初夏の日差しを浴びるナッツハウスに、プリキュア一家の面々が今日も集って  
いる。一同は、客でもないのにいつまでも店内に居座り、飲み食いするわ、屁は  
するわとやりたい放題のゆとり世代な訳で、いい加減、ナッツもうんざりしかけて  
いたが、ただひとり秋元こまちにだけは、老舗の和菓子屋で育ったという品格が、  
備わっているように思う。  
 
今もほら、耳を傾ければこまちが美声で、何か朗読しているではないか。ナッツ  
は生業の傍ら、こまちの方を気にかけていた。  
「長い船旅の中、女気が無い為に少年船員は、決まって処女穴を先輩に捧げ、  
硬い友情を得る。そう、やおい穴という純潔をあえて汚す事によって、友情は愛  
情と化すのである・・・」  
こまちは感情をこめながら、朗々と読み上げた。が、どえらい内容である。実を  
言うと、彼女は図書委員を務める一方で、ボーイズラブという珍奇な物語を綴っ  
ていた。  
 
それは現存しないやおい穴という第三の性器を使い、亜空間性交を行う物だっ  
た。基本的に男性の同性愛を描くのだが、出てくるのはこぞってスネ毛もケツ  
毛もない少年ばかり。しかし、乳を捻れば母乳が出たり、とにかく万国びっくり  
人間ショーさながらの爛熟ぶりで、おまけに読者の対象は女性ときている。  
若さはアナーキスト(無政府主義者)。何でもありの十代だった。  
 
「お前ら」  
と、ナッツ。手には鉈を持っている。  
「古きよき日本を返せ。腹を召すんだ。介錯はしてやる」  
静かなる殺気が滲んでいる為、こまちが困り顔になった。  
「お気に召さなかったかしら」  
「そういう問題じゃない。いいから、首を洗って来い」  
「ま、あまり熱くなるなって」  
ココが脇から間に入ってきた。こんな穏やかな日に、大量殺人があっては  
かなわないと、ナッツとプリキュア一家の仲を笑顔で取り持つ。  
 
「どこが悪いのよ」  
と、りん。ボーイッシュだからとてボーイズラブが好きという訳でもないが、喧嘩っ早  
さでは常に一番、さっそくナッツに喰らいつく。  
「まず、やおい穴という物を、倫理的に説明してみせろ」  
「ええ?ナッツ、やおい穴ないの?やっぱり、基本がぬいぐるみだから?」  
りんは目を丸くして叫んだ。他の面々も、うららを除いて全員が同じリアクションで  
ある。  
 
要するに知らないのである。男性の同性愛は基本的に、けつめどを使用した性交  
に集約される。彼女たちは無垢ゆえに、それを知らないだけだった。ナッツは言う。  
「お前らが喜んで聞いているやおい穴というのは、現実では肛門さまの事だ」  
「ええ、まさか!」  
「ええい、この陰嚢が目に入らぬか!いや、本当に」  
お茶目なジャブを出した所で、ナッツはこまちを見る。  
 
「お前の話にはリアリティがないんだ。もうちょっと、勉強したほうが良い」  
「は、はい・・・」  
いらぬ水をさされ、座が静まりかえった。ここで黙ってられないのが、かれんお嬢様。  
「もう少し、言いようは無いの?酷すぎよ」  
「かれん、やめて・・・」  
「私なんか、話を聞いてパンツがほら、染みちゃってえらい事に──替えも無いから、  
どうしようって所よ」  
「替えくらい持てよ。女の癖に」  
ナッツがうんざりしていると、こまちが席を蹴って店から出て行った。それを、かれん  
が追い縋る。  
 
しかし、何故か足をO脚気味にし、ビキニラインを手でなぞりつつ、  
「こま(ね)ち!」  
と、やってしまった。当たり前のように場は白け、誰もこまちを追う事が出来なくなった  
のは、言うまでも無い。ナッツも呆然とし、言葉も無かった。  
 
 
翌日、店のバックヤードでの事。ナッツはココの視線を感じ取った。何か言いたげ  
だが言わない。いつものやり方である。  
「なんだ」  
「なにが?」  
「言いたい事があるんだろう」  
「やらないか」  
「ウホッ・・・」  
ナッツは黙り込んだ。相手の方が一枚上手で、勝負にならない。  
 
