シャボンがふわりと漂う中、能天気な男の声が響く。  
「……しい、ごーぉ。ろーく、……ん。どうした、イース」  
「なんでもない」  
「そっか?ええと、しーち、はぁち」  
 少女は青年の腕の中、気付かれないようにため息をそっと吐いた。  
 
 一息ついた後、彼が誘った。一緒に風呂に入ろうと。  
断る理由はないし、今更恥ずかしがるなんて白々しい。だから、了承した。  
   
 たくさん運動したあとだから、何かあっても『もう無理』と言ってやるつもりだった。  
なのに、それなのに、こいつときたら。  
 がっちりした腕が、私の身体を包んで、鼻腔をくすぐるのは彼の匂い。  
濡れた髪が、艶やかに踊っている。ああ、もう取り繕ったって無駄だ。  
 
 私が、彼を欲している。もうちょっと俗な言い方をしてしまえば、むらむらしている。  
いつからこんなにいやらしい子になってしまったんだろう。  
こいつのせいだ、っていうのは分かりきっている、というか他の人間の前で見せられるものか。  
 
 だからだろうか。正直におねだりできないのは。  
だって、多分彼はああいうことを求めて風呂に誘ったわけじゃないんだから。  
そのつもりが少しでもあったら、はなっからそう言う。  
でなくても、待てが出来ないひとだから、ありえない。  
 
 自分ひとりが勝手に盛り上がっているのが、許せない。  
そんな子どもっぽい考えだった。……どうしよう。  
 
 途方に暮れた少女だが、救いの手はまだ残されていた。  
 
――どうしてこいつに遠慮する必要がある。  
 頭の中で、黒衣を纏った銀髪の少女が囁いた。もちろん、その背中には蝙蝠の羽。  
 
 それは、そうだけど。せつなはその言葉に微かに揺らぐ。  
その隙が、見逃されるはずはなかった。  
 
――別に、彼の嫌がることをしようとしてるわけじゃないわ。そうでしょ?  
 桃色の長い髪と、白い翼を揺らしてもうひとりの少女が語りかける。  
 
 そっか、そうよね。……せいいっぱい、がんばってみる!  
 
 こうして、彼女の腹は決まってしまったのである。  
悪魔と天使のハイタッチを背景に、せつなは青年に声をかけた。  
本当にこれが救いの手だったのか。真相は、闇の中。  
 
「ウエスター」  
「んー?」  
「きれいにして、あげるわね」  
 少女が泡を掬う。それを、青年の胸に擦り付けた。  
「へ?わ、くすぐってーぞ、イース」  
 
 青年の声を気にも留めず、少女は手のひらに乗せた泡を彼の身体へ移していく。  
「体洗う奴なら、そこにあるのに」  
 バスタブの傍に置かれたスポンジに目を向けたが、せつなは素っ気無く応えた。  
「いらないわ」  
   
 そのまま、手を滑らせる。脂肪の薄い身体のラインを少しづつ辿っていく。  
「ちょ、いっ、そこは」  
「ほら、きれいにするって言ったでしょ?」  
 彼の敏感な部分を、優しく弄る。  
 
「ひ、ぁ、イースぅ……」  
 情けない声に、つい少女は笑ってしまう。  
「くす。ウエスター、かわいい」  
「は、なにい……っ、う」  
「いつも私にばっかりしてくるから。お返しよ、お返し」  
 実際、彼女の手の動きは、彼を真似たものだった。  
胸への愛撫。くるりと周囲をなぞって、先端を柔らかく潰すように揉む。  
 
「ぅ、あ」  
 荒い息が、少女の身体をとろけさせていく。  
「ん、もう……なの?ふふ、仕方ないひと」  
 
「ちょ、イース?」  
「じっとしててね」  
 少女が、青年の腰へ乗り上げて。そのまま、滑り込んできた。  
 
「んぁ……あ、ふぅ」  
 悩ましげな声と、いきり立ったブツの収まった感覚。  
青年は快楽と困惑にひどく戸惑う。  
「お、ま、おまえ、ほんとどうしたんだ」  
「んぅ?……こういうのは、嫌い?」  
 どこか幼い仕草で首を傾げるせつなが可愛らしくて、ウエスターは即座に首を横に振った。  
 
「や、そんなことはねーけど」  
「ふぁ……あ、よかったぁ」  
 少女が、繋がった部分に視線を向けた。  
 
「ん……ウエスターで、いっぱい。ふふっ」  
 本当に嬉しくて嬉しくて仕方がないと、言いたげに笑う。  
「い、イースっ」  
 堪らなくなったウエスターが、少女の肩を乱暴に抱き寄せる。  
その衝撃で、擦れた肉壁に走る感覚にせつなは甘く悲鳴を上げた。  
「っあ、ぁ、ん、うえすたぁ……ッ、くぅっ」  
 
「あ、ッ悪い、痛くなかったか?」  
 慌てて少女の顔を覗き込んだ青年に、少女は弱弱しく笑って見せた。  
「ん、平気。私、痛みには強いもの。知ってるでしょ」  
「そういう問題じゃねぇだろ……」  
 呆れや安堵、その他色々な感情の入り混じった声だった。  
 
「そ、んっ。それに、ウエスターがくれるもの、ならなんだって嬉しいよ?」  
 少女の言葉が、柔らかく彼を捕らえていく。  
「イース……」  
「ぁ、また、中でおっきくなって……はぁんっ」  
 喘ぐ少女に、ウエスターが声をかけようとした。けれど、キスで塞がれた。  
 
「わたしが、動いてあげるから。私が気持ちよくして、あげるの」  
 唇を少しだけくっつけて、悪戯っぽく少女が笑う。  
そして、ゆっくりと腰を引いた。  
 
「は――んぁ……っ、あ、んっ」  
「い、イースっ」  
 騎乗位そのものは初めてではない。というより、体格差的に正常位が厳しい。  
だから、ふたりは座ってとか、だっこしてとかが圧倒的に多かった。  
が、事に及ぶ際は基本的に男であるウエスターの方がリードしてきたし、彼女もそれを受け入れていた。  
彼女を上に乗せた時は、彼が動かし方を教えて、少女はされるがままに善がっていた。  
 
 いや、今もそんなに状況は変わってねぇけどな。  
そう、頭のどこかで冷静な部分の彼が呟いた。  
 
「ひぁっ、あん、うえすたーの、あっ、きもちいいの……っもっと、ちょうだい、っぅあ」  
「ん、はぁ、イース。すげ、締まって……く」  
 きゅうきゅうと、少女が締め上げる。もっともっとと責める様に男を貪ろうと縋り付いてくる。  
「はふぅう、あッ、くああっ、ウエスターっ、すき、欲しいの、ねえ」  
 彼女の潤んだ瞳に、青年が耐えられるわけがなかった。  
 
「ぁ、ああ、ウエスタぁ……ッ、くあ、ひぅううッ」  
 少女の力が抜けて、青年の胸に埋もれた。  
 

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