「おい、イース」  
 
自室でクローバーのペンダントをぼんやりと眺めながら弄んでいると、ノックの音と共に名を呼ばれた。  
ドアを開けると案の定、ウエスターが立っている。  
またか。  
イースは露骨に嫌そうな顔をして見せた。  
 
「そんな顔をするな。これもお前の任務だろう?」  
 
ウエスターはニヤリと笑いながらイースを自分の部屋へと誘い込んだ。  
 
謎のトレーニング器具が無数に転がっているウエスターの部屋へ入ると、イースはさっさと黒の衣装を脱ぎはじめた。  
それをばさっ、と無造作に近くの椅子に投げ捨てる。ウエスターが呆れたように声をかけた。  
 
「お前な、もうちょっとムードってもんがあるだろうが」  
「うるさいわね、とっとと始めなさいよ」  
 
イースのつっけんどんな態度に溜息をつきつつ、ウエスターもマントと衣装を脱ぐ。  
筋骨隆々、大柄なウエスターがいまだ成長途中で小柄なイースの体をベッドまで抱きかかえる図は、まるで親子のようでもあった。  
 
髪飾りと手袋ははずしたものの、ニーソックスは装着したままの彼女。  
一番最初にこの「任務」を担当したときに、ウエスターからそう指示されたのである。  
 
ヘンな趣味。  
 
イースは心の中で悪態をつきながら、目の前の男に体を預ける。  
 
噛みつくようなキス。強引に舌をねじ込まれ、口腔を蹂躙される。  
乳房を強く揉まれ、首筋に吸い付き、痕をいくつもつけられる。  
 
あいかわらず乱暴なんだから。  
 
いつものように辟易とするイース。こんなに痕をつけられたら、あの露出の高い戦闘服を着たときに目立って仕方がない。  
あまりにひどいときは痣かくしの特殊なファンデーションを塗るのだが、それの支給をいちいちクラインに頼むのも  
気恥ずかしいし面倒くさい。  
 
サウラーはあんまりこんなふうにはしないんだけどね…  
 
三日にあげずイースを求めてくるウエスターと違い、サウラーが彼女を誘うことは少ない。  
おそらくラビリンス内に何人か相手する女がいるのだろう。  
そのかわり、サウラーとの一回の性交の時間は長い。おそらくウエスターの倍以上はかかる。  
数時間をかけ、ねちっこく攻めてくるからだ。それはそれで疲れるのでうんざりするのだが。  
 
はっきりいって、イースは戦闘以外に体力を消耗することを好まなかった。  
あくまでも「兵士」として幹部に登用されたことに重きをおいているからだ。  
しかし、男二人の性欲処理係も兼ねることを買って出なければ、その幹部登用も危うかった、というのも事実である。  
パワーばかり有り余って、FUKOのゲージを増やすことの出来ないウエスターを執拗にけなすのも、  
自分が三人の中で最弱だというのを痛感しているがためである。  
 
早く戦闘能力のみで評価されたい。メビウス様のお役に立ちたい。そのためにもっと強大な力が欲しい。  
イースはずっと心のなかで叫び続けていた。  
 
「イース、お前、メビウス様からなにかいただいたそうじゃないか」  
 
乳首を強く摘んでこねくりまわしながら、ウエスターが耳もとで囁いた。  
不思議なもので、こんなに荒々しい愛撫でも、何度も抱かれているうちに体が慣れてくる。  
コスチュームを脱いだことでひんやりと寒さを感じでいた体が、すでに熱くなってきている。  
 
「な…んのことよ…こんなときに…」  
「とぼけるなよ、クラインから聞いたぞ、一人で抜けがけする気か?」  
「馬鹿言わないで…プリキュアを…倒すために必要なものよ……んぅっ!」   
 
耳たぶを噛まれながら秘所に手を触れられて、思わず声がもれる。  
その部分ははすでに少し溶けはじめていた。  
上半身への愛撫は乱暴なくせに、下半身を弄りはじめたとたん、急に繊細な手つきに変わる。  
そのギャップがいつもイースの体を震わせる。  
 