「謝りたくても謝れないって所か」  
「・・・」  
ナッツは黙っている。図星だった。ぐうの音も出ない。  
「お前はいつも言葉足らずだな」  
ココの指摘は正しい。だが、ナッツも間違った事を言っているつもりはなかった。  
こまちが真面目な分、自分も真面目に論じただけである。だから謝れなかった。  
決して自尊心が許さないとか、そういうさもしさは無い。  
 
店にいるプリキュア一家も、今日は約一名が欠員。言うまでもなく、それはこまち  
だった。おかげで普段は馬鹿がつくほど明るいのぞみも、今日はおとなしくしている。  
ややあって店の前でバイクの音がした。  
「お客さんだ。ナッツ」  
のぞみたちが表に出て、客と思しきライダーを出迎えた。長身で痩せぎす。ヘルメ  
ットをしているが、体のラインでそれが女性だとわかる。  
 
「ここか。分かりにくいな」  
ライダーがヘルメットを脱ぐと、なんとこまちである。しかし、ワイルドな言葉遣いと不  
遜な態度、後は背の高さが圧倒的に違う。一見すると宝塚の女優、いやモデルと  
言っても良いほどの造形美であった。その時、脇にいたかれん嬢が目を見開き、  
手にしていた鞄を落とした。  
 
「ま、まどかさん」  
「あら、かれん。ご無沙汰ね」  
かれんは膝が震え、顔面は蒼白、危うくくず折れかけたのを、りんとのぞみに支え  
てもらうほどの状態になった。熊に遭ったとてこうはなるまい。のぞみとりんは、ま  
どかに何やら得体の知れぬ恐ろしさを感じた。  
 
「誰ですか、あれ?」  
「こまちのお姉さんよ・・・」  
「そして、あなたのお姉さまでもあるわね、うふふッ」  
髪を手で梳き、秋元まどかは笑った。りんはその仕草の中に、かれん以上の天性  
のサディズムを見た。今、かれんが怯えているのも、自分以上のサディストが目の  
前に現れたからであろう。例えるのならウツボが鮫と出会ったようなものだ。  
 
格が違う。それは、うららにも分かった。幼い頃から芸能界に身を投じ、性的な修羅  
場では百戦錬磨の自負もあったが、まどかを前にしてはその自信もゆらぐというも  
の。とにかく人間の厚みが違うのである。うららはすぐさまひれ伏した。  
「春日野うららです」  
「あら、躾のなってる子ね。昔のかれんとは大違い・・・」  
そう言われてかれんもひれ伏した。無礼があったと悟ったのである。  
 
「お許しください、お姉さま!」  
「まあ、その辺の事は、ねえ・・・中に入って話しましょうよ。初見のレモンちゃんたち  
もいるし」  
レザーで出来たライダースーツをしならせながら、まどかは店内へ入った。次いで  
プリキュア一家の面々も続いたが、誰もが一言も発しなかった。ココとナッツも同じ  
で、黙って見ているしかなかったのである。  
 
「ひいッ!」  
鞭がうなると、かれんは叫び声を上げた。ナッツハウスの地下、暗く光の差さぬ  
牢屋にかれんは素っ裸で繋がれている。鞭をふるうのはまどか。彼女は相変わ  
らずライダースーツを着込み、六条鞭を上下左右、かれんの背めがけて打ち下  
ろすのである。  
 
「この牝猫め」  
「ひぎいッ!お姉さま、お許しを!」  
「私の妹を泣かせて!十倍に返してあげるわ」  
「ああ、お助けを・・・」  
六条鞭はかれんの背中に蚯蚓腫れを、幾筋も残す。幸いにもうららやりん、そ  
れにのぞみは傍観者になれたが、なんという仕打ちか。あのかれんが泣き叫び、  
許しをこうている姿はプリキュア一家、中でもりんを激しく興奮させている。  
 
「足を開くのよ」  
「お、お姉さま、お許しください・・・」  
「許すわけ無いでしょう。こまちのお守りも出来ないあなたを」  
まどかは無理矢理、かれんの足を肩幅まで開かせると、ライダースーツのズボン  
だけを脱いだ。すると、次の瞬間、大蛇と見まがうほどの大ぶりな男根が、まど  
かの股間から突き出されたのである。  
 
