ざぶん、ちゃぷん。水の音が響く。  
温かな湯に身を委ねる青年は、バスタブの端に腰掛けた少女の名を呼んだ。  
「みーき。なに塗ってるの」  
「マッサージ用の……まぁ、塩ね」  
 少女はざらっとした白いものを腕に塗ったくっていた。  
「ふぅん」  
 
 美希の細い肩が跳ねた。  
「ってちょっ、瞬ッ、やぁんっ」  
 少女の腕を、赤い蛇が這った。  
「しょっぱい」  
「塩って言ったじゃない。っていうか食用じゃないんだけど」  
「なんでそんなの付けるんだい?」  
「そりゃ美容の……女の子は色々あるのよ」  
 彼の顔を見て、何故か口篭る美希だった。  
「大変なんだね」  
美希は傍らの洗面器に湯を掬い、塩を洗い流した。  
 
「折角のお風呂だもの。使える物は使っとかなきゃ」  
「へぇ、そりゃすごい」  
「あなたこそ、結構長風呂って聞いたけど」  
 浴槽へ身を滑らせると、青年の腕がすぐに伸びてきて肩まで湯に浸される。  
「まぁ、あのふたりよりかは長いかな」  
 彼の仲間達は総じて早風呂らしい。  
「何してるの?」  
「風呂入ってる」  
「そうじゃなくて」  
 
 瞬は少し考えるように鼻の頭を掻いた。  
「って言われても、ほんとにぼけっとしてるだけだから」  
「あなたが?想像付かない」  
「そう?いつもいつも考えてばっかりじゃ疲れるからね」  
 首を伸ばし、天井を仰ぐ青年。言葉通り、平常時よりも緩んだ表情をしていた。  
 
「そっかぁ。お風呂はリラックス効果も高いしねー」  
「うん、今日はとっておきの入浴剤もあることだし」  
 そう言うと、瞬は少女に後ろから抱きついて髪に顔を埋めた。  
「なぁに、あたしは入浴剤扱いなわけ?」  
 仕方なさそうに少女が笑う。振り返り、青年の額に張り付いた髪を払った。  
「そうそう、最高にリラックスできるよ」  
「もう、くすぐったいってば……」  
 
 少女の伸ばした手を取って、軽く唇で触れる。  
その後はお互いに指を絡ませあった。  
彼の開いた手が少女の頬を包む。顔が近付いて、そのまま唇が重なる。  
青年の手が、頬から肩へ、さらに腰に寄せられる。  
 
「……お湯、後で抜いた方がいいわね」  
「そうだね」  
 瞬が美希の首筋に口付ける。髪があたってくすぐったい。  
「んぅ」  
 青年は自分の足の間に座り込んだ少女の腰を抱き上げると、180度回転させた。  
 
「う、後ろからするの?」  
「うん」  
「……まぁ、いいけど」  
 なんとなく恥ずかしい。今更な気がして言えなかったけれど。  
さらさらと細い髪が、美希の背中を流れて濡れる。  
 
「んっ……ふぁうっ」  
 青年の指が、白い肌を伝う。  
「ココ、痛い?」  
 とん、と突かれたそこには、滑らかな肌に残る薄い亀裂。  
「あぅ……ぁ、そこ、まだ残ってたんだ」  
「うん」  
「ひゃ……っいっ」  
 僅かに残った傷痕に、歯を立てた。  
少女が苦痛の声を聞いて、瞬は暗い情欲が満たされた気がした。  
「ごめんね」  
「どうして、謝るの」  
 美希が振り向く。その視線に耐えられなくて、顔を背けた。  
「今も君を傷付けてる」  
 少女に惹かれている。大事にしたいと思う以上に傷付けて、自分以外考えられないようにしてしまいたい。  
そんなくだらない独占欲に囚われてしまうほどに。  
 
「噛み癖、知らなかった」  
 知れず皺の寄った彼の眉間を、少女は優しく小突いた。  
「ん……」  
「他の人には、してないでしょ?」  
「うん」  
   
「なら、許してあげる。だから、そんな顔しないでよ。らしくないじゃない」  
「……君と一緒にいると調子が狂うんだ」  
 バツが悪そうな顔。これだって私だけのものなんだから。  
「あら、奇遇ね。私もよ」  
 
「余裕がなくなって、どう扱っていいのか分からないのに。手放す気も更々ない」  
 ヘタレた本音が零れる。  
「こっちだって、いっつも胸がどきどきして死んじゃいそうなんだからね」  
「それは困る。君がいない世界じゃ僕、笑えないし」  
 皮肉の混じった笑顔。でも、ほんの少しだけ甘さが残っている。  
 
