唇に、なにか柔らかいものが触れた。
昼寝をしていた俺がうっすらと目をあけると、制服姿のせつなが何やら思いつめた表情で俺を見ていた。
(ああ…なんだ、夢か)
せつなのほうからキスしてくるなんてあり得ない。俺はまた目を閉じようとした。
「ちょ、ちょっと!なんでまた寝ちゃうのよっ!!」
「いててててて!!」
思いっきり金の髪を引っ張られて、俺は完全に目を覚ました。
「な、なんだよ?イース…学校は?もう終わったのか?」
「学年末テストの期間だから、午前中で終わりなの。今日が最終日だけど。」
「ふうん、そういうもんなのか」
「…ウエスター、今、少し時間空いてる…?」
「ん?ああ、午後はサウラーに任せてちょっと休んでたんだけど」
俺は頭をさすりながら、むくりと起き上がった。
せつなは、俺のそばにちょこんと座り、ためらいがちに話し始める。
「あ、あのね…あなたと、ちゃんと話さなくちゃと思って…いつまでもこの状態はイヤなの」
「うんうん」
何のことを言っているのかはすぐに分かった。
先日、俺がこいつにちょっかいをかけて怒らせてしまってから、二人の間に気まずい空気が流れていた。
一応話しかけてはくれるんだけど、俺と目を合わせない。俺から目を合わせようとすると顔をうつむかせる。
俺はこいつがまだ怒ってるんだと思って、でも時間がたてば許してくれるだろう、
それとも俺からきちんと謝ったほうがいいのかな、なんて考えていたところだった。
だからせつなの次のセリフに思いっきり面食らった。
「───抱いて」
「はあっ!?」
素っ頓狂な声を上げた俺にかまわず、せつなは俺の右手をみずからの胸のふくらみにあてがう。
(うっ…や、やわらかい…)
制服のブレザー越しでも分かる、久しぶりの感触に俺はくらくらと目眩がしてきた。
そのまませつなは顔を近づけてきてキスしようとしてくる。
「まままま待てっ!イース!というか話し合いになってな…」
「イヤ!もう待たないわ!どうして何もしてくれないのよっ!」
「へ…?何もって…なんのことだ?」
「いちいち聞かないでよっ!!もう…っ!なんでそんなに鈍感なのよ!ばかばかばかっ!!」
「いや…あの…とにかく落ち着けってば」
俺はせつなの手首を掴み、顔を覗き込んで尋ねた。
「ホントに分からないんだ…俺は馬鹿だから。分かるように話してくれないか?」
「……っ」
せつなは目のふちを赤く染めながら息を呑んだ。
「………しかったの」
「え?」
「嬉しかったのっ!あ、あのとき…わたし…」
あのとき?
顔を真っ赤にしてうつむいているせつなを見て、あ、と思い立った。
「あのとき…って、あのとき…か?」
「だから!いちいち聞かないでって…!」
「嬉しかったって…嘘だろ!?だっておまえ、あのとき泣いて嫌がってたじゃねえか!」
「や…だっ!なんでそうなるの!?本当にイヤだったら最後まで抵抗するわよ!アカルンで逃げてるわよ!
なんでそんなことも分かんないの!?」
「分かるかよ!それに、俺のこと見もしないで帰っちまったじゃねえか」
「よく考えてよ!わたし達敵同士だったじゃないの!あのまま一緒にいられるわけないでしょう!?
