「だあああああっ!!」
「はああっ!」
森の中で、男戦士と女戦士の怒号が鳴り響く。日は、すでに暮れかかっていた。
それは、放課後の四ツ葉町公園で起きた。
せつな達四人、シフォン、タルトはいつものようにドーナツ屋でくつろいでいた。
『ワガナハインフィニティ…』
突然、インフィニティと化したシフォン。
シフォンの変化を嗅ぎつけて現れたサウラーとウエスター。
四人はプリキュアに変身し、シフォンを守るために戦いはじめた。
「ラッキークローバー グランドフィナーレ!!」
幹部二人の繰り出したソレワターセは、必殺技によりなんとか撃破した。
しかし男達は懲りもせずに生身でシフォンに飛びかかってきた。
四人の中で一番瞬発力の高いパッションが、まずウエスターの動きを止める。
続いて、ベリーとパインがサウラーの前に立ちはだかった。ピーチがシフォンを抱きしめ守る。
サウラーが緑のダイヤを複数取り出した。
「シフォンを守って!!」
パッションは叫んだ。男二人の戦力を分散させなければ。彼女はウエスターを引き付け、
サウラーのいる場所から引き離そうと画策した。
パッションは公園の奥にある森の中へ入り込み、木々の間を飛び回る。
「待てっ!!イース!!!」
ウエスターが追いかけ、時折打撃技を仕掛けてくるが、彼女はその都度ひらりと身をかわす。
──どうやらうまくいったみたいね。
パッションはホッと胸をなでおろす。しかしすでに彼女の息は切れ切れになっていた。
スタミナという点に関しては、さすがにウエスターには敵わない。パッションの逃げ回るスピードが少しずつ落ちていく。
その瞬間、ウエスターが彼女の前に回りこんだ。
──しまった!
ウエスターの打撃をもろに受ける。
「きゃあっ!!」
パッションは辛うじて両腕で体をガードするが、そのまま吹っ飛ばされ、木の幹にしたたかに背中を打ち付けられた。
「か…はっ……」
背中への衝撃で一瞬息が止まる。パッションはその場に崩れ落ちた。痛みですぐに起き上がることが出来ない。
ウエスターが怒りに満ちた表情でこちらに近づいてくる。
(まずい…逃げなくちゃ…)
彼女は痛みをこらえながらよろよろと立ち上がった。
(アカルンを使えば…逃げられる)
右手がリンクルンケースに伸びる。だがパッションは一瞬アカルンを呼ぶことを躊躇した。
その隙をついて、彼女の右腕をウエスターが掴み、ギリリと上に締め上げた。
「…つっ…」
「何故いつもいつも俺達の邪魔ばかりするんだ!!イース!!!」
耳が痛くなるほどの大声で、ウエスターが叫んだ。
「言ったはずよ!シフォンは渡さないと!」
「黙れ!インフィニティ入手はメビウス様の御意志だぞ!いつまで逆らうつもりだ!」
「メビウス様のしていることは間違っているわ!だからわたしはラビリンスを離れたのよ!」
逃げるのをためらったのは、きちんと話をしたかったから。
全てを理解しろ、とは思わないが、何も聞いてもらえないまま戦い続けるのは悲しかった。
「落ち着いて聞いて!わたしはこの世界をラビリンスの支配下に置きたくはないの!幸せな人々を巻き込みたくはない!
そのためにプリキュアになる道を選んだのよ!」
「馬鹿なことばかり言っていないでラビリンスに戻れ!…俺を裏切りやがって!!」
ウエスターは怒りのあまり「ラビリンスを」ではなく「俺を」と言ってしまったことに気付いていない。
そしてそれはパッションも同様であった。
ウエスターはパッションの左肩をがしりと掴み、木の幹に彼女の背中を押し付けた。右腕と左肩に強い痛みがはしる。
わたしの言葉がまったく耳に入っていない──パッションは悲しみのあまり自棄になり叫ぶ。
「止めを刺したいなら刺すがいい!わたしが死んでも、きっとアカルンが次のプリキュアを見つける!
あなたたちの野望は実現しない!!」
「!この…!!」
──殺される!
