蒼乃美希、14歳。目が覚めたらラビリンスに居ました。  
「……え?何?夢?」  
「やぁ、おはよう」  
「しゅ……あ。サウラー」  
 聞き覚えのある声に、美希が顔を向けると、実にリラックスした表情のサウラーがソファにくつろいでいた。  
 
「なんか、身体が動かせないんだけど」  
 彼に近寄ろうとしても、何故だか身動きが取れなかった。  
「そりゃ手錠ついてればねー」  
 彼の言葉に、視線を上に向ける。  
頭の上ではっきり見えないが、確かに手首を押さえる金属の感触がそこにあった。  
 
「何。これ」  
「手錠。まぁレプリカだから痛くはないと思うけど」  
「そういう問題じゃないでしょ!」  
「まあいいじゃん。気にしない気にしない」  
 仕掛けておいてこの言い草。さすが知性が武器の策略家、とでも言ってやるべきだろうか。  
 
「それにウエスター君たちに比べたらずっとソフトだよ」  
「……どういうことよ」  
 たち、という単語に引っ掛かり、美希は青年に詰め寄った。つもりで、動けはしなかったが。  
「鞭はベタだよねぇ」  
「えぇっ!せ、せつな大丈夫なの?」  
「いやぁ、ご機嫌でスイッチオーバーして女王様だったよ」  
 
 振るう鞭はしなやかに。  
「ねぇ。ホントにこんなことがいいの?」  
「ぅがっ……あ、もう無理だってイースぅ」  
「情けない声ねぇ。ほら、元気出しなさいよ!」  
「っぁくうう!」  
 まるで、腕と繋がっているかのごとく、縦横無尽に駆け巡る――。  
 
「ってせつなが攻めなの!?」  
「や、最終的には逆転してめちゃくちゃ啼かされてた」  
 さらりと告げられた友人のベッド事情に、美希は眩暈がした。  
「……あなた達、プライバシーとかないの?」  
「だって両方から自己申告されんだもん」  
 彼には珍しい、むくれた顔をする。  
「せつなもなの……」  
「あいつ絶対僕のこと男として見てないからね。こっちもお断りだけど」  
 
「さてと、そろそろ始めようか」  
 そう言い終わるよりも早く、サウラーは美希の足を思い切り広げた。  
 
「っやああっ!やだ、何て格好させるのよーッ!!」  
「だってこんな時でもないと拝めないじゃないか」  
 いやあ絶景かな、とかなんとか緩んだ顔で呟く彼に、彼女は恥じらいと怒りをブレンドした叫びをぶつける。  
「やだってば!っこの変態!鬼畜サウラー!」  
「え?もっと鬼畜になれって?」  
「いってなぁあいー!!」  
 
 少女の嘆きは、取って置きのディナーを目前にした青年には届きはしない。  
「んぁっ……」  
 美希の下半身に電流が走る。青年の舌が、少女の内へ忍び込んできたのだ。  
「は……ぅっ」  
「何だ、口で言う割りにもう濡れてきてるじゃないか」  
「ちが……ぁあ、やっ」  
 
 青年の言葉通り、美希の身体は既に受け入れ態勢が万全に整っていた。  
何しろ久方振りの逢瀬だったのだから、どんなやり方でも、結局彼女は彼に触れられたくて仕方がなかった。  
 
「ぁ……さう、らぁ……」  
「何ー?」  
 彼の発した声が、少女の敏感な部分をしっかりと刺激していく。  
「ひゃぅっ……ん、そ、そこで返事しないでぇ……っ」  
 勿論、彼は分かってやっている。  
「どうして?感じてないなら、もっと弄ってやらないと。気持ちよくなれないよ?」  
「っっあ!や、舌あつ……っ、だめぇ。ら、めっ!やだぁ……」  
 
 青年に翻弄され、遂に涙が零れ落ちる。それを見て、彼もほんの少しだけバツの悪い顔をした。  
「……そんなに、嫌かい」  
「さ、サウラー?」  
「無理に連れ込んで、好き勝手されるのはさすがになしか」  
 サウラーは身体を起こすと、少女から離れた。  
拘束を解こうと、手を伸ばした……が、美希の小さな問いかけに、それを遮られた。  
 
「き、嫌いに……ならない?」  
「え?何の話?」  
「だから。私のこと、嫌わない?」  
「何で」  
「だ、って、こんなみっともないの、全然、完璧じゃないもの」  
 
 その言葉に、つい青年は吹き出した。  
はらはら落ちる涙を掬って、少女に唇を寄せる。  
「馬鹿だなぁ。好きだからこうしたいのに」  
「ふぁ……い、今そう言うの、ずるいっ……」  
「ずるくて結構。僕、君を捕まえておくためなら何でもできるみたいなんだよね」  
「は、あ?な、何言ってんのよ……!」  
「いやー、初恋ってのは厄介だね!」  
 
 彼らしからぬ言葉の羅列に、美希は咄嗟に聞き返した。  
「え?今、初恋って」  
「うん」  
「そう、だったの?」  
「だって、ラビリンスには必要なかったから」  
 
 必要のない、感情。いや、感情そのものが欠落した世界で、彼……彼らは生きてきた。  
当たり前のことだったのに、美希は知れずそこを抜かしていた。  
きっと、それは。  
「そ……っかぁ」  
「美希?」  
「ねぇ、もし……もしも、あの時あそこにいたのが、せ……イースだったら、彼女を好きになってた?」  
「何、言ってんの」  
 