もう…あのときわたしがどんな思いで…っ」
せつなはうなだれて膝の上に置いた拳をわなわなと震わせた。
「えっと…だったらなんで今まで黙ってたんだよ」
「皆のいる前でこんなこと話せるわけないじゃない!」
「あ…」
そうだった。戦いが終わってから、こいつはひとまずラブと一緒に桃園家に帰り、俺はラビリンス本国か
カオルちゃんの家のどちらかで生活していた。
せつなと会うとき、いつも周りには瞬やラブ達がいて、長い時間二人きりになったのは、
先日コロッケを作ったときが初めてだった。
「二人きりになれば話せると思って…必死で計画立てたのに…帰れとか言うし…
…チョコだって、ラブに教わって精一杯頑張って作ったのに…」
「ああ、あれ、やっぱり食べちゃダメだったんだな、ごめ…」
「ち、が、う、の!…もうやだ、頭混乱してきた」
俺だって頭がこんがらがってるんだけど。
せつなは額に手を当てながら黙り込んだ。
「…つまり、俺は勘違いしてた、ってことなのか?」
「そうみたいね」
「でもさ、おまえ、あんなことはもういやだ、って言ってたじゃないか。
俺はずっと、おまえが嫌々俺の相手をしてると思ってたんだけど?どういうことなんだ?」
「そ、それは、その…『任務』でそういうことするのがイヤだ、っていう意味で…あ、あなたがわたしのこと……」
「???」
「と、とにかく!今はイヤじゃないの!」
「嫌じゃない?」
「イヤじゃない…もう、お願いだから全部言わせないで」
全部言ってくれないと理解できないんだけど、と口にしようした瞬間。
細い腕が俺の首に巻きついてきたかと思ったら、唇を、塞がれた。
あ…さっき昼寝から覚める前に触れていたのはやっぱりこいつの唇だったんだな、とか考えてたら。
せつなのほうから舌を入れてきたので、俺はものすごくビックリした。
(う…わっ、なんでこいつこんなに積極的なんだ?)
驚きながらも、せつながこんな風にしてくるのは嬉しいと思った。舌を軽く噛んでみる。
「ん…んんっ」
せつなの小さな肩が、ピクピクと震える。
しばらく舌を絡めてから唇を離すと、俺の目の前に口を半開きにして目をとろんとさせた女がいた。
その悩ましげな表情を見て、俺の背筋にぞくりとしたものが走る。
彼女の着ているものが、中学の制服だったからだ。
ラビリンスの幹部だった頃、こいつは成人と同じ扱いを受けていて、俺も彼女とは同等の立場だと認識していた。
だが、あのお調子者でガキっぽい桃園ラブとお揃いのこの服を着ているときだけは、
俺はせつなのことを「子供」としてしか見られなかった。
桃園家の養女、ラブの親友で姉妹、真面目で礼儀正しい四ツ葉中学校の生徒(とラブが言ってた)
その彼女が、俺の前でだけ、以前のような「女」の顔を見せている──
「…!は…っ…」
せつなが、苦しげな声を上げた。
その華奢な体を、俺にぎゅっと力強く抱き締められて、息が詰まってしまったようだ。
「…ったく、ホントに、なんで早く言ってくれなかったんだよ…
俺、我慢してたんだぞ、ずっと、おまえにこうやって触りたかったのに」
するとせつなは体の力を抜き、安心したように溜息をつきながら囁く。
「よかった、…あのね、わたしも変な風に勘違いしてたみたい」
「勘違い?おまえが?なにをだ?」
「……わたしが、さ、サウラーとも、その…してたから、イヤなのか、とか」
「は…?何言ってんだよおまえ」
俺は呆れて腕の力を緩め、せつなの顔をまじまじと見る。
「だって…いろいろ考えてるうちに、そう思えてきちゃって…」
そりゃ確かにこいつがサウラーとも関係があったことを気にしてないといえば嘘になる。
まあすごい気にはしてる。というか、そのことを考えると今でもはらわたが煮えくり返りそうになるんだがな!
