「……ぁ。あっ、んァあ……ッ、う、ウエスターぁッ」
高い、甘ったれた女の声が、男を呼ぶ。
「イース……イース」
応える声は、少女の名を呼ぶ。掠れた声に、更に少女は乱れる。
「ひ、ぁ……ぁあ、もっと、強く突いて……あなたでいっぱいにしてぇ……」
銀髪がベッドに舞う。白い肌には、赤い痣が無数に刻まれていた。
「イースっ」
先程から、彼は少女の名しか呼ばない。
けれど、彼女はそれで良かった。
「も、くあ……よんで、わたし、あなたの声、っききた……!くぅっ」
込み上げる衝動に、身体が戦慄いた。
月明かりの下、ふたりは果てた。
昼下がり、少し遅い食事を終えたせつなは、ぶらりと休憩室に入った。
そこには、ため息をつく青年が座っていた。
馬鹿でかい身体を丸める姿は、どこか可愛い、と彼女は思っている。
さて、どう声をかけたものか。そう考え、少女は先程すれ違った友人のことを思い出した。
「隼人、美希たちと何話してたの」
「うおっ?お。い、イース。なんでもないぞ!」
どうやら、彼は彼女の入室すら気付かなかったらしい。
つい、昔の呼び名を呟く。そして、あからさまな嘘をついた。
「……」
少女はむう、と顔を顰めて押し黙る。
「……せつなぁ」
「…………」
視線だけで、まだ足りない、と意思表示する彼女に彼はすこぶる弱い。
「……あーもう、分かった、話すから。な!」
彼の話を聞き、少女は首を傾げた。
「ブルンを貸して欲しい?……あなた、女装癖があったの!?」
「なわけないだろ、サウラーじゃあるめーし」
「サウラーならやってくれるわね、確かに」
『僕、完璧』とか言ってる耽美的で妖艶なツインテールがふたりの脳内を駆け抜けて行った。
「だろ?いや、それはいいけど、なんで女装になるんだよ」
「だって。プリキュアになるってことじゃ」
「違うって」
フレッシュガチキュア☆マックスハートなんて、冗談にもならない。
「じゃあ何のため?」
「えと、アカルンは転移が出来るだろ?」
「うん」
自分の相棒の名に、こくりと頷いて応える。
「で、話の流れでブルンは何が出来るのかって聞いて」
「ええと、確か色んな服が出せる……まさか」
青年の思考をトレースして、弾き出した答えに少女は口篭った。
「……イースの服はだ……せ、るのかな……って、あの、イース?」
「――っもう!」
「って、やめ、くすぐってーって!」
せつなは隼人の膝に滑り込み、その鼻先に噛み付いた。
「ううう〜っ」
「いて、ごめんって、っせつなぁ、勘弁してくれよぉ」
「そんなにイースがすき?」
齧りついて歯型の残った鼻にキスを落とす。
「そりゃあ、まあ」
「……私より?」
太い眉毛に唇をくっつけてみた。
「お前はイースだろ」
「私、せつなだもん」
今度はおでこをこつんと重ねてみる。
「でもイースだろ」
「そう、だけど……」
胸に渦巻く嫉妬に、少女の眉は八の字になる。
「ど、どうした?何でそんな顔すんだよ」
「だって、今より前の私のほうがいいんでしょ。今ここにいる私より、イースが」
青年の頬っぺたを挟んで、10cmもない距離で見つめあうふたり。
「どっちも大好きに決まってるだろ」
当たり前の様に吐き出される殺し文句に、少女は死ぬかと思った。
「……反則」
「え?」
「なんでもない。隼人の馬鹿」
せつなは彼から身体ごと背ける。赤くなった顔をみせないために。
「なんだよ〜。つかさ、さっきの話な」
「う、ん?」
彼が少女の耳に唇を寄せる。
「昔の方が良かったか、ってやつ」
「ぅ……」
耳元へ掛けられる吐息に、せつなの胸はまた悲鳴を上げる。
