ぼんやりと、彼の顔を見ていた。
「美希?どうかした?」
少し首を傾げて、こちらを伺ってくる。その瞳を覗く内に、勝手に言葉が零れた。
「あなたは、私のことすぐ『美希』って呼んだわね」
「……みきたん、の方がいいわけ?僕は構わないけど」
自分のあだ名を持ち出されて、少し顔を顰める。そんな呼び方は幼馴染だけで充分。
「違うわよ。ほら、せつな達の話」
彼の同胞達。こっちでは『東せつな』と『西隼人』。あっちなら『イース』と『ウエスター』。
彼も含めて、呼ぶ名前は姿に合わせているのが常だったのだが。
二人に限ってはその限りではないようで。
「ああ。ま、あっちはねぇ。なんか照れるんだってさ」
まあ場所考えて欲しいけどね、と彼はぼやく。
「ふうん」
「気のない返事だねぇ。キュアベリーの方が良かったのかい」
もうプリキュアじゃないんだけど。まあ、本質はそっちじゃない、と思う。
「そうじゃないけど。……ごめん、私も良く分からない」
「そ。……僕、気に入ってるしね。君の名前」
予想外の賛辞に、うっかり胸が高鳴る。何これ、ありえない。
「あ、ありがと。理由とか聞いていい?」
「君は僕の希望だから。美希、君がいるから僕はここにいるんだよ」
相変わらず、表情一つ変えずに。しれっとこんなことを言いやがった。
あ、ありえない。彼が、こんな恥ずかしいこと言うなんて。
でも君の手の温もりとかってのも相当恥ずかしいわよね?
あーもう、頭の中ぐちゃぐちゃあ!!
ぐちゃぐちゃの頭では、まともな答えも出てきやしない。
「え、あ。ええっと」
「顔、赤いよ?」
頬っぺたを撫でると、少女の火照りに青年は目を細めた。
「知らない。瞬のばか」
「知ってくれないと困るね」
そっと、唇が耳を掠めた。
その事実に数十秒ほど掛けてやっと理解した美希は、ますます混乱の渦中へ叩き込まれるのだった。
「っ……!?」
「耳まで赤くなった」
「……誰のせいよ。TPOくらい弁えてよね……!」
TPO、と言ってもここは美希の私室で、母親は出張で明日の夜まで戻らない。
そんな状況で、狼を招き入れたうさぎさんがどうなるかは、想像するまでもない。
「だって、仕方ないじゃない。そんな可愛い顔されちゃあ、ねぇ?」
「ん、なっ……う……うぅ」
何とか文句を言おうとしても、空回りしかしないのだった。
「変な声出すねぇ。あんまり刺激しない方がいいよ」
「し、っえ?」
思わず顔を上げると、相変わらず近くに彼の顔がある。でも、さっきよりずっと近くない?
「ほら。隙だらけみたいだし?」
「ゃっ……は、離しなさいよ」
肩に何時の間にかまわされた手で、閉じ込められていた。
「無理」
「なんでよ!」
「美希は、こうされるの、嫌?」
小首を傾げる。こういう仕草は、ひどく子どもっぽい。
「あ、あたしのことは今はいいでしょ……ッ」
「君が、本当の本気で嫌なら。もう何もしないよ?でも、そうじゃないなら覚悟してくれる?」
首を傾げたまま、にやぁっと嫌な笑みを浮かべて。私をどんどん追い詰めてくる。
「ばか。しんっじらんない」
「同感だね」
苦し紛れに毒づいてみれば、自分のことなのに同意してきた。
「何よ、それぇ……」
「こんなになったのは君のせいなんだから、ちゃんと責任とって貰うよ」
何という厚顔無恥。何でこんなのに私は……!
「……あー、もぉっ!瞬!こっち向きなさいっ」
「うわ」
がつん、と口に痛みが走る。
「……ふん、隙だらけなのはそっちもじゃない」
鉄の味がするキスだった。
「あーあ。挑発に乗ってくれちゃって。もう逃がしてあげないよ」
「望むところよ。あたしは、完璧なんだから」
女の人みたいにきれいなのに、やっぱり男の人で。
てのひらは大きくて、ちょっとひんやりしている。その指が、少女の身体を走っていく。
「……っ、ふぅ……」
思わず漏れそうになる声を、美希は必死に噛み締める。
「さすが、傷一つないね」
「ん、当然、でしょ……仕事、あるし」
視線を彷徨わせながら、適当な答えを呟いた。
「プリキュアの時受けたのは?」
「あれは……よくわかんないけど、多分ブルン達がどうにかしてくれてたのが大きいんじゃない」
「ふうん。僕の付けた傷も残ってるかと思ったけど」
ぽつんと零れた言葉に、美希は少しだけ顔を顰めた。
「……昔のこと、気にしてる?」
「ううん、傷物にしたら。責任取らなくちゃいけないんでしょ?」
「え、っぁ……!」
ふに、と胸を突っつかれて身体が震えた。
「ま、現時点で唾吐けてるんだから、一緒かな?」
「変なこと、ばっかり言わないで……っくぅ」
僅かに走る痛みに視線を向けると、肌に赤い点が付いていた。
「き、キスマーク、ね」
響きが恥ずかしくて視線を逸らす。
「あぁ、君モデルだったっけ。あんまり目立つとこ、まずい?」
「ん……でも、つけるんなら……えと、す、好きにしたら」
「なら美希も僕につけてね」
この返答である。オプションにスマイル付き。
「え、ええっ」
「嫌?」
「う、や。やじゃ、ない……けど」
だけど恥ずかしいんだってば!
