いつからだろう、自分のこの気持ちにハッキリと気付いたのは。  
 
 なぎさが好き……  
 
 それは間違いなく恋愛的な感情――  
 
 
 前々から“男子に興味がないなんておかしい”と指摘されていた。  
『ほのかだったら、彼氏の一人ぐらいいてもおかしくない』  
 そんなことを、ユリコをはじめとする科学部の部員たちから度々言われていた。  
 
 男子には興味がないけど同性には興味がある?  
 女子じゃないと好きになれない?  
 
 ううん、違う。女子とか男子とかそういうのじゃなくて……なぎさだから……なぎさだから好き……。  
 
 
 
「ただいまー」  
 年季の入った引き戸を開け、玄関先で自分の帰宅を告げるほのか。  
 しーん……  
 いつもならすぐに『お帰りほのか』という返事とともに祖母が出迎えてくれるのだが、今日はその気配がない。  
「おばあちゃま?」  
 ……………  
 やはり祖母からの返答は返って来ず、姿も見せない。  
(お出かけしてるのかしら?)  
 ふと視線を落とすと、祖母がいつも履いて出掛ける外出用の雪駄がないことに気付く。  
(やっぱり出かけてる……)  
 ガラガラピシャッ!!  
 何かを思いついたような表情を浮かべたほのかは、突然、自分が入ってきた引き戸を勢いよく閉めて内鍵を掛けた。そして、慌しく靴を脱ぎ散らかしながら家に上がると、念のため本当に祖母が家の中にいないか、全部屋をチェックし始めた。  
 たたたたっ  
 祖母と孫の二人で住むには少し大きすぎる家の中を、隅から隅までを駆けずり回る。そして  
 
自分以外誰もいないことを改めて確認する。  
「久しぶりに思いっきりできる……ひとりえっち……」  
 ドキドキドキ  
 鼓動を高らかに響かせながら自室へと駆け込むほのか。  
 鞄を机の上に放り投げ、入ってきた障子をピシャッと閉めると、ホックを外しスカートをその場に脱ぎ捨てる。  
 本当は邪魔な制服はすべて脱いでしまいたかったのだが、その脱衣にかかる時間さえも惜しかったため(祖母がいつ帰ってくるか判らないという事もあり)そのままベッドの上へ――という寸前で、大事な事を忘れていたことに気付く。  
「よいしょっと」  
 腰を曲げて畳の上に脱ぎ捨てたスカートを拾い上げ、ポケットに入っていた定期入れを取り出す。  
「やっぱりこれがないと……」  
 少しくたびれた、その茶色い定期入れを開くと、クロスを振り上げ、今、正にゴールを狙わんとしているなぎさの勇姿が左側のポケットに現れた。  
 そう、ほのかの定期入れの中には、ラクロスの試合で活躍しているなぎさの写真が収められていたのだ。  
(はぁ……涼しげな目元……キリッとした眉毛……私と同じ女の子なのに……)  
 そんな彼女の凛々しい姿に見とれながら、ゆっくりとベッドに腰を下ろす。そして左右の足をM字型に開き、その足と足の間に、なぎさの写真が見えるよう定期入れを開いて置き、ようやく準備完了。  
「なぎさ……んっ……」  
 さっそく飾りっ気のない白い綿の下着の上から、中指をゆっくりと上下に這わせ始めるほのか。  
 直に触れると1〜2分ですぐにイッてしまうほど感じやすい体質のため、下着の上から少しずつ刺激していく。それが彼女の自慰メソッド。  
「あっ……なぎさ………そこは………あんっ……」  
 なぎさの写真を見ながら、なぎさが自分のアソコを触っていることを想像する。  
 自分の指をなぎさの指だと思いながら愛撫する。  
「だ…だめ………なぎさ……いや……」  
 妄想の中で、ほのかはひたすら受けだった。  
 
 手足を縛られ動けない自分の体を、なぎさが悪戯っぽく笑いながらまさぐる。  
『ふふっ、ほのかの乳首、もうこ〜んなに立っちゃったよ』  
『やっ! そんなとこ、もう触っちゃダメ!!』  
『そんなこと言っちゃって〜本当はもっと触ってほしいんでしょ?』  
『そっ、そんなこと……』  
『ほら、下のほうはもっと凄いことになってるし♪』  
 そう言いながら、ほのかの一番恥ずかしい部分を優しく撫で回す。  
『やんっ、ダメ、なぎさダメぇっ!!』  
 
