「世界よ! 最悪の結末、“バッドエンド”に染まるオニ!」  
 建物の屋上で、本を手に叫ぶ人影。ただし、そびえる角に赤い肌、純粋なヒトの姿で  
はない。  
「白紙の未来を黒く塗りつぶすオニ!」  
 右の手で黒い絵の具をチューブごと握りつぶし、それを反対側に持った白紙のページ  
に塗りつける。すると、空が歪んで変色を始め、とつぜん夕焼けに染まってしまった。  
 
 一瞬にして空の色が変わる様子を目撃するのは難しい。  
 それは異常とも言え、目を疑うような光景と共に現れた。  
 道を行く人々がとつぜん跪き、なにやら後ろ向きな言葉を呟き始めたのだ。その体か  
らは黒い光が発生し、空へ昇っていく。  
「せ、世界がバッドエンドになっちゃうクル!」  
 星空みゆきの鞄から白い生き物が顔を出し、それぞれ異変に気付いた五人の少女たち。  
 道に転がる障害物のようになってしまった人々をかわして、光の集まる場所を目指し  
て駆けた。  
「ったく、休みも何もあったもんやないなぁ!」  
 直線の歩道を右へ左へ、時には飛び越えて進む一人、日野あかねは毒づいた。  
「ウチら、ちょっと遊びに来ただけやねんで? それがいきなり夕焼けになるって、ど  
ういうこっちゃ!」  
「あかね、話してる暇があったら走る!」  
 話を前方で聞いていた緑川なおが、肩越しに振り向く。走行にあわせてリズムよく、  
彼女のポニーテールが上下した。  
 あかねは間延びした二つ返事で応じ、  
「みゆき、やよい、急がな――」  
 友人たちに呼びかけようとして、あれ?と後頭部に手を当てた。  
 靴音が一つ減ったのに気が付き、なおの隣を走っていた青木れいかも足を止める。  
「遅れてしまっていますね……」  
「んー、でも、今はバッドエンドを食い止める方が先や!」  
 日中だったので街灯も点いていない。真っ暗になるよりは幾分マシだが、あかねは遅  
れている二人の少女と合流するより、現状をどうにかすることを選んだ。  
「先にいくでーっ!」  
 静まり返った中に通る友人の声。  
「は、っ、はぁ……っ、はぁっ……!」  
 引き離され追いつけないみゆきと黄瀬やよいのふたりは、それに答える事が出来ずに  
荒い息をついていた。  
 
 あれほど騒がしかった街から音が消え、蹲り跪いた人々から発生する黒い光。  
 それらは全て、絵具を無造作に塗った本に吸い込まれていく。  
「ハッハッハ! 人間共の発した"バッドエナジー"が、悪の皇帝ピエーロ様を蘇らせて  
いくオニ!」  
「……みつけたっ!」  
 そこへいきなり声がしたものだから、絶望の色をたたえた姿を眺めていた赤鬼にも驚  
きの色が生まれる。  
「む!? ……プリキュアオニ!」  
「プリキュアオニ、ちゃうやろ! 何してくれてんねん!」  
 なおを先頭に、続いてきたあかねはすかさず突っ込みを入れるも、金棒を片手に携え  
た鬼には通用しなかった。  
「二人とも!」  
 れいかに応じ、事態の元凶を睨んでいた少女たちが頷く。  
「プリキュア・スマイルチャージ!」  
 もはや必需品となった丸型のコンパクトを手に、叫ぶ。『ready?』と問いかけたとこ  
ろに“キュアデコル”を取り付け、現れたパフを使って衣装を作り上げた。  
 あかねには炎、なおには風、れいかには氷、それぞれ橙、緑、青色の光を纏い、微妙  
に異なった服装に変わっていく。  
「太陽サンサン、熱血パワー! キュアサニー!」  
 握りこぶしは炎に包まれ、周囲に熱をまき散らす。  
「勇気リンリン、直球勝負! キュアマーチ!」  
 風のような素早い動作を締めくくる追い風に、大きなポニーテールが揺れる。  
 
「しんしんと降り積もる、清き心! キュアビューティ!」  
 名前に恥じない美しさが、雪の様な輝きで表現された。  
 三人は伝説の戦士・プリキュア。世界をバッドエンドから救う、希望に溢れた少女た  
ち。  
「出でよ、アカンベェ!!」  
 そして、友情や絆を嫌う鬼は、今度は赤の球体を手に、空へと掲げて叫ぶ。  
 怪しげな光は絶望した拍子に落としてしまったのだろう、老婆の荷物だった風呂敷包  
みを化け物へと変貌させてしまう。  
「アカァンベェェッ!!」  
 閃光に目を瞑ったプリキュア達の前に、それは立ちはだかった。  
「ハッピーとピースがいないけど、仕方ない!」  
 深緑色に白の唐草模様。そこに赤い唇と舌を持った道化の顔がついて、さらに巨体に  
似つかわしくない細い手足。  
 キュアマーチは遅れている仲間の心配をしながらも、怪物めがけて一直線に走り込ん  
だ。  
「アカン、ベェッ!」  
 振り下ろされた拳を避け、むしろ緑色の少女はそれを足場にしてしまう。腕を駆けて  
跳び上がり、高度から勢いをつけたキックを見舞った。  
「おお、鮮やかっ」  
 瞬く間の出来事に感心するキュアサニー。敵がアスファルトに叩きつけられた衝撃に  
よって発生した煙の中から、マーチの姿を捉える。  
「サニー、わたくし達も」  
「よっしゃ!」  
 戦線に加わろうと走り始めたふたり。  
「ふわっ!?」  
「おわっ!?」  
「きゃっ!?」  
 しかし、マーチを手始めに全員の視界が暗くなり、何かを被せられた感じになってし  
まう。  
「な、なんやっ!?」  
 感触は布のようだった。それをどかして視界が開けると、すぐ目の前にアカンベェの  
巨体が映る。  
 直後、プリキュア達は弾丸をぶつけられて後方に吹き飛ばされた。  
「くぅ……っ」  
 目が回りそうな模様の怪物は、口から何かを吐き出して攻撃してくる。立ち上がった  
マーチ、ビューティはすぐさま素早く動いて、連続で発射されるそれを避けながら進む。  
 右へ左へ、意識を分散させて近づいた二人は分かれ、同時に打撃を見舞って進攻を食  
い止める。  
「饅頭か、怖いな……」  
 攻撃の正体はやたらと大きくて、白い。荷物の中身だったのだろうか、サニーはひと  
り呟いた。  
「さ、サニー……」  
 そこへ、置いてきた二人の少女がやってくる。はあはあと肩で呼吸して、それ以上は  
口が利けないようだ。  
「プリキュア・スマイル、チャージ……!」  
 せめて息を整えてから……とは言えないのが現状だ。みゆきの鞄から顔を出していた  
白い生き物、キャンディに促され、やよい共々“スマイルパクト”を手に変身する。  
「キラキラ輝く、未来の光! キュアハッピー!」  
 桃色の衣装に身を包んだプリキュアは、キラキラの光を振りまいてポージングする。  
「ピカピカぴかりん、じゃんけんポン! キュアピース!」  
 続いて黄色の少女。名前と同じチョキを繰り出し、指の間に電気を走らせた。  
 新たに二人のプリキュアが登場したところで、対する赤鬼が得意げである。  
「俺様、グーオニ! じゃんけん勝ったオニ!」  
「……あ、負けちゃいました」  
 以前、同じグーで負けた事があった。今回はピースとのじゃんけんに勝利し、その口  
調も嬉しそうだ。  
 
