最初は、そう。新しい遊びを楽しんでいるだけだと、彼や彼の友人は思っていた。
人間界から戦利品として持ち帰ったプリキュアと名乗る光の戦士を部屋に囲い、陵辱の限
りをつくす生活。
自分の好きなように一匹のメスを染め上げることは、ウルフルンの支配欲をとても優秀に
満たしてくれた。あくまでも、それは一時の遊びであって、ウルフルンは自分が本気で入れ
込んでいる意識はなかった。
けれど彼が部屋にこもり、彼女と共有する時間は日増しに多くなっている。
「ウルフルンは、新しいおもちゃに夢中みたいオニね」
「そうらしいね。まったく、くだらないだわさ」
アカオーニは、ウルフルンがすぐに飽きるだろうと考えていた。
しかしマジョリーナはこの時点で気がついていた。ウルフルンが彼女へと抱いているだろ
う感情に。
(あたしらのような存在がそんな感情をもっても、ろくなことにはならないだわさ)
そう遠くない未来。彼に振りかかるだろうバッドエンドを思って、マジョリーナは深く息を吐
き出す。絶望渦巻く王国には、そんな溜息の音など響く筈もなかったが。
王国内に常に滞留する澱みを、切なげな喘ぎが揺らす。
ウルフルンの居室では、彼の銀びかりするような逞しい肉体にしがみつきながら、一人の
少女が身体を揺らしていた。
「ふぁ、ああ! んぁぁ」
ベッドのふちに腰掛けたウルフルンの腰元にまたがり、淡い桃色の長髪を揺らしながら、
みゆきは凶悪な肉棒を自身の肉壷で締め上げる。喘ぎに混ざって水音が響き、淫熱で蕩け
た瞳の端に涙を浮かべながら、彼女は快楽を貪るように身体を揺らす。
「はぁ、んんッ!! ぁ、ぁぁぁ、ぁ、ぁあ」
巨大な灼熱を根本までくわえ込み、みゆきは背筋を焼くほどの暴力的な疼きに息を荒げる
。指先が食い込む程にウルフルンの二の腕を掴み、彼女の肉体は何度目か分からない絶
頂へと向けて駆け上がっていく。
一糸さえ纏わぬみゆきの、発育途上を思わせる胸元に控えめに咲く二つの木の芽。ウル
フルンは口元に刃のような笑みを浮かべながら、爪先で桃色の木の芽を摘んだ。
「ひぁぁッ!!」
前触れもなく身体を突き抜けた鋭痛に、みゆきはビクンと全身を震わせる。
「やめ、て。い、いたいよぉ」
喉奥から搾り出されるような哀願も、ウルフルンの耳には心地よい音色にしか聞こえない。
むしろ先程以上に、木の芽を潰す指先に力を込める。
「ぁ、ぃぁッ」
身体を反らせ、天井を見上げながらみゆきの顔は苦悶に歪む。突き抜ける痛みと、その裏
にこびり付くような快美感は、彼女の思考を溶かしていく。
「んッ……」
ウルフルンの瞳は、濃い赤を映した。爪が乳頭の先を切ったのか、二つの桃色からつぅっ
と滴る二筋の鮮血。灰色の世界、肌色の画用紙の上に垂らされた真っ赤な絵の具は、妙な
生々しさを持って彼の目に焼き付く。
舌先で滴った血雫を舐めとり、そのままウルフルンの舌は肌の上を這い、みゆきの乳首を
舌先で転がす。
切ってしまった傷口をいたわるように舐め回す舌の感覚は、先程とはまた別種の感覚を
みゆきへと刻んだ。
「はぁ、ぁぁ」
痛みとは違う、モゾ痒いような感覚は甘い疼きを生み出し、結果として繋がったままの肉棒
を物欲しげに締め付ける。
ウルフルンはそんな反応に満足気に喉を鳴らすと、舌先はそのままに腰の動きを開始した。
「んん、ぁぁッ」
余裕で最奥へと届く凶器は何度もみゆきの奥を貫き、その度に彼女は全身を制御不能な快感
に強張らせる。
腰のあたりで、乳頭に感じる甘い疼きと貫かれる暴力的な感覚は融け合って、全身へと広
がっていく。えもすれば意識を手放してしまいそうなほどの衝撃は、彼女の涙と淫熱で潤む
視界を白燐へと染め上げた。
「いやぁ、ぁぁ! だめ、ダメェ!!」