 彼にとって、それは意味のない仮定だった。  
僅かに苛立ちが胸に湧くが、それよりも少女の動向が気がかりで、それを内へ押し込める。  
「あなたが私を好きって言ってくれるのは、嬉しいの。私も……あの、好きだと思う」  
「ん……」  
 曖昧に頷く。  
「でも、やっぱりイースやウエスターと一緒にいる方が、楽しそうだし……あんまり、逢えないし」  
 少女は被りを振って、自分を抑えようとした。  
だけど、漏れた言葉は、滝のようにそれを押し流してしまう。  
 
「仕方ないのは分かってるの。私の我が儘だって。だから……怖いの」  
「何が?僕?」  
「……私自身が。あなたのことしか、考えられなくなりそうで。  
もし、逢えなくなったら、とかそんなことばっかり考えて」  
 嗚咽で、言葉が途切れた。青年は、そんな彼女をじっと見つめていた。  
 
「美希。こっち来る?」  
「……うん」  
 サウラーは黙って美希の拘束を外して、そのまま腕を引いた。  
柔らかな感触を、しっかりと抱きしめる。  
「僕は君のものなのに、何でそう変にネガティブかなぁ」  
「……あなたはものじゃないでしょ」  
 くぐもった声は、先程よりいくらか力が宿っていた。  
「っはは、いいね。何時もの調子、出てきた」  
 
 腕を緩めて、少女の頬を両手で挟む。  
結果、二人の視線が絡み合った。  
「それにね。僕、そのうちそっちに移るから」  
「え……四ツ葉町に、来るの?」  
「うん」  
「……何で?」  
 
 サウラーは、一層笑みを深くした。  
「イースとウエスターがTPOクソ喰らえでいちゃつかれるのがマジうざい」  
「そ、そんな理由……」  
「あとは君と一緒」  
「え」  
「もっと一緒にいたい。いつも隣に居て欲しい。ラビリンスは大事だし、シフォンには悪いけどね」  
 
 そこで一旦言葉を切り、真正面から少女を見つめた。  
「もっともっと大事なもの、見つけちゃったから」  
「サウラー……」  
「まとめると。君が欲しいから、代わりに僕を貰ってくれないかな、って話」  
 そこで真顔の仮面を外して、嫌みったらしい笑顔に切り替えた。  
 
「何、それ……あなた、やっぱり馬鹿だわ」  
「嫌とは言わせないよ?」  
「……ばか」  
 
 彼の胸に、顔を埋めて。少女はおずおずと顔を上げると、そっと触れた。  
「……ん」  
「私の、でしょ?これ、印だから。それだけ、だからね!」  
 鎖骨の下に、うっすらと付いた赤い所有印。  
こんな状況でも意地を張る少女に、青年も相好を崩してしまう。  
 
「なら、こっちもお返ししないとねぇ」  
 細い手首を取って、その指先に口付けた。わざわざ左手の薬指に。  
「それ、分かってやってる?」  
「さぁね」  
 
 彼の目の奥が笑っていた。少女はその眼差しに引き込まれて、唇を重ねあう。  
「……は……んぅ」  
 彼の舌が、彼女の口内へそっと入り込んで、掻き乱す。  
「ん、んん……っ」  
 少女もそれに応えようと、舌を差し出す。すぐに絡み付いて、息もできなくなる。  
「……ふ、ぁ」  
 彼が名残惜しげに離れると、開放された唇からは、陶然とした声が漏れた。  
 
「美希」  
 サウラーは彼女の名を呼んで、ソファの上に押し倒した。  
 
「もう一回、キスして」  
 少女の言葉で、すぐに唇が触れ合う。青年は二人分の唾液を舐め取り、頬を撫でた。  
美希が、ふわりと笑う。  
「サウラー」  
「ん」  
「きて」  
 何だかんだで、火照った彼女の身体は、すぐに青年を受け入れた。  
 
「はぁ……っ、あ。ぅあぁん……」  
 突き立てた自身で、少女の内を荒らす。  
美希も、腰を揺らめかせてそれに応える。  
 
「あいっかわらず、きっついねぇ」  
「んっ……知らないわよ、そんなの……っ」  
 ゆっくり、出し入れを繰り返す。その度に、下の彼女は悦びに身を震わせた。  
「ぅあ、あっ、そ、そこ、好きっ……。あっ、ん……っ!」  
 少女がしがみついた肩に、爪痕が刻まれていく。その痛みすら、行為の潤滑油にしかならない。  
「ひゃふあっ、ああん、あ、やだぁ、やらしいよぉ……っ」  
「また今更なこと言うね」  
「だ、ってぇ……っひ、あ、だめ、も……わたしっ」  
 少女の身体が、一際大きく戦慄いた。いい加減限界らしい。  
それは青年も似たようなものだった。  
 
「……出すよ」  
「え?あ。っあ……!や、だめ、いっちゃう……っ、やぁっ」  
「いいから」  
 最後に深く、奥まで一気に打ち付けた。  
「っ!あ、んんっ……うあ――!!」  
 
「それじゃ、そろそろ戻る?」  
 それから、少しだけ眠って。  
二人でお風呂に入って、服を着て。  
髪は、彼が梳かしてくれた。  
「あ、うん」  
「送ってくよ」  
 既に彼は、南瞬の姿へ変わっていた。  
差し出された手に、美希は自分の手を重ねた。  
 
「ありがと」  
「どう致しまして。あ、ついでに挨拶もしとこっか」  
「……?何の?」  
「お義母さんに、娘さんをくださーい。みたいな?」  
「んなっ……もう、瞬の馬鹿っ」  
 
 ぷんすか怒る少女と、口を開けばからかうか皮肉を投げつけるばかりの青年。  
それでも、その手は繋がれたままだった。  
 

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