綺麗な満月の夜だった。  
 
(大きな月だな……少し怖いくらいだ)  
明るすぎる月にわずかに畏敬の念を抱きながら見入っているうちに  
眠気が僕を襲ってきて、自然に、ふあ、とあくびが出てきた。  
「さて……そろそろ寝ようか、クロちゃん?」  
カーテンを閉めて振り返ると、暗い部屋の中で浮かび上がるように光っていた金色の瞳が  
ふい、とそっぽを向き、すらりとした黒い背中と長い尻尾を僕に見せた。  
寝る前の挨拶代わりにそっと首周りの毛を撫でると、  
黒猫は僕の手をよけるように立ち上がり、部屋の隅っこに行ってしまった。  
 
道端で助けたのをきっかけに、ときおり不意に現れては僕にまとわりついてくるようになったメスの黒猫。  
僕も猫好きなので、こうやって懐いてきてくれるのは嬉しいと思い、何回か家に上げてゴハンをあげたり、  
膝の上に抱っこして毛並みのよい背中を撫でさせてもらったり、  
「うちの子になるかい?」なんて冗談を言いながら一緒に眠ったりしていた。  
 
(だけど、今日はどうしたんだろう、いつもと様子が違うな)  
普段なら、露骨に甘えてくることこそないものの、  
毛づくろいしてあげている間は大人しく僕に身を任せているのに。  
(機嫌でも悪いのかな? でも出て行かないってことは嫌われてるわけじゃないみたいだな)  
ふう、と溜息をついてから布団にもぐると、しばらくして布団越しの足元に、とすん、と軽い重みがかかった。  
彼女がここに泊まっていくときの定位置だ。  
僕は少し安心して、  
「おやすみ、クロちゃん」  
「……」  
そう言って目を閉じると、連日の楽隊の練習で疲れていたせいもあってかすぐに眠りに落ちてしまった。  
 
 
 
気配を感じて目を開けると、黒い人影が、僕のからだの上でゆらりと蠢いていた。  
(……! 泥棒!?)  
いきなりの出来事に心臓が飛び出しそうになり、僕は助けを呼ぼうと大きく息を吸い込んだ。  
その瞬間、唇をなにか柔らかいもので塞がれ、  
「むぐ…っ!」  
僕は声を出せなくなってしまった。  
湿った肉が僕の唇を覆い、さらに尖らせた肉が唇をこじ開け割り入ってくる。  
その尖った肉が口内で柔らかく変化し、僕の舌を探るように動き回る。  
僕はそこでやっと口の中に入れられているものが人間の舌だということに気づいた。  
 
(え……!? なんだこれ……もしかして……キ、ス……)  
 
なんで泥棒が僕にキスしてくる!?  
いわゆる『泥棒』のすることとあまりにかけ離れた行動の意図を理解できずに、僕は頭を混乱させる。  
長い髪のひと房が僕の顔にかかり、くすぐったさに身を捩じらせその勢いで唇を離した。  
暗闇に慣れてきた目でもう一度泥棒の姿を見定めると、  
それは泥棒、というにはあまりにも頼りないからだつきの女の子だった。  
 
(この子は一体誰?知らない女の子がなんでこんな真夜中に部屋に侵入してきて  
 僕のからだの上にのしかかってくる?)  
 
中途半端に閉めたカーテンの隙間から差し込んだ明るい月の光が女の子の顔を照らす。  
すごく綺麗な、気の強そうな鋭い眼差しの女の子。琥珀色の大きな丸い瞳。夜色の真っ直ぐな長い髪。  
でもやっぱり顔見知りでもクラスメイトでもない(クラスメイトだったらだったで問題だが)  
彼女の顔をまじまじと確認してから、ついうっかり視線を下に落として、  
僕は、凝視しなければよかった、と激しく後悔した。  
 
首にジャラジャラとしたアクセサリーを着けている以外は一糸まとわぬ姿。  
月光が、彼女の猫のようにしなやかな裸体を、ほのかな膨らみの頂点にある桜色の蕾を再び照らしだした。  
 
(う、わ……っ、やっぱり、ハダカだっ、た……)  
 