身体を衝撃が貫いてなお、肉棒の動きは止まらない。暴風に晒される小枝のように、ウル
フルンの暴威の前にみゆきのか細い身体はあまりにも無力だった。
「はぁ、くぅッ」
ウルフルンが吐き出す息にも、徐々に切実さが混じってくる。喰い千切らんばかりの締め
付けを心地良く感じながら、彼は絶頂へと向かうべく更に勢いを早めていく。
水音が耳障りなほど大きく響き、肉と肉のぶつかる音が空気を揺らす。
「ひッ、ひぁ、いや、ぁ」
途切れ途切れのみゆきの声が、ウルフルンの中で切なさにも似た何かを喚起する。ウル
フルンは彼女の顔を覗き込んだ。涙で濡れた桃色の、まるで宝石のような瞳を自らが手中
に収めていることに、彼は満足気に息を漏らす。
(そうだ、こいつは俺の物なんだ)
自身に言い聞かせるような言葉は、彼の中で燻る獣性を燃え上がらせた。心臓が大きく
脈打ち、乾きにも似た波が腹の底から押し寄せてくる。
波の胎動に急かされるように、彼の一突きは深さを増していく。彼女へと己を刻みこむよう
に、ウルフルンはみゆきへと腰を打ち付けた。
「ぅ、ぅぅ――――くぉぉぉ」
ねばつく熱を持った風が背中を撫でるような錯覚。堪らえようのない波は防波堤を決壊さ
せ、ウルフルンはみゆきの瞳から視線を逸らさずに、彼女の中へと劣情を吐き出した。
「ぁ、ぁぁッ」
かすれ、上擦った声が響き、みゆきが苦しげに身体を震わせた。合わせ目からは劣情の
証が滴り、意識を手放したみゆきはウルフルンへと寄りかかる。
「ぅぁ、ぅぇッ、ひっぐ」
ウルフルンの腕の中で、みゆきは嗚咽を漏らしていた。彼女が無意識の中で漏らす慟哭
の声は、なぜだか彼を苛立たせる。
「くッ」
自分には彼女を悲しませることしかできない。自分の欲望は、彼女を傷つけていく。
(それが、どうした)
そうだ。別にこいつがどう傷つこうが、自分にはしった話ではない。
(ふざけるな)
彼女の泣き顔しか自分は知らない。そのことが、とても愚かしいことにウルフルンには思
えた。彼女の笑顔は、一度として自分に向けられたことはない。当然だが、その当然がひ
どく心にひっかかる。
自分の身体からみゆきを引き剥がし、ウルフルンは彼女をベッドに横たえた。
シーツの上で嬰児のように身体を丸めて眠る少女を見下ろしながら、ウルフルンは胸底
から沸き上がってくる感覚に、拳を握る。
「俺は、何がしたい」
自分は彼女の全てを手にしたはずだ。なのに彼の心には大きな空白が生まれていた。
満たされない何か。深刻な欠乏症は、彼を呼吸困難へと落とし込んでいく。
「く、ぁッ」
得体のしれない、窒息してしまいそうな感覚にウルフルンは喘いだ。胸の内をしめつけら
れるような苦しさを振り払う方法を、しかし彼は知っていた。両手が、すやすやと寝息を立て
るみゆきの首を握る。彼の力であれば、一瞬で少女の頚骨をへし折ることができる。
一思いに捨ててしまえば楽になれるのに、彼はできなかった。想像した行為の嫌悪感に、
吐いてしまいそうになる。
「俺は、どうしちまったんだ。お前のせいなのか?」
ベッドの上の眠り姫は答えない。ウルフルンは彼女へと背を向け、この状況を打開できる
だろう相手を尋ねた。
マジョリーナにとってウルフルンの来訪は、半ば予想の範疇であったから、深夜に扉がノ
ックされても大して驚かなかった。
ただ普段よりも幾ばくかやつれた様子のウルフルンを見て、老婆はさもくだらないと息を
漏らした。
「どうしたんだい、こんな夜中に」
「……記憶を消す薬があっただろう。そいつを一つよこせ」
「別に構わないがね。何をする気だい?」
「あいつの記憶を消して人間界に返す」
「もう飽きたのかい。はやいねぇ」
「黙れ。さっさと薬を寄越すんだ」
「ほらよ」
マジョリーナが放った小瓶を、ウルフルンは受け取る。掌に収まる小瓶の中では、緑色の
