日和だ。  
日曜日が来るたびに私はFUKOのゲージを少しずつ増やしていかなければならない。  
 
「あの子可愛いな!」  
 
「クールな感じがいいね! ちょっと声かけてみようか?」  
 
「やめとけ、おまえじゃシカトされて終わりだよ」  
 
背後から視線を感じる。  
振り向かなくてもわかる・・・たぶん高校生ぐらいの男たち。  
私が町を歩くと必ずこんな感じの声が聞こえてくる。  
 
やめろ!  
 
そんな期待や希望に満ちた目で私を見るのは!!  
 
「みんな不幸になってしまえばいいのに」  
 
冬の空にポツリとつぶやいてみる。  
ああ、今日もせつない・・・我が名はイース。  
ラビリンス総統・メビウス様の忠実なる僕(しもべ)。  
 
再び路上に視線を戻すと、今度は幸せそうな家族たち。  
小さな子供といっしょに歩く父親と母親。  
どこの店でもらったのか、赤い風船を握り締めて放さない子供。  
 
「歩くの上手になったな!」  
 
「ほんと、最近いっぱい歩けるんだもんねー」  
 
「えへへっ♪ パパー、ママー」  
 
ああ、虫唾が走る!!! なんという幸せのオーラ。  
私は素早く本来の姿に戻る。  
黒いマントに黒い衣装。悪を象徴する髪飾りや装飾品。  
これぞまさに悪魔の姿。さあ、人間たちよ我に怯えよ!!  
 
「うわー、すごいセクシー!!」  
 
「なんだなんだ?かわいい子がコスプレしてる」  
 
「写メ撮らせてもらおうよー」  
 
・・・・・・。」  
 
近くで私に見惚れていた男たちは絶望感で胸に穴を開けるどころか、なぜか歓喜の声を上げ始めた。  
中にはカメラを向けてくるヤツもいる!  
この世界の人間はどこかおかしい・・・ああ、せつない。  
ちなみに人間界での私の名前は 東(ひがし)せつな。  
職業は町外れの美人占い師。  
 
「出でよ、ナキワメーケー!!」  
 
私は気を取り直して、いつものように両手首を目の前ですり合わせると呪いの言葉を口にした!  
亜空間から現れた漆黒のカード。  
それは人間界の物質を意のままに操るためのアイテム。  
私は強い邪念を込め、カードを近くの花屋の中に投げた。  
 
「きゃあっ」  
 
花屋の店員が猛烈なスピードで飛んできたカードをかわすと、背後にあった大きめのサボテンに突き刺さった。  
フフッ、私の狙い通りだ。  
カードの効果でサボテンが我が僕・ナキワメーケーへと変化した!  
生まれたばかりの僕(しもべ)に命令する。  
あの子供が握っている風船を割れ、と。  
 
 
『サボテンダー!』  
 
ほう、今回の僕はサボテンダーという名前らしい。  
何のひねりもないがわかりやすい。  
忠実なる我が僕・サボテンダーは雄たけびを上げながら風船めがけて飛んでいった。  
 
 
ぱーん。  
 
よしっ!  
身体の表面に無数に生えたトゲが風船をあっけなく破壊した。  
 
「うわーん!」  
 
「まあ!」  
 
「あぶない、トゲに注意しろー!」  
 
割れる風船…泣き出す子供、うろたえる親たち…不幸の嘆きが伝わってくる。  
サボテンが変化したナキワメーケーは、周囲の人間たちに向かっても針を飛ばしたり体当たりを始めた。  
デート中のカップルの男の服をサボテンのトゲで壁に釘付けにしたり、街を走る自転車をパンクさせたり…なかなか優秀な働きをしている。  
 
「いいぞ、不幸のゲージがどんどん上がっていく!」  
 
ああ、さっきの子供の泣き声で軽くイってしまった。  
私のテンションもウナギのぼりだ。  
 
「やめなさい――っ!!!」  
 
ドガシャーン!!  
 
