はてさて、萌え極道のプリキュア一家が、またもや危険に面したのである。今回は  
無認可でアクセサリーショップを営む、ナッツという珍獣が原因となった。  
「まる二日も食べてないの?」  
のぞみはこまちが持ってきてくれた和菓子を食い散らかすナッツを見て目を丸くし  
た。なんとこの珍獣、店の上がりがない為、飲まず食わずで過ごしていたらしい。  
 
「客が全然、来ないんだ」  
ポルノショップならばいざ知らず、お洒落なアクセサリーを扱う店としては、ここは  
あまり良い場所とはいえなかった。表通りから外れている上に、道を何度も折れて  
こなければならず、はっきり言ってナッツハウスはプリキュアの面々以外、客らしき  
者は現れていなかった。要するに閑古鳥が鳴いている訳である。  
 
「ごくり」  
幾つかの和菓子を食した時、不意にナッツの手が止まった。意地っ張りな性分ゆえ、  
これ以上がっつく事が躊躇われたらしい。それを見たこまちが、  
「どうぞ」  
と、優しく言った。五人組で唯一の癒し系の彼女、普段は目立たないが、こういう時  
に良い味を出すのである。  
 
「・・・金はいつか払うから」  
「気にしないで。それにしても」  
ナッツを嗜めるようにしてから、こまちはあらためて店内を見回した。棚などに並ぶ  
ナッツお手製のアクセサリーはどれも可愛らしくて良いのだが、如何せん、アピー  
ルする場所が無い。  
「お店を盛り立てたいわね」  
と、かれん。場所を提供した身でもある為、このまま朽ちていかせる訳にはいかな  
い。それでプリキュア一家の、ナッツハウス宣伝作戦が勃発、そしてその口火を切  
ったのは、うららである。  
 
翌日、うららを除くプリキュアの面々は、テレビの前に釘付けとなっていた。実は  
今、うららが生放送中のテレビ番組に出演中で、しかも彼女の装いにはナッツが  
作ったアクセサリーが添えられているのである。うららを使い、さりげなく大衆の  
目にアクセサリーを映じさせ、あざとく宣伝しようという訳だ。  
「名づけて、サブリミナル作戦」  
これを考えたのは、興奮気味のかれん。なぜ興奮しているのかというと、番組が  
某テレビジョッキーだからである。  
 
この番組には熱湯コマーシャルという訳の分からないプログラムが存在する。こ  
れは、何かを宣伝したい者が名乗りをあげ、テレビの前で生着替えの上、ガラス  
張りの熱い風呂に入るという、チープな発想がその特徴である。熱さに耐えた時  
間がそのまま宣伝時間に換算されるという無碍なる仕組みで、大衆の知識欲を  
蹴倒すような構成が楽しい。今、画面内にいるうららは、まさに着替えの最中で  
あった。  
 
「うららちゃん、あと十秒だよ」  
「いやあん、まだ、ブラ外したばかりですう」  
司会者に急かされ、身悶えるうらら。生着替えの時間は僅かに三十秒、それが  
過ぎるとたとえ裸でも、着替える者を包む緞帳が落ちる仕組みになっている。急  
げ、うらら!  
「あと五秒!」  
「きゃあああああああ!まだ、裸です!モザイクかけてください!」  
慌てるうらら──だが、これは作戦だった。実は、あえてナッツのアクセサリー  
を目立たせる為に、わざと裸でいるのである。言わば捨て身、生き馬の目を抜  
くと言われる芸能界に棲みつく女の戦法だった。  
 
そして、緞帳が落ちた──果たして、うららは──  
「しばらくお待ちください・・・」  
テレビの前でのぞみが絶句した。一応、うららは映った。が、しかし、次の瞬間、  
スタッフと思しき人々が一斉に画面内へ入り、無毛の恥丘までしっかりと生放送  
の電波に乗せてしまったうららを包み隠したのである。その後、お花畑が画面に  
映され、お待ちくださいのテロップが流れた。所謂、放送事故扱いだった。  
「失敗か」  
かれんは事も無げに呟いた。こうして、うららの体を張った作戦は失敗と相成っ  
た。  
 
また日を改め、今度はメディアの力を頼る事にした。幸い、学内で新聞を発行する  
増子美香と仲良くなっているので、伝はある。とりあえず陳情の代表として、のぞ  
みとりんが掛け合いに行った。ところが──  
「駄目に決まってるでしょ!」  
と、美香はにべもなく言うのである。  
 
「この前、刺青入れたりした事は謝るから」  
「そうそう、水に流して、ここはひとつ・・・」  
「駄目ったら、駄目!そういうのは偏向報道に繋がります。絶対に駄目!」  
結局、いくら頼んでも美香は折れなかったので、のぞみたちは退散した。彼女の  
言う事はいちいちごもっともで、反論する余地はなかった。  
 
所変わって放課後のナッツハウス。プリキュア一家の面々は、作戦を一から練り直  
す事にした。これまで謀ってきた小手先の策はやめて、正攻法で行くべきだという  
結論に至ったのである。  
「街頭に出て客引きをしましょう。現役中学生がポン引きとは少々、情けないけど、  
なりふり構ってはいられないわ」  
かれんは拳を突き上げ、叫んだ。こういう時、彼女のリーダーシップは心強い。  
「私とりんちゃんはビラ配りに出ます」  
と、のぞみが言えば、  
「じゃあ、私とこまちはビラビラ見せて男引っ掛けるわ」  
と、かれんも負けじと対抗する。うららは例の騒ぎで自宅謹慎中だった。  
 
「まず、アクセサリーの美点を示さなきゃね」  
かれんはそう言うと、棚にあるSM用具一式を手にして身に着け始めた。キャラ的に  
まとまっているので、誰もが似合っていると思った。そしてこまちはM女の格好、の  
ぞみはブルマ系の体操服に着替え、りんはおきゃんな性分を捨てて、メイド服で決  
めた。所謂、デレを狙ったのである。  
「書を捨てよ、街へ出よう」  
かれんの号令のもと、皆は街へ散っていった。しかしこの後、四人は不審者として  
警察官から職務質問を受け補導、ナッツはおかしな店の主としてあっさりと御用と  
なる。過ぎたるは及ばざるが如し。昔の人は良い事を言った物である。  
 
おしまい  
 

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