放課後、傾きはじめた太陽が教室を薄いベッコウ色に染めていた。  
 その日の科学部の活動はもう終わり部員のほとんどは下校した後で、化学実験室に残っているのは、  
部長のほのか、副部長のユリコ。そして新入部員の野々宮の三人だけ。  
 その中でひとり野々宮が、ぽろぽろと涙を落とし続けていた。  
 頬を流れる水玉が夕陽を反射してキラキラ光り、ちょっとキレイだなとユリコは思っていたけれど、  
そんな事を口にできるような空気ではなかった。ずいぶんと長い時間、三人は無言だった。  
「野々宮さん、そろそろ……」  
 ほのかができるだけ言葉を選びながら、やさしく微笑んだ。  
「ね。いつまでも泣いてても……仕方ないじゃない?」  
「すみません……すみません……」  
 グスグスと鼻をすすりながら野々宮は、ただすみませんと蚊の鳴くような声で謝り続けた。  
 ――あの一件以来、野々宮の実験中のミスは一向になくなっていない。  
 薬品の調合手順を間違えて教室中を煙まみれにさせたり、ガスバーナーで他の部員の髪を焦がしたり、  
温度計と湿度計と教室の時計をいっぺんに壊したこともった。   
「本当に、すみませんでした……」  
 その度にほのかに怒鳴られ、蚊の鳴くような声で謝るのだ。  
 そして今日は、顕微鏡をプレパラートもろとも破壊するという信じられないミスを犯し、これはもう  
いいかげん部長としてなんとかしなければと、とりあえず野々宮に居残りを命じたのである。  
「わかったからもう泣き止みなよ。これからは、じゅうぶん気をつけてさぁ……」  
 言いかけてユリコは、同じセリフをもう何度この子に言っただろうと考えた。  
「私、だめなんです……」  
 うなだれる野々宮に、ほのかが諭すような口ぶりで言った。  
「そんな事ないわ。もっとちゃんと注意すれば……」  
「――センパイ、私をぶってくれませんか」  
 言葉の意味がわからず、ほのかとユリコが同時に「え?」と声をあげた。  
 
 ポフ、と音にならない音をたてて、プラスチックの定規が野々宮のスカートを打った。  
「だめですセンパイ、もっと強く叩いてください」  
「あ、は、ハイ。ごめんなさい」  
 なんでほのかが謝るのよ、とユリコは思ったが、それくらい混乱しているのだから仕方ない。  
 ユリコ自身にとってもこの状況――野々宮が実験室の大きな机に手をおいて尻をつきだし、  
30センチ定規を持ったほのかが惑いながらそれに対峙している――は現実感のかけらもなく、  
ただぼんやりとふたりの成り行きを見守ることしかできないのだから。  
「お願いします、私、口でいってもだめなんです。こうやって体でわからせないとだめなんです」  
「あの、ええと、……だからって、こういうのは。ね、ねぇ」  
 どうにも困った様子でユリコに助けを求めるほのか。  
 少しの沈黙のあと、ユリコがきっとほのかを見すえた。眼鏡がキラリと光った。  
「いいんじゃないですか。やってあげてください部長」  
「ちょ、ちょっと、ユリコまで……」  
「それが野々宮さんのためになるっていうんなら。やってあげるべきなんじゃないですか」  
「野々宮さんのため……」  
 ユリコの言葉に、ほのかは言葉を詰まらせた。  
 ――野々宮さんの涙はもう、見たくない……。  
 ほのかはうなずいて、定規を握る手にぐっと力を込めた。  
 
「それじゃ……い、いくわよ」  
 震える声で定規を振りかぶるほのか。それは頭の上あたりでしばらく止まっていたが、  
やがて意を決して思いきり目の前の小さな尻に襲いかかった。  
 バシ! 重い音とともに、ほのかの体にも強い衝撃が伝わる。  
「ぁうっ!」  
 インパクトの瞬間は目を閉じてしまったほのかだが、野々宮の悲痛な叫びを聞いてすぐに  
その瞳が心配の色を浮かべた。  
「ごっごめんなさい! やっぱり強かったかしら」  
「い、いえ、いいんです、もっと……お願いします」  
 野々宮は少し息を乱して、しかし、微笑んでいた。  
 その苦しそうで嬉しそうな顔を見てほのかの心臓が、なぜかドクリと昂った。  
「私まだ……全然わからないんで……もっとお願いしますセンパイ」  
 そう言ってさらに尻を上げる野々宮に、ほのかは素直に応えた。  
 バシン、バシンと強く叩くと、その度に野々宮の声が上ずってゆく。  
 その声に呼応して、ほのかの叩く力もどんどん強くなってゆく。  
 いけない、と直感したほのかが、ふぅと大きく息をつきながらいったん定規を机においた。  
 二人とも汗を流していた。  
「もう、いい……?」  
 ほのかがつぶやく。しかし野々宮はだらしなく垂れるよだれをそのままに、かすれた声で言った。  
「すみません……次は直に……直にお願いします」   
 ――ジカニ? 言葉の意味が理解できずに、ほのかはきょとんと野々宮を見た。  
 
「……つまり、こういうことでしょ?」  
 ユリコがいきなり野々宮のスカートをめくり、まだ幼さの残る白い下着をするりと下ろした。  
 野々宮の尻はもう、熟れたリンゴのような色になってしまっていた。  
「ユっ! ユリコ!」  
 あわてふためくほのかをよそに、まったく抵抗をしない野々宮。  
「ハイ、そうです……私の……、お尻を、直接……ぶってください」  
「野々宮さん……」  
「お願いします……センパイ……」  
 ハアハアと息を乱し涙ながらに訴える野々宮。  
 しかしその涙は、尻を打たれた苦痛によるものにはとても見えない。  
 ――ユリコは確信していた。  
 野々宮は、わざとミスをしていたのだ。こうやってほのかに尻を打たれる為に。  
 彼女は大人しそうな顔をしてその実、激しい被虐に悦びを見出すド変態だったのだ。  
 あの退部騒動の時、ほのかに初めて叱られた時、何かしら感じるものがあったのだろう。  
 そして、ほのかは――  
「ひぐぅっ!!」  
 バッシィという音が教室中に響きわたり、野々宮の声はさらに悲痛になった。  
 その叫びに包まれながらほのかが、より強く腕を振り下ろす。  
 野々宮に負けないくらい恍惚としながら、何度も、何度も。  
 少女のリンゴ尻の真ん中から、トロトロと蜜があふれ出していた。  
 定規がその部分に当たりピシャンと液体を打つ音がした。  
 飛沫が夕陽を反射してキラキラ光り、ちょっとキレイだなとユリコは思った。  
 
おわり  
 

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