「では、あなたは今日一日スーパーラッキーです!」  
「ピース、敵! 敵!」  
 極めてマイペースに“ラッキー”を送ったキュアピースに向かって、裏手を振るキュア  
サニー。  
 あちらの赤鬼は街をバッドエンドにした側なのだが、いわゆる“ぴかりんじゃんけん”  
には敵味方の区別はない模様だ。  
「どんなラッキーが出てくるオニ? アカンベェ!」  
 上機嫌ぶりが金棒遣いに表れている。キュアマーチ、キュアビューティの息の合った  
コンビネーションを物ともせず、アカンベェは先程と同様に勢いよく饅頭を吐き出した。  
「うわっ、危なっ!」  
 攻撃を察知して飛びずさったサニーの両脇で、悲鳴が二つ。名乗りを上げたばかりの  
仲間に弾丸が命中し、倒れてしまった。  
「ま、饅頭こわいーっ!」  
「それ、もうやった……」  
 早々に涙目になったピースは、余分にもう一発ぶつけられてしまう。  
 ただ、落語の話にマーチとビューティは分からなそうな顔をしてくれて、僅か前に呟  
いたばかりのサニーは嘆息した。  
「……おいしい! サニー、ピース、これ――」  
「ハッピー食べてる!? っていうかコレ食べられるの!?」  
 もはや言葉の全てを聞いている間もない。サニーは体より言葉の方が忙しく、立て続  
けに敵を目の前にしたような反応を見せなかった、桃色と黄色のプリキュアに突っ込み  
を入れる。大きさはアカンベェに合わせてあるのだろうが、その饅頭が『口から出てき  
た』ことには敢えて触れない。  
「のわっ!」  
「はうっ!」  
「きゃんっ!」  
 ……そうやって延々と漫才を続けた結果、サニー、ハッピー、ピースの順に、三人は  
再度の饅頭攻撃で道路に転がることになった。  
「うぅ、饅頭おかわり……」  
 相手に数発の攻撃を加えて戻ってきたマーチとビューティが合流し、立ち上がるまで  
時間のかかっていた黄色と桃色の仲間を起こしたが、その間にもアカンベェは地響きを  
させて歩んでくる。  
「アカンベェッ! ベェッ!」  
 片方の手を握って、もう一方でちり紙を引き出す様な動きをすると、次々と風呂敷が  
出現する。視界を埋める深緑が、プリキュア達にふわふわと襲い掛かってきた。  
「こ、今度は風呂敷ぃ!?」  
 先に被せられたものの正体がわかったが、車を一台包めそうなその大きさに、サニー  
は驚くほかなかった。  
 それでもすぐに対応を始め、青の少女は氷の力で唐草模様の一部を固めて砕き、橙の  
少女は熱のこもった拳で焼いた。  
「くっ、次からつぎへと!」  
 攻撃を避け、脇からの接近を試みたマーチだが、上手くいかずに歯噛みする。  
 手品のように飛んでくる布は一つひとつが大きく、サニーとビューティの二人は処理  
するので一杯だ。それでも何枚かは流れて後ろへといってしまい、それが桃色の少女を  
手こずらせているようだった。  
「わぷっ!」  
 風呂敷がキュアピースに覆いかぶさる。一枚、二枚、キュアハッピーが剥がしにかか  
るも、じたばたしている中身が顔を出すまでには時間を要した。  
「大丈夫ですか、ハッピー、ピース」  
「うん、もう平気だよ」  
「わたし、戦える!」  
 後方から駆けてきて距離が縮まったことで、涼しい音をさせながら二人に問いかける  
ビューティ。  
 遅れて戦闘態勢に入った仲間も加わり、状況は防戦一方だったプリキュアの側が有利  
に傾き始める。  
「はあぁっ!」  
 砕き、燃やして、開けた視界に飛び込む緑色の少女。そこへ桃色、黄色の仲間も加わ  
り、三方向から怪物の額にパンチを見舞って転倒させると、たちまち風呂敷攻撃が収ま  
った。  
 
「今クル! プリキュアの力で、アカンベェを浄化するクル!」  
「任せとき! 焦げ目がつくまでじっくり焼いたる!」  
 陰から戦いを見守っていたキャンディの声に、真っ先に応じたのはキュアサニー。  
 女の子らしくない台詞の後、彼女は両手を握りしめて力を込める。  
「プリキュア――」  
 スマイルパクトの輝きによって、空中へと火球を召喚したサニーはブーツの音を響か  
せながら激しいダッシュを始めた。  
「アカンベェ、捕まえるオニ!」  
 赤鬼が金棒を振りまわして指示を送ると、体勢を立て直した怪物が風呂敷を手に、振  
りかざす。  
「サニー・ファイヤー!」  
 しゃがみ込み、反動で大ジャンプ。伸びかかる布の射線から逃れた橙色の少女は、浮  
かんでいる炎の球をバレーボールの様に扱い、アカンベェめがけて前進させる。  
 その一方で、サニー以外の三人は相手が繰り出した攻撃により、仲間の一人が奪われ  
てしまうのを目撃していた。しかし、既に発射された赤い弾丸は止められず、やがて巨  
大な敵と衝突した。  
「アカアァァン……ベェェェ……――」  
 次第に小さくなる叫び声。鼻の部分となっていた赤い球体が最後に消え、代わりに飛  
んできたキュアデコルをキュアマーチが受け取る。  
 必殺技を使ったことで体力の消費が激しくなったサニーは膝をつく。彼女の傍にはキ  
ュアピースが付き、体を支えた。  
「ハッハッハッ! アカンベェはやられたが、プリキュアは頂いたオニ!」  
「……なっ!?」  
「――ハッピー!」  
 鬼の姿をした人影が風呂敷包みを背負っているのを、ビューティは見逃さなかった。  
手が空いているのは自分だけ、すかさず駆け出し奪取に向かう。  
 その台詞で理解したが、サニーは脇を一気に駆け抜けた青色の少女に声もかけられず、  
立ちあがってもよろける程まで消耗している。  
 しかし、彼女が追い付く間もなく盗人は一瞬で姿を消し、同時に、空の色が元に戻っ  
ていった。  
 