「す、すごい・・・」  
ごくりとりんが生唾を飲み込んだ。まどかのそれは、棒の部分に禍々しい玉が  
いくつも埋め込まれ、四方に張った肉傘の回りにも同じく、玉が埋め込まれて  
いる。それを女体の、敏感なあの場所に入れられたら、一体、どうなるのか。  
そしてかれんはどのようにして泣き叫ぶのかが、りんは知りたくて仕方がなかっ  
た。出来れば自分も股間にあれを生やし、かれんだけでなくのぞみまでをも  
泣かせてみたいと妄想した。  
 
壁に貼り付けられたかれんに、まどかがにじり寄る。そして、尻の割れ目に男根を  
あてがった。  
「三日も貯めたから、さぞかし濃いのが出るでしょうね。かれん、覚悟はいい?」  
「お姉さま、妊娠は困るんです!本当に許してください!あの頃と違って、せ・・・  
生理もあるんです・・・だから・・・」  
「ふん、聞き分けのない子ね。分かったわ、じゃあこっちで許してあげるわ」  
 
まどかの指が、かれんの小さなすぼまりを撫でつける。なんと忌まわしき肛門性交  
をしようというのだ。やおい穴云々の話ではない。今、まさにかれんはボーイズラブ  
を体験しようとしている。  
「裂けても知らないけど、妊娠するよりましなんでしょう?御礼を言いなさいよ」  
「・・・ありがとうございます、お姉さま」  
まどかが腰を突き出すと、かれんの菊蕾がびくっと震えた。すでに観念しているの  
で、力を込める気はなかった。出来るだけ苦痛を受けぬよう、弛緩する。  
 
弾力を持った菊蕾の入り口が侵された。かれんは目を閉じる。肉傘が肛内へ入っ  
て来る時、お姉さまと喘ぎながら呟いた。肉傘が体内へ埋まったのが分かる。次  
は棒だった。埋め込まれた玉の感触が恐ろしい。しかし、男根のすべてが胎内に  
収まると、かれんはほうっとため息をついた。  
「いいの?かれん」  
「い、良い・・・お姉さま・・・」  
嗜虐心の強さは、被虐心の裏返しでもある。かれんはいたぶられる喜びも知って  
いた。いや、むしろこちらが本当の自分かも知れないとかれんは思った。  
 
「お尻の穴がこんなに開いて・・・使い物にならなくなったら、馬小屋に放り込んで  
やるわ」  
「ああ、お姉さま、かれんを見捨てないで」  
「見捨てられなくなかったら、しっかり締めるのよ」  
「締めます。だから、一生、愛してください・・・」  
まどかが抽送を始めると、同席したプリキュア一家、うららとりん、のぞみもそれぞ  
れ輪になって抱き合った。  
 
こまちは自宅で、ベッドの上に座り込み、ナッツの言葉を思い出している。やおい  
穴って何?そう言われれば、返す言葉もないし、悩んでもその答えは出なかっ  
た。膝を抱えたその時、不意に襖が開いて、姉のまどかが入ってきた。  
「お姉ちゃん」  
「あなたにお客さん。ナッツとかいう珍獣よ」  
「あ・・・」  
「大丈夫。さあ、行きなさい」  
 
こまちは内気な自分と違い、活発なこの姉を尊敬している。また姉も、この控え目  
な妹の性格を愛していた。廊下を行くこまちにまどかは背後から抱きついた。折れ  
そうに細い体だった。  
「急にどうしたの、お姉ちゃん」  
「明日、かれんちゃんい会ったら、ボーイズラブの極意を尋ねてみると良いわよ」  
「どうして?」  
「なんとなく、そんな気がするのよ。ふふふ」  
 
客間にはナッツが待っている。二人の間のわだかまりはこれで消えるだろうと、  
まどかは思った。かれんにはこれからも当て馬になって貰わなければならな  
い。愛する我が妹の為に──そして、まどかは脳内で夢想花という歌を奏でた。  
もちろん、まどかひろしと自分の名をかけたのである。もう、古くてさっぱり・・・  
 
おしまい  
 

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