ウエスターのゴツゴツとした指がその形に似合わずそろそろと優しく秘唇をなぞる。  
 
「ん…ふ……ふぅっ」  
 
その刺激で蜜があふれてくる。丹念に秘唇に塗りつけてゆく。  
 
「あ…はあっ……はあっ……」  
 
時折指が一番敏感な突起に触れる。そのたびにイースの細い腰がぴくぴくと震える。  
 
「お前な…いいかげんもうちょっと声あげたらどうだ?」  
「…っるさいわね。あんたこそ…ちょっと黙ったらどう?」  
 
顔をしかめるウエスターに指を挿入されてイースは体をのけぞらせる。  
 
彼との性行為が嫌なわけではない。その証拠に全身が熱くなってきている。頬が紅潮しているのが自分でもわかる。  
だが、いつも馬鹿にしているウエスターに、あまり乱れた姿を見せたくはない。  
その自制心がイースの嬌声を抑える結果となっていた。  
 
太い中指がうねうねと膣内にうごめいている。空いた親指が陰核をくりくりとこねる。充分に濡れているので痛みはない。  
桜色の乳首を舐められ、舌先でつつかれ、きつく吸われる。  
敏感な箇所を一気に責められて、イースの頭の中は一瞬真っ白になりかける。  
目尻に自然と涙があふれてくる。  
 
駄目よ。  
こんなやつの前で我を忘れてはいけない。  
かろうじてイースは己を取り戻すことに成功した。  
みずからウエスターの上に跨る。  
形だけでも主導権を握りたいという思いもあるが、なによりこの巨体に正常位でのしかかられたら潰されてしまう。  
先程からイースの太ももに当たっていた硬く熱く脈打つモノを入り口にあてがう。  
女の中から溢れ出る蜜と男の先端から漏れる液体が混ざり合う。  
彼女ははそのままゆっくりと腰を落としてゆく。  
 
「うっ……イース…」  
「ん…は…はあぁっ……」  
   
大きな溜息がもれていく。背中から脳髄まで電流が走ったような感覚に襲われる。  
いままでの愛撫で得た快感とは違う、少し苦しいような感覚。その苦しみさえすぐに新たな快楽に変換されていく。  
 
根元まで陰茎が挿入されたのを確認すると、ウエスターは上体を起こし、再びイースの唇を求めてくる。  
両の乳房を大きな片手で一気に揉みしだく。  
イースも負けじと腰をうねらせていく。二人の行動はまるでリードするのは自分だといわんばかりの争いにも見えて滑稽である。  
   
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。  
ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ。  
 
上の粘膜と下の粘膜がこすれる音が静かな部屋に響く。  
二つの刺激に乳首への刺激も加わって、彼女はまたしても理性を失いかける。  
 
まだ絶頂に達するには早い。  
イースは冷静さを取り戻すために別のことを考えようとつとめた。  
 
そうだ。さっきの会話。  
 
メビウス様から頂いたカードの話だった。なぜウエスターが急にそんな話をしはじめたのか。  
私だけが特別な力を授かったことへの嫉妬からか?  
冗談じゃない。あれはプリキュアどもを殲滅するために必要なもの。  
私は命に代えてもプリキュアを倒すと決心した。その証となる大事なカードだ。誰にも渡すものか。  
 
 
ふと、イースの脳裏に一人の人間の顔が浮かんだ。  
 
 
プリキュア。キュアピーチ。桃園ラブ。  
イースの仮の姿、東せつなを信じて疑わない少女。  
その無邪気な笑顔がイースの頭を駆け巡った。  
 
虫酸がはしる。  
 
嫌悪の感情が湧き出してくる。  
 
 
せつな、せつな。  
 
 
あれだけ怪しまれる行動をとったり、傷付けるような発言をしている自分にまったく気づかず、  
満面の笑みでまとわりついてくる、愚かな娘。  
ラブの無垢な笑顔と仮の自分の名を呼ぶ声が脳内で再生されるたびに、イースはそれをかきむしって消したくなる。  
 
