朝。まどろみを楽しむ青年は、目を閉じて二度寝を目論んでいた。  
「……何時まで高いびきかいているのかしら」  
 底冷えする声に冷水を掛けられた気がして、ウエスターは慌てて身体を起こした。  
 
「い、イースっ?な、なんでここに」  
 辺りを見回したが、やはりここは彼の私室で、彼女の存在は異端だった。  
「今日はサウラーが出たの。で、あんたがぐーすか五月蝿くて仕事が手につかないのよ」  
「え。……ええと、悪かった……な?」  
 
 本来、彼女が許可なく自室へ乗り込んできた点についてはイースに非がある。  
いびきが五月蝿いとは言え、共同生活の中ではもう慣れてしまっているから。  
わざわざこちらへ赴いたのは、八つ当たり相手をさせるためで、理由なんてでっちあげ。  
そんな彼女の内面に、彼が気づくわけはない。  
ただ、高圧的な少女の発言につい謝罪してしまった。  
 
「はぁ。ったく、あんたってほんと……」  
 自分のことを棚に上げ、呆れた顔をするイース。  
が、その言葉は途中で途切れた。  
 
「んあ?」  
 首を傾げた彼の間抜けな声を、少女は当然のようにスルーした。  
「ちょっと、なによそれ」  
 少女の視線は、ベッドの上。  
「へ?……う、うああッ!」  
「男って朝から盛ってるのねぇ」  
 
 ベッドと言う大平原に、ぽつんと立ったテント。  
その意味を見取ったイースは、もはや呆れを通り越した生温い笑みを浮かべていた。  
「ちが、これは生理現象でっ」  
「見苦しいわウエスター」  
 
 そこで少女は、何故かシーツを引き剥がした。上がる野太い悲鳴。  
「ってイースゥウ、なんでひっぺがすんだよぉ!」  
「知的好奇心の探究よ。五月蝿いから黙ってて、馬鹿」  
 そのまま、今度は彼の身体に手を伸ばす。  
「ちっ?は、いいからやめ」  
 制止の声に抑止力は欠片もなく。  
スウェットと下着を容赦なく毟り取られた。  
 
「いっやぁあああアーッ」  
 絹かどうかはさて置き、裂くような悲鳴に、少女は五月蝿そうに眉をひそめた。  
「だから、黙れ。……へぇ」  
 剥き出しの男性器を、うら若い乙女は無感動に見つめた。  
「う、うう」  
「血管浮いてて気色悪いわね……」  
 グロテクスな肉の塊。彼女の目にはそう映った。  
 
「ぐぅ……んなら見んなよ」  
 力ない声だった。  
寝起きで何もかもはっきりしないうちに襲われたのだから、仕方がなかったが。  
 
 けれど、少女はまだそれだけでは足りなかった。  
「それ」  
 軽やかなかけ声が聞こえる。そして、青年には衝撃が襲ってきた。  
 
「ひい!な、なにすんだっ」  
「だって触るのは嫌だし。気持ち悪いでしょうが」  
 冷たい感触に悲鳴が飛び出した。  
彼が視線を向けると、それは彼女の靴だった。  
つま先に自身の先端が乗っかっている。  
 
「だ、だからって足、いっ」  
「いちいち細かい男ね。踏み潰すわよ」  
 一旦足を外し、落ちた肉棒にイースは再び足を乗せてきた。  
 
 土踏まずとシーツの合間に挟まれたせいで、圧迫感が襲った。  
「う……」  
 つんつん、とピンヒールが敏感な肉を突いた。  
「あぐ……ぅ」  
「気持ち悪い声ださないでよ」  
 心底侮蔑しきった顔の少女に、青年は情けなく哀願する。  
「じゃ、じゃあ退いてくれよ」  
「いやぁよ、なんであんたの命令きかなきゃいけないの」  
 そのたっての願いを一蹴し、イースはその細い足で竿を甚振った。  
 
「ひぁ……、い。イースぅ」  
「情けない。それでもラビリンスの幹部なのかしら」  
 
「つっても、ぅ、男の急所だから、よぉ……ッ」  
「へーぇ?なら、尚のこと鍛えてあげなくちゃあいけないわね」  
「っふあ、ァ、つぅ……」  
 玉にめり込むヒールが、まず目に痛くて。  
思わず目を閉じたが、少女はそれを許さない。  
 
「どうしたの?ほら、まだ踏み潰してないわよ……?」  
 彼の頬を両手で挟み、無理矢理目をこじ開けて。息が掛かるほどに近くでイースが囁く。  
少女の歪んだ唇が、ゆっくりと青年に近付いてくる。  
「ん、ぐ……」  
 柔らかな感触に、彼はますます混乱した。  
「……む」  
「んん……ぁ、ん……ぅ」  
 イースの舌がねっとりと彼に纏わりつく。甘い呻き声が思考を妨害する。  
少女の舌は、彼の口内をちょんちょんと突いて、さっと引いて。  
その動きに翻弄され、つい彼は自身の舌を伸ばしてしまった。  
 
「っづぁ、ぐッ」  
 少女の口内に入った途端、鋭い痛みが走った。噛み付かれた。  
鉄の味が口に広がり、ウエスターの眉間に皺が寄った。  
「あら。なぁに、ウエスター」  
「お、おま、え」  
 唇を離し、彼が見たのはやはり悪びれないイースだった。  
「くすくす、汚れてるわ……」  
「っぁ?」  
 
 彼は再び、その赤に目を奪われた。  
生温かい舌が、血と唾で濁った液体を舐め取っていく。  
やがて、すっかり血を拭っても物足りなかったのか、少女は更に舌を這わせた。  
唾液で青年の口元がべたべたと濡れていく。  
長いまつげが揺れ、白い肌にうっすら浮かんだ汗に、ウエスターの目は釘付けだった。  
 
「舐められるの、そんなに好き?」  
 上目遣いで見つめる少女に、青年は慌てて否定する。  
「べ、別にそんなことないぞっ」  
「そうねぇ、あんたは痛い方が好きだし、……ねっ」  
 少女のつま先が、思い出したように動いた。  
蹴り上げられた衝撃で、青年は鈍く唸った。  
 
「ほ、ほんとに、も……勘弁、してくれ……」  
「嘘つき。あんた単純なんだから、身体は正直よ」  
 何時の間にか発生した先走りが、少女の靴を汚していた。  
硬質な彼女に散った自分の欲望に、青年の顔が赤く染まった。  
「っへあ!う、こ、これはだなぁ!」  
「フフ、まぁいいわ。ほら、退いたわよ」  
 薄く笑い、次の瞬間には何もなかったように彼女はベッドサイドに立っていた。  
状況についていけないウエスターは間抜け面を晒して戸惑う。  
 
「え?え、あ」  
「何?もっと踏んで欲しかったの?」  
 少女の言葉に、青年は必死に否定の文句を並べた。  
「い、いやいやそんなことはっ」  
「唾飛ばさないでよ、きったないわね」  
 
 部屋を出て、少女は歩き出す。  
ふと、思い出したように呟いた。  
「……お預け喰らった犬みたいな顔して。本当に馬鹿な男」  
 イースは、自分の満足気な笑顔に気付くことはなかった。  
 

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