でも、それは別にせつなが悪いわけじゃない。彼女は『任務』に忠実だっただけだ。
辛そうな顔をしているせつなを見ていたら、なんだか可哀想になってきた。
彼女の頭をポンポンと軽く叩きながら優しく言ってやった。
「いいから、そのことはもう気にするな。な?」
「…ウエスタぁ…」
よし、懐の大きい俺かっこいいぞ。
「ホントにイヤじゃないんだな?もう止められないからな」
「……うん」
せつなの潤んだ瞳を見つめ、唇を合わせ、互いに貪る。
彼女の口腔を舌で弄りながら、濃いピンク色のブレザーのボタンを外し、ワイシャツの裾を引っ張り出す。
手を侵入させてみたら、すぐそこには久々の、本当に久々の素肌の感触があった。
「…は、あぁっ……」
ほんの少し手を滑らせただけで、せつなの口から甘い声が漏れる。
(ん…?これ、どうなってるんだ…?)
ふくらみを覆っている硬い布に手をやり、迷っている俺に気づいたのか。
せつなが両手を後ろに回し、ホックを外してくれた。
(ふうん、こうなってるんだ…あいつはこんなの着けてなかったからな)
とにかく、これでようやく直にふくらみに触れるようになった。やっぱり着痩せするよなこいつ。
「あっ!あ…ん!」
すでに硬くなっていた突起を指で弾いたとたん、せつなは大きな声を出す。
(なんだなんだ?やけに素直に声出すな…?)
以前だったら、絶頂に達する直前まで頑なに声を押し殺していたのに。
「や、あ、あ、あっ、やん、ああっ」
二本の指でくりくりと抓るたびに零れる可愛い嬌声に、俺はすっかり興奮してしまった。
と、せつなが俺の腕を両手で掴んだ。
「ん?どうした…って、ええっ!?」
その手をおもむろにスカートの中に誘導してきたもんだから、俺はまた驚いた声を出した。
(一体どうしちまったんだこいつ…それにしても凄いな、もうこんなになってる)
スカートの奥の柔らかい布地は、外から触っても分かるほど充分に湿っていた。
せつなの顔を見る。
彼女は頬を紅潮させ、物凄く恥ずかしそうに目を伏せている。
「そっか…おまえも我慢してたんだな」
コクリと素直にうなずくせつなを、可愛らしい、と感じた。
(あれ?こんなこと、前にもあったような…?まあいいか)
俺は深く考えずに、下着の中に指を入れた。
「ん…!んぁあ……っ、は、あぁっ!」
あんまり濡れてるもんだから、ゆっくり動かしているうちに中指がヌルリと奥に入ってしまった。
痛くなかったかな…?そんなことはなさそうだな、この表情を見るからには。やらしい顔だな。
ちょっとした疑問が湧いてきたので口にしてみた。
「おまえさ…ひょっとして、テスト中にやらしいこと考えてたのか?」
「!……やぁっ…!いわないでぇっ……!!」
考 え て た ん で す ね ?
指の腹で一番イイところをこすってやりながら面白半分に問いかける。
「テスト終わってすぐに、こんなことしてていいのか?…四ツ葉中の、ひがし、せつな、さん?」
「ひゃああぁっ!!や、め…ばかあ…っ」
うわ…今、すげぇ締まった…もっと言ってやったらどうなるかな?
「こんな格好でここに来るおまえが悪い」
「だっ、て、学校から、直接、ここにきたから…あ!」
くにゅくにゅくにゅ。確かここは少し強めにしたほうが感じるはずだ。
「俺とやるためだけにアカルン使って来たんだよな?せつなさん?」
「んあぁっ、や、だ、いま、そのなまえはっ」
……『やるためだけ』っていうのは否定しないんだな?
