ウルフルン×れいか  
原作とかなり別の展開  
 
耳を切り裂くような大きな音がして、次の瞬間には焔に包まれながら自らが丘から落ちていくのが分かった。  
仲間達は何かを叫んでいたが、何を叫んでいるのかまでは聞き取れなかった。  
 
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。何か機械の動く音が聞こえてきた。最初は弱く、やがて全てを流し去って猛然と進むかのように強く。  
青木れいかは頭に手をやりながら重い瞼を開けた。  
思わず立ち上がろうとしたれいかは足の鋭い痛みに気付いた。先程の墜落の際の傷だろう。  
よろめくように今まで座っていたベンチに腰掛けると、目の前を蒸気機関車に牽引された客車が走り去って行った。  
(ここは…異空間)  
ある地点まで到達した列車が次々と消え去っていくのを観て、今自分の居る場所が普段の日常世界ではないことをれいかは悟った。  
プラットフォームと線路、それに駅舎にしてはやや小さい古ぼけた建物。周りは闇に包まれていた。  
薄暗い周囲を見回しても、みゆき達の気配はない。彼女達は異空間に巻き込まれずに済み、今頃はどこかで闘っているのだろうか。  
もしもこの状況で強襲されたら為すすべもない、そう思っていたれいかの耳に次第に大きくなる足音が聞こえてきた。  
ハッとして振り向いたれいかの眼の前には、見覚えのある敵が歩み出てきた。  
「あなたは…」  
 
れいかは座った姿勢のまま、必死の形相で拳を握っていた。  
ウルフルンはベンチ越しにその様子を黙って一瞥すると、静かに言った。  
「ふん、強がりはよせ。俺も闘えねえんだよ」  
一瞬、険しい表情の中に驚いたような表情を共存させた様子のれいかに、何時も冷静ぶっているお前にも分からないことはあるもんだな、  
と心の中で思ったウルフルンは、黙って手と足を前に出した。  
打撲痕と血が生々しいウルフルンの腕も足も、とても戦闘に耐えられるものではなくなっていた。  
「でも、あなたにはアカンベエを出す魔法が…」  
「いや、さっきの爆発で本は燃えちまったらしいな。お前の方こそ道具はどうした」  
れいかは黙って首を横に振った。  
「そうか、じゃあここでは決着はつけられねえな」  
ウルフルンはれいかと少し間を取りながらベンチの端に腰かけると、少し楽になったのか表情を緩めた。  
隣のれいかは警戒する素振りさえ解かなかったものの、ウルフルンの態度に次第に落ち着きを取り戻していた。  
「決着をつけられない、というのはどういう意味でしょうか」  
頭が切れる奴だ、とウルフルンは内心毒づくと答えた。  
「ここはメルヘンランドが作り出した物語の世界の一つなんだよ…。  
 ここで殴り合いぐらいは出来ても殺生は出来ねえし、  
 ここから出るにはメルヘンランドの誰かが運転する列車がいるってことよ」  
分かったか、と言うとウルフルンは手を頭の後ろにやって瞳を閉じた。  
「そうですか…では待つしかないのですね」  
れいかはウルフルンの話は本当らしいと判断して、自分に言い聞かせるかのように呟いた。  
キャンディかポップならここまで探しに来てくれるだろう。  
 
数分間はお互いに無言だったが、ぽつりとれいかが尋ねた。  
「痛みますか」  
「ふん、何を今更」  
頭が切れる割にはどうも間の抜けたことを聞く奴だ、とウルフルンは内心苦笑していた。  
「あちらの建物には何もないのですか」  
「さあな、昔来た時はストーブとか飲み物とかはあったはずだが…」  
「行ってみませんか?」  
れいかの誘いを無視するように狸寝入りをしたウルフルンだったが、制服姿のれいかが建物に入っていったのを観ると、  
やれやれという表情で立ちあがって歩き出した。  
(狼と一緒に居て怖かったり嫌だったりしないのかねえ…。あの真面目で曲がったことの嫌いな奴が。  
 全く優等生ってやつは、こう何考えてるか分からんから始末が悪い…)  
 