そこでブツッと思考が止まり、かわりに脳に一気に血が昇っていく。頬が火のように熱い。  
次の挙動を考える余裕などまったく無くなり全身を硬直させていると、  
あれよあれよという間にパジャマのボタンを外され、ざらっとした温かい舌で首筋を舐められた。  
(う……!)  
なにをしてるんだ僕は、こんな異常な状況、早く大声を上げて助けを呼ばなくちゃ──  
けれども、こんなに綺麗な顔立ち、柔らかいからだの持ち主に上半身を手と舌で執拗に攻められて、  
僕のからだは否応なく反応してしまい助けを呼ぶことが出来ない。  
 
そして。  
胸から腹をまさぐっていた細い指がパジャマのズボンの中に滑り入り、  
とうとう僕のガチガチに固まっていた中心を探し当てた。  
 
「……っ!!!」  
 
女の子に、女性にこんなことをされるのはもちろん初めてで、僕は、あまりの気持ちよさと恥ずかしさに、  
ぎゅっと目をつぶってただただ嵐が去るのを待つかのように耐えるばかりだった。  
(だ……め、だめだ、こんなことはしちゃいけない……)  
頭の中で何度も何度も繰り返される言葉は、実際に声に出ることなく、  
女の子の指が僕の敏感な場所をぎこちない動きでなぞるたびに、意味不明なうめき声が口の端から漏れていく。  
 
さっきまで僕の唇を貪っていた唇が、先端をつるん、と包み、ちゅっちゅっと遠慮がちに吸いはじめる。  
一度口を離してから、幹の部分をざらついた舌で丁寧に舐め上げると、勢いがついたのか、  
また先端に戻り、すぼめた口でさっきよりも強く吸い上げてきた。  
 
僕はもう限界だった。  
口でこういうことをする、という知識はなんとなく頭の中に入ってはいたけれど、  
実際の体験は、それをはるかに上回るもので、女の子のあったかくて潤った口の粘膜の感触、  
丹念に動き回る舌、それらが瞬く間に僕を頂点まで昇りつめさせて──  
 
「だ、め、だ、でるっ」  
「!」  
 
女の子の顔を離してあげたかったのに結局間に合わず、僕は彼女の口の中に大量に放出してしまった。  
 
「あ、ご、ごめん……!」  
「……」  
 
女の子は僕を咥えたままじっと動かずにいた。僕が申し訳ない気持ちでいっぱいでいると、  
彼女は僕のものから顔を離し、挑発するような表情を僕に向けながら、  
ごくん、とわざとらしく音を立てて口の中に溜まっていたものを飲み込んだ。  
唇の周りに、白い液体が少量こびりついてつやつやと光っている。  
その姿があまりにもなまめかしかったので、僕はしばし彼女に見惚れてしまった。  
 
女の子は唇の端を赤い舌でちろりと舐めると、今度は僕の腰の上にゆっくりとまたがってきた。  
この程度じゃまだまだ足りない、と思っているのを見透かされているようでものすごく恥ずかしかったけれど、  
正直一回出したくらいで元気がなくなるなんてことはまず無い、  
僕は健康な10代の男子で、目の前にいるのは素っ裸の可愛い女の子で、立て続けにいやらしい攻撃をされて、  
これで自分を抑えつけろというほうが無理がある。  
もうどうにでもなれ、どうせ一番恥ずかしい姿はすでに見せてしまったんだ、と半ばやけっぱちな気持ちで  
僕は彼女の行動を黙認する。  
 
ほどよく濡れた下の粘膜にちょん、とあてがわれ、ぷちゅん、とかすかな引っかかりを感じた後、  
僕自身が狭い襞につぷつぷと少しずつ飲み込まれていく。  
 
「くっ……!」  
「……あ、あっ……!」  
 
僕はそこで初めて彼女の声を聞いた。興奮してうわずっている、でもとても美しいアルト声。  
もっとこの声を聴きたい。  
もし僕がこのからだをピアノのように弾いたら、彼女はいったいどんな歌声を聴かせてくれるんだろう。  
ほんの好奇心から、僕は両手を伸ばして目の前の小ぶりで可愛らしい膨らみをわしづかみにする。  
そしてぷつんと固く立った小さな蕾をきゅっと摘んだ。  
「ひぁ……うっ、あ、あっ……ああん……!」  
艶のある妖しい歌声は聴き心地よく、僕の欲望をいっそう駆りたてる。  
調子に乗って華奢な腰を掴んで上下に動かし奥へと打ち付けると、  
女の子は長い髪を振り乱し、ひときわ高い嬌声を上げた。  
 