「なんだよ、おまえが『もうイースじゃない』って散々言ってたからこの名前で呼んでやってんだろ?」
「そ、それとこれとは、はなしがちが…ぅ」
「じゃあなんて呼べばいいんだよ?」
しばらく口を閉ざしたあと、消え入りそうな声でせつなは言う。
「………イース、って、呼んで……」
よし、俺の勝ちだ。何と戦ってるのか俺にも分からんけど。
両手で顔を隠しながら小刻みに震えているせつなの耳元でそっと囁く。
「ゴメンゴメン、あんまりおまえがおもし…可愛いから苛めたくなったんだ…イース」
「!!」
って、こっちの名前でも反応するんじゃないか。
ふっと思いついたことを試してみたくなり、ズルッと指を引き抜いた。
「…っ!!い…や…、…いちゃやだぁ…」
「いやだ。久しぶりなんだから、もっと苛めてやる」
「ふぁ…やっ、おねが…はやく……」
「待ってろ、もっと気持ち良くしてやるから」
ああ、こいつからおねだりしてくるなんて…夢じゃないのかこれは?
せつなをベッドに仰向けに寝かせ、下着を剥ぎ取り、まず膝頭にくちづける。
そのまま唇を蒼白い内腿に這わせていき、中心部へと向かう。
せつなの「唇」にキスしようとしたとき、急に正気に戻った彼女がまくしたてた。
「や、やだ…っ!どこでそんなこと覚えたのよ!」
「え…?だって、向こうにはいろいろあっただろ?本とか映像とか…」
「あ…ああ…?そ、そうよね…」
ホントはサウラーに教わったんだけどな、と俺は心の中で舌を出す。
今あの男の名前を出すのはやめておいたほうがいいだろうと、空気の読める俺は判断した。
(舐めてあげたことはあるかい?すごく悦ぶよ)
三人で洋館に住んでいた頃、サウラーが意地悪そうに言ってきたことがあった。
それを聞いたとき、俺の知らないあいつの姿を知っているサウラーに対して、激しく嫉妬したのを覚えている。
あの二人がどんなやりかたをしてるかなんて俺には関係ない。そう意地を張っていた。
けれど今は、嫉妬心よりも、もっとこいつの乱れた姿を見たい、という欲望のほうが強くなっていた。
(えっと…ここからどうすればいいんだ?まあ、あんまり強くしなければ大丈夫だろう)
薄い「唇」を一枚づつ啄ばんでみる。全体を口で覆う。舌入れたりしてもいいのかな?不思議な味がするな。
「あ…んっ、ん…や…やめて!…やっぱ…り、はずかしいっ」
せつなは力なく俺の金髪を小さな手で押さえつけ、形ばかりの抵抗を見せる。
なんだよ、あの男にはやらせてたクセに。絶対やめてやらねえぞ!
ぷっくりと膨らんだ芽を舌先で突っつき、口に含み、軽く吸う。
「んあ、あ、あ、あ!あっ!ああっ…!!」
ちゅっちゅっとリズミカルに吸っているうちに、鼻にかかった甘ったるい声がいちだんと大きくなった。
可愛い、もっとこの声を聞いていたい。もう一度中指を挿し込み、上の壁を擦る。
耳に入ってくる淫らな声にうっとりしながら舌と指で責めたてていたら。
「んんっ、あっ!だ…め…だめ、だめぇ、だめえぇぇっ!!ひぁあああっ!!」
突然、せつなの全身がビクンビクンと跳ねた。
かと思ったら、俺の頭を掴んでいた手をだらりと落とし、目を閉じてぐったりとしている。ま、まさか…
「…ひょっとして、もう、いっちまったのか?」
「もう…っ、ばか!だからやめてっていったのに…っ」
くっそー!サウラーの奴、いつもこいつのこんな顔見てやがったのか!今度から俺も毎回やってやる!!
と、絶頂の余韻に浸っているせつなの姿を見て、俺はこの上ない罪悪感に襲われた。
ブレザーはほとんど脱げていて、緑のネクタイが半ほどきになっている。
ワイシャツの隙間からちらりと白い腹が覗く。そして──
短いスカートがまくれ上がり、唾液と愛液でつやつやに光っている陰部が丸見えに──
(桃園の親父さん、お袋さん、すいません…お宅の娘さん、すでに半分ほど頂いてしまいました…)
でももう後戻りはできない。俺だって一応健全な男子なんだ。
残り半分を中止するなんて無理だ。今更やめられるか!いただきま、って、あ?