「そうだなぁ、どっちかってーと、俺がどうのってよりかはお前の問題なんだよなぁ」
少しだけ赤みの取れた顔で、少女は振り返る。
「何それ。意味わかんない」
「や、ええと、んー。『イース』だった頃、お前、俺……『ウエスター』のことどう思ってた?」
「……単純馬鹿。脳筋馬鹿。出撃数とノルマ達成が反比例の大馬鹿」
思案の後、彼女から出てきたのは辛辣かつ事実。棘が含まれているのはご愛嬌。
「ひでぇ……」
「聞いてきたのはそっちじゃない」
「そりゃそうだけど、まぁいい。んで、俺はお前を仲間だと思ってた。
だから一緒にいるのは当然で、義務みたいなもんだと」
「……えぇ」
「今はさ、仲間なのは変わらねぇよ?けど、別に傍にいる必要はないだろ。任務もねーし」
「うん」
「義務とか、そんなんじゃなくて」
「は、やと」
とくん、と胸が高鳴った。その先が見えていたから。
だって、彼はとても単純だから。
「俺は、お前だから一緒にいたいし、お前もそうだって分かって嬉しかった」
「うん」
「あー、やっぱ自己満足か?だからだな」
隼人は何かに気付いたのか、ぽんと手を叩いた。
「どういうこと?」
「多分な、お前がイースだった頃から俺はお前に惚れてて」
「えっ」
意外な告白にせつなの頬が再び赤らむ。
「けど、お前からは眼中になくて」
「う」
事実なだけに少女は返す言葉もない。
「今はこんだけ愛されてるわけですがー」
緩んだ顔が摺り寄せられて、少女は恥ずかしげに文句を吐く。
「調子に乗らないでよ、馬鹿」
「ま、ぶっちゃけっと。イースともヤリたいです」
「……ばか」
「へへ、全部俺のだからな」
「何それ……馬鹿みたい」
「だってよぉ。あの頃はこういう仲になるとは考えてなかったから何も進展なかったしぃ」
きゅう、と回された太い腕に、芽生えた想いが疼いた。
「……隼人、手」
「ん?おう」
大きな手のひら。軽くなぞった後、手を離す。
「ぐーにして」
「これでいいのか?」
軽く握られた拳に、自分の手を重ねた。
「……スイッチ、オーバー」
「うぉっ」
随分と久しい文句を口にすれば、身に纏うそれが黒く変わった。
「おーイース!ってあれ?なんで俺も黒くなってるんだ?」
青年の姿も、かつてのメビウス配下だった頃の姿に変じていた。
「ノリよ」
「マジでか」
「大いに本気よ」
勿論、本気と書いてマジと読む。
「すげーな、さすがイースだぜ」
これでサウラーもいたら完璧だな!と暢気に浮かれるウエスター。
反面、せつな――イースは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「どうした?腹でも痛いのか。腹巻要るか?」
「いらないわよ単細胞ッ」
ぎらりと睨む目はまるでライフルのように青年を撃ち抜いた。
「な、何だよ、なら何が駄目なんだよ」
少女の瞳から迫力が抜ける。代わりに、涙目になった。
「恥ずかしいのよ……!」
「何で」
「だ、だってこんなの……あー、私なんでこんな格好で街中闊歩してたのよ、痴女じゃあるまいしッ」
「あぁ、それ露出多いもんな」
肩に胸元、おまけに絶対領域付きのお得なハッピーセットである。
「やだもう、水着の方がまだいいわよぉ。恥ずかしい、馬鹿みたい!」
だが、ウエスターの方はある算段で頭がいっぱいだった。
「着たまんまでもできそうだな」
「え」
ぴったりフィットしたショートパンツの間に無理矢理太い指を潜り込ませる。
「ひゃ……ぁうっ」
指を折り曲げ、内股を器用になぞれば、黒衣の少女はすぐに切なげに瞳を潤ませた。
「あう…んくぅ……は、ぁんっ」