そんなとき、目の前のサボテンダーが吹っ飛んだ。  
ビルの壁に激突して動きが止まる我が僕…  
 
目の前に現れる黄色い影。  
 
「だれだっ、不幸のジャマをするやつは!!」  
 
「黄色いハートは(ry」  
 
「おのれ…!」  
 
使命感に燃えながらエクスタシーを感じていた私に冷や水を浴びせたのはやはりプリキ○アだった。  
しかもリーダー格ではなく、向かって右側の気弱そうなアイツか。  
 
「・・・今日は一人か?」  
 
「そ、そおよ!」  
 
私がクールな視線を黄色に送ると、一瞬ビクッとした。  
やはり一人きりだと心細いのだろうか。  
 
「あとでピーチとベリーも来てくれるって私、信じてる!」  
 
健気に仲間を信じる黄色…キ○アパイン。  
私はこういうクソマジメなタイプ、大嫌いだ。  
信頼、友情、愛…不幸とは程遠いものばかり。  
 
「では、お仲間が来る前にお前を始末するとしよう。」  
 
「くっ!!」  
 
私が一歩前に出ると、黄色は一歩下がる。  
なんだ?このゾクゾクする感じ・・・  
私は飛び切り冷たい表情でパインに微笑む。  
 
「お前……じつはドMだろう?」  
 
「っ! そんなの知らないモンっ!!」  
 
顔を真っ赤にするパイン。予想通りの純情さ。  
ああ、むかつく。でもイジめたい!!  
知らず知らずのうちに私はパインに欲情していた。  
うっすらと身体から淫気が滲み出す…  
 
「気が変わった。お前は私のペットにしてやる。」  
 
「なんですって!!」  
 
いかにも処女っぽい彼女にそんな問いかけをする私はもちろんドSだ。  
だがこれでパインの私に対する勝ち目は100%消えた。  
 
「まずは試させてもらおうか!」  
 
疾風のような速さで間合いを詰める私。  
間一髪で上空へ飛び上がるパイン。  
 
「きゃっ、速いっ!!」  
 
さすがは伝説の戦士。反応速度もなかなかのものだ。  
だが、淫気をまとった私の敵ではない。  
 
「…ふふっ、あなたが遅いだけじゃない?」  
 
ヒュッ  
 
「えっ…きゃああ!!!」  
 
 
敵が振り向いたタイミングに合わせて空中で回し蹴りを放つ私。  
それを何とかガードするも、ものすごい勢いで地上に叩きつけられるパイン。  
 
「い、痛い…でも、負けない!」  
 
「その気迫だけでは私に勝てないぞ?」  
 
反射的に立ち上がるパインの左後方から飛び掛る私。  
今度はしっかりと捕らえた。  
 
「ダークエナジー!!」  
 
バリバリバリバリッ  
 
「きゃあああああああぁぁぁ!!!」  
 
腕の中でパインの細い身体がガクンと折れた。  
私は脇の下から彼女を羽交い絞めにすると同時に、逃がさないように電撃で麻痺させた。  
これでしばらくは動けまい…  
 
「さてたっぷりと可愛がってやるぞ。」  
 
ぐったりとしたパインを足元に転がし、肩の辺りにつま先を引っ掛けて仰向けにしてやる。  
獲物を上から見下ろすのは私の癖かもしれない。  
嗜虐心が満たされ、とてもいい気分になれるのだ・・・  
 
「い、いやっ!何をするのー!!」  
 
怯えるパイン・・・いや、山吹いのり。  
このいたいけな少女が私のものになるのかと思だけで、ちょっと感じてしまう。  
 
「黙れ。私の目を見るがいい・・・」  
 
「あっ・・・ふ・・・」  
 
キィーン、という共鳴音。  
私の目を真正面から見たパインはもはや恍惚状態だ。  
疑いを知らぬピュアな娘ほど催眠術にはかかりやすい。  
 
「他愛ないものね・・・」  
 
私はパインの服を少しずつ脱がせ始めた。  
 

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