せつなが両手で俺の胸を押しやる。
「制服、しわになっちゃうから…脱がせて?」
「あ、ああ、そうだな」
べ、別に、着たままできなくて残念とか思ってないぞ。
制服を脱ぐせつなを手伝ってやりながら、俺も一緒に長袖のTシャツとジーンズを脱いだ。
そういえばさっきから硬い布が当たって痛かったんだが、せつなを苛めるのに夢中で後回しにしていたんだった。
ハイソックスを脱ごうと脚に手をかけるせつなを制止する。
「それは脱ぐな」
そう要求すると、彼女は少し呆れたような声で言った。
「…ヘンな趣味」
いいじゃねえか、それくらいは俺の好きにさせてくれ。
「どうする?上になるか?」
特に深い意味も無く聞いた。以前はずっとその体位でしてたから、自然にそのセリフが出ただけだ。
でも、それを聞いたせつなは、一瞬何か考えるような表情になる。
そして、乱れた髪をかきあげながら言った。
「…それもそうね」
悪戯っ子のような微笑み。
(あ…あれ?この会話…どこかで…?)
あ、と思い出して、俺はせつなと顔を見合わせた。
彼女はクスクスと笑いながら、俺の額におでこをくっつけてくる。
俺もつられて笑い出し、そのまま唇を寄せ合う。
キスしているうちに、何故だか胸がじんと熱くなってきた。
──銀色の髪の少女はもういない。けれど、あいつはせつなの中で生き続けているんだ。
二人にしか分からない、秘密の言葉を交わしたことで、俺はそう確信した。
俺はベッドの端の壁に寄りかかって座りながら、彼女が上に来るのを待った。
せつなは俺の腰の上に跨り、細い腰をゆっくりと落としていく。
「んぅ…あ…はぁっ」
「苦しくないか?無理するなよ」
「…平気よ、あ、あっ…ん…」
眉をしかめ、快感に耐えている少女。
俺のほうも、彼女によって久々に与えられる快感に、歯を食いしばって耐えた。
ああ、そうだった…こいつの中は、キツくて、熱くて、柔らかくて…
…それで俺はこの女に溺れ、次第に心も欲しがるようになったんだ。
せつなの首筋から乳房にかけて、何度も何度も唇を落とす。
少し強く吸いすぎたらしい。せつなが軽く身じろぎをする。
「ゴメン、痛かったか?」
「ううん、いいの…しるし、つけて……」
透き通るような白い肌に、俺の印がいくつも付いていく。
耳朶を食み、耳全体を舐め上げ、息を吹きかけるように名を呼ぶ。
「イース…イース…」
名前を呼ぶたびに、肉襞がうねうねと淫靡に反応し、俺のモノに絡みつく。
「んっ…ウエスタ、ウエスタ…ぁ」
せつなは俺の首にしがみつき、うわずった声で俺の名を囁く。
月明かりの下で、緋い瞳の綺麗な女を抱いたときの光景が蘇ってくる。
せつなもまた、薄緑の髪の男に抱かれたときのことを思い出しているのだろうか?