「うわー。エロイースだ」
「し、失礼なこと言うなっ……ぁひんっ」
頑なだったかつてと違い、今は素直な少女だった。
甘く甘く漏れる声が、とろとろと男心を溶かしていく。
「うわ、お前上からでもぐっちょぐちょじゃねぇか」
ショートパンツの間を弄って、いつもより早く湿りだしたそこに指が触れた。
触るよりも早く、パンツに浮かぶ染みに気付いて青年は驚きの声を上げた。
「そ、そんなの言わなくていいっ」
「やべー、どうしよ」
湿った指を舐めながら、青年は思いを巡らせた。
「ど、どうしよ、って、それは……は、早くしなさいよ……」
半端に弄られたせいで、イースは火照る身体をもてあます。
「んーでもなぁ」
けれど、彼は彼女の望みをまだ叶えるつもりがなかった。
「ちょ、やぁん!やっ、そっちじゃ」
青年の手は、もっと上に伸びた。
「まだ足りねぇよ、俺が」
「ウエスターぁ、だめぇ、そこはやだっ、やだぁあ」
「口だけじゃねーか」
片方は服の下から。もう片方は上から。
布を擦り付けるように柔らかい乳房を握り締める。
「ひっ、ぁぁあ、はうぅ……っ」
「……なんかほんとエロいな」
「ば。馬鹿、何言ってるのっ」
「いや、イースはこうつんけんしてたから、こんな風に喜んでもらえて嬉しーな、って思ってさ」
「ウエスター……あぅ」
ちゅ、と少女の首筋に小さく音を立てて唇を付ける。
少女もそれに倣うように男の太い首に縋り付いてキスをした。
そして、青年の視線が下へ落ちる。
少女がもじもじと内股を擦り合わせていた。
彼女の腰を引いて、囁く。
「下だけ脱げよ」
「何でよ」
「何ででも」
「あんたの命令なんて聞く必要な……っ、や」
「なら、力づくな」
湿って重たくなったショートパンツを力任せに引き抜く。
更に少女の太股と足首を括り合わせて、開脚を強制する。
「や……こんなの、見ないでよ……」
「こんなの、って何だよ」
「やぁ……いやらしいよ……うえすたぁ」
「そうだな、お前はやらしいよなぁ」
どこまでも熟れた果実のように美味しそうな身体。
普段隠された奥に潜むモノは、あどけなさを吹っ飛ばす程度に性的だと彼は思う。
「ちが、わたしっ」
「違わない」
早く早く、と急き立てるように蠢くそこに、指を添える。
「んぁっ、くうぅうっ」
苦もなく、入り込む。
「ほら、指入ったぞ」
「ひっ、そんなに、動かさないでぇっ」
青年の指は太く、僅かに揺れるだけでも少女の内を煽った。
「まだ一本じゃねぇか」
「やんっ、あぁっ、無理矢理動かしたら、ぅあッ」
あ、とかう、とか意味のない声が少女の小さな唇から零れて、青年の耳にこびりついていく。
「そんじゃ次はどうすっかな」
「あの、私もう限界っぽいんだけど」
荒い息を吐くイースに、ウエスターはあっけなく告げた。
「ん。いいぞ、いくらでもイっとけ」
「いや、ちょっと待って。ま」
「待たない、ちゅうか待てん」
「ひゃっ、や、まっあああぅっ」
翌日。朝日が昇り、そして落ちる。そんな頃になっても、少女はベッドに臥していた。
「……絶倫」
「う。いや、すまん。夕べはちっと張り切りすぎた」
「そんなにこっちが好きなの……」
黒服に触れる。既に男の匂いしかしなかった。
すると。青年が何か言いたそうな顔で少女を見つめた。
「何よ」
「お前こそ、なんでこっちの格好させたんだ?」
「だって、その頃は……、……なんでもない。ただの気まぐれ!寝る!!」
「え?おい、イース、イースぅ!」
――言えるわけないじゃない。
彼はメビウス様の僕じゃなくて、もう私の、だなんて!
少女の可愛らしい独占欲は胸のうちにそっと隠された。