液体が揺れていた。
「けど本当にそれでいいのかい? もっといい方法がある筈だわさ」
魔女の居室を後にしようとしたウルフルンの背中に、しわがれた声がかかる。
反射的にウルフルンは足を止めていた。
「ここに一つの薬があるんだけどねぇ、この薬はヒトならざる者を人間に変えてしまう薬だわ
さ。ウルフルン、あんたがこいつを飲めば、あのお嬢ちゃんと一緒に暮らしていける」
「何で俺が、そんなことをする必要がある?」
「自分が一番よく分かってる筈だわさ」
「はッ、くだらねぇな。俺はアイツが飽きたから捨てるんだ」
「そうかい。けどね、一時の感情で大切な物を失うと、後で死ぬほど後悔するだわさ」
「そいつは経験論か?」
「言ってな、若造」
ウルフルンが部屋のドアへと手をかける。年季の入ったドアは軋みをあげるが、その音に
混じってウルフルンの声が石造りの部屋に響いた。
「心配かけたみてぇで、すまねぇな」
バタンと扉が閉まる。マジョリーナは面白くもなさげにウルフルンの言葉を鼻で笑い飛ばし
た。
星空みゆきは嫌な夢を見た。自分を守ってくれる誰かが、消えてしまう夢。
とても大切な何かが、抜け落ちてしまう夢。
「ぁ……」
沼の底から意識が覚醒していく。
みゆきが気怠さに支配される身体を起こせば、光度の極端に少ない部屋の中、ウルフル
ンが自分を見下ろしていた。
「オオカミさん?」
「起こしちまったか」
「ううん。大丈夫」
「そうか」
嫌な予感は、更に大きくなる。ウルフルンが伸ばした腕を、みゆきは震えながら拒絶した。
「い、いや」
「おい、大丈夫だ。これで全部、元通りになるんだぞ」
ウルフルンが握る小瓶。それはとても嫌なものだと、みゆきには感じられた。
「何を、するつもり?」
「お前は黙って、俺の言うことを聞いてればいい」
「嫌だ、嫌だよ」
駄々っ子のようにベッドの上で首をふるみゆきを、ウルフルンは片腕で押し倒す。みゆき
へと馬乗りになったウルフルンは、ビンの蓋を開いた。
「こいつを使えば、全部忘れられるんだ。そうすりゃお前も、元の生活に戻れる」
「忘れる……?」
「ああ、俺のことも、王国のことも全部な」
「嫌だ。そんなの嫌だよ!! わたし、オオカミさんのこと、忘れたくないよ」
彼女は涙を流しながら、必死でウルフルンへと訴えていた。また自分は彼女を泣かせて
しまうのかと苛立ちながらも、ウルフルンは彼女の言葉を理解出来ないでいた。
「何でだ? お前だって、あんなことは嫌だったんじゃなかったのか」
「ぁ、……ぅ、いや、じゃないよ」
顔を真赤に染めながら、みゆきが首を横に振る。
「最初は痛かったけど、嫌じゃなかったよ。だって、その――――オオカミさんのこと」
唇を噛み、覚悟を決めたように頷いたみゆきは、言葉を続ける。
「オオカミさんのこと、好き、だったから」
「けど、俺はお前のことを傷つけるだけだった。それに、笑った顔だって」
「そんなことないよ。オオカミさんの気持ちは、身体を重ねると伝わってきたから。あとさオオ
カミさんって笑顔が嫌いだって言ってたでしょう。だから、笑わないようにするの、苦労して
たんだよ」
みゆきが滔々と語る言葉に、ウルフルンは目眩がしてしまいそうだった。
(何だそれは。俺は、どうすればいい)
心の中で埋められなかった何かが、不思議な感覚に満たされていく。
欠乏していた部分に、暖かい風が吹き込んでくる。
光度の低い、暗い、暗い部屋。
その中で彼女の周囲だけが、ウルフルンには輝いて見えた。まるで夜空に輝く星のように、
ウルフルンの中で彼女の存在は輝いていた。心の底から、自分は彼女を必要としていたの
だと、ウルフルンは理解する。
「みゆ、き」
「オオカミさん」
