ファッションショーの衣装合わせをするから、と言われてえりかの家に  
来たゆりは戸惑っていた。  
「服って……これなの?」  
「そうですよー。ゆりさんが選んだんじゃないですか」  
 確かにデザイン画を見せてもらって、好みのものを選んだのだが。  
 できあがってきた服は、確かにデザイン画と同じではあるのだが。  
 ……生地がオーガンジーでできていた。  
 オーガンジーというのは透き通った生地のことだ。花嫁のベールなどを  
想像してもらえればいい。  
 これを着たら体がかんぜんに透けてしまう。  
 からかっているのかと思ったが、つぼみもえりかもいつきもいたって  
真面目な様子だ。  
「ゆりさんって、銀色とかパールのイメージで……オーガンジーがピッタリだと  
思ったんです!」  
「しかねシルクオーガンジーなんですよ!」  
「え……高かったんじゃないの」  
 確かに布には特有の光沢があり、滑らかで心地よい手触りだ。  
「ママが大量に仕入れたからって安くしてくれて」  
 それでも、それなりの値段だっただろう。  
「私たち、この布を見て、みんな一致でゆりさんにピッタリって思ったんです!」  
 ねっと顔を見合わせるつぼみたち。そこには邪気は欠片もなく、素直に  
自分を慕ってくれているのがわかる。  
 自分がこの布に相応しい人間だとは思わないが、つぼみたちの好意は  
素直に嬉しかった。  
 だがしかし。  
「……このままじゃ、着られないわよね?」  
「えーっ! どうして!?」  
「どこか変ですか?」  
「変っていうか、その、透けちゃうでしょ?」  
「ああ!」  
 えりかがポンと手を打った。  
「安心してください! 本番ではアンダードレスがありますから」  
「なんだ、そうなの……」  
 ゆりはほっと息をついた。  
 シースルーの衣装を着る時に、下に着るごくシンプルなワンピース。  
それがアンダードレスだ。  
 しかし、安心したのもつかの間、いつきがさりげなく爆弾発言をする。  
「でも、今日は準備が間に合わなくて。だから、申し訳ないんですけど  
今日はこのままで着てもらえますか?」  
 
「え?」  
 ゆりは焦った。  
「だ、だったら、今日じゃなくてアンダードレスができてからで……」  
「それじゃ、本体が間に合わないんです。実際に着てもらって、おかしいところ  
あったら直さないといけないから、仮縫いしかできないし」  
「この生地だと、本縫いにすごく時間がかかってしまうから……」  
 私がもっと上手だったらいいんですけど、とつぼみがうなだれだ。  
「だから、学校じゃなくてうちにきてもらったんです」  
 この服を着たら、ほぼ下着姿を晒すことになってしまう。  
 確かに学校よりも、個人の部屋の方が抵抗は少ないが。ちょっと少なくなると  
言うだけで、厳然として抵抗はあるのだ。  
 断ろうとしたゆりの機先を制するように、えりかが声を上げる。  
「ここにいるのは、あたしたちだけですから!」  
「見るのは、この仲間だけです」  
 仲間という言葉に、ゆりは弱い。  
「女同士!」  
「仲間同士!」  
「ダメですか……?」  
 涙目でつぼみに見つめられて、ついゆりは「いいわよ」と言ってしまったのだった。  
 
 
 ……女同士なんだもの。恥ずかしがることはないわ。  
 それも、自分より年下の子ばかり。  
 文化祭のファッションショーの衣装合わせなんですもの。  
 恥ずかしがる方がかえっておかしいのかもしれない。  
 そう自分に言い聞かせながら、ゆりは洋服を脱いでいく。それでも下着姿になると  
恥ずかしくて、3人の顔はまともに見られなかった。  
 ――もし、顔を上げていたら、3人が奇妙に熱い視線で自分を見ていることに  
気がついただろう。  
 後ろを向いて、ゆりは急いでオーガンジーのドレスに袖を通した。案の定、  
ドレスは肌を隠す役目をほとんど果たしていなかった。  
「ど、どう……?」  
 頬を染めながら、ゆりは3人を振りかえった。腕がつい胸を隠すように  
動いてしまうのは止めようがなかった。  
「わー……」  
「ゆりさん、きれい……」  
 3人はうっとりとゆりに見とれている。面映ゆいが、悪い気分ではない。  
「ゆりさん、腕ちょっと動かしてみてください」  
「え……」  
「肩とか窮屈じゃないですか?」  
「だ、大丈夫よ」  
「ダメですって! ちゃんと動かさないとわからないじゃないですか。はい、  
横にあげて」  
 
