『もう…終わりなんだとおもうの』  
 
 
かれんの心にその言葉が突き刺さる。  
こまちの口からそんな寂しい言葉は聞きたくなかったし………それと同時に期待している自分にも吐き気がした。  
 
「パルミエ王国に行けなくなったって…本当なの?」  
屋敷の前でぼんやり立ち尽くしていたこまち。  
彼女はかれんの問いに静かにうなずいた。  
「入口が解らなくなって………」  
こまちの目に涙はない。  
渇ききった空虚な光が宿るだけ…  
「もう…終わりなんだとおもうの」  
「ナッツと喧嘩でもしたの?」  
恋人達の益体もない喧嘩…それを呆れながら聞き流す友人役を演じてみせる。  
「ねえ……今度みんなて一緒に行ってみましょうよ?みんなと一緒なら…きっと行けるわ」  
高校を卒業してからかれんとこまちは大学に進み、他のプリキュアメンバーとは会う時間が減ったものの、今でも一番の友人達だ。  
「……………ねぇ…かれん」  
「ん?なあに?」  
「………………………」  
こまちはそれ以上言葉を繋げられないようで、ただ黙って俯くだけで。  
「なによ、こまち。言ってみて……友達じゃない」  
「わたし……わたしね」  
「うん…」  
くっと顔を上げ、こまちは真っ直ぐかれんを見つめた。  
「ナッツさんに…………結婚して欲しいって言われたの  
その…初めて………あの、エッチをしたときに」  
「……エ…エッチッ!?ってあなた……っ」  
友人の突然の告白に、かれんは横っ面を張られた様な衝撃を受けた。  
もちろん顔には出さないが…  
「わたし………まだ結婚なんて考えられないわっていっちゃったの」  
「そ…れで?」  
肩を震わせるこまちにすかさず寄り添う。  
その時、首筋に残る薔薇の形の痣目に飛び込んできた。  
………こまちとナッツの情事の跡……  
「結婚する意志もないのに…こ、こんなことするなん…するなんて、不誠実だって言われて……!!わたし…っ」  
わぁっと泣き出すこまちをかれんはとっさに抱き締めた。  
「…こまちは悪くないわよ!」  
「かれん…」  
「ナッツは王様だから…っ、パルミエ王国で暮らすのは当たり前だとして。  
でも、こまちは違うじゃない。違う世界の人間よ!!  
結婚したらパルミエ王国に住むことになるだろうし…簡単にだせる答えじゃないわ。迷うのは当然よ」  
「…………」  
「わたし達…この世界で生きてきたわ。今更その繋がりを断ち切れないじゃない?  
ナッツと結婚したらどうするの?家族にはなんて言うのよ?大体ナッツって……普段は人間の姿じゃないし…」  
 
それはずっと考えていた事だった。  
こまちとナッツを引き離す為にはどんな理由があるのだろうかと。  
………本人達もそれは心のどこかで気にしていたはずだ。  
そこを他人に指摘されることで、はっきりと目の前に突き付ける。  
彼らの思いを踏み躙る……なんて酷い言葉だろう。  
「………かれん」  
「…ごめんなさい、こまち。言い過ぎたわね」  
酷い事を言っている。  
けど……止められない。  
こまちが体を委ねたのに、不誠実だと罵った。  
そんなナッツにどす黒い怒りも湧いていた。  
…………明らかに嫉妬だ  
「わたし………こまちには幸せになって欲しいの」  
叶うならばわたしと。  
「ありがとう……かれん」寂しそうにこまちが微笑む。  
そんな顔をさせたのはわたしの言葉……否、ナッツだ!  
ナッツといたらこれからも悲しいことがきっと沢山ある!!  
「幸せ………」  
一瞬、泣くのを忘れた様にこまちが呟く。  
 
 
「わたし………ナッツさんといられるだけで…幸せなのに」  
 
 
ぐさり  
「………ナッツと…いるだけで?」  
「ナッツさんといるだけで……どうしてなのかしらね?  
大人になっていくと……それだけじゃあ駄目なのかしら……」  
ぐさり…ぐさり  
こまちの言葉が突き刺さる。  
わたしはこまちといることが…幸せよ?  
昔から……ナッツ達と会う前から!!  
友達とは言えない気持ち……恋をしていた。  
口に出せばこまちを苦しめる。失ってしまうかもしれない。  
だから今まで……秘密にしていたのに。  
(同性の壁を乗り越えられなかったわたし…異世界の壁を越えて愛し合ってる二人……  
勇気がなかったわたしに、二人を引き離す権利なんて…無いのにね)  
こまちから徐々にナッツへの暖かい想いが溢れだして来るのを感じた。  
自己嫌悪に陥るかれんには眩しすぎて直視出来ない…  
「かれん…心配してくれてありがとう。  
わたし……ナッツさんが好き。その気持ち…大事にして、ナッツさんと話し合ってみるわ。  
ありがとう……かれん」  
「わたしは何も…」  
「ううん、やっぱりかれんの所に来て良かった。昔から…かれんはわたしの一番心が落ち着く場所なの」  
「………一番…」  
一番…………それで…我慢してあげようかな…  
「ナッツもいきなり結婚だなんて焦ってるのよ、きっと。不安なのはお互い様…ね」  
「……うんっ」  
こまちのいつもの優しい笑顔。  
自分の中の厭な気持ちが洗われていくみたいだ……  
 
屋敷を後にするこまちの背中を見送った。  
(でも…またこまちを泣かせたら、次は奪い取るわよっ)  
頭の中のナッツにパンチを見舞いながら、かれんはいつまでもこまちに手を降り続けたのだった。  
 
 

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