あの娘を、ラブを思い切り暗黒に堕としてやりたい。  
 
いっそすぐにでも正体を明かしてやろうか。  
私はお前の敵。お前らプリキュアを倒すために近づいただけだ。  
まだ性的な経験の乏しそうなラブにこの姿を見せつけてやろうか。  
私はお前が思っているような清楚で大人しい少女、東せつなではない。  
この大きな洋館で、夜な夜な二人の男の相手をし、貫かれている。それが本来の私の姿だ。  
 
そして、真実を知り驚愕するあの娘を闇へ引きずり込み、唇を奪い、健康そうな肢体をまさぐり……  
 
昏い欲望が次から次へと溢れ出す。  
ラブの表情がだんだんと曇り、瞳に涙が浮かび、苦悶にみちていく妄想をした、その刹那。  
 
イースは自分の膣壁がいつもよりも余計に締まっていくのを感じた。  
 
「ううっ、イース、ちょっ……締めすぎ……」  
   
急激な締めつけにウエスターが驚いた声をあげる。  
だがイースにとってもこんな感覚ははじめてであった。  
ただでさえ太い怒張がさらに太く感じられる。膣内への摩擦が彼女をより上へと昂ぶらせていく。  
二人の呼吸がいちだんと荒くなっていく。  
 
「ん…っ……ラ…ブ……」  
 
しまった。  
 
イースは一瞬血の気が引いた。  
あれだけ声を押し殺すことに集中していたはずなのに、よりにもよってあの娘の、敵であるキュアピーチの名が  
口をついて出てしまった。  
ウエスターに気付かれただろうか。  
 
恐る恐るウエスターの様子を窺う。  
しかし彼は次々に訪れる快楽を貪るのに夢中で、妙なことを口走ったイースに  
まったく気がついていないようである。  
 
ふん、馬鹿な男。  
 
安堵の冷や汗が吹き出す体を、目の前にいる男を心のなかで罵倒することでごまかす。  
とにかく今はこの「任務」を遂行することに集中しなければ。彼女は気を取り直す。  
度重なる刺激により、互いの体は高みへと昇りつつあった。  
先程の締めつけもまだ衰えてはいない。  
 
「うぅ……イース…イース…」  
 
耳元でウエスターにうめきながら名を囁かれる。  
騎乗位から上体を完全に起こした彼は、少女の小さな背中に太い腕を巻きつけながら名を呼び続ける。  
自分の倍以上もあるかと思われる巨躯のその様子を見ていると、自分が猛獣を手なづけているような錯覚に陥る。  
 
これも悪いものじゃないわね。  
 
ちょっとした優越感を得ながら、彼女もまた息を荒くしていった。  
 
「ん…っ……あ…はぁ……ああっ」  
 
ここまでくると流石に甘い声を抑えきることは出来ない。  
膣内を硬いモノが出入りするリズムに合わせてわずかな嬌声があがる。  
 
ふいにウエスターの親指が再び陰核をなぞりはじめる。  
 
「ふ…あああっ!」  
 
絶頂へのスイッチを押されて、イースは大きく身をよじらせる。  
強く閉じた目の奥に火花が散る。よりいっそう陰茎を締めあげる。  
 
「…っ!あ……あ!いっ……あああああ!」  
「う…あっ……イース…いくぞ……っ!」  
 
先に達したイースに呼応するかのように、はちきれんばかりのウエスターのモノがビクビクと震える。  
熱い液体が体内に注ぎ込まれる。  
 
はあ、はあ、はあ、はあ………  
 
共に絶頂に達した二人の息が部屋に響く。  
イースは急いで我に返ろうとつとめる。ゆっくりと陰茎を引き抜いていく。  
今まで自分を貫いていたものが出ていく感触に、少し身じろぎをするが、これ以上乱れた姿をみせるのは避けたい。  
愛液と精液の入り混じったものがシーツを汚したが、ウエスターの持ち物だから別にどうでもよい。  
 
性欲旺盛な男二人を相手するために、避妊の対策は万全である。ラビリンス本国から支給される薬を定期的に飲み、  
気兼ねすることなく「任務」を果たせるようにしてあった。  
 