 
 静か。  
 暗い。  
 目を開けたつもりが見渡しても真っ暗なだけで、それが少女を不安にさせる。  
「ここ、どこだろう……」  
 首を傾げて状況を整理しようとすると、そこで妙な事に気が付く。  
「え? あ、あれっ?」  
 手が頭より高い場所にある。しかも、手首がくっついて離れない。  
「なにこれ? どうなってるのっ?」  
 桃色の髪を揺らし、キュアハッピーは周囲に説明を求めた。しかし、この場には彼女  
ひとり、両手を吊られた状態で膝立ち、どこからどう見ても捕獲されてしまっていた。  
 原因は先の戦いでアカンベェが繰り出した攻撃による。キュアサニーが必殺技を放つ  
直前、伸びかかってきた風呂敷にくるまれたのだ。  
 巻き取られた際の激しい回転に意識を失い、ふと気づくとこんな格好である。パニッ  
クに陥るのも当然だった。  
「あかねちゃん、やよいちゃん! なおちゃん、れいかちゃん! キャンディっ!」  
 街に来ていた友人たちと、愛らしい妖精の名前も空しく響くだけ。すぐに元の静けさ  
が戻って、ハッピーは落胆した。  
 脱出を試みようにも足首まで何かで締め付けられていて、この姿勢を変える事すら叶  
わない。プリキュアが人並み外れたスーパーパワーを発揮できるとはいえ、ギリギリと  
音を立てるだけで変化はなかった。  
「う……」  
 床が硬いせいで膝が痛む。ここがどこだか判れば焦る気持ちも落ち着くだろうに、人  
の声がしないので不安が募った。  
「わあぁっ!?」  
 そのうえ、いきなり天から水をかけられ、ハッピーは思わず叫んだ。  
 膝の間に水溜りが出来上がり、髪や服の裾から滴る音が大きく響く。  
 
 むき出しの腕を発端に体が冷えを訴えるが、肩を抱こうにも手を縛られているので動  
かせない。  
 せめて頭を振って飛沫をとばすが、とくべつ効果は現れなかった。  
「……っ?」  
 首から下方向に流れていくのはわかる。だが、腿の方に何か違和感があって、  
「こ、これっ、這い上がってくるっ!」  
 だんだんと衣装の側にやってくるのだ。  
 桃色の少女にぶちまけられた水は意思を持っている様に動きだし、膝を伝ってスパッ  
ツを目指している。  
 さらに、鎖骨に近い方も胸に集まりだし、肌色の上に水色の物体が這いずる様は何と  
も不気味だ。  
「あ、わっ、やだっ!」  
 自分の体より冷たいものが肌の上から落ちずに動いている。真っ暗で何も見えないキ  
ュアハッピーは手足が使えないので、じたばた抵抗しても振れ幅は少ない。  
 当然、ある程度の塊を作った水は落ちずにとどまり、浸透して衣装の内側に入り込み、  
また一つに集まる。  
「ひゃあぁっ!?」  
 ひんやりとした感覚が胸を包み込み、またも驚愕の声を上げるハッピー。どんなもの  
かは分からないが、ふくらみに居座られていい気はしない。  
 しかし、振り落とそうと上半身を動かしても効果はなく、むしろ相手がしがみつこう  
と吸着を始め、逆効果になってしまう。  
「わぁっ、あ、っ? なに……?」  
 冷やしていた乳首を吸引され、ぴりりとした刺激が少女に襲い掛かった。最初こそ疑  
問符を投げかけるも、その物体が答えてくれるはずはなく、続けて攻撃されて顔が上を  
向いた。  
「な、あっ! っく……」  
 ハートの模様を中心にしたリボンの内側で、何かがもぞもぞと動いているのが分かる。  
それがハッピーの胸に吸い付き、突起の部分をいじり始めたのだ。  
 桃色の少女が体を動かせば、それに合わせて手首を拘束している道具が軋む。口から  
は急に乱れ始めた息が吐き出され、悲鳴も同然の声と一緒に空間へと響いた。  
「うんんっ!」  
 さらにはスパッツまで冷却され、異なる刺激への対応に困るハッピー。  
 乳首はきゅむきゅむと噛まれているような捏ねられているようなで、吊られている腕  
から力が抜けてしまう。  
「っは……! あっ、うぅっ」  
 ただの水だと思っていたそれは意思を持ったイキモノのように、重力を無視して脇腹  
を這い上がってくる。しかし桃色の少女はくすぐったいと感じながらも、不気味という  
認識が勝って笑い声などあげられない。  
「うん、んっ! ……っ!」  
 せめてもの抵抗は声を殺すくらいしかなかった。口をつぐんで瞼を閉じ、暗い景色を  
いっそう黒く塗りつぶす。  
 ぴくりと震えたプリキュアの体を這いずる水色は、やがて胸を包んでいる仲間と一緒  
になり大きくなった。同時に膨れ上がり、体型にフィットした衣装を内側から押し広げ  
る。  
「……はぁっ、あっ!」  
 首筋、耳と細いものがくすぐり、懸命に閉じていた唇が割れてしまった。まるでゼリ  
ーみたいな質感で、触れた後に液体を残す。  
 肌をなぞられる度ぞくりと背筋が震え、一緒にあらわれる胸からの電撃に悶えるキュ  
アハッピー。次第に声が大きくなり、反響して自分に返ってくる。  
 衣装から水色の管が伸びて、少女の首筋と耳を両側から触れている。訳が分からず頭  
を振って逃げようとしても、相手の方が自由に動いて追いすがる。  
「や、んぅっ……」  
 小さいながらも主張を始めている乳首をあらゆる方向に転がされ、ハッピーは鳴いた。  
 彼女も、何も見えない割に状況を掴もうと必死だ。重たい胸に先程の物体がほとんど  
集まって、そこから手を伸ばして顔の周りを触っている。顎や頬に何かを塗られて気持  
ち悪さが生まれるが、滲んだ汗さえ拭う手段がないのでどうにもできずにいた。  
 
