広大な敷地を持つ明堂院家。武道館まで有するその庭は、ちょっとした歴史公園並みである。  
日が傾きかけ、夕陽に照らされた池が眩しい。その池のほとりを歩く、二つの影があった。  
一人は、白い学生服を着たショートカットの凛々しい顔立ちの少年。  
彼が押す車椅子に乗っているのは、髪を長く伸ばした儚げな表情の和服の女性。  
仲の良い『姉弟』のように傍からは見えるであろう。  
だが、実は彼らは『兄妹』なのだ。男装の妹の名は明堂院いつき。一見女性のような兄はさつき。  
病弱なさつきが、外の空気を吸う為の散歩を手伝うのは、いつきの仕事であった。  
兄妹の水入らずの時間を邪魔せぬよう、執事達は遠ざかっていた。  
 
「ここでいい、止めてくれ。」  
いつきが車椅子を止めると、さつきはゆっくりと車椅子から立ち上がった。  
「今日は友達が来ていたようだね。」  
「ああ、来海さんですか…別に友達では…。」  
「僕はいつきにもっと女の子の友達と仲良くなってほしいと思っているんだ。  
 僕の体が弱いばかりに、いつきが明堂院家を背負うようなことになってしまって…。」  
さつきは沈み行く夕陽を眺めながら、自嘲気味に呟く。  
 
武道家として名高い名門・明堂院家は代々、長男が当主を継ぐのが習わしだったが、  
さつきが生まれつき病弱だったため、やむなく、いつきに白羽の矢が立てられた。  
武道の才があったいつきは、男装をして、学校でも男のようにふるまっている。  
それがさつきにとっては、心苦しくてならなかった。  
 
「お兄様……私は、いえ、僕は一生お兄様を守ると決めたのです。今の生活には満足しています。  
お兄様が気に病む必要はありません。」  
「いつき……うっ!ぐっ、ごほ、ごほっ!!」  
突如、苦しげにさつきが咳き込んだ。病気の発作だ。いつきは心配そうに背中をさする。  
「お兄様、大丈夫ですか。さあ、いつもの治療をしますから…。」  
いつきは、さつきの車椅子から膝掛け用の毛布を取り、近くの芝生に敷いた。  
さつきを抱き支えながら、その毛布の上に横たえる。  
 
「いつき…い、いいんだ、もう治まったから…。」  
「遠慮なさらないで、お兄様。僕がお兄様にできることはこれくらいなのですから。」  
言いながら、ひざまずいたいつきは兄の着物の下半身をはだけた。下着を下ろす。  
さつきの端正な顔立ちには似合わぬ、立派な逸物が姿を現わした。  
いつきはその男性器に唇を寄せ、そっと舌を這わせる。  
「うっ……!」  
さつきは小さく声を漏らした。  
 
愛おしげに竿を舌で数往復した後、いつきは雁首をぱくりと咥えた。  
次第に怒張してきたそれを、いつきは可憐な口の中で舌を動かして愛撫した。  
「んむ、んっ…んーんっ、ふぅっ…」  
「あっ……あ………」  
さつきの切なげな声のトーンが上がる。  
駄目だ、駄目だ、妹にこんなことをさせてはいけない。やめさせなくては。  
だが…言葉が出せない。快感が理性を駆逐しつつある……。  
 
いつきの巧みな舌技により、さつきの男根は隆々と垂直にそびえ立った。  
「準備はよろしいようですね、お兄様」  
いつきは立ち上がって、学生服のボタンに手をかけた。  
何のためらいもなく学生服を脱ぎ、ズボンを下ろし、さらにワイシャツも脱いだ。  
スポーツブラと純白の下着をつけた伸びやかで滑らかな体は、紛れもなく女性のものである。  
さらに彼女は、ごく自然な仕草でブラを外し、下着も脱いで一糸纏わぬ姿になった。  
膨らみかけた乳房と、股間の淡い陰影が夕陽に照らされ、まるでヴィーナス像のようであった。  
 