「じゃあ、約束」
手が下へ降りて、あっさり服を取り払われる。
所謂、生まれたままの姿ってやつ?あ、上は着てるから違うのかな。
美希が、そんなことをぽやんと考えていたその時だった。
「うひゃぁっ!?ちょ、ちょっと!」
異物感に、カリスマ読モと言えどもあられもない悲鳴を上げてしまう。
「どうかした?」
「どっ、どうかって、あなた、何してんのよ!」
「舐めてんの」
彼は、やっぱり何時もどおりの顔で。少女の太ももをぺろりと舐めた。
「ひあ、な、なんで舐めるのよ!」
「さぁね」
ぞんざいな物言いで、さらに下へ。え、そ、そこも……!?
「そ、そんなとこ……舐めて、楽しいの?」
「君以外には出来ないよ」
「ぁふっ、ん、そ、そう」
ささやかな優越感に、つい頬が緩む美希だった。
「君も、存外素直だねぇ」
「な、にがっ……んぁっ」
熱い舌が、ぐちゃぐちゃと掻き回して声が高く、部屋に響く。
「嬉しそうでなによりだってことだよ」
見透かされた。悔しい。でも、否定できないのがもっと悔しい。
「よ、よろこんでなんか……やぁん」
「ほら?こんなになって。他の奴には見せないでよ」
「あ、あなたにしか、こんなっこと、させてやらないんだからぁ……」
「光栄だね」
青年の唇が、優しく触れて。少女の胸が高鳴った。
「さて。ちょっとやり難いかな」
少女の片足を持ち上げて、自分の肩に掛ける。
「っひや、やだ、恥ずかしいっ。下ろしてぇッ」
「今更だと思うけど」
散々舐められ弄られた。でも、生娘にとって恥ずかしいものは恥ずかしい。
「こっちのほうが結局楽だよ」
「え、あ、ちょっと待ってっ」
「むーり。入れるよ」
「……んっ」
ぎち、と何かが入ってくる。ぬるぬるしてても、やっぱり痛い。
「んっ……っく、うぁあ……ッ」
「痛い?」
「あ、当たり前……っいああ!」
身体の奥で、何かが破れる音がした。そして、傷を更に抉るような衝撃。
「ごめんね」
「謝らないでよ、ばかぁ……っ」
ひっぱたいてやろうとしたけど、身体に力が入らない。
「んっ、ぁ、くぅ……」
「美希……」
髪を撫でててくれる手が冷たくて、気持ちいい。
歯を食いしばりながら、彼にしがみついた。
「全部入っちゃったね」
「え、あ……うわ」
思わず下を見て、赤面せざるを得ない。
「うわって何」
「や、だって……うわぁ、すごーい」
どこか無邪気な感想に、邪気まみれの青年も少しだけ毒を抜かれたようだ。
仕方なさそうに苦笑を浮かべて、大事なお姫様にお伺いを立てた。
「あのさ、そろそろ動いていい?」
「あ……」
漸く、状況を把握して、少女は青年に向き直る。
「まだ痛かったりする?」
「ん、さっきよりは。うん、平気。……ねぇ」
「ん」
視線が合う。彼の瞳には、自分だけが映っていた。
「手。繋いでもいい?」
「いいけど」
「もう、離さないでね」
初めて、手を握った時。まだ敵で、でも分かり合えた。
喜ぶ暇もくれなかったけど、だから今触れられることが、嬉しい。
「嫌がったって離してやらないよ」
「こっちの台詞よ、ばか……ぁっ」
きゅ、っと私の中を彼が満たしていく。
「そろそろ始めようか。君も興奮してるみたいだし」
「だ、だれ、がぁっ……あ!だめ、ひぁうっ」
少し強めに掻き回されて、それだけで身体が悲鳴を上げた。
「っひあ、あ……ああ、やだぁ、変なこえ、ばっかり出て……ッ」
「僕は聞きたいけどね」
口を押さえようとした少女の手は、相方と同様に青年に絡め取られた。
「は、恥ずかしいの……っ。あん、やぁ、またぁっ」
「他に誰もいないのに。ならもっと恥ずかしいこと、してみる?」
「え?っはぁん、な、なに?ひゃああんっ」
恥じ入る表情をもっと見たくて、誘いを掛けたが、彼女の処理能力はすでにオーバーヒート寸前。
「……まあ。応用編は次のお楽しみかな」
更に強く、打ち付ける。
「きゃうっ、あ、いっぱいはい、ってぇ……ああ!やぁあっ」
強い刺激に、思わず零れた彼女の涙を、舌で掬い上げる。
「ん。瞬っ……瞬……っ」
名前を呼ばれるのが、こんなに嬉しいなんて、知らなかった。
「美希。……すきだよ」
「ぁ……しゅ、んっ……ふあっ……!!」
意識が吹っ飛ぶ寸前に、少女は唇を重ねた。
最後に彼の顔を拝んでやれないのが残念だった。