 そんなHで積極的ななぎさを想像しながら、しこしこと指を動かし続ける。  
  すりすりすり……  
 中指だけを使って、ショーツの上からスリットの周囲を時計回りにマッサージ。  
 最初は指先が緩やかに動いているだけだったが、  
 くにゅくにゅっ、ぬちゅっ! くちゅっ!  
 妄想内のなぎさが暴走し始めたため、それにあわせて手の動きが突然激しくなった。  
「イヤぁぁ………そんな乱暴にしたら壊れちゃう……」  
 クロッチ部分にうっすらと染みが浮かび上がった部分を、グリグリと指をねじ込むように刺激する。  
「ダメぇぇーっ! 入りっこないっ! やめてなぎさっ!! ああんっ!」  
 ちなみにほのかの頭の中のなぎさは、下着の上から強引に指を挿入しようと試みていた。  
 
『うりうりうりっ!』  
 M字開脚の状態で縛られたほのかの大事な部分を、下着の上から強引に攻めるなぎさ。  
『あうぅっ! はぁ…はぁ……お願い……なぎさ……もう許して……』  
『そうね、あたしのお願い聞いてくれたら、やめてあげてもいいけど』  
『何でも聞くから……やめて……』  
 待ってましたとばかりにニヤッと笑みを浮かべるなぎさ。彼女の口から出た言葉は――  
『パンツを横にずらして、アソコを開いて見せて』  
『!?』  
『ほら、手の縄はほどいてあげるから。さ、早く♪』  
『そ……そんな恥ずかしいこと……絶対無理……』  
『ならまたグリグリしちゃうよ。それでもいいの?』  
『………わかった』  
 これ以上は何を言っても無駄と悟り、諦め顔で縄の痕がついた左手を下半身に回すほのか。  
 指をショーツの股間部分に差し入れ、グイッと左に引き寄せる。  
 
『うわ……ほのか、生えてないんだ』  
 染み一つない、ツルツルの痴丘がなぎさの前にさらけ出される。  
 そのスリットは閉じられていたが、僅かに見える隙間から、とろとろと蜜が溢れ出していた。  
『いや……そんなにジロジロ見ないで……恥ずかしい……』  
『この程度のことでなに言ってんのよ。本番はこれからでしょ。さっ、開いて!』  
『ううっ………』  
 顔を真っ赤にしながら、ショーツを掴んでいる左手の人差し指で左の小陰唇を、空いている右手の指で右側の小陰唇を横に引っ張る。  
 そして、ほのかのすべてが露に――  
『うわぁ……赤ちゃんが出てくる穴も、おしっこが出る穴も丸見えだよ。凄い、イヤらしい……こんなに濡らしちゃって……。クスッ、イヤイヤ言ってたくせに、しっかり感じてたんじゃない。ホントほのかはHなんだから』  
『そ……そんなこと……言わないで………ひぐっ……えぐっ……』  
 恥ずかしさのあまり、ついに泣き出してしまったほのか。  
 そんな彼女の姿を見て、ちょっとやりすぎたかな――と反省するなぎさ。ぽろぽろと瞼から零れ落ち、頬を伝っているほのかの涙をぺろっと舐め取る。  
『ごめんねほのか。いじめちゃって』  
『なぎさ……』  
『ちゃんとお願い聞いてくれたんだから、ご褒美あげなくっちゃね』  
『え……』  
 
 なぎさは、パックリと開かれたその未発達なワレメに顔を近づけると、尖らせた舌の先端を蜜壺に差し入れた。  
『はあぁんっ!!』  
「ん……む……ぷはっ。どう、気持ちいいでしょ?」  
 ほのかの股間から顔を離したなぎさが、膣と舌の間に透明な糸を引かせながら笑顔で問いかける。  
「はぁ……はぁ……う……うん……」  
「ほのかがイクまで口でしてあげるからね」  
 ぬちゅっぬちゅっぬちゅっ  
 再びなぎさの赤黒い舌が、未開のクレバスに突入を始めた。  
「ひあッ! ……ン……あふッ……」  
 ぬめった舌が、ほのかの膣の中で軟体動物の触手のようにうねり回る。  
 そして、生暖かい膣内の蜜が舌ですくい取られ、なぎさの口内へと運ばれる。  
「ん……美味しいよ、ほのかのえっち汁。もっと、もっと飲ませてね」  
 ちゅぶっ……ちゅる……ちゅむっ……  
 次々と溢れ出す透明な愛液の味を、十二分に堪能するなぎさ。  
 彼女が舌を出し入れするたびに、ほのかの体がヒクンと反応する。  
「ひっ……ン……あッ………」  
 快感が下半身だけでなく、全身を電気のように駆け巡り始める。  
「はふッ……もう……だめ……もういっちゃう……」  
「なに、もうイキそうなの? しょうがないな〜。じゃ、仕上げに入ろっか」  
 なぎさはそう言うと、尿道の少し上に位置している柔皮を左右に広げ始めた。  
「ほのかのクリちゃん、カワイイ……」  
 包皮の中から現れた、ピンク色の小さな突起。それに軽く口付ける。  
 ちゅっ……  
「ひゃんッ!」  
 
