「なー、イースぅ」  
 声を掛けた。  
「……」  
「おい、イースってばよ〜」  
 肩をそっと叩いた。  
「……よ」  
「んぁ?」  
「私は、せつな、よ!」  
「うおっ!」  
 突然の大声に、大柄な青年はオーバーリアクション気味に身体を逸らした。  
そこへ食って掛るのは対照的に小柄な少女。が、迫力は此方が上らしい。  
「もうっ。前から言ってるでしょ。私は、せつな!東せつななの。分かった!?」  
「や、でもよぉ」  
「デモもストも禁止!はい、言ってみなさい」  
 ビシっと指先を鼻に押し付けてくる少女に、彼が逆らえるはずもない。  
 
「ええっと……せっちゃん?」  
「ぇ……?う、ば、馬鹿ぁっ!!」  
 平手が容赦なく飛んでくる。鼻に綺麗に決まった。  
鼻血を噴かないのはイケメンの特権である。  
「な、なにすんだよぉ」  
「あだ名で呼んでいいなんていってないもの。当然でしょ。で、何か用?」  
 無理のある理由をつけて、話題を逸らす。  
頭の中身?ドーナツじゃないの?と(元)同僚から太鼓判を押されるだけあって、あっさりと乗ってくれた。  
 
「ああ、これ」  
「……ドーナツ?ひょっとして、あなたが?」  
 渡された紙袋を開けると、ふんわり甘い匂いが鼻腔をくすぐってきた。  
「おう。ウエスター様お手製のスペッシャルドーナツだ。うんめぇぞ〜」  
「私、に?」  
「他に誰がいんだよ。ボケたか?」  
「あんたに言われたくないんだけど」  
 驚きが冷たいツッコミにメタモルフォーゼした。  
が、それはさて置き。二人仲良くおやつタイムに洒落込むのであった。  
「何だ、付いてるぞ」  
「え、どこ」  
「ここ」  
 ひょい、と口元についていたお弁当を取る。  
「あ……」  
 何故だか、惜しいと思ってしまった。  
その対象が、ドーナツなのか、そうでない方かも分からずに、身体だけが動いた。  
「んっ」  
「ちょ、おいっ?」  
 遠ざかった手を、引き寄せて。残った欠片を、口に放り込む。  
……勢い余って、その指にまで食いついてしまったのだが。  
 
「ぅあ……んむっ」  
「ちょ、イース、離せよっ」  
「ん、んんっ」  
 動揺する彼が可笑しくて、悪戯心が顔を出す。太い指を、せつなの舌がゆっくり這って行く。  
「ぅ、おっ?おい、イース?」  
「ふは、は……ん。ちゅうっ」  
 
 最初は砂糖と油の混じったドーナツの味。その後は彼の。どちらも好物。だから仕方ない。  
「ち、こんのっ」  
「んぅっ!ふぁ……っ」  
 口内の指を、ぐるっと掻き回す。舌が外れた隙に、引き抜くと、せつなの唾液がべったりと付いていた。  
「うぁ」  
 思わず、舐めた。だって男の子だもん。  
「へんたい」  
 少女の冷たい視線に心が凍りそう。  
「お前……さすがにひどくないか、それ」  
「ふん。も、帰る。さよな……きゃあっ」  
 別れの言葉は、胸板に押し付けられたせいで発することは出来なかった。  
「ソレはないだろ」  
「な、なんのことかしら」  
「言わせたいのか?」  
「……」  
 なんだか気恥ずかしくて、押し黙る。  
 
「今日は、泊ってくれると俺が幸せゲットだってこと。ほい、けってーい。ってか」  
「……し、しょうがないわね。今日は、特別よ?勘違いしないでよ!」  
 ツンデレ的な台詞は、天然馬鹿には効果が薄い。むしろ、カウンターが怖くなる。  
「なんでもいいからよー。もういいかぁ?」  
 能天気な言葉に、遂にせつなは黙る。そして、そっと目を閉じて、彼を受け入れた。  
 
 ――けれど、その唇には何も来やしない。  
「ウエスター?って、やだ、何してんのよ!」  
 痺れを切らして瞼を上げると、何故だか彼は跪いていた。  
「おかえし?」  
「なっ……ま、待ちなさいよッ」  
「待たない」  
 
 彼の視線の先には、少女のスカートが合った。遠慮なく、捲りやがった。  
そこへ指が這い上がる。少女の内へ、潜り込むのだ。  
そして、揺らして。すぐに立っていられなくなって、倒れこむ。  
「ふ、ぁ……も、待って、って言ったの、にぃ……」  
「明らかに誘ってたくせに。こういう時くらい素直になったらどうだ」  
 身を捩るが、刺激から逃れられるはずもない。  
「何、それぇ……ぅあ、あっ、そこ、そんなに……ひっぁあっ」  
「こっちがイイのか」  
「ちが、っくあ……!ひゃ、やぁっ。んっ、ウエスター……っ」  
 
 名を呼べば、先程までの行いが嘘のように此方へ視線を向けてくる。  
「なんだ?」  
「んっ……はぁ、ここに、いるよね?……」  
「は?当ったり前だろ。何言ってんだか」  
 
