ゴーヤーンがいなくなってから、大分時間が経つ。
舞は相変わらず、快感の責めに苛まされている。
その時、それとは別に、咲は自分のことで苦しめられていた。
「くっ……! ううっ……」
それは、尿意が込み上げてきていることだった。
咲は、なんだかんだで、丸一日以上トイレに行っていない。
今までは、緊張感がそれを感じさせなかったのか、気にもとめていなかった。
しかし、一度気づいてしまうと、どうしようもなく込み上げてくるのが尿意である。
しかも、この岩場の中では、体がとても冷える。
我慢しているうちに、便意まで押し寄せてきた。
ぐるるる……
「うあっ……! くっ、ああああっ……!」
さっきから、お腹がずっと鳴っている。
もちろん、空腹の為ではない。明らかに腹を下している。
「ああっ、そっ、そんなぁ……」
かと言って、舞に相談する訳にはいかない。
何しろ舞は目の前で、
「ああっ! あっ! やだぁっ! お、おしっこ……おしっこ出ちゃうううぅぅぅっ!!!」
プシャッ……
何度失禁させられているかわからない。
咲とは逆に、出したくないのに漏らしているのだ。
「ぐうう……」
もちろん、それではなかったとしても、動けない筈の舞が、咲を助けられる訳もないのだが。
「ああっ、なっ、なんでこんなときにいないのっ……!?」
咲は、今はいないゴーヤーンを、心の中で毒づいた。
咲の常識では、いくら捕まっているとはいえ、トイレには行けるものと思っている。
だから、今の状況は咲にしてみれば、
「おかしいこと」
なのである。
ゴーヤーンからしてみれば、敵、しかも捕虜に対して、そんな気を使ってやる必要はどこにもないのだが。
とにかく、咲は限界にきていた。
(ああっ……も、もう我慢できない……よおっ)
さっきから、何度も波が襲ってきている。
膀胱も括約筋も、これでもかというくらい力がこもっている。
(ううっ、で、でも……もし、漏らしたりなんてしたら……)
ゴーヤーンに何を言われるか、わかったものではない。
それは舞への責めを見ていてもよくわかる。
ぐるるるる……
「あひっ! ああ、ぐう……」
咲の思考は、もはや正常に物事を考えられなくなっていた。
(だ、だって仕方ないじゃん……私は人間だもん。トイレだってするよ……)
少し、出してしまってもいいんじゃないかという気になった。
しかし、肛門の、尿道口の先に排泄感が迫ると、慌ててどちらの「口」も引き締める。
「はぁっ、はぁっ」
(や、やっぱりやだよぉっ!)
咲の穿いているのはスパッツである。
その中に漏らした事を考えるだけでも、背筋に寒気が走った。
「ああっ、もうやだよぉ……助けてよ……」
理性と排泄欲が、咲の脳内を入り乱れる。
(す、するしかないよ……いつかは出ちゃうんだし……もう限界だよ……)
(もしかしたら見つからないかもしれないし……舞は、気がついても知らないフリをしてくれるよ……)
(見つかっても私が悪いんじゃない……だって、誰でもすることだもん……私がおかしいんじゃない……)
ブチュッ
「ひぎっ!」
咲の尻から、おならのような音が出た。
(よ、よかった、おなら……)
咲も一度は安心したが、すぐにそうではないことに気がつく。
(うああっ! き、気持ち悪い……!)
少し、肛門から漏れたのだ。
すぐに下着の中に、気色の悪い感触が広がる。
(や、やっぱりダメェェェッ!)
少し漏らしたという事がわかっただけでも、咲には耐えられないくらいの羞恥が走った。
この惨めな状態から、消えてなくなってしまいたい。
「い、行かせて……と、トイレ……出ちゃうっ……!」
ぐるるるるる……
膝をこすり合わせ、腿を引き締め、咲の我慢は続く。
さっきから何度も、出口まできて、寸前で引っ込めることを繰り返している。
(出したい……出しちゃいたい……!)
(で、でも、タイミングよくアイツがきたら……バレちゃうよぉ……)
(舞ィ……助けて……なんとかしてよぉ……!)
