「何か最近、莉奈の様子がおかしいのよね」  
「そう!そうなのよ!」  
いつものタコカフェでなぎさが呟くと、同席している志穂がキノコヘッドをぶんぶんと振っ  
て、同調した。近ごろの莉奈は、授業中でも教室の窓から外をぼんやりと眺めては、た  
め息をついている事が多い。志穂はなぎさよりも莉奈に近い存在なので、その異変にい  
ち早く気づいていたのだ。  
 
「何か悩み事でもあるのかなあ」  
志穂には思い当たる事がない。それは、なぎさも同様。それほど親しくないほのかは、門  
外漢に近い。三人は莉奈を案じ、言葉を失った。  
「莉奈に直接聞いてみようか」  
直球勝負が信念のなぎさは、まわりくどい事が苦手である。殴ってでも聞く。そんな考え  
しか思いつかなかった。しかし、志穂はそれを真っ向から否定する。  
 
「莉奈、意地っ張りだから、無理強いすると逆切れしそう。もっと、穏やかにいこうよ」  
「それもそうか。あたしはどうしても、力に頼っちゃうんだよなあ」  
「だからなぎさは藤P先輩と、濃密な関係になれないのよ。駄目P」  
「マンモス悲P・・・」  
志穂となぎさのダブルボケ役による漫才を見ながら、ほのかは思った。やはりツッコミは  
必要である、と。そしてこのメンツでトリオを結成したら、トリオ・ザ・パンティと名乗るべき  
だとも思った。無論、どうでもいい事なのだが・・・  
 
「リンゴをひとつください」  
学校帰りの莉奈は、八百屋に寄ってリンゴをひとつ購入した。そして、その足で山のハイ  
キングコースに向かう。もちろん、彼女の自宅とはまったく方向が違う。はたして莉奈は、  
どこへ行くのであろうか。  
「うふふ。あの子、待っててくれるかな」  
穏やかな傾斜を、莉奈は軽やかなステップで歩いた。いくらか歩いて、到着したのは山の  
中腹にある山小屋。シーズンオフなので、中に人気はない。莉奈はあたりを見回した後、  
そっと入り口の扉を開いた。  
 
「あたしよ、入るね」  
小屋の中に灯かりの類は無いが、莉奈はそこに何者かが居る事を知っている。そして手に  
したリンゴを取り出し、にこやかにこう言ったのだ。  
「風太くん。ゴハン持ってきたよ」  
すると、小屋の奥から小動物らしき物の影が蠢いた。さらにそれは莉奈の前までくると、誇  
らしげに後ろ足で立ち上がった。なんとよく見れば、それはレッサーパンダではないか。し  
かも、今、千葉県あたりで名を馳せている、立つレッサーパンダである。その名は風太。少し  
時流に乗り遅れた感はあるが、可愛いもの好きな人々のハートを掻っ攫った、例の畜生で  
ある。  
 
「リンゴ食べなよ」  
「キュウ」  
莉奈が差し出したリンゴを、風太は齧り始めた。その仕草が愛らしく、莉奈は目を細めて  
見つめている。  
 
「おいで」  
莉奈が手を伸ばすと、風太は何の躊躇も無く彼女の胸の中へ収まった。普通、この  
手の動物はあまり人に慣れないのだが、莉奈は特別のようだ。風太はそのふっさり感  
漂う体を、安心して女子中学生の腕に預けている。よほどの信頼感が無い限り、こうは  
いかないだろう。  
 
「カワイイ!うふふ」  
莉奈は先日読んだ東スポの見出しを思い出していた。  
 
『風太くん、ストレスのあまり家出。捜さないで下さいと置き手紙。動物園もびっくり!』  
 
この記事が出た後、莉奈はこのレッサーパンダと出会っている。場所はゲームセンター  
のプリクラの前。そこは動物園からほど近く、状況から考えて彼が風太くんである可能性  
が高かった。そして莉奈は、風太くんを保護することに決めたのである。  
 
「そろそろ帰らないと・・・また来るね」  
「キュウ」  
いい加減撫で倒してから、莉奈は山小屋を後にした。もう、山にも街にも日が落ちかけて  
いる。急がなきゃ、と小声で呟いた後、莉奈は山を降りていった。  
 
街に夜の帳が下りても、莉奈は家に帰らなかった。今、彼女は路地裏で、くたびれた中  
年男に声をかけている最中である。  
「ねえ、三万円でいいんだけど」  
「高いな。本当に中学生かい?」  
「本当よ。これでも、ベローネ学院の生徒なんだから」  
莉奈は生徒手帳を取り出して、男に見せつけた。紛う事無く、気高き私学の名が刻まれ  
ている。  
 
