「結婚、かあ〜」  
美墨なぎさはキルトを縫う指を止めた。  
もうすっかり日も落ちてあたりが暗くなった夕暮れ、彼女はマンションの自室で、再来週に結婚式を挙げるというクラス担任の女教師にプレゼントするためのキルトの生地の縫い合わせをしていた。  
結婚…純白のドレスで彩られた美しい花嫁  
それはもうほとんどの女の子に幼少期から刷り込まれたかのような永遠の憧れ  
普段はラクロスにチョコパフェに…そして淡い恋にいっぱいのなぎさの頭も、身近な人の結婚話が持ち上がっているこのごろはやはりついウエディングドレス姿の自身を想像してしまう。  
 
 
さすがになぎさでも食べきれないほどの(なぎさはこれがすべて本物だと信じている)巨大なウエディングケーキ。暗闇の中キャンドルの淡く暖かい光に照らされるステージ。  
純白のドレスのなぎさは、ケーキに入刀すると微笑んだ。その同じナイフを一緒に持つ大きな手の先には、優しげに笑う藤村省吾…。  
俺の人生のパートナー。これからはずっと一緒だよ…  
そのなぎさの1年先輩である男性は、言葉に出さず笑顔でそう表現していた。なぎさの胸に暖かいものが広がっていく。  
「…藤P先輩…」  
そっとなぎさは口にしてみた。でも…なんか違う  
そして…  
(しょ・う・ご…)  
声には出さないで、口の形だけでなぎさは藤村の名を呼んでみた。  
 
 
 あちゃあ〜  
突然、背筋を抜けるような興奮がなぎさを襲う。顔が耳まで真っ赤に染まり、心臓はその勢いを強め、尿意も無いのに腰がじんっとしびれてくる。  
頭の中が恥ずかしさと、そして麻痺したかのような幸福感で満たされたなぎさは、少し冒険してみることにした。  
そう、今までは何気に「ありえない」って感じで抑えてはいたが…想像の羽をもう少しだけその先に広げてみることにしたのである。  
 
 
藤村は、なぎさの肩と太ももの裏に両腕を滑り込ませると、ゆっくりと持ち上げた。夢にまで見たお姫様抱っこ。そしてそのまま赤いじゅうたんの上を慎重に歩き出す。  
抱え上げられたなぎさの頬にそっと触れる、藤村の暖かい吐息。力強く前を見て歩く横顔。  
「さあ、ごらん、お姫様」  
少しからかうような口調で言うと、藤村はそっとなぎさを立たせた。ホテルのスウィーツの一室。前面ガラス張りの窓から見下ろすとあったのは、まばゆいばかりの南国の太陽と純白の砂浜と透き通る青い海!  
「うわあ〜っ」  
なぎさは歓喜の声をあげた。楽園の陽の光がウエディングドレスを透過する。  
ケーキ入刀からいきなりすべてすっ飛ばして新婚旅行にまで想像を広げてしまうのも、まあ10代の女の子ならではだろう。現実には何時間にも及ぶ飛行機の旅が待ってはいるのだが、そんな心配をするのはもう10年後でいい。  
「え?」  
突然、藤村が後ろから抱きしめてきた。どうやら上半身はすでに裸のようだ。  
「おいで、お姫様」  
耳元にかかる、甘い、吐息。なぎさはそっとうなずいた。  
 
 
いつしかなぎさの右手は、股間のあたりに添えられていた。デニム地のミニスカートのすそを少しだけ上にしわを寄せるような感じで持ち上げると、白い布に隠された、わずかに盛り上がった部分があらわになる。  
なぎさは…手のひらでそっと恥丘全体を包み込むと、ゆっくりと揉むように動かした。  
「あ…」  
思わず声が漏れる。くすぐったいような、痺れるような感覚。  
手のひらの圧力が、秘肉の触覚に微妙な刺激を与え続ける。  
 
 
たっぷりの質量を持った絹のドレスが、蝶の翅のようにベッドいっぱいに広がる。  
大の字に両手を伸ばしたなぎさ。おそらくは想像が及ばなかったのか下半身はタキシードのスラックスのままの藤村がその上に覆いかぶさる。  
互いの両手を指を絡ませながら、二人はキスを重ねた。甘く、優しく、何度も何度も…。  
自分の上に存在する、心地よい、重さ。  
そっと、藤村の右手がドレスのすそからなぎさの秘部に侵入していった。  
そして…その動きは現実のなぎさのそれとリンクする。  
 
