「セイレーンにも肉球はあるのよね…」  
 街中でごく普通にお茶していた人間形態のセイレーンを見つけた奏が、ふと呟いた。  
 いきなり隣りに座る奏。  
 突然のことにびっくりするセイレーン。テンパリ易いのでもう混乱。  
(奏!? な、何でここに? ああああせっちゃ駄目! 落ち着け私! 落ち着けセイレーン!)  
「みゃ…ななな、何の用よ? たたた、たった一人でいい度胸じゃない? こっこここここで  
今片付けてっほっほしいのかしらおほほほほほ!」  
「今、ネガトーンに出来る音符も三馬鹿も居ないじゃない」  
「…う…」  
「私はいつでも変身できるけど」  
「え? あれ、二人じゃないと変身…」  
 奏、後ろをちらりと見る。  
 そこには近くの屋台でクレープを食べている響が居た。  
「…………」  
(なんか、私、やばいじゃん。トリオほんとに今居ないし)  
「まぁまぁ、大丈夫よ。いきなりフィナーレでぶっ飛ばしたりしないから」  
「そっ! そそそ、そうなの? ほんと? ウソ言わない?」  
「なぁに? ぶっ飛ばしてほしいの?」  
「ほっ! ほほほほしくありみゃせんっ!」  
「そ、良かった。苛めるのって私…まぁ、嫌いだから? うふふ」  
(う、嘘だっ! しかも疑問形っ!? その笑顔怖っ! なんか怖っ!)  
「ねぇ、セイレーン」  
「ひゃいっ!」  
「…別に声を裏返らせなくても」  
「ううううりゃがえってなんかないわよ!」  
「セイレーンってさ、本当は猫よね?」  
「そ、そうよ。それが何よ。猫だからってこの私を見下したら許さないわよ!」  
「…何か言った?」  
「…あ、いや、別に怒らせるつもりはなくて…。ご、ごめんなさい。ほんとに…」  
「……」  
「……」  
(に、逃げたい…)  
「揉ませて」  
 
「……」  
「……」  
「…え?」  
「だから、揉ませて」  
「ちっ! ちょちょちょちょっと待ったぁ! あんた真昼間から何をっっっ! あああ、あんた!  
どっちでもいいわけ?」  
「何慌てているの? 肉球よ。肉球」  
「わ、私はノーマルでっ! いや、確かにMだけどそんな簡単には…そんなっ…。……。え? 肉球?」  
「ハミィの代わり。貴女も歌姫だったなら、きっと肉球も揉み心地いいんだろうなぁって思って」  
「う、歌と肉球が関係あるとは思えないけど…。っていうかあんた、代わりじゃなくって、ハミィの  
揉めばいいでしょう? それこそ、何時でも揉み放題じゃない」  
「あの肉球もすごくいいけど、流石にずっと同じ肉球じゃ新鮮味が薄れるのよね。近所の猫はもう、  
四肢もふぐりも全て百時間は揉んでるし…。やっぱりこう言うのは常に新鮮味が無いとね。だって肉球だし」  
「だっての意味が分からないわ」  
(…え? ふぐ…?)  
「と言うわけで、それじゃ揉ませてもらうわね」  
「と言うわけ、じゃなくって! 何もうOKみたいに言ってんのよ! 誰があん」  
「気絶させてから無理やりって、わりかし好きじゃないかもなの?」  
「……」  
(わりかし? しかもまた疑問形? 何その無垢な微笑みで何そのとんでもない発言は! って、なんか  
もうモジューレ構えてる? あ、でも考えたらフェアリートンが居ないと…って! フェアリートーン  
挿しっぱなし!? なんかモジューレに縛り付けてない!? ひ、響もいつの間にか後ろに居るし! 何奏の  
事チラチラ見てるの? 怖いの? ちょっと腰引けてない? 何? 何なのこの二人の関係、パワー  
バランスは? ベストフレンドなんでしょ? なのよね?)  
 
「レッツ…」  
「ち! ちちちちちちょっと待って! 分かった! 猫になるから! 揉ませてあげるから!」  
「本当? よかったぁ」  
(そのお人形のような純真無垢な笑顔が怖い…)  
「…ちょっと残念だけど」  
(何が? 何が残念なの? ぶっ飛ばしたかったの!? 気絶させて無理やり揉みたかったの!?)  
「響、もういいわよ」  
「うん、いつでも呼んでね」  
(…今、戻りがけにちょっとだけ会釈したような気が)  
「それじゃ」  
「…もう好きにして」  
(マイナーに見られたら死のう)  
「じゃ、猫に…」  
「それは後の話よ」  
「はい?」  
「それっ♪」  
「ひゃあああぁっ! むむっ胸! そこ胸ぇっ!」  
「う〜ん、新しいぷにぷにだわぁ。す・て・き」  
「あひっ! 手! 手が入ってっ! じっ直! ちょっ…ひゃんっ!」  
「うふふ、セイレーン、やっぱりいい声。でも、もぉっといい声で鳴かせてあげるわね」  
「鳴くって…あはぁんっ!」  
 
「ああ…。奏のアレが始まっちゃった」  
「もう止められないにゃ。あの様子じゃセイレーンも堕ちるにゃ」  
「…セイレーン、もうぐったりしている…あ、なんだかピクって…」  
「羨ましいにゃ?」  
「べ、別に…」  
「大丈夫にゃ。二人はベストフレンドなんだからにゃ〜。最後は響の事呼んでくれるにゃ」  
「…だよね? うん。早く私をいじめて鳴かせて欲しいなぁ…」  
「ナチュラルにヤバい発言にゃ」  
 
「あっ! あっ! あぁんっ!」  
「ほらほら、爪弾く調べの感じはどうかしら?」  
「…い、いいっ! いいよぉっ! こんなの知らないよぉっ! もっとしてぇっ! はああああんっ!」  
(ん〜。いい声。そのうちミューズも揉みたいなぁ…)  
 
 現場の植え込みの後ろ。  
「鼻血がー♪」  
「鼻血がーー♪」  
「鼻血がーーー♪」  
 
「!?」  
「どうしたドド?」  
(何? この感じたことのない恐ろしい寒気は…)  
 
 その後、ミューズは戦闘にあまり積極的に手を出さなくなったとか。  
 
 

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