古ぼけた部屋にはストーブが一つと、畳の上にれいかが敷いたと思しき布団が敷かれてあり、  
ストーブの上にやかんを置いたれいかは湯呑みを並べて急須に茶を入れていた。  
「今御茶を淹れていますから、そちらの布団で寝られては如何ですか」  
「そりゃあせいぜいありがたく戴くとしようか、  
 んでもって布団で寝させて…っておい、お前さんはどうするんだ」  
「もう1時間ほどすると普段でしたら寝床に入る時間ですから、  
 私は別の布団で寝ることにしてキャンディ達を待ちます」  
「へっ、堅いもんだな。何ならオオカミさんと二人で寝るか…いや冗談だぞ、冗談。  
俺はお前さん程度のガキに欲情するほど、う、飢えちゃあいないんだからな…」  
最初は豪快に笑い飛ばしていたウルフルンだが、すっかり赤くなってしまったれいかの顔を観ているうちににわかに声が上ずっていた。  
れいかの淹れたお茶を飲みながら、どうしてこう妙な雰囲気になっちまったんだ、と思っているウルフルンであった。  
(よく見ると結構良い体してるじゃねえか…いやこんな優等生のガキの何が良いってんだよ)  
もじもじしながら布団の上であぐらを組んでいたウルフルンとは対照的に、  
れいかはまだ少し顔を赤らめながらストーブの向かいで正座のまま丁寧に湯呑みを傾けていた。  
 
お茶を飲み終えてからしばらくは、ウルフルンは布団で気持ち良くうとうととしていた。  
30分程経っただろうか、目が覚めてきたウルフルンは昔の事やバッドエンドの幹部としての活動を思い出して物思いにふけっていた。  
ふとウルフルンはれいかを観ると、何やら分厚い本を読んでいた。  
「おい、ここに在った本か?一体何を読んでるんだあ」  
「『日本国有鉄道百年史』の第1巻です」  
「…へっ、面白いのかよ」  
「鉄道の道は、奥が深そうです」  
 
また数十分が経って、ウルフルンはさすがに眠くなってきて布団に寝転び、  
本を読んでいたれいかに言った。  
「おい、電球を消してくれや」  
「あ、はい」  
れいかは灯りを消すと、青いカーディガンだけを脱ぎ傍に畳んでから、別の布団に寝そべった。  
寝そべったれいかは一瞬ウルフルンの様子を伺ってから、少しためらいがちに声を出した。  
「前に来た時は…とおっしゃっていましたね」  
布団の中かられいかが漏らした質問に、ウルフルンは表情を引き締めると話し出した。  
「あれはまだ俺がお前さんよりも小さかった頃だな。  
 メルヘンランドの連中とこの物語の世界にやってきたことがあるんだよ。ここにつくまでは星の海を走ってくるんだ。  
 確かに素敵な世界には違えねえ、しかしその素敵な世界に対して俺は一体何なんだと。  
 俺は所詮悪役の狼に過ぎねえ。どうして俺は狼何かに生まれちまったのか、そう思わされたのさ。  
 メルヘンランドの夢見てる連中の裏に悪役としてしか生きれねえ自分がいる。  
 大人になった頃には気付いたらバッドエンドの世界に入り込んでいたって訳だ」  
ウルフルンは話しながら自分のエナジーが高まるのを感じていた。  
「そう…ロイヤルクィーンだって、ポップとか言ったあの侍気取りのライオンだって…  
 一緒に銀河を走ったって一体俺の何を分かったって言うんだよ、なあ…」  
ウルフルンは気がつくと立ち上がって灯りをつけていた。  
れいかが思わず上を見上げた時には、ウルフルンはれいかの布団を剥いで覆いかぶさってきていた。  
「止めて下さい、一体何を…」  
「何をって、お前みたいなガキに女を襲いたいって心が分かるもんか」  
ウルフルンは制服の上着を脱がし、乱暴にブラウスのボタンを外していった。  
抵抗するれいかの動きを押しのけるかのように、ウルフルンは欲望のままにれいかの胸を刺激した。  
れいかが思わず声を漏らし、その唇をウルフルンは強引に奪った。  
「へっこの生娘が…」  
ぽつりとつぶやくと、れいかのスカートを脱がして下着の上かられいかの陰部を愛撫していった。  
れいかは抵抗を止めないが、初めての激しい感触を受けとめかねてもいた。  
やがてウルフルンによって下着を剥がれ、全てを灯りの下にさらし、陰毛と陰唇を強引に舐められ、  
ウルフルンの肉棒を咥えさせられていった。  
「よし咥えるのはこれぐらいだ、中に挿れてやるぜ」  
ウルフルンが肉棒を握りながら言った時、れいかの中の何かが叫んでいた。それはいけない。  
「止めてください」  
言葉を発したれいか自身が驚く程に、短いが厳しく澄んだ声が部屋に響いた。  
「へっ、何を言ってやがる。どれだけの女たちが今まで俺に体を開いたと思ってるんだ。  
 俺は狼、女を襲う存在なのさ。一体お前に俺の何が分かるんだ」  
「確かに私にはあなたのことは分からないかもしれません。  
 でも私はあなたのことを知っています。あなたの欲望も悪徳も、それにあなたの苦しみや悲しみも」  
ウルフルンは驚いて、れいかを乱暴に布団に押し付けると、れいかに背を向けて座り込んだ。  
れいかは毛布に包まってから、ウルフルンの顔を後ろから覗き込んだ。  
そしてれいかは感極まった顔のウルフルンを抱いていた。  
 