唇を引き結び、目を伏せ、ぷるぷると瞼を震わす女の子の仕草に、僕は  
(ひょっとして、痛いの?苦しいのかな?)  
と少し心配になり、  
「だ……いじょうぶ? いたい?」  
息も切れ切れに問いかける。  
すると、女の子の唇が、何かを呟くように緩慢に動きはじめる。  
(何を言っているの……? きこえない)  
僕は彼女の訴えを聴こうとして必死に唇の動きを読んだ。  
 
──オ、ウ、ジ……  
 
やっぱりこの子は僕のことを、僕の名前を知っているんだ。いったいどこで逢ったんだろう。  
 
──タ……スケ、テ──  
 
『たすけて』?  
痛いでも苦しいでもなく?  
助けて、って……それはさっき僕が叫ぼうとしていた言葉なんだけど……?  
僕に今まさに襲い掛かっているこの子が、どうして『助けて』なんて言葉を囁くのだろう。  
事情がよく飲み込めないけれど、僕のことを知っていてなおかつ助けを求めてくる、  
ってことは絶対にどこかで逢ったことがあるはずだ。  
僕は一生懸命に記憶の糸をたぐり寄せ、女の子の顔の特徴をとらえようと食い入るように見た。  
この子はいったい誰、誰なんだ……  
そのとき、視界の中に、見慣れた「あるもの」が飛び込んできて、僕は愕然とする。  
 
ゆさゆさと上下運動を繰り返す女の子の首元でゆらゆらと揺れる、チョーカーのモチーフ。   
(この飾り……え? もしかして……?)  
銀色の、弦楽器のような不思議な形……これは……  
心臓がドクンドクンと早鐘を打つ。  
そして、記憶のパズルのピースが、脳内でぴたりと合わさった。  
 
──うちの子になるかい? ああ、でもきみはどこかよその家の飼い猫だね、その首輪──  
 
「ク、ロ……ちゃん……?」  
「……!!!」  
 
僕の呼びかけに、女の子はギクリとした表情を見せ、肩を大きく揺らした。  
「クロちゃん」  
もういちど呼びかけると、暗闇の中で妖しく光る瞳から、涙が滝のように流れ出した。  
(え……まさか、ほんとに……あ!)  
ただでさえキツい肉襞が、よりさらにぎゅうっと狭くなって僕を締め上げる。  
「あ! んぅっ……! んんっ! あぁあ!」  
女の子は、自分の内部の動きをコントロールできないことに驚き泣き喘いでいた。  
(ま、また……! こんな急に……!)  
さっき一回出したばかりだというのに、僕は再び情けないくらいあっけなく彼女の中で暴発してしまう。  
全てを出し切った後、はらはらと涙を流す女の子の顔を見つめながら、  
僕はそのままからだを弛緩させ、意識を失った。  
 
 
 
ピピピピピ……  
目覚まし時計の音に、僕はぐったりとしたからだに鞭打って起き上がり、時計を止めに行く。  
(うう……あんまり寝た気がしない……)  
それというのも……あんな変な夢を見たからだ。  
可愛がっている黒猫が美少女に化けてエッチなことをしてくる夢、なんて。  
僕にはそういったシュミは無いはずなんだけどな、と苦笑いをする。  
 
あんな夢を見た割に下着を汚していないことを不思議に思いながら、のろのろと制服に着替える。  
それから昨夜半端に開けていたカーテンをシャッと全開にすると、  
窓が、猫一匹が通れるくらいに細く開いていた。  
(クロちゃん、出て行っちゃったのか……)  
昨夜の今日で顔を合わせるのは気まずかったのであの黒猫の姿が見あたらないのはある意味幸いだった、  
けれど……  
 
(なんだろう、もう逢いに来てくれないような気がする……)  
 
僕は嫌な予感を消し去るように頭を左右に振り払うと、開いていた窓をそっと静かに閉めた。  
 
 
 
 
 

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