「あ、はっ……ぁ……っ」  
 敵は腋にも仲間を放った。既に蔓が伸びている場所を合わせると三カ所、背中ばかり  
が冷える一方で頭は熱い。  
 額に粒ができるのを感じ、しかし垂れている途中で失せた。  
「……これ、って……っ!」  
 辺り一面が真っ暗闇という訳ではなく、視界が塞がれているようだ。閉じっ放しだっ  
た目から滲んだ涙が正面に滲みこみ、塩味が痛い。  
 だが、分かったところでゼリー状の物体が胸に吸い付き体をくすぐっている。身じろ  
ぎをすれば攻撃が激しくなり、硬い床面に接している膝への負担が大きくなってしまう。  
「わっ! んくぅっ……」  
 再び水責めに遭うハッピー。今度は相手が自在に動くものだと理解して、刺激に耐え  
ながら口をつぐんだ。  
 頭から液体をかぶって、アンテナか触覚の様な二本の毛がぐったりとなっている。少  
女は手と目を戒められ、床に広がった水が首や耳をくすぐっている管と同じものを作り  
出していても、気付けず逃げられない。  
「ん、あ、っ!?」  
 腿の辺りに何かが巻きつき、意識が分散したプリキュアが驚いて声を上げた。一回、  
二回、直進すれば早いものを焦らすように回り込んでくる。それを両側ともされて、ハ  
ッピーはいよいよ四肢の動きを封じられてしまった。  
「あぁっ、ん……!」  
 油断したところで、ハッピーに襲い掛かる刺激はさらに強くなる。  
 胸に纏わりついて衣装を膨らませている物体が、ふくらみの全体を押すように動き始  
めたのだ。それだけでなく、包み込まれているニップルも上下左右に伸び縮みさせられ  
る。  
「くっ、うぁ……」  
 直前に降り注いだ分も加勢して、腋といわず首といわず、無造作に触れる手も増える。  
いくつもの筆で線を描かれている様に、桃色の少女はざわざわとした気配を感じ取った。  
 その間にも、床から伸びあがってきた触手はスパッツの冷却を再開する。元は液体だ  
けに肌との隙間はまるで関係なく、衣装に溶けている様に先端から消え、内側から盛り  
上げた。  
「ひゃっ!」  
 両脚を通しているピンク色の内側を這いずられる気分は、他にたとえが無いほど気味  
が悪かった。しかし、驚愕の一声を上げた後は、それまで通り熱っぽい息の混じった高  
い音に戻っていく。  
「あ、っ! ……はっ!」  
 スカートの中どころではない。無遠慮に侵入してきたそれはショーツに覆われた部分  
までたどり着き、布を貫通して擦りつけもする。感電したのかと思うほどの痺れがそこ  
かしこに現れ、そこはダメ、という言葉すらハッピーは口に出せなかった。  
 べったりと押し付けられたゼリーが狭い場所を動くから、くちゅりと崩れるような音  
が出始める。  
「んあっ!」  
 ボロボロになった塊をもう片方が万遍なく塗して、下着に守られていたはずの場所に  
攻撃が及んだ。イボの付いた棒が往復しているような、そんな不可解な感覚と電撃がハ  
ッピーを惑わせる。  
「っ……うぅっ!」  
 羞恥に赤くなった顔はもとより、全身がくまなく熱い。肌に妙なものを擦り込まれた  
のかもしれず、プリキュアは必至でかぶりを振った。  
 耳なり首なり、でなければ腋や胸、この物体が纏わりついている場所は多い。液体そ  
のものに何らかの効果があってもおかしくはなくて、ハッピーは変な声になるのも含め  
て、全て敵のせいにした。  
 だが、直後に服を引き裂かれるような音を聞き、彼女はそれどころではなくなってし  
まう。  
「え、えっ……?」  
 いきなり、下半身がスッと冷える。視界が真っ暗でもそれだけの変化が分かるくらい  
に火照った体も、つい先程まで触手になぞられていた恥部が表に出た事で熱が発散され  
ていくような気分だった。  
「や、やだっ……! っ、んっ! やぁ……っ!」  
 間髪入れずに少女を寒気が襲う。  
 
 桃色の特徴的な髪を揺らして抵抗するのも当然の話だ。体に穴を開けられると思って  
しまえば、それ以上の恐ろしい事など見当たらない。  
 プリキュアの、ひいては星空みゆきの女子たる部分に、水色の触手が突き立てられて  
いた。  
「そ、んな……っ、あ、あぁっ」  
 胸がくまなく押され、乳首が捏ねられているのさえ痛みに変換されるようだ。いちど  
は痺れるような電撃を寄越した部分に、横ではなく縦方向に動かれるのがどういう事か、  
キュアハッピーはまるで無知という訳でもない。  
 探る様に動いているのが憎たらしかった。  
 仲間と協力してスリットを作っていた蓋を左右に分けた触手は、収まるべき場所を探  
してゆらりと動く。  
「むり、ぃ……っ! う、ぐ……っ!」  
 物体を強く押し付けられ、ハッピーの悲鳴は鈍い呻き声に変わっていく。規模がどれ  
ほどのものか知る由はないが、軋むような音が振動と一緒に送られ、身体の中心から肉  
を割ろうとしているのがわかる。  
「うぅ、ぐっ、は……っ! ああぁっ!」  
 どこで息を継げばいいのか分からず、ハッピーは苦しくなって涙を漏らした。遅く、  
それでも確実に進んでいる触手の存在が下腹部に感じられ、支えになっている膝と腿が  
硬直している。  
 めり、めり、と、体のかたちが変わってしまうような嫌な音とは別に、相変わらず耳  
や首をなぞる方からは粘着音が発生して鳴り止まない。しかし、今の少女には気休めに  
だってならず、至る所を触られているのが逃げ場のない事を暗示しているようで堪らな  
かった。  
「あぁっ、あ、くぅっ……! んあ、あ……!」  
 口が開いているのに呼吸困難に陥りそうだ。内臓そのものがせり上がる様な気がして、  
背筋を冷や汗が伝う。  
 どちらかと言えば優しい方の刺激に身を任せたいのに、それは否応なしに頭を殴りつ  
けて止まらない。  
「ああぁっ、あっ、はぁ……っ、あぁっ……!」  
 触手の挿入は他の一切を考えるなと言わんばかりで、ハッピーの返事も鈍く歪んだ声  
しかない。  
 どこが終着点なのか。  
 何が体に入ろうとしているのか。  
 疑問は出来た途端に壊され、初めから練り直す羽目になる。だが、純粋な痛みから解  
放されるためにはどうしても思案が必要で、また一周して終着点について考えてしまう。  
「あ、ああ……――――っ!?」  
 弾ける様な音と同時に、少女の声が途絶えた。  
 いっしゅん気絶したのではと思ったくらいだ。目を戒められているにも関わらず一面  
が白く、手を吊るされているのに浮かんだような気分になって。  
「あ、あうっ! あっ! は、く……っ!」  
 しかし、ノックされたような感覚で現実に引き戻され、激痛が残る体をかき回されて  
ハッピーは呻いた。懸命に呼吸しようとして、その音がこだまする。  
「うぁっ、ぁ、ぅ……っ!」  
 あらゆる向きへと転がる乳首に、耳の裏をなぞる触手。上半身のを責め立てるおぞま  
しい物体が、不思議とプリキュアの心を繋ぎ止めていた。  
 肩を揺らして反応するハッピー。それだけ、ねちっこい責めは痛みを紛らわすのには  
十分で。  
 だが、自分の事でいっぱいだった桃色の少女には、近づく足音に気付く余地など無か  
った。  
「騒がしくて集中できねぇ……マジョリーナの奴か?」  
 コツ、コツ、と靴を鳴らして歩むのが一人。だが、獣の様な顔と鋭い目つきで、こち  
らも純粋なヒトではない。  
 先程から何者かの声が響きっぱなしで、考え事をしていたその男には雑音以外の何物  
でもなかった。  
 痺れを切らして注意にでもと思った所で、目に入った光景に驚愕する。  
「……お、お前っ!?」  
 いきなり自分以外の声がしたものだからハッピーはびっくりして、体内を引っ掻かれ  
る痛みに顔をゆがめた。  
 
