「アカーンベェ!」「てやあーっ!」「たあーっ!」  
閑静な森に、戦いの咆哮がこだまする。  
とある街の森林公園。秘密基地を探しに来ていたみゆき達はウルフルンに遭遇し、  
彼が作り出した樹木のアカンベェと激闘を繰り広げていた。  
 
その戦いを眺めていたウルフルンが、ふと踵を返し、その場を離れる。  
それに気づいたのはキュアマーチただ一人。彼女は不吉な胸騒ぎを感じた。  
「ごめん、みんな!ここは任せるわ、私はウルフルンを追う!」  
「ほ、本当だ!いつの間にかいなくなってる!」  
「せやけど、どこ行ったんや?逃げたんとちゃうか?」  
「違うわ、あいつは向こうに飛んでいったの!あの方角にはさっきの女の子が…」  
「ええっ、もしかしてその子達を狙いに行ったの!?」  
「わかりました、ここは私達で何とかします!気をつけてね、マーチ!」  
「ありがとう、頼むね!」  
アカンベェの猛攻をかわしながら、キュアマーチは戦線を離れて、ウルフルンを追った。  
 
マーチの危惧は的中していた。空を飛んできたウルフルンは、森の中の小さな空き地に着地する。  
そこには4〜5歳くらいの二人の女の子が、うなだれて放心状態で座り込んでいた。  
ウルフルンはつい先程、この二人の心を闇の絵の具で塗りつぶしていたのだ。  
普段ならそこでバッドエナジーを吸収するだけなのだが、今日のウルフルンはそれで済ます気はなかった。  
「ウルッフフフ……全くよぅ、俺は笑顔が大っ嫌いなんだよ!  
 特にてめえらの笑顔は気に入らねえ。二度とそんな顔ができないようにしてやるぜ!」  
鋭い爪を伸ばし、ウルフルンは女の子達に近づいてゆく。二人はうなだれたままで、気づきもしない。  
 
「やめろーっ!!」  
その時、上空から声がしたかと思うと、緑色の旋風がウルフルン目がけて飛んできた。  
「おおっとぉ!」  
すんでのところで、ウルフルンはその攻撃をかわす。言うまでもなくキュアマーチだった。  
「ウルフルン!こんな子供達を傷つけようなんて許さない!」  
「あぁん?てめぇにゃ関係ねえだろ、引っ込んでろ!」  
マーチとウルフルンの拳が交差し、たちまち激しいバトルが始まった。  
だが、さすがにバッドランド王国の幹部を務めるウルフルンの実力は伊達ではない。  
次第にマーチは押されていく。一発、二発とパンチが決まり、キックが腹部に入った。  
「うあああっ!」  
吹っ飛ばされたマーチは、木に叩きつけられる。頭も打って、意識が朦朧となった。  
 
「けっ、ざまあねぇな」  
ウルフルンは嘲笑すると、女の子達の方に向き直る。  
彼女達の目に光が戻ってきた。闇の絵の具の呪縛からようやく解放されたのだ。  
「あ、あれ……」「どうしたんだろ…」  
だが、その瞳に映ったのは、今まで見たこともない怪物だった。  
銀髪の、二本足で立つ狼男。まるで絵本の中から脱け出してきた悪い狼のような…!  
 
「うわああああ!!」  
絶叫を上げて二人は逃げ出した。ウルフルンはニヤニヤ笑いながら後を追う。  
「ウルッフッフッ、逃げろ逃げろ。食っちまうぞ」  
恐怖でパニックに陥った二人は、近くの巨木の木の洞に逃げ込む。  
小さな子供二人が入るにはピッタリのサイズだ。しかし外からは丸見えで、全然隠れていない。  
悲しいかな、それは単に逃げ場のない袋小路に飛び込んだ自殺行為でしかなかった。  
 
「間抜けどもめ、『おおかみと七ひきのこやぎ』の話を読んだことがねえのか?  
 時計の中に隠れたこやぎ以外は、みんな悪い狼に食われちまったんだよ、ウルッフフフ!」  
 
