すべてはサバーク博士のために、私の体は私のものではない。
こころの大樹を枯らせ、灰色に色褪せてからからになった枝を踏みつける瞬間を夢見て、私はいまだに埋められないこころを持て余している。
そう、私の体は私のものではない。
「…ふん、相手をしてもらえれば誰でもいいのか? 人間が」
私の乳房を好き勝手に弄り回す汚い手を持つ人間が、私の顔を覗き見て、にたりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
私を後ろから抱きかかえるようにして胸を鷲掴みにしているそいつは、私の耳たぶをねっとりと舐める。
「すぐに気持ちよくなるよ」
そう言って私のスカートを引き裂き、下着を剥ぎ取った男は、未だに挿入も何もせずにただ乳房と乳頭を指先でいじるだけで、正直飽きてきてしまった。
このつまらん男と一緒にかび臭く薄暗い部屋に押し込められてから、もう二十分も経つだろうか。
汗ばんだ男の指が執拗に胸ばかりを攻める。
なんのひねりもない粘着質なだけの動きにうんざりしてきたところで、男のこころの花を透視してみる。
まだ、萎れてもいない。
「貴様の手管は底が知れているな」
「そう?」
短小だの下手だの早漏だのを言えば男は傷つくものだとこの世界の資料で見た。
博士は、男というものは傷を案外引きずるものだということも聞いた。
だから手っ取り早く行為に及び、不特定多数の人間の自信喪失を狙えば多量のこころの花が萎れる。
そうすれば、こころの大樹の力も薄れ、博士の手中にこの世界を収めることができる。
ずんっと、膣に圧迫感を感じた。
下も最初はいじっていたとはいえども、この男はどうやら女の乳房が好きらしい。
あまりの脈絡のない挿入にくぐもった声が出てしまい、それに気を良くしたらしい男が耳元で鼻息を荒くする。
「もう挿れるのか?」
「僕の時間はもうないからね」
何を――。
ガチャリ、押し込められてから一度も回らなかったドアノブが、回った。
結合部をドアの向こうに見せ付けるように体勢を整えた男は、腰を揺らすスピードを上げる。
ごりごりと、私の中身と名前も知らない男の陰茎が、擦れる。
「うおっ! やってんな」
「スッゲ、締まる…くっ!」
「な、何、貴様、仲間を…あっ!?」
「黒髪さらさらじゃん、ぶっかけてー」
「乳首もピンクじゃん、すげー肌白ー」
わらわらと部屋に入りこんでくる男たちは、数え切れない。
皆が皆、私と男の行為を鑑賞しにきただけではないだろう。
これからのことを考えて、こころの花がどれだけ萎れるだろうかと心が躍った。
「――ひぃっ!」
「あ、もしかして耳弱い?」
「うわーカワイイ」
「や、めぇ…っ! あんっ、あぁあ…!」
「出るっ、出るよダークたんっ!」
「ひ、あつっ…あ、あぁああぁっ!!」
どくっと私の中で波打ったそれが暴れる。
私の芯にしがみついたまま、ひとつの道を突き進んで私の子宮にどくどくっと熱いそれが注ぎ込まれる。
ずるっと引き抜かれると、男の精液が零れ落ちる前に別の男のものが入り込んでくる。
「うあっ…そ、そう、ろ…っ!」
「ダークたんの淫乱…腰揺れてんぞ」
寄ってきた男が、私の足を撫でる。尻を撫でる。
中途半端に爪先を舐める。耳の中に舌を突っ込んでくる。
胸を揉む。鎖骨を噛む。髪を弄ぶ。結合部を眺めている。
菊座に指を入れる。腹を舐める。写真を、撮る。
何本もの手に、私の体の隅々をいじられている。
やめろ、そこを触るな…!
声を出そうとしても、私の全身を支配しているのは、既に快感しかなかった。
弱りきった私の喉からは、腑抜けた声しか飛び出さない。
「やぁ、やあっ…! …めろ…ぉ…っ」
「強気なとこもイイね…」
「あっ…泡立って、…や、やめろ、あッ!」
男の腰と私の尻が激しくぶつかり合い、結合部からは液体が飛沫をあげている。
ぐちゃぐちゃにかき回される私の膣から、何人もの男の精子が混ざり合ったそれが律動を重ねたために泡だって溢れる。
太ももや腹部に、跳ね上がる液体が降りかかる。
私の火照った体から溢れ出たものだというのに、外気に晒されると急激に熱をなくしてしまう。
「ダークたん妊娠したらどうしようかー」
「悪の幹部のボテ腹とかトラウマじゃね?」
「つーか誰のかわかんね」
私に触るな、私の体はサバーク博士の意のままに動くものなのだ。
なのに、なのに今はどうしてこんな訳のわからない行為に頭の芯を蕩けさせられているのだろう。
指一本満足に動かせない、本当に私のものではなくなってしまったらしい。
爪先は痙攣してぴんと伸びきり、口を閉じて声を漏らさないようにしても、私の口には生臭い男のそれが代わる代わる宛がわれるのだから無意味だ。
「…やべ、誰か来る」
――数人の男に手足を押さえつけられ、何人もの男のいきり立ったそれを捻りこまれ、全身に白濁を浴び、べとべととしたそれの重みで体が動かせなくなったとき、男たちは人が来たと言ってばたばたと部屋から出て行った。
残されたのは、引き裂かれてもはや布としての価値もなくなってしまった私の服と、体の隅々までを蹂躙されてしまった私と、欲求不満を発散させたことによって元気を取り戻していったこころの花の輝きの残滓だけ。
――そして、入り口で私を、見下ろしている女が一人居る。
「酷い姿ね、ダークプリキュア」
「……キュア、ムーンライト…」
かつん、と靴の音をわざとらしく響かせている。
この嫌な匂いと湿った空気にも凛としたそれには反吐が出る。
私に近寄ってきて、目の前で足を止めたそいつは、私の瞳から少しも視線を逸らさない。
「…哀れむつもりか? 笑うか、そうしたいならすれば、いい」
「いいえ」
すっと足を折って、キュアムーンライトは私の精液にまみれた髪を梳いた。
お綺麗なやつの白い指に、べっとりとして糸を引くそれが絡みつく。
そのとき私は何を思うでもなく、素直に驚愕していた。
伝説の戦士プリキュアは、こんなものには触れないと思っていた固定概念が目の前で砕かれたからかもしれない。
そしてキュアムーンライトは、彼女の制服の上着を脱ぎ、私に被せて、
――微笑んだ。
「あなた、黒も似合うけれど白も似合うわ」