「あっ……だ、っ……!? んっ、くっ……!」  
 誰なの、とも言えずに唇を噛む少女。今まで一人だった所に他人が急に現れ、さらな  
る羞恥に苛まれた。  
「プ、プリキュアがどうしてここに……!?」  
 対する側も状況が掴めずに首を捻ってしまう。鋭い爪を持った手で髪を掻いても、さ  
て答えは浮かばない。  
 事ある毎に邪魔を働くプリキュア。その一人である桃色が手首を縛られ、吊るされた  
状態で得体の知れないものと一緒に放置されていた。  
「……あっ、くっ! うあぁっ!」  
「うるせぇっ!」  
 一喝。呻くような声を中断して肩と髪を揺らすその顔には、目元を覆う布があった。  
「……っ、っ! ……んっ、んん……!」  
 体のそこかしこを触られているのに、声を出すなと言う方が難しい。キュアハッピー  
は怒鳴られた事に反感を覚えるが、こんな状況を目撃されて恥ずかしい事この上なく、  
強く口を閉ざした。  
 プリキュアが音量を下げたことで、その場には普段通りの静けさが戻ってきたように  
も思えた。  
 鋭い目をした狼の姿は、わざとらしく靴音を響かせて近寄り、不自然な水色を体にか  
ぶっている姿を眺める。  
「なんだよ、お得意のスマイルはどうしたんだ?」  
 付近にやってきたと思えば、馬鹿にするような口調と一緒に頭を軽くはたかれる。体  
が沈むような感じがして、出ては入っていくものとの距離が縮まってしまう。せっかく  
閉じた口も集中力を失い、開いた。  
「ん、あっ……」  
 水音につられて息を吐き、話は聞こえるのに答えられないハッピー。  
「泣かないんじゃなかったのか?」  
 身を屈めても高さは一致しない。そもそも深緑色の布が戒めているので視線がぶつか  
ることはないが。  
 人狼は桃色が基調の衣装に見覚えがあって、そんなことを訊いていた。  
「……で、っ……い……」  
「あぁ?」  
 できないよ、と言ったつもりが、正面からは分からなそうな返事。  
 この間にも破裂だか張り裂けたかした体内を触手に犯され、多少は和らいだとはいえ  
未だ鋭い痛みに声が震えてしまう。  
「い、っ……! いた、い……っ」  
「……あぁん!?」  
 桃色の少女は、痛みを表現するより怯えの方が強かった。とつぜん現れた誰かに説明  
など出来る訳もなく、むしろこちらの方が訊きたい事は山積みで、相手の苛立った風な  
声さえ恐怖を煽る。  
 そんなプリキュアの正面で、レザーを着た狼は灰色の腕で彼女のスカートをつまみ上  
げた。  
 痛い、と聞こえた気がして、なるほどそうかと納得する。体の中心から衣装より濃い  
赤が垂れ、くちゅ、くちゅ、と水音を立てる物体がそれを浴びていた。  
「あぁ、あぁ、血ぃ出てるじゃねぇか」  
「え……っ!?」  
 いきなり指摘されてハッピーは焦った。触手に穿たれた部分から出血しているなど、  
あの痛みの割にちっとも考えていなかったからだ。  
 血、という表現は少女の気持ちをさらに落ち込ませ、ぐす、と鼻が鳴った。  
「……は、あっ……ぁ……」  
 そして、またも声を漏らしてしまう。こちらは相手が誰か分からないのに、近距離で  
見られてはいよいよおかしくなりそうだ。  
 再び妙な声に変わっていく桃色のプリキュア。それを間近に、人狼は面白くないとい  
う顔を作る。  
「チッ――」  
 思えば最初からそうだ。諦めが悪いというか往生際が悪いというか、無理矢理にでも  
笑顔を作ろうとする姿勢。  
 それが今、目の前に囚われている。最初に遭遇した憎き敵と言っても差支えなく、止  
めだってさせるというのに、何か違う。  
 
