南さんの場合:キャンディ偏
「いやぁ、ほんとこっちはイベントが多くていいねぇ」
普段の彼らしからぬご機嫌ぶりだった。
「……こういうのはどうかと思うけど」
膝の上の少女は対照的に眉間に皺を寄せていた。
「そう?はい。今度はブルーベリー味ね」
綺麗な紙袋から出てきたのは、きらきら輝く青いキャンディ。
彼はそれを口に放ると、そのまま少女の腰を引き寄せた。
「んんぅっ」
唇が重なる。舌を捻じ込み、唾液ごと飴を送り込んだ。
「ふ、……っ、むく……ん」
それから、飴が溶けるまで甘さを楽しむ。
ああ、なんて素晴らしいイベントなんだろう。
西さんの場合:ロールケーキ変
「イース、お前これで満足かよ」
「ええ、もちろん」
笑顔の彼女。こんな状況じゃなきゃウエスターだってつられて笑ってしまうだろう。
けれど、今は無理だった。
「……動けねぇんだが」
昨夜、ベッドで眠っていたはずの彼は、今もふかふかに包まれていた。
それは甘くて、卵やバターの匂いがして、生クリームやフルーツで色とりどりに飾られている。
「だって、今日はホワイトデーなのよ。お返し、欲しかったんだもん」
「いや、だからってよ」
「美味しくたべてあげるから、心配しないでね」
その微笑みは、まさしくかつてのイースと同じだった。
大輔君の場合:サーターアンダギーじゃない、サーターアンダーギーだ
「ら、ラブ、これ!」
「?わ、おいしそー。食べていいの?」
手渡されたのは、まだほかほかと湯気の立った揚げ団子。
鼻先を掠める香ばしい香りに、ラブはふにゃっと顔を緩めた。
「おう、……えっと、今日はホワイトデーだからな」
「……あれ、あたし大輔にチョコあげたっけ」
「え」
「……えっと」
少女が次の言葉を告げるより早く、少年は駆け出していた。
盗んだバイクはないので、徒歩で。
「ラブちゃん、さすがにあれはないんじゃないかなぁ」
後ろから苦笑まじりの声が掛かる。
「ミユキさん。……だって、これおいしいんですよ」
手のひらに乗った砂糖てんぷらをつついた。
「大輔の方が料理上手いの、なんかちょっと面白くなくって」
「ふふ、ラブちゃんかわいい」
少女の頭を撫でながら、ミユキは頭の片隅で思う。
カタハランブーを持ってこない辺り空気読めるようになったな、と。
淫獣の場合:ドーナツドナ
「タルトちゃん、こんにちは」
「お!お久しやなぁ」
祈里はフェレットもどきに頭を下げる。
そこでふと、彼の背負った風呂敷がいつもより大幅に膨らんでいるのに気付いた。
「今日は随分大荷物なのね」
「んぁ?これか?今日はホワイトデーやし、せや、あんさんにもどうぞー」
ごそごそと出てきたのは、やっぱりドーナツだった。
「ありがとう」
「ふっふー。今日のは一味違うで。タルトさまお手製や!」
「タルトちゃんが?すごーい」
ぱちぱち、祈里の拍手にタルトはますます気を良くした。
「完成までほんま大変やったわ。試食に次ぐ試食で納得の味に辿りついてな」
けれど、彼の独壇場はこれで終わり。
「試食?……確かに、ちょっとおなか回りがぽっこりしてるわ……」
「え?な、なんか目の色変わってへん?」
「小動物はね、ちょっとの肥満でも命に関わるの。分かる?」
「いや、妖精やし」
「早速調べてみなくちゃ、まずは直腸からね!」
「いや、ま、いやぁああアズキーナはぁぁあんたっけてーぇええ」