 甲高い声を上げたほのかが、腰をビクンと跳ねさせた。  
「やっぱりここが一番感じるみたいだね。じゃあいくよ、ほのか」  
 ちゅーちゅーっ、れろれろれろ  
 米粒大のクリトリスを唇で吸引しながら、舌の先端でチロチロと刺激する。  
「ひンッ、待ってなぎさっ! それっ良すぎるっ! イク、イっちゃう!!」  
 
 妄想の中で絶頂を迎えようとしていたほのかは、右手の中指で膣口の周囲を直にマッサージしながら、左手の人差し指でクリトリスをいじり回し、フィニッシュ態勢に入っていた。  
「はぁ…はァ……なぎさの口で…なぎさの舌で……いっちゃう……アッ、アッ! イクッ……ンぁああああああっ!!」  
ビクビクッ!  
 
 痙攣した膣から潮を噴出させながら、ほのかはエクスタシーに達した。  
 
「はぁ……はぁ……はぁ………なぎさ……とってもよかった……」  
 定期入れを拾い上げてからベッドに体を預け、イッたことによって得られた甘い快感の余韻に浸る。  
(また……しちゃった……なぎさのこと考えながら……)  
 なぎさの写真には、定期入れのセル板越しに、ほのかの愛液が飛び散っていた。  
「ごめんね、なぎさ。こんなに汚しちゃって……」  
 枕元にあったティッシュボックスからティッシュを抜き出し、濡れた部分を綺麗に拭い取る。  
 そして『はぁ……』っとため息を一つ……  
(ほんとに私、なぎさのこと汚してる……毎日毎日、頭の中でいやらしいことをさせて……ひとりえっちのネタにして……)  
 ゴロンと仰向けに寝転び、高々と持ち上げた写真を見つめて小さく呟く。  
「こんなこといけないって判ってるのに……それに、いくらなぎさのことを思っても、絶対に実らない恋だって判ってるのに……」  
 
 どうすることもできない、そのもどかしい思いが頭の中で交錯する。  
(なぎさ……私……わたし………)  
 手にしたなぎさの写真をぎゅっと胸に抱きしめ、唇を噛み締める。  
 そしてぽろぽろと零れ落ちる涙――。  
 
 擦れたような嗚咽が、ほのかの部屋の中でしばらくの間続いた……  
 
 
 
 
 
翌日の放課後――  
 
「ゴメ〜ン、待った?」  
 校門の前で参考書を読んでいたほのかが声のほうへ振り向くと、右手を挙げながら駆けてくるなぎさの姿が目に映る。  
「ううん、私も今来たところだから」  
「ハア、ハア……そう、よかった。部活、ちょっと長引いちゃったから。じゃあ行こっか」  
「うん」  
 なぎさと一緒に仲良く下校するほのか。彼女にとって、それは至福の時間であった。そして、今日はその時間が大幅に延長されることが決まっていた。  
「ねえほのか、ホントにいいの? わざわざ家に来て勉強教えてくれるなんて」  
 英語や数学の授業で悪戦苦闘するなぎさの姿に憂慮したほのかが、もうすぐ始まる期末テストのことを考慮し、彼女のために家庭教師役を買って出ていたのだ。  
「なに言ってるのよ、私たちお友達でしょ。困ったときはお互い様よ」  
「ありがとう、ほのかっ!」  
 鞄を肩にかけ、両手でほのかの左手をぎゅっと握り、目をうるうるさせながら感謝の言葉を述べるなぎさ。  
 その握られた手から、ほのかはなぎさの温もりを感じ取っていた。  
 
(ああっ…幸せすぎる……しかも今日はこれからなぎさの家で……なぎさの部屋で二人っきり……もしかしたらあんな事やこんな事が……な〜んて♪)  
 なぎさに手を握られたまま妄想にふけり、にへらにへらと笑うほのか。  
 実は、そういった展開をちょっと期待して家庭教師を引き受けたとは、口が裂けても言えない。  
「……ちょ……ちょっと、どうしちゃったのよほのか?」  
 初めて見る彼女のその滑稽な破顔に、汗をたらーっと流しながら目を丸くするなぎさ。  
「あっ、いえ、なんでもない……」  
 あわてて握られた手を離し、くるっと後ろを向く。  
(やだ……顔にでちっゃた……。突然ニヤついたりしてヘンに思われたかしら……)  
「そう? ならいいんだけど。……あーっ!!」  
 何の前触れもなく唐突に、なぎさが大音量で叫んだ。  
 その声にビクッとし、身を縮めるほのか。  
(え、なに? もしかして自分の邪な考えがばれた? あんな顔しちゃったから感づかれた?)  
「ど、どうしたの?」  
 ビクビクしながら、恐る恐るなぎさの方へ向き直り問いかける。しかし、彼女の懸念は徒労に終わった。  
 