「え、ええ……」  
 えりかの勢いに押されるように、ゆりはゆっくりと手を横に上げた。  
「あー、やっぱり胸がちょっとツレちゃうかも」  
「!」  
 えりかの手が伸びてきて、ゆりの胸の周りをくるりと撫でた。あまりのことに、  
ゆりはとっさに言葉が出ない。  
「うまく形に合ってないんでしょうか」  
 つぼみの掌も、ゆりの胸を包むように当てられた。  
「ちょ……と、あなたたち!」  
「あー、ダメですよ、ゆりさん。急に動いたら。まち針が刺さっちゃう」  
 身を離そうとしたゆりを、えりかが制止した。つぼみが、やっぱり邪気のない  
顔で笑う。  
「すぐ終わりますから、もうちょっと待っててくださいね」  
「この辺をつまめばいいんじゃないかなあ」  
 いつきが胸の一番高い部分のオーガンジーをつまみ上げる。  
「…っ!」  
 オーガンジーといっしょに敏感な先端も摘まれて、ゆりは身をすくめた。  
「どうかしましたか、ゆりさん?」  
 いつきがきょとんとした顔で見上げてくる。……そう、3人はただ衣装を  
確認しているだけ。なのに“反応”してしまっている自分がとても淫らに  
思えて、ゆりは紅潮した顔を背けた。  
「……なんでもないわ。早くして」  
「はい」  
「もう少し待っててくださいね」  
 ここにギャザーを寄せたらいいんじゃないかとか、タックを取るべきだとか、  
意見を交わしあいながら、3人はゆりの胸を交互に弄った。  
「……ぅ、……っっ」  
 切ない吐息が漏れそうになるのをゆりは必死でかみ殺した。なんでこんな  
ことになったのだろうと、霞がかかり始めた意識が訴える。  
「でも、ゆりさんの肌きれーい」  
「……ひぅっ」  
 えりかの手が太ももを撫であげる。胸からの刺激にひたすら耐えていたところに、  
別方向から攻撃を受けて、殺しきれなかった声が唇から漏れる。  
「本当に滑らかで手に吸い付くみたいだ」  
 いつきの手がゆりの背中をゆっくりと降りて、また昇っていく。  
「や……あなたたち、な、に……」  
「ふふ、やわらかーい……」  
 いつきがブラのホックを外したのだと気がついたのは、つぼみが胸に顔を  
埋めてきた時だ。  
 オーガンジー越しだけれど、肌に直接つぼみの息がかかるのを感じた。  
「やめなさ……ああっ」  
 鋭い制止の声は、途中で甘い悲鳴に変わった。つぼみがオーガンジーごと  
胸の先端を吸い上げたのだ。  
「だめだよー、つぼみ。服にしみついちゃう」  
「あ、そうですよね」  
 えりかに言われ、つぼみは顔を離した。けれど、その手は胸を弄るのを  
止めようとしない。  
 
「……んっ、ぅっ」  
 ゆりはびくびくと身体を震わせた。  
「ゆりさんてスタイルもいいですよね」  
「羨ましい」  
 いつきの顔が近づいてきて、ゆりの耳たぶを噛んだ。  
「……っ」  
 ゆりの肩が跳ねる。  
「それに……すごく敏感」  
 いつきは、そのままゆりの耳を愛撫する。自分の耳が弱いことを、  
ゆりは知っていた。電流のような快感が、背筋を走り抜ける。  
 それでも理性をかき集めて、ゆりは3人を止めようとした。  
「いい、加減に……」  
「ゆりさんを……敏感にしたのは、コロン?」  
 息が止まるほどの驚愕に、ゆりは目を見開いた。  
 その視線の先で、つぼみが柔らかく微笑する。  
「わたしも……シプレに教えてもらったんです。気持ちいいこと、全部……」  
 つぼみの指が、ゆりのドレスの肩紐を、するりとほどいた。  
「でも、もうコロンはいなくて……」  
 滑らかな絹の感触を残して、ドレスが足下に落ちていく。  
「だから……」  
 いつきの舌がゆりの首筋をたどっていく。  
「ぁっ」  
 えりかの手が、腿の内側にはいりこむ。  
「だから、せめて……」  
 つぼみの細い指先が、ゆりの胸を包んだ。  
「わたしたちが……」  
「っっ」  
「ひとときの、慰めを」  
 
 
続かない。  
 

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