早めに起きて朝食の用意をしているれいかの姿を観ると、ウルフルンはばつの悪い顔をして外に出て行った。  
白い霧を眺めていたウルフルンの耳に、かすかに汽笛が聞こえた。  
ウルフルンがフォームの先に目をやると、一台の小型の機関車が光の中から表れてきた。  
機関車がフォームで停車すると、中からポップが飛び出してきた。  
「れいか殿、申し訳無いで御座る、迎えにきたで御座るれいか…貴殿は」  
「へっ、俺も巻き込まれてこっちに飛ばされちまったって訳よ…。  
 …久しぶりに話すもんだな、ポップ」  
「…ウルフルン、れいか殿は…まさか貴殿、あんなことやこんなことを」  
「へっ、たっぷりと体は堪能させて貰ったぜ」  
「…な、な何と言う事で御座るか…そんな、れいか殿…。  
 貴殿、今日で人生が終わる覚悟は出来て御座ろうな」  
そう言って真剣を抜いたポップの目に、部屋からにこやかな顔を浮かべて出てきたれいかの姿が在った。  
「お待ちしていましたよ。今おにぎりとお味噌汁を作っているので、3人で食べましょうね」  
絶句しているポップをよそに、火をかけているからとれいかは部屋に戻って行った。  
「安心しな、奴さんはまだ女になっちゃいねえよ。俺の趣味はあんな華奢な体じゃねえ。  
 …善い人だ、お前さんが大事にしてやるんだぞ」  
「…そうで御座るか、先刻の発言は取り消すで御座る。  
 しかしウルフルン、それがしとれいか殿とは、その…」  
「けっ、処女の相手なんざ童貞に任せてやらあ。  
 相変わらず分かりやすいくせにうじうじした奴だ…そう昔から」  
「それは貴殿こそ…貴殿はやはりロイヤルクィーン様のことが…」  
「へっ、そんな昔のことは…そう、忘れたんだ」  
 
銀河を駆ける機関車の中で、ウルフルンはれいかとポップに言った。  
「元の世界に戻ったら、俺はバッドエンド王国の幹部でお前さんらは敵だぜ」  
「ええ、わたくし達も必ずあなた達からメルヘンランドを守ってみせます」  
「そうで御座る」  
「へっ、望むところよ。…しかし何だろうな、バッドエンドとメルヘンてのは…」  
沈黙した3人が星の海を眺めているうちにも、機関車は銀河の先の終点に向けて走り続けていた。  
 
夕暮れの丘に機関車が止まり、ウルフルンが歩いて去っていくのを、ポップとれいかは機関車の脇から見送っていた。  
まさにその時、飛来したジョーカーの放った閃光はウルフルンを掠め、危うく飛び去った2人の先の機関車に命中した。  
爆発する機関車を観ながら、ウルフルンはあいつらとは休戦中だ、とジョーカーに叫んでいた。  
「おやおや何を言うんですか。今こそ彼らを抹殺出来るチャンスなのに。  
 ウルフルンさん、あなたを敵との連絡、反逆罪でピエーロ様に上訴しますよ。  
 さて、それはともかく次こそは…」  
ジョーカーの放った剣がれいかに当たろうかというその瞬間、どこにそんな力があったのかと思わせる勢いでウルフルンはれいかの前に走り立った。  
さすがのジョーカーでさえ唖然とした表情を一瞬浮かべたが、次の瞬間には青い炎をウルフルンに浴びせていた。  
突き刺さった剣と身を包む炎をものともせずに、ウルフルンはジョーカーに掴みかかっていった。  
ジョーカーにも青い炎が移り、ジョーカーは2つ目の剣をウルフルンに突き刺した。  
「ふっ…裏切り者死すべし。今日のところはこれぐらいにしましょう」  
ジョーカーの姿が消えるとれいかとポップはウルフルンに駆け寄り、れいかがウルフルンを抱きかかえたが、  
ウルフルンは「へっ…」と声を発すると息絶えた。  
 
「父上、母上はあちらで何をなさっているのですか」  
「…1つ聞きとう御座るが、そなたには悪を欲する気持ちは分かるで御座るか」  
着物に洋装の帽子を被った男が、丘の上の女性を見る少年に逆に問いかけた。  
「私の心にももしかしたら悪はあるのかもしれません。  
 しかし私には悪の気持ちは分かりません。なぜなら父上と母上とが、  
 善の気持ちを身を以て示し、教えてくれたからです」  
「その答えを拙者はうれしく思うで御座る。しかしで御座る、  
 たとえ分からなくとも知ることは出来るので御座る。  
 母さんは昔あそこで…そう、悪の悲しみを知ったので御座る」  
丘に花を置く女性を見ながら、男はそう話した。  
 

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