しかし、舞には責め苦が続いている。
咲はだんだん、自分の正当化と、言い訳が頭に浮かび出した。
(私は悪くない……私は悪くない……これは普通なんだもん、仕方ないんだから……)
(悪いのはアイツで、私を責める権利なんてないよ……言い返してやればいいんだ……)
(舞だって、恥ずかしいのを我慢して耐えてるもん……私だって、耐えなくちゃ……)
その時、舞に変化が起こった。
「あうっ……」
何度か見ている光景だが、舞が気をやりすぎて気絶したのだ。
「舞っ……!」
しかしその時、咲には舞の心配より、排泄欲が頭をよぎった。
(今なら出しても、舞にはバレない……)
そう考えると、咲の両方の「口」が緩む。
(だ、だけど、やっぱり出すなんて……ダメッ! でも、今しかない……ああっ!)
こういう時に限って、便意は少し落ち着いている。
咲は今出すなら、自分の意思で排泄しなくてはならなかった。
(ああっ、ダメ……! でも、出したい……! 出す……出さなきゃ……違うっ! 出ちゃう……!)
咲の中で葛藤が続く。
が、さっきと違うのは、咲の意思が、出すことに統一されたことだった。
咲の尿道と肛門に、ためらいがちに力が加わる。
「ふああっ、あっ! あああああっ! や、やっぱりダメェェェッ!」
肛門の直前まできて、やはり咲は思いとどまろうとした。しかし……
ぐる……
「うっ!? くああああああっ!!!」
一度許してしまった自分の意思に、咲の身体は従順だった。
弛緩した二本の管を、今まで我慢していたものが勢いよく通過する。
「ああああああっ!!! ああっ! ひやああああああああっっっ!!!」
ブチュッ! ブチチチチチッ! ブリリリリリリッ!!!
咲のスパッツが、みるみる膨れ上がっていく。
下着はすぐにその容量を抑えきれなくなり、脇からはみ出して、スパッツに染みを広げた。
「ああっ! あっあっ! やだっ! 止まらないぃ……」
水分をたっぷり含んだものが咲の股間を濡らしていく。
柔らかいそれは、咲の脳を緩みきらせるまで、止まることはなかった。
「ふああああっ! あぐうっ! あっ、いやっ! あ、あたし、あたしぃっ! こ、こんなところで……服着てるのに……」
排泄欲に身を任せて、普段しているように排便を続けていく。
「はああああっ……う、ウ○コ……止まらないよぉ……あはあっ」
そして、尿道からも液体が噴き出し始めた。
シャアッ……
「ああああっ……おしっこ……おしっこ出ちゃうよぉっ……出ないでぇ……」
「出ないで」とは言ってみたものの、抑える気はまったくなかった。
それがあたかも強制的であるかのように、咲は自分の身体に思考を預ける。
ブシャアアッ
「ひっ! ひゃあああああっ! あはっ、出ちゃっ、ダメェェェ……」
下着を穿いたまま排尿するなど、初めてのことだった。
それでも咲は、この行為を異常だと思わなかった。
思おうとしなかった。
そうしないと、羞恥に耐えられなかったからである。
「ああっ、あっあっあっ……」
ショォ……シュワッ……
やがて排尿は終わり、尻のほうも落ち着いた。
そして、咲は思わず一言口から漏れてしまった。
「……気持ち……いい……」
舞は気を失ったまま。
ゴーヤーンはやって来ない。
「ああ……よ……良かっ……た……」
しかし、咲にはこの後も地獄が待っていた。
そのままの状態で、放置されていなくてはならないのである。
その間、ずっと自分が正常であることを支え続けるのは、咲のような常識人には地獄だった。
(あたし……お漏らししちゃった……)
(しかも、拭くこともできずに……このまま……気色悪い……)
そして、舞がいつ目を覚ますか、ゴーヤーンがいつやって来るか。
その二人に気づかれやしないか。
その事に、ずっと震え続けなくてはいけないのである。
そして……これは咲自身は気がついていなかったが……。
排泄の快感に、咲の陰部は尿に混じって濡れきっていた。
(助けて……誰か、助けて……)
(あたし……おかしくなっちゃうよ……)
咲は虚ろになった目を舞に向けたまま、ただ過ぎていく時間の中で呆然と横たわっていた。