パッションは恐怖のあまり目を瞑る。しかしいくら経っても止めの一打は訪れない。
「…?」
パッションは恐る恐る目を開ける。
そのとき、彼女の唇がなにかで塞がれた。
それがウエスターの唇だと分かるまでさして時間はかからなかった。
パッションの唇を噛み、きつく吸い、舌を侵入させてくる。
彼女は首を左右に振り、逃げようともがいた。しかし男の唇はどこまでも追いかけてくる。
息が苦しくなってきたところで、やっとの思いで顔を離す。パッションの口からはあはあと荒い息が出る。
ウエスターはうつむいて、搾り出すような声で言った。
「戻ってこいと…言ってるんだ」
腕と肩を掴む手が、わなわなと震えている。
「どして…?」
突然のことに、パッションの顔がゆがむ。
「なんでこんなことをするの…!?」
抑えようとしても、興奮しきった声があとからあとから溢れてくる。
「やめてよ!またわたしを、欲望のはけ口にするつもり!?あんなことはもういや!!
………どうせ、わたしのことなんか、あ、愛してもいないくせにっ!!!」
───わたしは、何を、言っているの……?
確かに、この男とは肉体関係があった。
だがそれは、あくまでも「任務」、性欲のはけ口になることは最初から割り切っていたはずだ。
この男がわたしをどう思っていようがわたしには何の関係もない。
なのに何故わたしはこんなことを言うの…?
自分の発した言葉に気まずくなり、彼女は口をつぐみ、目を横にそむける。
「…ている」
ウエスターが地面を見ながら低く呟いた。
「え?」
聞き返すパッションに、彼は顔を上げ、彼女の目を見据えてはっきりと告げた。
「俺は!お前を!愛している!!」
頭を、何かで殴られたような感じがした。
ウエスターは腕と肩を掴んでいた手をそのままパッションの背中に回し、太い腕で強く抱きしめた。
「…だから、俺のそばにいろ……」
何が起こったのか、一瞬、理解できなかった。
パッションは目を大きく開き、立ち尽くしている。
男の息が耳にかかる。ゾクリとした感触が背中まで突き抜ける。
「は…あっ」
ウエスターは赤い衣装の上からパッションの体をまさぐりはじめた。
「い…や…やめて……」
騙されてはダメ、この男はわたしの体を好きにするためにあんな戯言を言っただけだ。
逃げよう、逃げなくちゃ…なのになんで体が動かないの?なぜ涙が出るの?
先程ウエスターが放った言葉の茨によって、パッションの心はがんじがらめに縛られ、身動きが取れない。
全身の力が徐々に抜けていく。
崩れ落ちるパッションの背中をウエスターが支え、共に膝をついた。
そのままパッションは草むらの上に仰向けに寝かされた。
木々の間から、夕暮れの赤い空が覗く。彼女はそれを潤む瞳でぼんやりと見つめた。
ウエスターはパッションの頬を両手で挟み、再びくちづけてくる。
舌を強引にねじ込まれる。パッションの舌を捕らえ、無理矢理絡ませてくる。
それだけで、彼女の胸が、下腹部が燃えるように熱くなり、全身に痺れがはしる。
ウエスターの唇が、下のほうへと移動する。パッションの首筋を舌が生き物のように這う。
「ふ…う…うっ……」
パッションは吐息を漏らしながら身をよじらせた。
男の大きな手が赤い衣装のカシュクール状の部分をグイと引き下げた。
豊かな胸が、ぷるん、と揺れ、外気に晒される。
屋外で肌を露出したことなどない彼女は、羞恥に身を震わせる。
ウエスターはパッションの胸をちぎれんばかりに掴んできた。白い肌に爪が食い込む。
そして胸元にくちづけ、ギリっと音がしそうなほど強く吸い噛んだ。
「ああっ!」
痛みにパッションは叫び声を上げる。
しかしその声には、すでに甘いものが含まれていた。
荒々しいキスを乳房のまわりに繰り返したあと、硬く立った乳首にかじりつく。
「ひっ…あああっ」
突起をきつく吸いねぶられるたびに、電流に打たれたようにパッションの上半身が跳ねる。
痛いはずなのに、痛みの奥にある快楽を見出してしまう自分に気付き、彼女は動揺を隠せない。
愛撫を要求する言葉が口をついて出てくる。