「こわいよ!こわいよぉ!」「たすけて、ママぁ!!」  
二人の女の子はひしと抱き合って泣き叫ぶ。その声は、半失神状態のマーチを目覚めさせた。  
自分の弟妹くらいの女の子。守らなくちゃいけない。私が立ち上がらないでどうする…!  
「だめえっ!」  
マーチは飛び出した。木を抱き締めるようにして、木の洞を自分の体で覆い隠す。  
「何やってんだよ、どきやがれっ!」  
ウルフルンの強烈な蹴りが、マーチの脇腹にめり込んだ。  
「ぐふうっ!」  
マーチは呻き声を上げた。内臓が傷つき血を吐く。だが、木に抱きついたまま離れない。  
「邪魔するんじゃねえ!」  
苛立ったウルフルンは、マーチの背中を何度も荒々しく踏みつける。  
「ぐっ!うぅっ!」  
血を吐きながらもマーチは、頑として木にしがみつき、決して離れようとしなかった。  
洞の中からは、まだ女の子達の泣き声が聞こえてくる。その声がマーチを奮い立たせていた。  
(大丈夫……きっと、きっと、守ってあげるから……)  
 
「しぶとい野郎だ、こんなガキどもがそんなに大事か?」  
「あ……あんたなんかには……わからないよ……」  
彼女の健気な抵抗は、ますますウルフルンの苛立ちを増大させた。  
「そうかい、これでもまだへらず口を叩けるか!」  
ウルフルンは爪を振りかざし、マーチの服の背中を引き裂く。  
「うああああっ!!」  
さすがのマーチも悲鳴を上げる。たちまち鮮血が服に滲んできた。  
 
「どうだぁ、さっさとそこをどいてガキを渡せば許してやるぜ」  
「だ、誰が……どく…もんか……」  
「ああ、そうかい。まだやられ足りねえようだな!」  
残忍な笑みを浮かべたウルフルンは、何度も何度もマーチの背中を爪で切り裂いた。  
「ううっ!ぐっ!く、うううっ!」  
マーチは歯を食いしばって地獄の責め苦に耐え続ける。  
背中は完全に露出し、柔肌は血にまみれ、数十本の無残な傷が刻まれた。  
しかし気を失いそうになりながらも、マーチは我が身を盾にして二人の女の子を守り続けた。  
 
「本当にしぶとい奴め、やり方を変えなきゃ駄目なようだな」  
ウルフルンは呆れたように言うと、マーチのスカートを両手で引き千切った。  
グリーンのスパッツも、下着も引き裂く。  
サッカーで鍛えた、健康的に引き締まった尻が剥き出しにされた。  
「あっ!?」  
洞に覆いかぶさっているために後ろは見えないが、何をされようとしているか予測はつく。  
血の気の失せかけたマーチの頬が、一転して羞恥で赤く染まった。  
 
「美味そうな肉じゃねえか、ガルルルル!」  
一声唸り声を上げたウルフルンが、マーチの白い尻肉にかぶりつく。  
「うあああっ!ぐあ、ああっ!」  
マーチは再び絶叫し、身悶えした。ウルフルンが牙を放すと、尻にくっきりと歯型がつき、血が滴る。  
「さあて、こっちの味はどうだ?」  
後ろでジッパーを下ろす音がする。そして腰を抱えて持ち上げられた。マーチの全身に悪寒が走った。  
「や……やめ……て……うっ! ああ――っ!!」  
マーチの体が硬直する。ウルフルンの男根が突き入れられたのだ。  
 
「あ……あっ!……ああ、あっ……!」  
「ったく、こんなガキなんか庇うからだぜ、馬鹿な野郎だ」  
冷笑したウルフルンは、マーチの尻肉を鷲掴みにしながらピストン運動を開始した。  
マーチの太腿に一筋の血がつうっと流れる。腹の中を灼熱の鉄塊が往復し、突かれる度に息が止まりそうだ。  
痛い。苦しい。恥ずかしい。悔しい。彼女の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。  
 