「……ったく、悪趣味な事をしやがる……」  
 舌打ちをひとつ、鋭い歯をぎりりと鳴らし、そう吐き捨てた。  
 灰色の肌を持った狼の頭には、ずっと聞こえていた騒音の正体と同時に、これを仕込  
んだであろう深緑のローブ姿が浮かぶ。得体の知れないものは魔女の発明だと踏んだだ  
けだが、自分を含めた三幹部の内でも、そういった真似ができるのは一人だけだ。  
「少し黙ってろ、プリキュア」  
 分かった所でどうしようもないが、とりあえず桃色の頭を叩く。  
 それから、両足を縛りつけていた深緑色の布を引き裂いた。その大きさを見て、両手  
の側は気を遣う。  
「……んくっ、っ……! んぐっ!」  
 支えを失い、プリキュアの体は前のめりに倒れた。両手が疲労しきって動かせず、床  
に顔面をぶつけてしまう。  
 それを、灰色の腕は容易く風呂敷に包んでしまった。どこで仕入れてきたのか知らな  
いが、やけに大きな布はヒトをくるむには十分すぎる。  
「勘違いするんじゃねぇぞ……」  
 荷物を背負い、誰に聞かせる風でもなく呟く狼。薄暗い場所から抜けると、今度は野  
太い声が耳を突いた。  
『今日の一位は黄色と黒の縞模様を身に付けたアナタ!』  
「ん、俺オニ!」  
 体躯に似合わない小型のテレビを眺めて、赤鬼が喜んでいる。  
『二色のキケンな取り合わせが物事を演出するかも!? ラッキーアイテムはおにぎりで  
す!』  
「んが――っ!!」  
 そこらに響き渡る雄叫びに思わず仰け反る狼だが、負けじと大声で呼びかけた。  
「……ん? その風呂敷、どうするオニ?」  
「ああ、お前のか。ちょっと借りるぞ」  
 バッドエンド王国の三幹部、その一人であるアカオーニは両手を振り上げた姿勢のま  
ま、振り向いて問う。対して、こちらも幹部であるウルフルンは事も無げに返した。既  
に荷物を含んでいたが、相手は巨体を以ってしてもそれについては触れなかった。  
「でも、今日はスーパーラッキーオニ。俺が行くオニ」  
「ラッキーアイテムはおにぎりって言ってたろうが。次に備えて作っとけ」  
 そもそも今日は最初にお前が出て行っただろうが、と付け足し、赤鬼を黙らせる。ラ  
ッキーアイテムの話になって反論が出来なくなったのか、彼は「む……」と唸ってそれ  
きりになった。  
 やり取りを終え、風呂敷を背にした狼は一人、本拠地を後にした。  
 
「……おらっ」  
 もとより丁寧に扱う気はなかった。包みを置くだけおいて布を引っ張ると、中のプリ  
キュアがごろごろと地面に横たわる。  
「っ……! んっ、うぅっ!」  
 だが、スカートから水色を引きずっている桃色の少女は戒めから解放されている事に  
すら気付いていない様だった。未だに声を殺そうと口をつぐんで、不自然に大きな息の  
音が漏れている。  
「んあぁっ!」  
 ずるる、と体から何かが抜けた。  
 それからしばらくしてキュアハッピーは我を取り戻し、まずは姿勢が変わっているこ  
とを認識する。  
「……んっ」  
 相変わらず胸には何かが纏わりついているようだが、とにかく自由になっている手で  
目を覆っているものを取り外す。  
 青空が木々の間に映り、とにかく明るい。思わず目を瞑ってから、半身だけ起きあが  
り、状況を確認しようと周囲を見渡して、そこでハッピーは驚愕した。  
「おっ……オオカミ、さん?」  
 鋭い目つきで見おろしてくるのは、長身の狼男。プリキュアが何度も戦った、世界を  
バッドエンドにしようとする存在だ。それが、微妙な距離の先にいる。  
 やたらと『ら行』の発音が特徴的だったが、直前に遭遇したのは彼だったのだろうか。  
「……や、やだっ! どうしよう、恥ずかしいっ」  
 少女はわめいた。  
 
 声に関する事、受けていた責めのこと。体のどこを隠せばいいのか、そう思ったとこ  
ろで衣装があまり乱れていない。それより、鼻が少し痛かった。  
「ひゃっ」  
 いきなり刺激を受けて、小さく悲鳴を上げるハッピー。  
 胸が重くなっていた原因の水色を服の内側から引っ張り出し、近くの木にぶつけた。  
ゼリーが崩れ、晴れて体に触れる異物が無くなり、ふうと息をつく。  
「……ふん」  
 事ある毎に呼び出す怪物がおらず、ここには二人しかいない。そよ風に揺れる葉の音  
と鳥のさえずりが、対する狼との間に場違いな演出を添える。  
「オオカミさん…………あ、ありがとう」  
 なぜか額から汗が出てきた。どう声をかけていいのか分からず、ハッピーの言葉は尻  
が持ち上がって疑問符が付きそう。  
「なっ――!?」  
 一方、ウルフルンは困惑するばかり。  
 もっとこう、敵を前にした時の反応をするかと思って、ぜんぜん違った。そればかり  
か、事もあろうにお礼など言ってのける。  
「お、おお、お前っ! 狼が喰っちまうぞ!?」  
 しかも、睨みつけるとか腕だけでも構えておくとかは一切無く、頬を染めてにっこり  
笑うものだから始末に負えない。  
 そのうえ分からなさそうに首を傾げるから、さすがの狼にも苛立ちが芽生えてくる。  
「……い、一度くらいは思い知らせた方がいいかも分かんねぇな……」  
 呟きが聞こえてきた一瞬の後、  
「きゃっ!」  
 キュアハッピーは悲鳴と共に地面へと倒されてしまった。後頭部を強く打ち付け、続  
けて顔を狼の手で覆われて視界を塞がれてしまう。  
 何が気に障ったのか、尋ねる余裕なんか無かった。  
「よぉく覚えておけ。俺の、オオカミの恐ろしさを」  
 低い声。直前に慌てた様子だったのはどこへやら、相手は威嚇するように唸り声まで  
上げている。  
「くぅ……っ!」  
 頭を押さえられているせいで、起き上がることも逃げるのも叶わない。じたばた暴れ  
ようにも、先程まで得体の知れない物に犯されていたのだ、それ以前に遡ればアカンベ  
ェとも戦っているしで、これほど消耗している身体では対抗しきれない。  
「抵抗してみろプリキュア。……できねぇだろうがな!」  
「お、オオ、カミ、さ……んっ!?」  
 強い力が加えられて跳ね除けることもできず、体の中心へ何かを詰め込まれる感覚に  
陥るハッピー。投げ捨てたばかりの水色とは明らかに違う、硬さと重さを持った代物が  
入り込んでいた。  
「ん、あ、あぁっ!」  
 桃色の少女は人狼と結合を果たしてしまっていた。触手よりよほど存在感のあるそれ  
が、ずぶりと押し入っては引き返し、体内を擦られることに対して鈍い声が上がる。  
「怖いか、そうだろうっ!」  
 ら行の音を特徴的に混ぜては、プリキュアの視界を覆い隠して恐怖心を煽る狼。力の  
入っていない両足など押さえつける必要もなく、もう片手はちっとも動かなかった相手  
の細い腕を封じるのに使う。  
 一度は血を吐いた下の口は、男が出入りするごとに付近へ泡を広げた。  
「ガタガタ震えて泣き叫べ、それがっ、絶望ってモンだ!」  
 鼻息も荒く怒鳴る様に話すも、ハッピーは反抗する間もなく単純な音で鳴くだけ。こ  
れこそ体を広げられると思える現象に、しかし相手が収まっている肉の洞は自分の意思  
とは無関係に動いている。それが、なんだか不思議だった。  
「や、んくっ……っ、はあっ!」  
 ゆっくりとした動作とはかけ離れた抽送は、少女から言葉を奪っていく。咄嗟に浮か  
んだ単語も言えず、獣が覆い被さって腰を振っている状況を受け入れるしかなかった。  
 ずぶ、ずぶ、と体の奥を突かれる度、ハッピーはその手で周辺の雑草を引き抜く。長  
時間を膝立ちで過ごした足指も、手に力が入るのと一緒にまるくなった。  
「どうした、このままじゃ中に、出ちまうぞっ!」  
 ほぼ真上からやってくる人狼の声は、詳細を知らないなりに理解した桃色の少女をぞ  
っとさせた。しかし、体が思うように動かない、首を横に振れない、言葉が作れない、  
そんな状態ではどうしようもない。  
 