「あ…あ…もっと……強く…」
もっと、わたしに、印を、つけて。
だめ…わたしは、何を考えているの。
相反する感情に頭を混乱させながら、パッションは以前にサウラーに言われたことを思い出した。
──君は彼の乱暴な愛撫を悦んでいる──
(ああ…)
その通りだ、悔しいが認めざるを得なかった。
鬱陶しいと思いながらも、心の奥底で彼の愛撫を心待ちにしている自分がいた。
彼の手が、唇が体中を這い回るたびに、体のあちこちが悦びに火照り、秘壷は蜜を滴らせる。
そして何度も何度も体を重ねるうちに、いつしかこの男に心を許してしまっていた。
弱みを見せることを何よりも嫌っていた自分が、無防備な寝姿を晒してしまうほどに。
だが当時はそんなことを絶対に認めることは出来なかった。
認めてしまったら、自分の兵士としてのアイデンティティは崩壊し、ただの女に成り下がってしまう。
それを恐れ、銀色の髪の少女は頑なに心を閉ざす。
けれど、今、わたしはラビリンスの兵士ではない。
確かにプリキュアとして戦ってはいる。
でも、それ以外の顔を持ってもいいのだということをこの世界で気付かされた。
ドーナツやコロッケを美味しいと言って食べ、料理を教わり、ダンスや学校生活を楽しむ。
一人の少女として生きてもいいのだと、ラブ達が教えてくれた。
そして、人から愛情を受けたら素直に喜んでいいのだということも──
ウエスターの手がスカートの中へ忍び込み、黒のタイツを脱がそうとする。
パッションは腰を上げ、彼の行動に身を任せる。
秘所は、一切触れてもいないのに、すでに多量の愛液でぬらぬらと光っていた。
秘唇が完全に開ききり、男が入ってくるのを今か今かと待ち受けている。
左側のタイツとブーツを脱ぎ取られ、素足に初冬の空気が触れる。
ウエスターは、いきりたった怒張をパッションの秘唇にあて、わずかに逡巡した後、叫ぶ。
「なぜ抵抗しない!!俺はお前の敵だろう!?」
パッションは答えることができない。涙が頬を流れていく。
「く…そっ…!」
男が侵入してくる。まったく愛撫をしていないにもかかわらず、驚くほどスムーズに奥まで入っていく。
「あ……あああああ!!」
「イース…イース…っ!!」
男がかつての彼女の名前を叫びながらしがみつき、貫いてくる。
激しい腰の動きに呼応するように、パッションの口からあられもない声が出る。
「あ、あ、あん、あん、あん、ああああっ」
「ちく…しょう…!愛してる、愛してる、イース!!」
「いっ、いや、いや、いい…あああ!」
──いや、いや、その言葉を言わないで、その名でわたしを呼ばないで…
わたしがわたしでなくなっていく……!
ウエスターの放つ言葉の愛撫によって、彼女の理性がはじけ飛ぶ。秘肉がぐねぐねと蠢いていく。
「あ…んっ…いっ…いい……きもちいい…もっと…奥まできて…!!」
今までだったら決して出すことのなかった嬌声が、パッションの口から次々と上がる。
──はしたない、恥ずかしい、でももう止めることができない…!
大きな体にのしかかられ、互いに結合する部分のみを晒し、突き上げられる。
女は嗚咽と嬌声の入り混じったものを唇から漏らす。涙が止めどなく頬を伝う。
はたから見れば立派な強姦の図である。
しかし、パッションの心と体は歓喜に打ち震えていた。
グチュッ、グチュッ、という淫らな音が下半身から聞こえてくる。
パッションはウエスターの首に両腕を、腰に両足を絡みつかせ、積極的に快楽を貪る。
荒い息がお互いの頬にかかる。彼女はみずから唇を押しつけ、舌を差し入れる。
舌を噛まれ、吸われるたびに、気が遠のいていきそうになる。
膣の奥を激しく責めたてられ、合わせた唇の隙間からうめき声が漏れる。
ふと、奇妙な感覚が彼女を襲う。
(あ…なに…これ…?)
絶頂に達したことはこれまでに何度もあった。
しかしたった今、それよりもさらに一段上の快感が彼女を支配しようとしていた。
未知の感覚に、パッションは慄然とする。
──こんなの、わたしは知らない。いや、こわい、こわい、怖い!!