だからあとはこのベタベタになった体を洗浄して自室へもどればよい。いつものようにイースはノロノロと立ち上がる。  
その腕をウエスターが掴んだ。そのまま引き寄せられて、再びイースはベッドに転がった。  
 
「なによ!?」  
「まあ、もうちょっと付き合えよ」  
 
キッときつい視線を向けるイースに、ウエスターは暢気なセリフを吐く。  
互いに寝転がりながら、ウエスターの腕がイースの細い体を抱き寄せた。  
男の胸板に、少女の背中がぴったりと合わさる。  
 
「…なんの真似よ」  
「この間、『映画』とかいうもので見たんだ。こっちの世界の人間は、行為の終わった後にもこうやって抱き合うらしい」  
「仕事サボってなにくだらないことしてるのよ…」  
 
イースは呆れかえって悪態をつくが、その腕をふりほどくことはしない。  
 
まあいい。変なことを口走ってしまったせいで今日は少し疲れたし、ここで休憩していってから部屋に戻っても別に咎められることもないだろう。  
   
「そんなに悪いものでもないだろう?」  
 
ウエスターがそう言いながらイースの髪を撫ではじめる。さっきまで全身を襲っていた快感とはまた違う気持ちよさに彼女は目をほそめる。  
火照った体にウエスターの汗まみれの体が触れて、ひんやりと心地よい。  
 
「ふん…この世界の人間は、本当に無駄なことばかりするのね…」  
 
そう言いながら、イースはゆっくりと目を閉じた。  
 
新しい「処理係」として、はじめてイースを紹介されたとき、ウエスターは正直その幼さに戸惑った。  
(なんだ、こいつ、兵士訓練生のなかでトップクラスの成績だったと聞いたが…まだ子供じゃないか)  
 
だがそんな懸念も杞憂に終わった。小柄といえども彼女の体はすでに成熟した女のそれに近いものになっていた。  
 
 
年齢の割に発達した乳房。細いがきちんとくびれのある腰つき。吸い付くような白く透き通った肌。緋い瞳の美しい顔立ち。  
それになによりウエスターを夢中にさせたのは、その秘部であった。  
自分とサウラーとしか性経験のない(と思われる)イースのそこは、初めのほうこそ多少痛がるそぶりをみせたものの、  
回を重ねるごとにウエスターの怒張をしっかりと受け入れられるように成長していった。  
 
(こればっかりは実際に何度もヤってみないとわからんもんだな…)  
 
ラビリンス幹部の特権として今まで何人もの女をあてがわれてきたが、  
ここまで「具合が良い」と感じたのは彼女が初めてであった。  
 
普段冷たい表情も、この腕に抱いている間だけは悩ましげなものに変わる。  
つれない態度をとりながらも愛撫には敏感に反応する。それらもウエスターの情欲をそそった。  
プライドの高さゆえに、嬌声をあげることが滅多にないのが難点であったが、だからこそ彼女が達するときに  
わずかにあげる声や息の乱れを聞き漏らすまいと、ウエスターはいつも快楽に溺れながらも耳を澄ませていた。  
 
だから、今日、彼の耳にはっきりと聞こえたのだ。  
 
 
「ラブ…」  
 
 
ラブ?なんだ?人の名前か?  
ウエスターはあまり良くない頭で記憶をたどってみる。  
そういえば。  
プリキュア。  
あいつらの一人にそんな名前のやつがいたような気がする。  
何故?  
自分との営みの最中になぜ敵の名を呼ぶ?  
それともやはり聞き間違いか。空耳か。  
 
だが深く考えることの苦手な彼はすぐにそのことを忘れた。  
イースが静かに寝息をたてはじめたからだ。  
彼女がこんな無防備な姿を自分に見せるのは非常に珍しいことだ。  
髪を撫でられるのがそんなに心地よかったのだろうか。  
 
イースの長い睫毛をウエスターはしみじみと見つめる。  
 
(こんなに近くでこいつの顔をみるのははじめてかもな…しかし、やっぱりまだまだ子供だ…な…)  
 
 
男は腕の中にいる少女の銀色の髪を撫で続ける。  
 

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