(どうして……こんな目に遭わなきゃいけないの……私、何で意地張ってるんだろう?  
 こんな見ず知らずの子供なんか見捨ててしまえば、楽になれるのに……)  
頭の中がぐるぐる回り出す。もう耐えられない。一言「許して下さい」と言ってしまえば……  
腕の力が抜ける。がくりと地面に崩れ落ちそうになった。  
 
その時、洞の中の女の子達と視線が合った。二人はまだ泣きじゃくっている。  
「ママ、ママぁ……」「やだよぉ、たすけて…」  
その姿に、自分の弟妹達の姿が重なった。けいた、はる、ひな、ゆうた、こうた……  
折れそうになっていたマーチの心は、寸前で踏み止まった。  
(そうだ、ここで負けてどうするの。この子達を見捨てたら、けいた達に顔向けできない。  
 私は直球勝負のキュアマーチ。道を曲げるわけにはいかないんだ…!)  
 
マーチは涙を片手で拭うと、無理やり笑顔を作って女の子達に微笑みかけた。  
「だ…大丈夫だからね……ううっ……お姉ちゃんが…きっと守ってあげる…からね……くっ!」  
こうして話しかけている間も、ウルフルンは容赦なくマーチを犯し続けている。  
背後から突かれる苦痛と恥辱に耐えながら、彼女は精一杯の笑顔を見せた。  
女の子達が泣き止む。マーチの必死の思いが伝わったのだ。  
 
だが同時に子供ならではの敏感さで、笑顔が時折苦しげになる不自然さにも気づいたらしい。  
「おねえちゃんこそ、だいじょうぶ?」「どこかいたいの…?」  
「うん…あ、ありがと……お姉ちゃんのことは……気にしないで……もう少しの辛抱…だから…」  
マーチは再び木の幹をがっちり抱き締める。絶対この子達には手出しさせない。  
例え我が身がどうなろうとも…!  
 
そのマーチの悲壮な覚悟を、ウルフルンは残忍に笑い飛ばす。  
「呆れた野郎だぜ、他人を庇うなんて馬鹿げた事をした結果がこのザマだ!」  
「ぐあ!ああああ!!」  
ウルフルンが腰を打ち付ける動きが激しくなってきた。  
その衝撃は、マーチの膣内だけではなく背中の傷も責め立てる。流血が酷くなってきた。  
切り裂かれ、わずかばかりに残ったプリキュアのコスチュームが、血で真っ赤に染まる。  
コスチュームだけにとどまらず、流れ落ちた大量の血が地面を赤黒く染めてゆく。  
しかしマーチは、気力を振り絞って叫んだ。  
「あんた……なんかにっ!……負けてたまるかあっ!!」  
 
「そうかい、じゃあ頑張ったご褒美をやらねえとな。たっぷりと中に出してやるからな!」  
「あ…あ、い、いやっ、いやぁっ!!」  
マーチの顔がひきつった。だがウルフルンの獣欲は頂点に達していた。男根が膨張する。  
「そうら、よっ!!」  
「はうっ!?あ、あうぅっ!!」  
マーチの子宮の中に、邪悪な液体が注ぎ込まれた。体の中がどす黒く汚れていくような気がする。  
ウルフルンが男根を引き抜くと、ひくひく震える秘部から白濁液が破瓜の血と混じって流れ落ちる。  
「くぅ……うう……うううっ……!」  
木に抱きついている手のひらが小刻みに震える。我が身を犠牲にしてでも女の子達を守る覚悟は決めていた。  
でも、でも……。一度拭った涙が再びマーチの瞳に溢れる。  
 