「おお・・・それなら、高くないかな」  
「でしょう?三万円で本物の女子中学生が抱ければ、安いもんよ。ねえ、行こう」  
男の顔色が変わるのを見て、莉奈は腕を組んでやった。こうなれば、男はもう落ちたも  
同然。行く先は、安ホテルである。  
「莉奈ちゃんだっけ?制服は持ってないの?」  
「コインロッカーで着替えてきちゃったから・・・ごめんね」  
莉奈は私服姿で、いつもは二つに結っている髪を下ろしていた。そのせいか、年齢よりも  
大人びて見える。それでも莉奈が可愛い少女には違いなく、鼻の下を伸ばした中年男の  
欲情を焚きつけるのには十分事足りた。そうして、親子ほども年の違う二人がホテルのネ  
オンの下をくぐったのは、交渉が決まってからわずか五分後の事だった。  
 
「まず、お風呂入ってきて。不潔な人、嫌いよ」  
「ああ。ちょっと、汗を流してくる」  
男を浴室へ遣り、莉奈は着ている物を脱ぎ始めた。まずはキャミソール。そして、イオンで  
買ったスカートとソックスも脱いだ。生活臭溢れる装いだが、世間にはそこに萌えツボがあ  
ると信じる向きも多い。スーパーの広告に載っている美少女モデルに萌えるのは鬼畜か。  
そんな議論が、今、秋葉原界隈では良く行われている。本当にどうでも良い話だが・・・  
 
(あんなオッサンにやられるのか。嫌だな)  
ブラジャーに手をかけたとき、莉奈はため息をついた。しかし、思い直すように頭を振って、  
(これも、風太くんのため・・・頑張らなくっちゃ)  
そう心の中で呟くと、細身の体に不似合いな豊かに実ったバストを露出していった。  
 
「莉奈ちゃんもおいでよ」  
「はーい」  
シャワーを浴びている男に呼ばれ、莉奈はショーツを脱ぎ捨てた。お金のため。そう割り切  
って男に抱かれるのだ。莉奈は、それが悪い事だという認識をしている。しかし、風太のエサ  
代の事を考えると、お金が欲しかった。莉奈の決められた小遣いでは、すぐに限度が来る。  
そうは言っても、中学生を雇ってくれるバイトなどは無い。じゃあ、どうすればいいのか。  
 
援助交際という名の売春行為──莉奈は迷わなかった。  
 
「入りま〜す・・・わあ、おじさんのおチンポ、大きいね」  
「そ、そうかな?実はおじさん、女房以外の女を知らなくて、これが大きいのかどうかが分か  
らないんだ」  
莉奈を中学生と知ってて買った男の男根はすでに大きく反り返り、ぎりぎりと張り詰めていた。  
汚らしい──莉奈は一見して、そう思った。  
「莉奈ちゃんのココ、つるつるだあ・・・。ちょっと触っていい?」  
「いいけど、指を入れないでね。乱暴にすると、帰っちゃうんだから」  
莉奈の恥丘は無毛だった。本当はもう生えているのだが、水泳の授業が始まった時、志穂と  
ふざけてて若草を剃り落とし合ったのだ。それ以来、莉奈はここを剃りあげる事にしている。生  
えかけの恥毛はチクチクして煩わしいし、何より商売の邪魔になる。今の莉奈は、娼婦でもあ  
るのだ。恥毛の手入れは、案外面倒くさいのである。  
 
「あん・・・おじさんの指使い、エッチすぎ・・・」  
「莉奈ちゃんのココ、柔らかいね。色も綺麗だし、女房とはえらい違いだな」  
男が花のつぼみのような莉奈の割れ目に指を這わせた。薄桃色のつぼみは指に刺激  
され、うっすらと色づき始める。莉奈は立ったまま、肩幅くらいに足を開いた。  
 
「クリトリス・・・すごく感じるの」  
「いじっていいんだね?」  
男の指が割れ目をこじ開け、肉真珠が眠る包皮を剥きにかかった。莉奈はその瞬間、軽  
い眩暈を感じた。ここを責められると、体の奥にある芯のような物が蕩けていくような気が  
する。莉奈は、それを人が理性を失っていく過程だとは、まだ知らない。  
「アア・・・」  
浴室はガラス張りになっていた。莉奈はベッド側のガラス面に手をつき、尻を高く上げる  
姿勢を取った。目は流し気味に男を誘い、切なげに潤んでいる。  
 
「おじさん、クリちゃん引っ張っちゃ、いやァ・・・」  
「ふふふ・・・莉奈ちゃんは、本当に感じやすいんだね」  
摘まれるというよりは、扱かれてる感じだった。莉奈のクリトリスは充血し、膨らんでいた。  
そのせいで女肉がほころび、二枚貝の口が開いてしまう。  
「パックリ開いたぞ。莉奈ちゃんのオマンコ丸見えだあ」  
「い・・・いやあ・・ん」  
男はクリトリスをいたぶりながら、肉のフリルも掻き分け始めた。まだ型崩れの無い莉奈  
の女穴は、並みの女性よりもやや下つきである。それを見た男が猛々しくなった。  
 
「もう我慢できん。莉奈ちゃん、いかせてもらうよ」  
「あっ、待って!コンドームを・・・」  
言い終わる前に、莉奈の体はズーンという衝撃に見舞われた。男が無理強いをしてきた  
のである。  
 