 少しだけ、呆れた顔をする。  
普段ならせつなが怒りそうな反応だが、今の彼女にはベストアンサーだったようだ。  
「ふ……うん、ここに、いてね……わ、私の、とこ」  
「それも当たり前、だなぁ。うざがっても離してやらねーぞ?」  
「は、っはは。そうね、夏はいやかも」  
 筋肉ダルマで暑そう、と敢えて軽口に乗る。  
「なら海行こうぜ、山もいいよなー」  
「変な水着とか、イヤよ」  
「……いや、そんなの考えてないぞ」  
「下見れば丸分かりなんだけど」  
「あ」  
 ズボンがパンパンだぜ!とごく一部の自己主張が激しくなっていた。  
「もう。……私は、もういいから。その、えっと」  
「あ、あー、そうだな。じゃ、行くぞ?」  
「うん」  
 
 改めて少女を押し倒して、その上に跨った。  
そして、きっつい拘束から下半身を開放する。  
もう我慢できるわけもなく、あっという間に弾丸は撃ち込まれた。  
「は……相変わらず、無駄におっきいんだからぁ……」  
「お前は相変わらず狭いな。締まりはいいけど」  
「う、ウエスターのくせに、なまい……っあ」  
 
 文句を言おうとしても、身体が彼に引っ張られて言葉にならない。  
「やっぱ回数こなした方が反応は良くなるなぁ」  
「言うな、あ、んっ……はぁっ」  
「動いてもいいか?」  
「今更、聞かなくたっていいで……ひゃああんっ!」  
 今度は答えを半分聞いたところで、行動を開始しやがった。  
「っふ、あ!そこ、もっ……ああ。やだ、こわれちゃう……ッ」  
「可愛いこというなーおい。そんなん言われたらやる気増すっつうの」  
「ひぅっ、あん、そっち、も?んん、いっぱいっ、くあぁっ」  
 
 指とは比べ物にならない刺激に、掻き乱されていく。  
甲高い悲鳴を上げながら、男との繋がりを尚も貪欲に求めて縋る。  
「ん、ふぅ……っむ、んっ」  
 そういえば、今日はこれが最初のキスだな、と頭の端でせつなは思う。  
むちゃくちゃな順番が、ある意味自分達らしい。  
「っく、んん……ん」  
 舌が絡み合う。かといって下の動きも休まることなく快楽に耽って。  
唇がふさがったお陰で、恥ずかしい声を出さなくていいのはありがたい。  
でも、酸欠になりそう。頭がくらくらする。  
そのくせ、身を引く気はないんだから。いかれてる。  
 
「っは……ぁ」  
 漸く、息が吸える。もちろん終わったわけではないが。  
「……もう、限界だな」  
「え、あ……ちょっ……」  
 今になって、気付く。今日は、アレ。危険日って奴じゃなかったっけ?  
しかも。コイツに外出しなんて期待するほうが馬鹿。  
おまけに、付けてない。答えは、明白。  
 でも、もうブレーキなんて使えない。アクセル振り切りのみ。  
 
「っく……」  
「あ……っ、あ、ひああああんんんっ!!」  
 吐き出された熱に、彼らは飲み込まれ、溶け合うのだった。  
 
 
「ウエスター。あんた何考えてんの……?」  
「んー?んだよ、あんだけイッといてまだ足んねぇのかぁ?」  
「バッ、違うわよ!何で避妊具も付けずに中で出したか、って言ってんの!」  
 ぷんすか怒る少女に、青年は少しも悪びれない。  
「あ。……アレ、付けてると感度が落ちるしな〜」  
「……最ッ低。妊娠でもしたらどうしてくれるのよ……」  
 イースのぼやきは、彼女の意図しない方向に受け止められた。  
 
「え?イースは俺のガキ生むのはイヤなのか?」  
「ふぇっ!?い、今そんな話してない!」  
「違うのか?」  
「う……だ、大体っ、未婚で未成年なのに、出産とか、む、無理よ……」  
「んー。じゃ、結婚すればいいのか?」  
「は、はぁあああ!?あ、在り得ないッ!何よソレ、あんた本当に馬鹿じゃないの!!  
ぷ、プロポーズってのはねぇ!もっと、こう神聖って言うか……!  
とにかく、そんな明日はドーナツ食いに行くかー、みたいなノリでしていいもんじゃないの!」  
 じたばたと暴れても、赤らんだ顔は隠せない。  
「存外ロマンチストだな、イースは」  
「っもう、馬鹿……せつな、って何回言わせるのよぉ……」  
「お前が俺を隼人って呼んだら考えてやるって」  
 む、と顔を膨らせる少女が可愛らしくて、その頬を突っついてやろうと手を伸ばした。  
 
 
 ……と、まぁこんな訳でね。おはようからおやすみまでいちゃこらべたべた。  
全く暑っ苦しいたらないよ。だから別に暮らしてるの。理解できたら二度と聞かないで欲しいね。  
甘いのは紅茶だけで充分だ。さて、これでこっちの課題はクリアだねぇ。  
ご褒美、期待してるよ?さぞや僕を満足させてくれるんだろうね……?  
 

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