ウルフルンは男根を拭うと、身繕いした。  
「美味かったぜ、ウルッフッフ。それじゃそろそろフィナーレといこうじゃねえか!」  
そして何の躊躇もなく、血の海と化しているマーチの傷だらけの背中を渾身の力で踏みつけた。  
陵辱されながら大量の血を流していた彼女には、もはやその攻撃に耐える力は残っていない。  
「ぐはぁっ!!」  
ぐしゃりと踏み潰され、地面に這いつくばる。また吐血し、目が霞んできた。  
 
マーチが懸命に覆い隠していた木の洞の中の、二人の女の子の視界がようやく開けた。  
目の前に倒れているのは、さっき自分達を励ましてくれた少女、そしてその後ろにはさっきの狼男。  
恐怖も忘れ、木の洞を飛び出した二人はマーチにしがみついた。  
「おねえちゃん、おねえちゃん!」「しっかりしてえ!」  
だが泣きながら体を揺さぶるその声は、マーチにはひどく遠くの音にしか聞こえなかった。  
「あ………う………」  
泣かないで、と声をかけたい。だがもう声が出ない。手を差し延べようとしても、指一本動かない。  
目の前がだんだん暗くなってきた。意識が遠のいてゆく。  
 
その悲痛な光景を見たウルフルンは、牙を剥いて残酷に笑った。  
鋭い爪を振り上げ、血だらけのマーチの背中の、心臓のあたりに狙いを定める。  
「さあ、これで終わりだ! 妹やぎを庇ったばかりに、お姉さんやぎは殺されてしまいましたとさ!  
 ウルッフッフ、これぞ最悪の結末・バッドエンドだぜ!!」  
 
その時だった。  
「ぐほぁっ!?」  
ウルフルンの顔面に何者かの強烈な一撃が入った。さしもの彼もたまらず吹っ飛ぶ。  
「だ、誰だ!」  
痛む頬を押さえながら振り向くと、そこにはキュアハッピーが立っていた。  
拳を握り締め、怒りに体を震わせる彼女の傍らには、他のプリキュア達もそろっている。  
(馬鹿な…!この俺様が、殴られるほどの間合いに入られるまで気づかないなんて…!)  
ウルフルンが驚くのも無理はない。キャンディによってマーチの大ピンチを聞かされたハッピーは、  
アカンベェを浄化し、今まで出したこともない高速で駆けつけて、ウルフルンに一撃を見舞ったのだった。  
 
「よくもマーチを……私の大切な友だちを……許さないっ!!」  
ハッピーはウルフルンに飛び掛る。キュアサニー、キュアピース、キュアビューティがすかさず続く。  
「ウチらを本気で怒らせたな!」「わああーっ!」「絶対許しませんわ!」  
四人のプリキュアの猛烈なパンチとキックが、嵐のようにウルフルンを襲った。  
ウルフルンは反撃できず、防戦一方になる。しかしプリキュア達の攻撃は、そのガードも突き破った。  
「ぐおおおっ!」  
無様に吹っ飛ばされ、地面に転がるウルフルン。だがハッピーはなおも止まらない。  
 
「プリキュア・ハッピーシャワー!!」  
「えっ!?」  
これに驚いたのは他の三人だった。ハッピーはさっき戦ったアカンベェに対し、既にこの技を使っていた。  
一度必殺技を使えば体力を使い果たし、次に変身するまで技は使えなくなるはずなのに…?  
だがハッピーの顔を見て、三人は理解した。その原動力はかつてないほどの彼女の怒りだったのだ。  
マーチを傷つけ蹂躙したウルフルンへの激しい怒りが、二度目の必殺技発動を可能にしたのだ。  
 
ピンク色の光のエネルギー波が、ウルフルンを直撃した。  
「ぐう、おおおっ!!」  
普通のアカンベェならこの一撃で浄化されるが、ウルフルンは何とか持ちこたえる。  
「うちらも行くで!プリキュア・サニーファイヤー!」  
「プリキュア・ピースサンダー!」「プリキュア・ビューティブリザード!」  
三人もハッピーに負けじと必殺技を繰り出す。炎の弾丸が、雷の矢が、氷の刃がウルフルンに飛ぶ。  
さすがにこれだけの技を同時に食らっては、たまったものではない。  
「ぐあああああっ!おっ、覚えてやがれプリキュアどもっ!!」  
精一杯の捨てゼリフを吐いて、ウルフルンは姿を消した。  
 