「くぁっ、あっ! んあぁっ!」  
 次第に速度が上がり、相手からはテンポの良い息の音が降ってくる。何度も内側を引  
っ掻かれて、ハッピーはそこの肉が一枚くらい剥がれているような気さえした。  
「ん、くっ、あっ、ぁ――!!」  
 ズン、と強い一撃の後、動きを止めた棒状の物体が脈動を始める。息を詰まらせたハ  
ッピーの声は中断され、途端に激しい痺れに襲われた。  
 白とも銀ともつかない、月光の様な色をした髪を振り乱し、人狼は短く唸った。プリ  
キュアの体に熱が注がれ、さらに前後の動きで表側に引きずり出される。  
 痙攣したように震える桃色の少女は、ふと視界が晴れて正面に銀の肌を捉え、すぐに  
歪んだ。  
「……そうだ、希望もありゃしない」  
 ウルッフッフ、と乾いた笑い声を上げる狼。鼻を鳴らして涙を滲ませたプリキュアの  
顔は、まさに絶望そのもの。  
「…………っ」  
 しかし、目元を拭った様子を見て、ウルフルンはこの桃色が健在な事を思い知る。一  
切の言葉もないのに、生意気な奴だと認識した。  
 くわえて、熱を放った肉の洞が蠕動するのだ。たったいま吐精したばかりの彼を絶え  
ず刺激し、抜き取る間もなく直前と同様に近い状態まで復元されてしまう。  
「足りねぇって、言うのか、あぁ!?」  
「ひ、ぅ……!」  
 正面にずらりと並んだ歯は、本当に喰われてしまうと認識させる。  
 一度は離れたような気がして、またも体内にあらわれる硬い感触。凄まれても訊きた  
いのはこちらの方で、ハッピーは怯えの混じった声になった。  
「ぁんっ!」  
 地面に接していた背中が浮き上がり、目に映るのが晴れ模様の青から夜空の様な色に  
変わる。軽々と起こされ、二本足で立った狼に両方の腿を支えられる形で、ハッピーの  
姿勢も変化した。  
「いつ落ちるか、分からねぇ恐怖に震えろ、プリキュア!」  
 言って、人狼は軽々と少女の体を持ち上げ、入れ物の方を動かして自らの分身を扱く。  
 プリキュアの体が高く浮かべば牡のシンボルが露わになり、先に放たれた熱が白い液  
となって引きずられ、落ちて土に染みる。あわせて、鮮やかなピンク色をした特徴的な  
髪が上へ下へと不規則に揺れた。  
「ん、あっ……! あぁっ!」  
 しっかりしていなければ落ちる。キュアハッピーはそう思っても、相手の衣装はつる  
つるして掴むところが見当たらない。顔をぶつけているのは胸か腹か、そのくらいの身  
長差がある二人だが、体重を前にかけて転倒を防ごうとはする。  
「あ、っ! はぁ、ふ……っ!」  
 がくんがくんと揺さぶられ、ハッピーは言葉を出す間もない。上下の振動が詳細な思  
考を奪って、体に入った男の事ばかりが頭を埋める。  
 痺れがまわった手は力があるのか不明で、完全に人狼にされるがままとなっている。  
単調な高い音を立てるばっかりのハッピーだが、それを抑えようとしてできなかった。  
「んっ! く、あっ……」  
 少し違った痛みは腿からやってきた。曖昧な意識が急に冴えては、ずぷ、ずぷ、と押  
し込まれる感覚にとろけてしまう。  
 桃色のプリキュアは長身の狼に持ち上げられ、股から生える肉棒を抜き差しされてい  
る。先に放たれた熱の塊は地面に白く溜まり、尚も透明な液体が結合部から伸び、落ち  
ていく。  
 鋭い爪をそなえた男は抱えている少女の太腿に食い込ませている事など気が付かず、  
こちらも荒い息をしながら小さな体を揺するのでいっぱいだった。  
「は、あっ、あっ!」  
 落下すると同時にハッピーの一番奥を叩いた茎から、またも熱を放たれる。体温より  
よほど高いそれが、次々と存在を増していくのが分かった。  
 そして、肉の洞は縮こまる。謎の物体に犯されていた時とは明らかに違う反応は、む  
しろ桃色の少女を驚かせた。まるで、もっと相手を欲している、そんな風で。  
 脈動して、その状態で動き始める狼の牡。白い半固形状の液を引きずり出し、直下に  
生えていた草をしならせた。  
 