「さあ、いきますよ…」  
いつきは横たわるさつきをまたぐと、そろそろと腰を降ろしてゆく。  
兄の巨根を握ると、自分の膣口にそっと当てた。  
「待って、待ってくれ、いつき。もう大丈夫だ、もう発作は治まったんだ……」  
最後の理性をふり絞り、さつきは制止しようとする。  
だがいつきは聖母のような優しい微笑を浮かべ、首を振った。  
「遠慮なさらないでお兄様、すぐ楽にしてさしあげますからね」  
そのまま腰を沈める。男根がずぶずぶといつきの中へ没入していく。  
「はっ…はああっ……」  
わずかに体をびくんと震わせ、兄のものを自分の中に受け止めたいつきは、  
ゆっくりと腰を上下に動かし始めた。  
「さ、さあどうぞ、お兄様……く、ううっ……いつも通りに…僕の中に……  
 ふぁ…あぅっ……毒を…吐き出してくださいませ……んんっ……!」  
 
 
お互いの性器同士を結合させ、体内の毒を吸い出す。  
この誤った『治療法』を、妹は一体どこから仕入れてきたというのだろうか。  
しかしさつきは、もはや自分にはそれを問い質す資格などないことをわかっていた。  
今さら後戻りするには、兄妹はあまりにも体を重ねすぎていた。  
 
この『治療』を初めて施された時に、やめさせるべきだったのだろう。  
だがあの時はことさらにひどい発作で咳が止まらず、意識がもうろうとしている間に、  
いつきは『治療』を始めてしまっていた。  
その上、驚きと後ろめたさのあまり、咳が止まってしまったことで、  
いつきはこの行為を効果的な手段だと信じ込んでしまったらしい。  
そして2回目の『治療』が行われた時、もはやさつきは積極的に拒否しなかった。  
病弱な自分には一生縁のないものと思っていた女体の快楽が、忘れられなかったのだ。  
もっと味わいたかったのだ。例え相手が血を分けた妹でも……。  
 
自分も妹も完全に道を踏み外している。だが、もう戻れない。  
 
「はあっ…はあっ…ど、どうですか、お兄様……少しは楽に…んあっ…なりましたか?」  
「い…いつき……うっ…く……」  
一心不乱に腰を振りながら、いつきは上気した顔でいつきに問いかける。  
そこには邪な淫欲など微塵も感じられない。ひたすらに兄に献身する姿があるのみだった。  
だがそれとは裏腹に、男根が抜き差しされる度に、お互いの性器がじゅぷじゅぷと音を立てる。  
汗ばむ体に走る本能の快楽を、妹はどう感じているのか……。  
後ろめたいと思えば思うほど、逆にさつきの男根は硬度を増してゆく。  
 
「ううっ!……んっ!……お、お兄様……だいぶ硬くなってきましたね……  
 さあ、いつものように……出してくださいませっ……は、ああっ!」  
上下するいつきの腰の動きが激しくなってきた。さつきの両手を取って自らの乳房に添える。  
小ぶりな乳房は熱く汗ばみ、乳首は硬く勃起している。心臓の鼓動が手のひらに伝わった。  
もはや理性の限界だった。さつきの男根が一際大きく膨張する。  
「い、いつきっ!…う、ううっ…!!」  
「お兄様、お兄様ぁっ!!」  
さつきはいつきの中に『毒』を吐き出した。二度、三度と大量に放出する。  
一瞬硬直したいつきは、兄の上に倒れ込んだ。沈みかけた夕陽が二人を照らす。  
 
数分後、いつきは身繕いを終えた。さつきの服も整えて車椅子に乗せる。  
その表情は背徳感など全く感じられぬ、いつも通りの穏やかで凛々しいものだった。  
「だいぶ遅くなってしまいましたね。早く帰りましょう、お兄様」  
「あ、ああ……」  
「少し顔色が良くなられたのではありませんか?」  
「そ、そうかな…。いつきの治療……のおかげかな…」  
「ああ、よかった。いつでも言って下さいね。お兄様の為なら、僕はいつでもお手伝いします」  
「あ……ありがとう……」  
いつきの笑顔がさつきにはまぶしかった。そして胸が締め付けられそうに苦しかった。  
 
(いつき、すまない……いつかきっと元気になって……こんな関係は終わりにするから……)  
言い訳がましいと思いつつ、さつきは心の中でそうつぶやくしかなかった。  
 
太陽が地平線に沈み、最後の残照で兄と妹の姿を照らす。罪深き二人の姿を。  
 
(END)  
 

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