立ち上がったウルフルンは小瓶を机の上に置き、彼女と向き合う。
ベッドの上に膝立ちになったみゆきは、初めてウルフルンへと向かって笑顔を見せた。絶望
に彩られる暗い銀河の中に、一等明るい星が輝く。
「やっぱり、笑ったほうが気持ちいいね」
「ああ、そうだな」
肩に手をかけ、押し倒そうとするウルフルンへと、みゆきが気恥ずかしげに言う。
「ねえオオカミさん。今度はわたしが、上になりたいな」
「ッ……ウルッフフフ」
「ダメ?」
「まさか」
ベッドに横になったウルフルンへ、みゆきはキスを落とす。
顔や胸、そしていきり立つ肉棒へと、髪をかき上げながら彼女は唇を添える。薄く小振りな
唇が、先端を咥え込んだ。
「ぅ、うぉ」
舌先で亀頭を愛撫する感覚に、ウルフルンが身体をよじる。先走りと唾液が混ざり合って
、幹を滴った。
「んちゅ、くちゅ」
細やかな水音を伴い、みゆきは幹の部分を舐め上げながら、指先は袋を揉みほぐすよう
に転がしていた。
何かを訴えるように熱を持つ肉棒の感覚に、みゆきは唇を離すと、いたずらっぽい笑みを
浮かべる。
「まだ出しちゃダメだよ、オオカミさん」
膝立ちになった彼女は、ベッドを軋ませながら自らの秘部とウルフルンの剛直との先端を
重ね合わせた。
「ぁ、ぁぁッ」
巨大な熱が自らの中に入ってくる感覚に、みゆきは熱っぽい息を漏らした。
この位置からはウルフルンの、堪えるような顔もよく見えて、嬉しそうにみゆきは微笑む。
強引に押し広げられる痛みは、甘い疼きへと変化し、満たされる思いが広がっていく。
「みゆき、お前……」
「オオカミさんの顔、よく見えるよ。ふふっ、可愛い」
「んなわけあるか」
「あるもん。わたし知ってるよ、オオカミさんの可愛いところとか、怖がりなところとか、色々
と」
腰を動かし、鼻にかかった甘い声を漏らしながら、みゆきは言った。
「だって、わたし、オオカミさんのお嫁さんだし」
「いつ、そんなこと決めた?」
「一緒に暮らしてるんだからそうでしょう? これからも、ずっと一緒だよね、オオカミさん」
「――――ああ、そうだな」
「えへへ、嬉しいな。ウルトラハッピーだよ」
彼女の締め付けは更に強くなる。熱と熱とが絡まり、キツく締め付ける膣道の感覚はウル
フルンの射精欲を高めていく。彼は己の欲望に逆らうことをせず、彼女の中へ迸りを吐き出
した。
「これで、よかったんだ」
みゆきの口元から、緑色の液体が零れる。キスを装って、ウルフルンはみゆきへと忘れ
薬を経口投与した。
彼女も薬を飲んだが、自分も少なからずの量を口にしている。
おそらくは双方へ、忘却の効果は作用するだろう。
互いが互いを忘れる。これでよかったのだと、ウルフルンは自嘲気味に嗤う。
「ウルッフフフ。なんでだ、なんでだよ、くっそ」
薬の作用か、意識が薄れていく。おそらく薬を服用したことはマジョリーナに知れているか
ら、何の心配もない筈だ。
なのに、ウルフルンは底から溢れ出す感情の奔流に、喘ぎを漏らす。
「うぁ、ぁぁ。くっそ、泣いてんじゃねぇよ。これでいいんだ。これで」
みゆきとの別れを拒み、彼は大粒の涙を目尻からこぼす。
それは彼にとって、初めての涙だった。
青白い月光に照らされる世界、バッドエンドを拒むべく現れたプリキュアたちを相手に、ウ
ルフルンは声高く哄笑した。
「ウルッフフフ! 今日こそ貴様らの最後だ、プリキュア!」
「いつもいつも。オオカミさん、世界をバッドエンドになんかさせないんだからぁ!」
「ならかかってこい! いでよ、アカンベェ!!」
世界は元の形を取り戻した。絶望と幸運は別々の場所へと去り、決して相容れない関係
へとなった。
元は同じ場所にいたことを知らないまま、絶望と幸運はまるで車の両輪のように、世界の
針を回し続けている。