思えば、俺はあのとき既に恋に落ちていたのかもしれない。
生まれてこのかた、そんな感情は一切教わってこなかった。今になって、やっと知ることが出来た。
そんな風に思ったとたんに、目の前にいる少女が堪らなく愛おしくなってきた。
そして、今すぐにでも彼女にこの想いを伝えたくなった。
思い立ったらすぐに行動に移したくなるのは俺の悪い癖だ。
言ってしまおうか、前にも伝えてはいるから別に照れることはないよな、なんてあれこれ考えてたら。
せつなが、かぼそい声で俺に懇願してきた。
「おねがい…あのときみたいに…めちゃくちゃにして……」
だーかーらー、そういうこと言うなってば……
「きゃあっ!?」
俺はせつなの体を抱えてベッドに押し付け、正常位の形になった。
もう収まりがつかない。小さな体にのしかかり、彼女の体の最奥まで激しく突き上げる。
「あっ、あっ、そんなっ、おくまで、んんっ、あ、い…い…もっと……」
「イース…ずっと、好きだった…そばに、いてくれ…」
彼女にしがみつきながら想いを告げた瞬間。
「…っ!!あ!ひあっ!あああっ!!い…あああああぁ…!!!」
「うっ…わ!すげ…しまる…っ」
秘肉が急激に蠢き締まり、あっという間に俺の精が搾り取られてしまった。
(な、なんだったんだ?今の…)
あまりに唐突で強烈な快感に絶句しつつ、荒い息を静め、あらためてせつなの顔を見てギョッとした。
彼女の頬が涙でびしょびしょに濡れていたからだ。
「す、すまん、イース!つい夢中になって乱暴にしすぎた!痛かったんだろ!?」
「ち、ちがうの…大丈夫…」
せつなは指で涙を拭い、胸に手を置いて呼吸を落ち着かせる。
そして、赤く腫らした目で俺の目を見据え、はっきりと言った。
「ウエスター、わたしも、あなたのことが、好き。愛してる。離れたくない…」
「…!!イース…!」
「ごめんなさい…わたしのほうから、きちんと言わなきゃいけなかったのにね」
ふふっ、といつものように優しく微笑む。
その笑顔を見ているうちに、せつなの顔の輪郭がだんだんとぼやけてきた。
「やだ…泣かないで…」
涙声でせつなが言う。
馬鹿、泣いてるのはおまえのほうだろうが。
せつなの手がゆるゆると伸びてきて、俺の顔を拭う。
あれ、なんで俺の頬が濡れてるんだ?おかしいな…なんか鼻水まで出てきた。俺、風邪でもひいたか?
ぐすぐすと鼻を鳴らしている俺の頭を、せつなは自分の胸に引き寄せた。
あったかい、やわらかい。とくんとくんと、心臓が脈打っているのが聞こえる。
せつなは俺の金髪に指を入れて優しく梳きはじめる。
なんだか、俺、子供みたいだな…気持ち良いからまあいいか。
「ねえ、ウエスター」
「ん?なんだ?」
「その…元気ね」
「ああ、元気だな」
「…もう一回する?」
「いいのか?」
「…うん」
その後、帰り際に玄関の自動ドアの前でキスしているところを、外出先から戻ってきた瞬に見られ、
ニヤニヤと含み笑いをされたが俺は気にしなかった。せつなは耳まで真っ赤になっていたが。
春。
クローバーの花咲き乱れる丘の上、せつなは四ツ葉町の街並みを見下ろす。
そして、何かを呟いたあと、俺達のほうを振り返る。
一瞬、泣き出しそうな表情になり、でもすぐにいつもの微笑みを見せてくれた。
おまえが何を言っていたか、訊くつもりはない。
きっとそれは、俺達が入り込めない、おまえと四ツ葉町との間の絆を表す言葉だから。少し妬けるけどな。
これからはしばらくこの街には来られない。
寂しくなるときもあるだろう。そんなときは俺が手作りのドーナツを食わせてやる。
心配ご無用、ひそかに当座のドーナツの材料は俺達の家のキッチンに運び込んでいる。
カオルちゃんにコツを聞きまくり、あの味に大分近づけることができた。
懐かしい、四ツ葉町の味。紅茶も淹れて、三人で食べよう。角砂糖は瞬に見つからない所に置いとかなきゃな。
ドーナツを食べて幸せそうに笑うせつなの顔を思い浮かべた。きっと喜んでくれるに違いない。
おまえはラビリンスを笑顔でいっぱいにしたいと言った。
俺は、そんなおまえをいつまでも見守り続けたい。おまえの笑顔と幸せは、俺が、必ず守ってみせる。