一息つく暇もなく、四人はマーチのもとへ駆け寄った。  
「おねえちゃん、しっかりしてよお!」「おねえちゃあん!」  
二人の女の子が、泣きながらマーチの体を揺さぶっているが、彼女の顔からは血の気が失せていた。  
呼吸も弱まっている。死が彼女を捕らえようとしているのだ。  
「マーチ、しっかりしてマーチ!」「早う医者に連れてかんと!」  
「でも、今動かしたらほんとに死んじゃうよぉ!」「まずは止血ですわ!でも、包帯もガーゼも…」  
四人のプリキュアはうろたえるばかりだ。何をすればいいのか、何がベストなのかもわからない。  
そしてこうしている間に、大切な友の命が消えようとしている……  
 
「お兄ちゃん!早く、早くしてクル〜!マーチが死んじゃうクル!」  
空から聞き慣れた声が響く。キャンディだ。その隣では水色の本が羽ばたいて、一緒に向かってくる。  
たちまちキャンディと水色の本はプリキュア達の前に着地し、本の中から妖精が飛び出した。  
キャンディの兄・ポップである。キャンディは電話デコルで、兄に助けを求めていたのだった。  
 
「皆の衆、お待たせしたでござる、ここは拙者にお任せを!さあ、下がってくだされ」  
ポップはプリキュアと女の子達を一歩下がらせた。巻物を取り出して広げると、印を結び呪文を唱える。  
マーチの体を淡く輝くシャボン玉が包んだ。暖かい光だ。蒼白だったマーチの頬に、赤みが差してくる。  
そればかりか無残な背中の傷も、すうっと消えてゆく。血まみれの全身も元に戻った。  
ズタズタだったコスチュームも再生し、マーチはすっかり元の姿を取り戻す。  
 
目に涙を一杯にためていた女の子達の顔に、ようやく笑顔が浮かぶ。  
「おねえちゃん、なおったの?」「よかったぁ…」  
ポップはその二人を見ながら優しく言った。  
「君達もよく頑張ってくれたでござるな。あとはゆっくり休むでござる」  
二人の顔の回りに薄い雲のようなものが現れたかと思うと、女の子達はぱたりと倒れ、眠りについた。  
「これで目覚めた時は、今起きたことはすっかり忘れているでござる。恐ろしい記憶やトラウマは、  
 バッドエナジーの源になるでござるからな」  
 
「さて、仕上げでござる」  
ポップはまた別の呪文を唱えた。マーチの下腹部をひときわ明るい光が照らし、すぐに消える。  
「メルヘン世界の乙女達の力を借り、純潔を取り戻したのでござる。これでもう何の危険もないでござる」  
「まあ、それでは処女膜が元に戻ったということでしょうか?妊娠もしないのですね!」  
「あのなー、心配なんはわかるけど、わざわざ生々しい表現で言い直すことないやん」  
真剣な顔でポップに念を押したビューティに、サニーが苦笑しながらツッコミを入れる。  
「ふう、これにて治療完了でござる」  
シャボン玉がぱちんと割れた。気を失ったままのマーチは、緑川なおの姿に戻っていく。  
それを見てプリキュア達も変身を解除し、星空みゆき、黄瀬やよい、青木れいかの姿に戻った。  
 
