通学路  
いつもの帰り道  
春の花が道端に咲き、鳥の鳴き声と共に気持ちいい風が吹く  
車の通りは少なく、咲はカバンをぶんぶん振り回し、ふらふら歩きながらおしゃべりに花を咲かせている。  
カバンに繋がれた花の精ことフラッピは、メリーゴーランドみたいな状態で、うなされて苦しそうな寝息を立てている。  
自分のカバンに繋がれた、鳥の精ことチョッピの穏やかな寝顔に比べると何だか可哀相だ。  
 
「ホンット男子ってああいうハナシ好きだよね」  
「え?何?」  
「私に聞こえるトコでHなハナシしてさ!舞も聞いてた?」  
「ん~…昼休みの?」  
「そーそ」  
聞いてはいたが、内容が難しかったので聞き流していた。  
というよりも、用語や隠語の連発で理解が及ばなかった。  
『やっぱりあれってHな内容なのね。健太君、咲の視線に気付いて耳真っ赤になってたし』  
「いいんじゃない?」  
「えっ!」  
咲が目を丸くして私を見た。丸々してクリクリしている。  
『…まずいこと言ったかしら?』  
変に誤解されてはいけない。もう一度。  
「あの、それだけ異性に対する愛情が深いんじゃないかしら?私たちぐらいの年代だと、普通だと思う…」  
割と率直な意見を言った。  
肝心の猥談の内容は把握してはいないが、男子というのは元来そういうものだろう。  
 
「でもさ、内容にもよるよね!誰が言ってたかは言わないけどさ、U子は毛が~だの。H美は月1回は保健室に~だの」  
…内容を聞いてもピンと来ない。  
少年少女の猥談というのは、表現が遠回しだ。  
そんな話題でも饒舌な咲を眺めつつ、考えにふけった。  
『…咲も、そういう話自体は嫌いじゃないよね。たまに太田さんとちょっとHな話してるのを聞くし』  
口を凄い勢いで回す咲を、頭の中で置いてきぼりにする。  
『咲は、好きな男の人、いるんだろうなぁ。咲と太田さんの話の内容もそんなとこだったし、顔赤くさせてボーッとしてる事多いもの』  
想像は膨らむ。  
『もしその人と付き合いだしたりしたら、こんな風に帰れないよね…。好きな人と一緒に帰りたいよね』  
もう頭は咲一色。  
『咲…』  
「舞…?」  
「ひゃっ!」  
横から咲のどアップだ。  
「どうしちゃったの?顔赤いよ」  
「何でもない。別に何でもないよ!」  
「…もしかして舞って、こういうハナシ、好き?」  
頭の中で鳩がポーンと飛ぶ。  
どういう話の流れでそうなったのか、理解できなかった。  
「べべべ別に!何?」  
多分、今の私の顔は夕焼けに負けないくらい真っ赤だ  
咲はふーんとしたり顔。  
「それに私たちの事まで言ってたんだから。…ふふ」  
最後の笑いが凄く気になった。妙な誤解をされたんだろうかと不安になる。  
「わ、私たちの?」  
色濃い話はまだ続く  
「ホンットにどうしようもないよ!私は毛がホームベースみたいに生えてるとか!舞は、舞はその…舞でもオナニーするんだろうか、とか」  
最後は小声だった。なんだか顔が赤い。  
「え」  
ちょっと黙りこんだ。というより、また考えにふけった  
「ごめん…気悪くしちゃった?」  
「え?ううん、というか、あの」  
「え?」  
「オナニー…?ってどういう意味?」  
「え"っ」  
『あ、また赤くなった』  
 
 
夕焼け空に月が見える  
明日には満月だろう  
 
「?」  
『そんな不思議そうな目でみないでよ…』  
2年も一緒の仲だが、未だにわからないとこもある。  
『舞って結構色ボケというか、とろんと遠い目してること多いし、物知りだし…』  
その手の知識だけなら舞のが豊富と何となく思っていた。行動に現れるかどうかはともかく。  
勝手な妄想だけど、実はちょっとHなぐらいな方が可愛いかな~なんて思っていたりした。  
「保健の授業で習ったよね?」  
「うーん…」  
「別名がマ、マス、マスタード…あれ」  
「マスターベーション?」  
「そう!って声大きいよ舞!」  
「え?ご、ごめん」  
清楚なイメージの舞からそんな言葉が飛び出すと、やはり焦る。  
「でも一応知ってはいるんだ」  
「言葉は授業で聞いたわ。でも詳しくは教えてくれなかったし…その」  
『つまり、その目は私に教えてってことだよね………~~~~』  
「あ、あのね」  
「うん」  
「まあその、好きな人を頭に浮かべてさ、その」  
「うん…」  
なんだか舞の喰いつきが良い。  
潤んだ唇、澄んだ瞳が近くに寄る。震える吐息も感じて、私は引け腰になった。  
「~~…やり方はね!また今度!今度教えるよ!」  
「あ!」  
「じゃあね!舞」  
「う、うん。バイバイ」  
大股走りでその場を去った。  
夕焼けに負けないくらい赤くなった顔は伏せて、全力ダッシュだ。  
 
 
「普通に話すんなら、全然ヘーキなのになァ…」  
話題のチョイスに後悔していた。ついでに、昼休みにずっと聞き耳を立てていた自分にもっと後悔した。  
『教えても良かったけど…舞の反応見て…からかって…真っ赤にして…う…』  
反射的に太股が擦り寄った。  
『…この腰ぎんちゃくと、耳フーセン達を早く寝かして、今日も、しちゃおうかな…っと』  
思春期の体は欲求に正直だ。  
しかし3日連続は流石に体がけだるい。  
授業中も惰眠を貪るようになるが、そもそもそれは日課であったのでオーライとする…。  
 
「何が平気じゃないラピ?」  
「!?」  
耳元、いや腰元から甲高い声で腰ぎんちゃくに不意を突かれた。  
「咲はいつも無遠慮に舞にドカドカ話しかけてるラピ。今更何か遠慮することあるラピ?」  
「あんたね~!いつから起きてたの?」  
「咲が顔真っ赤にして、『じゃあね~まい~』ってとこラピ」  
「!」  
「うい~!なんてことするラピ~!」  
「ぬおりゃ~。今日も絶好調ナリー!」  
 
そんな絶好調な晩のオカズは…ハンバーグカレーと…  
 
 

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