「ぁ……」  
 キュアハッピーの耳は、自分の体が下がって下腹部に物を詰め込まれるたび、ぐぷ、  
と音が立つのを聞いていた。摩擦に溶けているのではないか、痒みにさえ感じる痺れが  
まわっている。  
「っ、ん、くぅ、うあ……!」  
 抽送が再開されるまで時間はかからなかった。気配が遠のく様子は一向になく、体内  
をかき混ぜられて少女の口からは声が飛ぶ。  
 何か考えようとして、すぐに次の刺激が意識を途切れさせる。揺すられる動きは小さ  
くなったが、却って最奥に押しつけられるような感覚が連続し、プリキュアを襲う。  
「く、おぉ……っ!」  
 荷物扱いしていた桃色を犯す人狼の方も、息を荒げてしまっていた。突き入れた屹立  
は搾り取るように動く肉壺と、内側の襞によって無理やり持ち直させられ、中身を吐き  
出している。これで三度目だが相手の締め付けも変わらぬ調子で、これがなかなか抜け  
られない。  
「……どうだ、これで参っただろ……」  
 一回目ほど大きな声が出せなくなっていたが、この近距離だからプリキュアには伝わ  
ったようで、ゆっくりと顔が持ち上がる。  
「…………えへへ」  
 しかし、あれだけ体を突いたのに口角が持ち上がる様子を見て、ウルフルンは戦慄さ  
え覚えた。尻尾の先にまで寒気が走る。  
「オオカミさん、落とさないでくれたね」  
 恐怖だなんだと言っておいて、今のいままで抱えたままだ。疲弊しているはずなのに  
笑みが漏れ、ハッピーは呟いた。  
「――おかしいんじゃないのか、お前」  
「そんな事、ない……よ」  
 ひどい言われ様だった。しかし詰め物が抜き取られようとして、縮んだ下腹の襞を擦  
られる。びりびりっとした電撃が走り、ハッピーの声は途中から消えてしまった。そこ  
に痛みはなく、熱のこもった息を吐く。  
「俺はスマイルが大ッ嫌いなんだよ……!」  
 ご丁寧に着地までさせてから、人狼は改めて桃色の少女を突き飛ばした。両脚が山を  
作り、破れていたスパッツの中心に散々突かれた恥部がのぞく。  
「う……」  
 どう表現していいのか分からない、もやもやした気持ちのまま、仰向けに転がったプ  
リキュアは半身だけ起こす。  
 正面にはレザーを着た狼の姿。いつの間に居住まいを正したのか、行為の痕跡はきれ  
いさっぱり無くなっていた。  
 ギン、と鋭い視線を寄越され、ハッピーは手に力が入らない。  
「プリキュア、必ず倒してやるッ!!」  
 こんな風にしたのに、笑顔を消す事ができない。いま、湧き上がるのは敗北感だった。  
 森。どうしてこの場所を選んだのだろうか、不思議と人の姿がなかったのだ。これで  
はバッドエナジーを満足に得られず、ウルフルンは舌打ちをひとつ、吐き捨てた。  
 大声に遠くで鳥の羽ばたきが返され、一瞬にして尻尾まで消え去った後、ひとり残さ  
れた桃色の少女はようやく立ち上がる。  
 草木を揺らす風に体が冷え、ふと見上げた空は青い。直前までの出来事が嘘のように  
感じられて、しかし全身は重かった。  
「……こ、ここ、どこだろうっ」  
 いきなり焦りがうまれ、ハッピーはオロオロした。  
 真っ暗でないだけマシなのか、それでも周囲は葉を生い茂らせた木ばかりだ。自分の  
衣装以外は特に目立つものもなく、進んでいいのかも分からなくなる。  
「っ……!」  
 ハッピーは近くの幹にもたれかかった。道を伝う気配がして、狼の成分が体の外に現  
れる。ゆっくりと下降し、木の根に染みを作った。  
 しばらく肩を震わせた後、残滓を手で掻き出そうかと思った時である。  
「え……?」  
 遠くから声がしたのだ。  
 ――みゆきーっ!  
「あ、かね、ちゃん?」  
 関西のノリを含んだ女の子が、間違いなく自分を呼んでいる。  
 
 いつの間にか変身が解け、プリキュアの衣装から出かけてきた時の服に戻っていて、  
キュアハッピー、こと星空みゆきは疑問を確信に変えて叫んだ。  
「あかねちゃーんっ!」  
 みゆきは力を振り絞って、精一杯、腹から声を出した。  
 ――みゆきちゃんっ!  
 ――みゆきさんっ!  
 次々に呼び声が増えて、合わせると四つ。いずれも聞き覚えのあるものだった。絵を  
描くのが得意な子、ポニーテールの快活な子、頼れる生徒会副会長の少女。  
「やよいちゃん! なおちゃん! れいかちゃんっ!」  
 これまた不思議で、何度も叫ぶだけの体力があった。――ちからが湧いてきた。  
 ひとり、ふたり、日野あかねに続いて姿が浮かび、みゆきは彼女達に応える。  
 橙、黄、緑、青。プリキュアの姿ではないものの、それぞれの服装は分けられていた。  
「みゆきっ!」  
 最初にやってきたあかねの頭に、白い生き物が乗っていた。耳がクルクルして可愛ら  
しい姿は、間違いなくキャンディだ。  
 これが飛び移ってきて、みゆきは友人たちとの再会を実感する。  
「みんな、どうして……」  
「どうして、って」  
 少し言いにくそうに明後日の方を向いては唸ったあかねだったが、  
「友達だから、だよ」  
 続いた黄瀬やよいの言葉に「せや」と頷いてみせた。  
「手掛かりが無かったからどうしようかと思ったけど、本の扉が連れて行ってくれたん  
だ」  
 今度は緑川なお。  
 確かなことはみゆきがアカンベェに捕まり、それが赤鬼の手に渡って消えた事だけだ  
った。現場を目撃したところで、すぐに連れ戻しにはいけなかったのだ。  
「とにかく、また会えてよかったです」  
「嬉しいクルー!」  
 全員の気持ちを表現した青木れいか、そしてキャンディ。  
 駄目で元々、秘密基地から本の扉を使ってみたところ、静かな森にやってきたという  
ところだ。四人と小さなマスコットは右も左も分からずにふらついて、しかし再会を果  
たすことができた。  
「み、みゆきっ!?」  
 あかねは二つリボンの少女が鼻を鳴らして、いきなり抱きついてきたので驚きの声に  
なった。戸惑いの表情を周りに向けるも、れいかを初めに笑みが返ってくるだけ。  
「う、わあぁっ……!」  
 さらに、胸の方で嗚咽が始まる。力がこもってちょっと痛いが、引き剥がすことはせ  
ずに頭をぽんぽんと叩いた。  
 周りの全員、静かに二人を眺めて……やよいだけはもらい泣きして、こちらでも鼻を  
ぐすぐす言わせていた。  
「みゆきちゃん、帰ろう」  
 少しして、なおはみゆきを促した。涙を滲ませた赤い顔が、あかねの服から現れる。  
 嬉しいのは山々だが、空の色が変わり始めていた。捨てられていた本棚からの道に目  
印をつけて来たとはいっても、暗くなれば分からなくなってしまう。  
「……寒っ」  
 抜けてきた冷気に身を震わせるあかね。暖かくなったと思うが、気温が低く感じるこ  
こは山の中かもしれなかった。  
「さあ、こちらです」  
 先頭に立ち、進むれいかに涙目のやよいが続く。  
 ポニーテールの少女は残った友人を見、あかねに任せて三番目になった。  
「行こか、みゆき」  
 どれほど泣いたのか、さて思い出せないみゆき。なおに呼ばれるまでにかなりの時間  
が経ったような気がして、それも不明だった。  
「……っ」  
 一緒に忘れていた感覚が戻り、声より先に息が漏れる。しかし、すぐに隅へと押しや  
って平静を保った。そんなもの、繋いだ手から感じるあかねの熱に比べれば何のことは  
ない。  
 先行していたれいか、やよい、なおの三人から名前を呼ばれて、みゆきは大きな声で  
返事をした。  
 

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