自室の扉を後ろ手で乱暴に閉める。
今日もプリキュアに負けた。これで何回目だ?覚えていないほどの敗戦歴にぎりりと拳を握り苛立ちに任せて壁を打つ。
こんなことではメビウス様に申し訳が立たない。嗚呼。イースは身体からぶすぶすくすぶるような黒いオーラを発しながら寝台にうつ伏せに倒れ込んだ。
「おい、なんだいまの音…って、イースまた負けたのか?」
不意に扉が開きウエスターが顔を覗かせた。デリカシーのない一言にさらにイースは苛々を募らせる。
「うるさい」
「なあ…イース元気だs「うるさいはやく私の部屋から出て行け」
不機嫌極まりないイースに邪険にあしらわれてもウエスターは部屋から出て行くわけでもなく黙って気まずそうに寝台の前に突っ立ったままだ。
いつまでも立ち去ろうとしないウエスターにしびれを切らしたイースが力ずくで追い出してやろうと半身を起こしたとき
「イース」
ふいに覆われるように背後から抱きすくめられた。
「!」
一瞬目を見開いて驚きに身体を震わせたイースだったが、すぐにぶすりと眉間に皺を寄せて露骨に嫌そうな表情をつくった。そんなイースには構わずウエスターはただ優しく撫で続ける。
幼子をあやすように、あるいは、聞き分けのないペットを愛でるように。
ウエスターの大きな身体に抱えられるとまるでシェルターの中に閉じ込められているみたいだ。
「イース」
「なに」
「イース、あまり1人で背負い込むな。つらいことがあるなら俺たちは仲間なんだから、もっと頼ってくれ」
仲間?笑わせるわ。
いくらか落ち着きを取り戻したイースだが、この大きな手に感じたのは感謝ではなく屈辱。
仕返しとばかりにイースはウエスターの腕の中で器用に反転し、目の前にある筋張った首筋に思い切り噛み付いた。
「痛っ」
大袈裟だ、と思いながら噛みついた跡を見てみるとうっすら血が滲んでいた。
ああ、これは痛かったかもな、とイースはその滲んだ血を舐めとるとウエスターはびくりと身体を震わせた。
「イース、やめろって」
舌先に感じるほのかな錆びた鉄の味。
なんだかわからないが、もっと、という気分になってしまう。
「イー、スっ!ま、待てって」
切迫したウエスターの声。
イースは自分が上位に立ったことに満足して首筋から唇を離した。
「これで懲りたでしょ。私に構うとろくなことにならないわよ。いい加減離しなさい」
「」
「ちょっと?ウエスター」
「」
今度無言になったのはウエスターだった。
無理矢理イースの首筋に顔をうずめてくる。
まさか仕返しかとイースが身構えたところで、ウエスターの囁きが耳に入ってきた。
「 」
「え?」
「…すまない、イース……我慢できそうにない」
甘さを含む、上擦った声。
首筋にかかる息が熱い。
なにより太ももに当たるモノが既に、カタい。
自ら仕掛けた悪戯が成功した結果であるにも関わらずイースはドン引きした。
「バカ、変態、早くどけなさい。今日はそんな気分じゃないの」
「俺はやめろって言ったんだ……抑えられなくなるから」
更に抱きしめられて圧迫感が増す。
「だめ、やめなさい!やめて、ウエスター」
「…嫌だ。誘ってきたのはお前だろ」
「離して!」
イースが暴れても、ウエスターの腕の力はまったく緩まない。任務としてウエスターに抱かれるのははじめてではないが、自室で、というのははじめてだ。
「離しなさ、っ!」
首筋を生暖かい舌が這う。
ぞわりと背筋をなにかが駆け抜けた。
「このっ、けだもの!」
「なんとでも言え、今俺はお前が欲しい」
「私は離して欲しいわ」
「それは残念だ」
ウエスターは片手でイースを抱いたまま、もう片方の手でコスチュームの開いた部分から手を滑り込ませてきた。
