西東の場合
「ぐー、ぐぉおお……んがっ」
「……うるさい」
頭の悪そうないびきを止めたくても、弛緩しきった身体はちっとも動かない。
それでも何とか腕を伸ばし、彼の鼻を摘むことに成功した。
「むぐ……ん……」
「さ、これで少し、は……きゃぁっ」
してやったり、と少女が勝ち誇ろうとしたその時、手首を掬い取られた。
そのまま、彼の胸の上に乗せられる。
「むにゃ、むだだぞぉ、イースぅ。ん……ぐぅあああー」
「どんな夢見てるのよ、もう」
自分の名前を呟く彼に、つい顔が緩む。
それに、胸から聞こえる彼の心音を聞いていると、なんだかもうどうでも良くなってきた。
「……おやすみなさい、ウエスター」
南美希の場合
シャワーを終えると、何故か彼女がまだいた。
「あれ、わすれもの?」
「違うけど」
「?」
首を傾げる僕に、彼女はもじもじとお願いをしてきた。
「今日は、こっちで寝てもいい?」
「何で」
「……べ、別にいいでしょ、たまには。おやすみっ」
ぱっと毛布を被って、背中を向ける美希。
足が当るだの、髪がうっとおしいだの文句を言ってきたのはそっちなのに。
薄い毛布の上から細い肩を抱く。昨日買ったシトラスのボディソープの匂いがした。
「……あ、そっか」
ふと、思い出した。僕の愉快な仲間達の惚気話。
角砂糖紅茶よりも甘ったるい、あれに中てられたのか。そりゃご愁傷様。
「ねぇ」
「…………なに」
返事が遅いのは、狸寝入りを誤魔化すためか、ベッドを追い出されるのが怖いのか。
どっちでも関係ないけど。
「おやすみ」
僕も目を閉じた。腕の中に君を閉じ込めて。
大輔の場合
「すーすー、んむぁ〜」
「ラブ、なぁ……なー」
肩を揺する。頬を軽くつねる。くすぐる。
何もかも無理無駄駄目。
「チックショー。起きねーんなら、知らねぇからな……!」
無防備な寝顔に、近付く。けれど、やっぱり無理。
「……っ、ぁあああ、できるかよおおぉぉぉ!!」
トマトのような顔を下げて、飛び出した。
「夜這いになってないよ、ばかだいすけ」
彼には勿論届かない呟きだった。