「甘えんぼうさんねぇ」  
「君が甘やかすからだろ」  
「ふふ、照れてる」  
「……後ろ、向いてて」  
 大いに照れている。表情は殆ど変わっていないし、白い顔はいつも通り白いまま。  
でも。彼女にだけは分かってしまう。だから見られたくない。  
そんな彼を微笑ましく思いながら、美希は大人しくバスタブに向き直った。  
 
「んぁっ」  
 いつもより少し強く。長い指が少女の胸に伸びた。  
「あれ、胸ちょっとサイズ変わった?」  
 指先で触れる感触に、青年は小首を傾げる。  
「え……ぃあう」  
 
「そういえばさっき付けてたの、新しかったね」  
 脱衣所に置かれた下着は真新しいモノトーン。  
「そんなとこばかり見てないのっ」  
「揉めば大きくなるって迷信だと思ってたんだけど」  
 手首を回し、丸みを楽しむ。  
「はぁ……んっもう、すけべぇ」  
「そうだね」  
 
「でも」  
 少しだけ恥ずかしくて、耳が赤くなっていないように祈りながら呟く。  
「ん?」  
「そういうところも、……すきよ」  
「…………ありがと」  
 それなりの時間が掛かった返礼に、美希は思わず噴出した。  
「また照れてるでしょ」  
「五月蝿いよ」  
 誤魔化すように先端を摘むと、少女は甲高い悲鳴を上げた。  
 
「はぁ……瞬……」  
 甘い呼び声に、もう我慢なんて出来なかった。  
 
「んっ……ぁあ」  
 既に大分温くなった湯の中で、少女を犯した。  
「ぅあ、はい、って……あ、すごく、入ってくる……のっ」  
 水の跳ねる音を聞きながら、美希の身体を抉る。  
「あくっ、あ、んんぁ!」  
 震える腰を、引き寄せる。  
赤く染まった耳に齧りつく。  
 
「みき」  
「な、なに……?」  
「僕も、君が好きだ」  
「っ……ひぁあっ」  
 その言葉に、身体が真っ先に反応した。  
「んも……やぁっ、や、はぅ……くうぅ」  
 自分の中が熱い。  
溶けてしまいそうで、身動ぎすれば、それさえも刺激にしかならない。  
「やーらし……」  
「だ、れのせ……あぁん」  
 言い返すことも難しく、最後は甘い呻きと消えてしまう。  
 
「そういう分かりやすいとこ、好きだよ」  
「ううう、うるさいうるさいっ。もう、意地悪」  
「先に僕を苛めたのは君だろ?お互い様」  
「いじめて、なんか……ぁっ」  
「嘘はいけないねぇ」  
 形のいい尻を撫でて、少しだけ悪戯する。  
「ん、そこ違う……っ」  
 
「こっちも好きなくせに」  
「うくぅ……ッ」  
 割れ目をゆっくりなぞり、その奥を刺激してやる。  
そちらの処女もとっくに頂いているので、そんなに恥ずかしがることもないのだが。  
 
「んん……ぁぅう」  
 艶かしい少女の声に、寄り道している余裕が削られていく。  
「ま、先にこっちから……だね」  
 穿つ角度を変えて、更に攻め立てる。  
 
「あっ、そこ……ぅああッ、ンっ」  
「ここがいいんだ?」  
「んっ、んぅ……やっ」  
 羞恥で咄嗟に首を横に振った少女の腰をしっかり捕らえて、首筋に吸い付く。  
 
「嫌じゃ、ないくせにっ」  
「ひあ……っ、あ、あたま、おかしくなりそ……ッ」  
「なら。とっくに僕は壊れてるよ」  
 
 美希が振り返ると、視線が合う。  
彼女の瞳からはぼろぼろ涙が零れ、涎が唇の端から垂れて銀糸のようだった。  
「ぅ、しゅ……瞬っ、さうらぁ……す、きっ、すき……っ」  
「殺し文句ありがとう」  
 留めの一撃を放つ。  
「あ――く、ふぁあぁぁっ!!」  
 少女の一際高い嬌声が、浴室に響いた。  
 
 どろどろのでろでろになった湯を抜き、新しく張り直して。  
気だるげに美希はお湯のベッドに横たわった。  
「……つっかれたぁ」  
「まぁ突いたけどさ」  
「そうじゃないわよ、もぉ」  
 
 瞬は美希の髪を掬って、手のひらで泡立てたホイップを乗せた。  
「髪、洗うの上手ね」  
「そう?自分の洗ってたせいかな」  
「無駄に綺麗よね、あなたの髪」  
「僕は君の髪のほうが好きだけど」  
 
「……ありがとっ」  
「照れてる」  
 くすりと笑う青年の顔面に水鉄砲を撃ち込んだ。  
「ばか」  
 

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