「ねえポップ、お願い!なおちゃんの記憶も消してあげて!」  
戻るや否や、みゆきが切実な顔でポップに訴えた。  
「いくら女の子達を守る為だからって、あんな目に遭うなんて酷すぎるよ!  
 せっかく体が元に戻っても、心が傷ついたままじゃ、なおちゃんがかわいそう!お願い!」  
他の三人も同感だった。体だけではなく、陵辱された心の傷も一刻も早く治してあげたい。  
「そうでござるな…プリキュアとしての戦いに影響が出るかもしれんし……」  
思案顔のポップの言葉は途中で遮られた。  
「ううん、いいよ。記憶は消さなくていい。」  
なおはいつの間にか目覚めていた。起き上がってその場に胡坐をかき、大きく伸びをする。  
 
「ふーぅ、ありがとうポップ。おかげで前より体調がよくなったみたい」  
明るい口調にみゆき達はほっとした。しかし、れいかはまだ不安げだ。  
「なお…記憶を消さなくていいってどういうことなの?」  
「体は元に戻ったんでしょ?処女膜さえあれば、名実共にバージンだもん!  
 素敵な人見つけたら、今度こそちゃんと初体験できるってことだもんね。  
 それに私、やられっぱなしじゃ気が済まないタチだからね!今度あいつに会ったら…」  
元気にまくし立てる姿は、いつものなおだった。だが……  
 
「なあ…なんか無理してへんか?」  
「うん……なおちゃん、やっぱり記憶消してもらったほうが……」  
あかねとやよいが心配そうに声をかける。しかしなおは、否定するように言葉を続けた。  
「それにね、私、自分が許せないんだ。いくら酷い目に遭ったからって、  
 一瞬でもあの子達を見捨てようとした自分が許せない。だからこのままでいいんだよ」  
なおらしい真っ直ぐな理屈だ。だが、妙に張り詰めて危うい雰囲気もあった。  
「で、でも、なおちゃん……」  
みゆきが言いかけた時だった。  
 
「なおっ!!」  
 
その声に続いて起きた、乾いた音にみゆき達は目を見張った。れいかがなおの頬を平手打ちしたのだ。  
れいかは明らかに怒っていた。だがその瞳には一杯に涙が浮かんでいる。  
そしてそのまま、れいかはなおを抱き締めた。  
「なお、あなたって人は…! 昔から何でもかんでも一人で抱え込みすぎです!  
 弟がいじめられた時も上級生相手に仕返しに行ったり、熱が出ても黙っていたり……  
 今日だってそうです、どうしてもっと早く私達を呼んでくれなかったの!  
 あんなになるまで一人で頑張って…もう少しで取り返しのつかない事になるところだったのよ!!」  
「れ、れいか……」  
涙を溢れさせながら、れいかは叫び続ける。なおの目もいつしか潤んでいた。  
 
「私達、友だちでしょう! 私だけじゃないわ、みゆきさん、あかねさん、やよいさんだってみんな……  
 苦しい時は苦しいって言って! 倒れそうになるほど我慢しないで! あなたは一人じゃないのよ!」  
こんなれいかの姿は誰も見たこともなかった。みゆき達も心が熱くなり、涙が溢れてきた。  
「なおちゃん!」「なおーっ!」「うええん、なおちゃぁん!」  
次々になおに抱きつく。その光景を眺めるポップとキャンディも、涙に咽んでいた。  
「ありがとう、ありがとう、みんな……!」  
真珠の涙を浮かべたなおは、代わる代わる四人の頭を愛おしげに撫でた。  
 
「ねえ、ポップ。やっぱり記憶は消さないでくれるかな」  
「なお殿……本当にいいのでござるか?」  
「うん。だって今日のことを忘れたら、今、この瞬間の記憶もなくなってしまうもの。  
 みんながこんなに私の心配をしてくれる…こんな素敵な思い出を消してしまいたくないんだ」  
「なおちゃん…」「なお…」  
「それに辛い記憶なんか、もっと楽しい思い出を作って塗りつぶしてしまえばいいんだもん。  
 みんなとならきっとできる!手伝ってくれるよね、みんな!」  
「うんっ!!」  
涙を拭ったなおは、心からの笑顔を見せた。みんなと友だちになれて本当によかった……  
 
(END)  
 

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