ダイヤの飾りのついたホックも内側から簡単に外されて、あられもない姿にされてしまう。
「寒いわ、やめて」
「きゃー、とか言わねーのかよ。いつもいつもかわいくねえな」
不満を込めた視線がかち合う。
「かわいくなくて、結構。だったら離しなさ、ゃんんっ!」
「…そういうかわいい声も出せるんじゃないか」
胸の先端を舐められ思わず声を漏らしたイースにウエスターは満足げに笑う。
いちいち癇に障る男だ、と思いながらイースは反撃に出た。
比較的自由に動く足を小刻みに動かして、ウエスターのソコを刺激する。
「うおっ!……イース」
「お生憎様、やられっぱなしは性に合わないの」
「プリキュアにはやられっぱなしのくせに」
「黙れ。お前だってそうだろう」
互いに何かが切れた。
「っあん、やっ、あ」
「イー、ス、っ」
ぴちゃぴちゃと部屋に卑猥な水音が響く。
ウエスターは夢中でイースの、イースはムキになったようにウエスターの性器を口にしていた。
ウエスターはどうだかわからないが、イースにとってこれはもう負けられない戦いだった。
先にイカされた方が負けだ。
「はあっ、んんんっ」
舌先を浅く突き込まれ、じゅるる、と愛液を吸われる。
無骨なくせに繊細な動きをする指がいちばんいいところを摘む。
「気持ちいいか?イース」
「んっ、馬鹿言うなっ!……っっ!」
軽くのぼりつめそうになり、慌ててイースは目の前のモノに意識を集中させた。
浮き上がる血管に沿って舌を動かし、そしてカリの部分を舌先で小刻みにくすぐる。
口に溜めた唾液を落として、根元の方を強く扱くとウエスターが舐めるのを中断して呻いた。
「うぁっ、イー…スっ」
扱く手からソレが更に膨らんだのがわかった。手のスピードを早めつつ、ウエスターのをくわえるが、イースの小さな口ではカリまで含むのが精一杯だ。
口いっぱいに先走りの苦味が広がるのを感じながら段差をはじくように舌を舐め這わす。
イースのその動きに感化されてか、ウエスターもとどめとばかりにクリトリスを吸い、指でナカのざらざらした部分を重点的に攻め出した。
「イースッ、う」
「ん、んぁぁあ、ひあ」
イースの口の中でソレが一際大きく膨張する。
「イースっ出るっ!」
「んぐっ、っぁああっ!!!」
ウエスターの切羽詰まった声と共に口の中で極限まで膨張したソレから精液が吐き出されるのを感じながら、クリトリスに軽く噛みつかれたイースも数刻遅れて達した。
互いに息を乱し、身を起こす。
精液独特の苦味と舌触りにイースは顔を歪めて、それを飲み込む。
「…いつもいつも量が多いのよアンタは」
「それは悪かったな。でもお前も今日はいつもより濡れてた」
ほら、と目の前に差し出された手は妖しく濡れて光っていた。
そう言いながらニヤリと笑うウエスターからイースは舌打ちをしながら顔を背ける。
「あ!」
「うるさい、何よ」
イースは無理矢理ウエスターに正面から向き合わされた。
目の前には幸せそうなウエスターの笑顔。
「そういえば、今日キスしてない」
今日もなにも任務として身体を重ねるようになって、数回、いつも行為に夢中なウエスターと口付けなど数えるほどしかしたことがない。
「はあ?別にそんなこと」
どうでもいいじゃない、と言おうとした口を問答無用で塞がれた。
「ん………っ」
「…イース、続きいいか?」
いままでのことがそしてこれから繰り広げられるであろう淫らな行為が嘘のような、ただの唇を重ねるだけの軽いキスを何度も落とされる。同時にふわりと髪を撫で梳かれた。
その一瞬、イースはこの無邪気な男が私を愛してくれてもし私もこの男を愛せたなら、この胸の痛みは消えるのだろうかと思った。