「いや、忘れ物しちゃったことに気付いて」  
「忘れ物?」  
「うん。どうしよっかな、明日でもいいかな……けどあのまま置いといたら匂いでちょっと大変なことになるかもしれないし……」  
「匂いって……何を忘れてきたの?」  
 訝な顔で尋ねたほのかに対し、その答えは即座に返ってきた。  
「靴下とか下着とか、体操着入れに入れたまんま部室に」  
「!」  
『下着』という言葉にピクッと反応するほのか。  
「部活ですっごく汗かくから、いつも着替えて帰ってるんだよね」  
「そ……そうなんだ……」  
 下を向き、グッと握った拳を震わせながら、極めて冷静なふりをし相槌をうつ。  
(なぎさの下着……汗で濡れた下着……はぁ…はぁ……)  
 またまた淫らな妄想を膨らませ始めるほのか。  
(なぎさの匂いがする下着……とってもいい匂いなんだろうな……はぁ……はァ……)  
 完全にあっちの世界へ旅立っていたほのかの前で暫く悩んでいたなぎさが、ようやく決断を下した。  
「う〜ん、しょうがないな。もう駅の近くまで来ちゃったけど、やっぱ取りに戻るよ。ほのかは改札口の前で待っててくれる? 急いで行って戻ってくるから」  
「だめーっ!」  
そのほのかの突然の叫びに、今度はなぎさがビクッとする。  
「……え? ??……な……なんで?」  
「私が取ってくるから!」  
「………へ?」  
目をパチクリさせ我が耳を疑う。  
 
「あっ、いや、その……」  
 自分がとんでもない発言をしたことに気付き、慌ててその場を取り繕うとするほのか。  
「だ、だって、少しでも時間が惜しいでしょ。わっ、私が取ってきてあげるから、なぎさは先に帰って勉強してて」  
「えっ……でも、そんな悪いよ」  
 そのもっともらしい言い訳に、なぎさは何の疑問も持たず普通に答えを返した。  
「(ふう……ごまかせた……)いいから任せて。なぎさはちょっとでも多く勉強しなきゃダメなんだから。この前の英語の小テスト、自分が何点取ったか覚えてる?」  
「うう…ぅ……」  
 厳しい現実を突きつけられ、ショボーンとなるなぎさ。  
「判ったよ……じゃあほのかにお願いするね。体操着入れ、部室の私のロッカーの中に入ってるはずだから。あ、あと急がなくていいからね。待ってる間、ちゃんと1人で勉強してるから」  
「うん、わかった。じゃあ後から行くわね」  
 駅前の商店街で、手を振りながらなぎさと別れるほのか。くるっと進行方向を変え、今来た道をすたすたと戻り始める。  
 しかし、角を曲がって駅が見えなくなったところで、突然、猛ダッシュ――  
 タッタッタッタッ――  
「はあッ、はあッ、ハアッ!」  
(私、なんで走ってるの? 急ぐ必要なんて全然ないのに……)  
 鞄を胸に抱え、息を切らて走りながら、頭の中で自問自答を繰り返す。  
(少しでも早くなぎさのところへ戻りたいから?なぎさに早く会いたいから? そう……きっとそうよね。……けどなんでこんなにドキドキしてるの? ただ、なぎさの忘れ物を取りに行くだけなのに。――そう、ただ単に忘れ物を取りに行くだけなんだから……)  
 
 
 ガチャッ  
 ラクロス部部室のドアをゆっくりと開けるほのか。  
 部屋の中はシーンとしており、人影はまったくなかった。  
 そのことを確認すると、ドアを閉めて内鍵の施錠にかかり始める。  
(私、なにしてるんだろう……鍵なんて閉める必要ないのに……)  
 鍵を掛けると、扉に貼られた名札を頼りに、なぎさのロッカーを探し始める。  
 中川……高清水……久保田……美墨……!  
「あった、なぎさのロッカー……」  
 薄暗い部室の一番奥で、思い人のロッカーの前に辿り着いたほのか。  
 ごくっ……  
 

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