 
「はあっ!あっ…!」  
押し殺した快楽の叫びが、部屋の片隅へと消えていく。  
ゆっくりと撫で上げる手のひらの下の布に、小さなシミがにじんできていた。  
ほんのりと緩み始めた秘肉の合わせ目から、しっとりと呼び水が浮かび上がってくる。  
なぎさは…しかし下着を脱ごうとはしなかった。  
家族四人で生活するマンション。いつ誰が…特に最近とみに生意気になった弟が…自室に入ってくるとも限らないのだ。  
 このまま風呂に入るときに下着は洗濯機に放り込んでおこう。  
なぎさはこの独り遊びを始めたときからそう決めていた。  
まだまだ小さいけれど筋肉で綺麗に支えられた胸が、身体の奥からせりあがってくるように膨らみだそうとしている。  
なぎさはシャツのすそから左手を入れると、ブラの上からそっと硬くなった乳頭を撫でた。  
「あっ…!」  
すでに敏感になっているその部分は、触れるだけで刺激を喉の裏まで伝え、背中の筋肉までをもびくつかせる。  
「ん…んん…」  
乳首を指の腹で押し付け、転がし、先端をこする…。  
そして…彼女の右手はとうとう下着の中への侵入を始めた。  
人差し指と中指で、秘裂の外側をゆっくりと奥から手前へとなぞる。先ほどまでとは比べ物にならないくらいの愛液が染み出してくる。  
「あ…あっ…!」  
 
 
「あ…あっ…!」  
その二本の指は、徐々に中心へと近づいていった。そして…たっぷりと濡れた両側の襞へと到達する。  
なぎさは染み出している愛液を襞に沿って指ですくうと、そのまま陰核の包皮へと塗りつけていった。  
決して指は中には入れない。怖い、とかそういうんじゃない。なぎさには指を中に入れるという発想そのものが無かった。  
小さい頃に初めて秘部を触ったときに気持ちいいと感じたときからの行為の延長。それを性的なものへと後押ししていく淡い恋心…。  
「あ…ん…んんっっ!」  
わずかに声が大きくなる。必死でそれを抑えると、なぎさはひたすらその作業を繰り返していった。  
 
 
「…風呂…入らなくちゃ…」  
なぎさは左手でティッシュを2,3枚つまみ出すと、右手の指を丁寧に拭き取った。そしてそのままそれを秘部にあてがい、残った水分をしみこませる。  
そこへ  
「なぎさ〜!雪城さんから電話よ〜!」  
母の呼ぶ声。  
「は、はいっ!ちょっと待って〜!」  
丸めたティッシュをくずかごに放り込むと、慌ててなぎさは廊下に出た。受話器を持つ、何も知らない母。  
「ありがと」  
なぎさは受話器を左手で受け取ると、電話の主に呼びかける。  
「もしもし!ほのかあ〜。ごめん、待ったぁ?」  
電話口から軽やかな返事が返ってきた。  
「ううん、全然。…どうしたの、なぎさ?なんだか息が荒いみたいだけど…」  
ドキッッ!  
なぎさの心臓が一瞬だけ止まった。  
 
「え?えっと〜、そっかなあ〜。気のせいじゃない?」  
ははは、とわざとらしくなぎさは笑う。  
「ふ〜ん、まあ、大丈夫ならいいけど…。ところでなぎさ、今度のキルトの生地のことなんだけど…」  
その後、10分ほどのおしゃべり。そして  
「じゃあ、そろそろ切るね。あ、そうそうなぎさ!」  
もう終わり近くにほのかが切り出す。  
「ん?なに?」  
なぎさが言葉を促す。  
「あんまりやりすぎるとよくないわよ。何事もほどほどが一番だから、ね。おやすみなさい、なぎさ」  
その言葉に…  
「うん、ありがとう。おやすみ、ほのか」  
なぎさは、そのほのかの言葉は当然「キルトを作るにもあまり根を詰めすぎちゃいけないわよ」という意味に解釈していた。真意はほのかにしかわからぬことだが…。  
 
 
終わり  
 

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