「い…やあああぁ!い…くっ、いく、いく、いっちゃ……ああああああっ!!!」
「イー…スっ!…う…ああ!」
パッションの中の怒張が、ドクン弾けた感じがした。そのまま、彼女の目の前が暗くなる。
「お、おい…大丈夫か…?」
パッションはゆっくりと目を開けた。ほんの数秒、意識が飛んでいたらしい。
ウエスターが心配そうに彼女の顔色を窺っている。
大きな手が、パッションの頬に流れる涙をぬぐった。
(もう、さっきまであんなに怒ってたのに…ばかな男ね)
パッションは、ほんのわずかだけ微笑み、ウエスターの頬を両手で挟んだ。
そのまま、再び彼女のほうから唇を寄せる。
先程の激しい嵐のようなキスとは違う、触れるだけのキス。
けれど、性交をしていた時間よりも長く長く触れ合う。
──このキスを終えたら、わたしはピーチ達のもとへ戻らなければならない。
今頃きっと、サウラーが繰り出した複数のナケワメーケと戦っているはずだ。加勢しにいかなければ。
──離れたくない。
そう思ってしまう心をパッションはきつく戒める。
わたしはラビリンスの人間でありながらプリキュアに選ばれた。
今までの行いを悔い改め、償うために、四ツ葉町の、この世界の人々の幸せを守る機会をアカルンに与えられた。
私情を挟むことは──許されない。
今は敵となったこの男に犯されて悦んでいるわたしには、プリキュアの資格などないのかもしれない。
でも、それでもわたしは戦い続けるしかない。
千切れそうになる心を抑えながら、パッションは唇を離す。身をよじって巨躯から抜け出す。
そしてウエスターに背を向け、緩慢な動きで乱れた衣装を整えた。
彼の顔を見ることはできなかった。見てしまったら、きっと、離れられなくなる。
ふらふらと立ち上がり、リンクルンを取り出す。
「…行くな」
短い、低い声がパッションの耳に入る。
また涙があふれてしまいそうになるのをこらえ、震える声で、しかしはっきりといった。
「わたしは、もう人々を不幸にすることはできない。メビウス様の意志に従うことはできないの。
……だから、もうラビリンスには戻らない」
他にも言いたいことはたくさんあった。
しかし、喉の奥が詰まってしまい、言葉を発することができない。
「イース!!」
ビクッと、パッションの肩が揺れる。力を振り絞り、彼女は言い放った。
「わたしは、もう、イースじゃない…!」
震える両手でリンクルンを持ち、唱えた。
「アカルン…四ツ葉町公園へ」
赤い光が彼女を包みこんだ。
「ちくしょう……!!」
ウエスターの拳が木の幹を叩く。葉が、バサバサと落ちてきた。
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「せつなちゃん、本当に大丈夫?どこも怪我はない?」
祈里が心配そうに話しかける。
「ええ、大丈夫よ。なんともないわ。」
「せつなぁ、さっきから元気ないよ、どうしたの?」
ラブがせつなの顔を窺う。せつなは力なく笑ってみせる。
「ひょっとして、あいつにまたなんか嫌なこと言われたんでしょう?」
美希の言葉に、ズキン、と胸の奥が痛んだ。
「あいつ、今度会ったら、絶対にとっちめてやるんだから!」
美希が怒った顔でまくしたてる。せつなはつとめて冷静さを装う。
「ありがと…美希。平気よ。気にしてないわ。」
沈んだ表情のせつなに、三人はそれ以上追及はしなかった。
「さ、早く帰ろう!おかあさんが心配するよ!」
四人はそれぞれの家路につく。
せつなは、すっかり暗くなり星の瞬いている空を見上げた。
先程の木々の間から見えた赤い空を思い出す。
逢魔が時。
そのような言葉があるということを、せつなは以前に本で知った。
夕暮れから夜にかけて、赤い空から暗い空へと変わる時間帯。
物悲しく、言いようのない不安にかられるこの時に、人は魔物に出会い易くなるという。
──あれは、夢だ。逢魔が時がわたしに見せた、愚かな夢。
彼女はそう自分に言い聞かせた。服の上からそっと胸元をおさえる。
制服のシャツの下には、変身を解いてもなお消えない、ひとつの痣。強く刻まれた、くちづけの痕。