「おお・・・いいぞ。キュウキュウ締めつけてくる・・・」  
ゆさゆさと男が腰を振った。男根をねじ込まれた莉奈は顔を歪め、必死に懇願する。  
「お願い!避妊しないと危ないの!ああ・・・」  
「大丈夫さ。私は、種が薄いんだよ。妊娠なんて、しやしないさ」  
男は莉奈の手を取り、まるで手綱を絞るように引いた。そのため莉奈の背は反り、取り押  
さえられた暴れ馬のような姿となる。  
 
「良い格好だ、莉奈ちゃん。じゃあ、動くよ」  
「おじさん、お願い!生は嫌ァ・・・」  
「こんないいオマンコ、生でやらなきゃ罰があたるってもんだ。さあ、いくぞ」  
ぺたん、ぺたんと汚らしい中年男の玉袋が莉奈の桃尻を叩いた。犯されている。莉奈は  
うなだれ、涙をこぼした。  
 
(お金のためよ、風太くんのため・・・)  
肉襞を捲られるたび、男に憎しみが沸く。それを紛らわせるために、莉奈は風太の事を  
想った。彼のためなら、この身を汚しても──莉奈は母性本能が強いタイプだった。  
(ちくしょう、このオッサン、早く終われよ!)  
声にならない叫び。結局、莉奈は男が果てるまで、呪詛の言葉を心の中で放つのであった。  
 
一方、同じ頃の美墨家。  
「おーい、なぎさ。東スポ読むか。今日は巨チン軍と阪チンのドーム決戦が一面に載っ  
てるぞ。ドーム(どうも)すいません、なんてな」  
風呂上りの岳は、全裸のままなぎさに東スポを手渡した。ぶらり日本旅。岳の股間は、  
どことなくそんな主張をしているように見える。  
 
「やだ、お父さん!ちゃんと前を隠してよ〜・・・王様のブラチンが丸見えよ」  
「悪い悪い。アイムソーリー、ヒゲソーリー・・・そうだ、ママ。ひげそりあったかな」  
幸四郎パパに謝れ!ちょっと行き過ぎな感じの親子である。そんな経緯で譲り受けた  
東スポになぎさは視線を落とすと、二面目のベタ記事に注目した。  
   
『風太くん、帰る。ご迷惑をおかけしましたと、今度は逆立ちを披露。関係者は、風太くん  
の中身がロボットではないかとの疑念を持つ』  
 
「ふ〜ん。風太くんが帰ったんだあ」  
どうでも良い。なぎさはさっそくエロページへとダイブした。男センの所である。なぎさは  
このページが好きだった。  
「うひょ〜・・・今日も、エロ記事満載!」  
AVの紹介に始まり、風俗探訪。これだから、東スポはやめられない。男の中の男がス  
ポニチや中日スポーツに手が出ないのは、このためである。なぎさは東スポを買ってくる  
父親の逞しさが誇らしかった。  
 
「何々・・・倦怠期を乗り切るための秘訣は、SMにあり、か・・・あはは、莉奈がこれ見たら  
喜ぶだろうな。あの子も東スポ好きだから」  
誰の目にも怪しく映る根拠の無い精力増強法や、まじないのような女性攻略法。これぞ東  
スポ。なぎさは十分に紙面の内容を堪能し、新聞を閉じた。思わず莉奈の名前が出たのは、  
やはり気にとめているからだろう。男勝りだが、なぎさは友達思いの優しい子なのである。  
そして、当の莉奈はと言うと・・・  
 
 
「ちくしょう、あのオッサン・・・三回も中出ししやがって」  
ホテルを後にした莉奈は、もう一度山小屋に向かっていた。あのおぞましい中年男に抱かれ  
たら、無性に風太に会いたくなったのだ。手には好物のリンゴと桃屋のラッキョウ。念のため  
に言うが、この組み合わせに意味は無い。なんとなく思いついただけである。  
「風太くん!」  
莉奈は山小屋に着くなり、扉を開けた。が、しかし、そこに風太の姿は無かった。  
「あれ・・・?どこへ行ったんだろう」  
小屋の中に差し込む月明かりだけを頼りに、風太を探す莉奈。しかしその姿は見つからず、  
代わりにこんなメモ書きが残されていた。  
 
『僕、動物園に帰ります。ゴハンくれてありがとう、莉奈ちゃん。いつか、僕を訪ねて来てね。  
その時は、空中モランコ(組み体操でいう所のサボテン)でお出迎えします。 風太』  
 
「風太くん・・・そうか、帰ったんだね」  
文字が涙でにじんで見えなかった。莉奈はこれでいいんだと、自分に言い聞かせる事にした。  
その方が風太は幸せになれる。そう思ったのだ。  
 
「さよなら、風太くん。絶対、会いに行くよ」  
これにて、  
 
『涙のお別れ 莉奈のチンポコ物語』  
 
終わり。  
 
 
 
 

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