サンクルミエール通信編集長、増子美香がまた現れた。例によって、カメラ片手  
に報道の自由を盾にして、他人様のプライベートに首を突っ込もうとするのだが、  
今回その標的となったのはかれんお嬢様である。何でも同性愛者の生徒から、  
お姉さまの日常を知りたいという要望が数多く寄せられ、美香も黙ってはいられ  
なくなったらしい。  
 
「セレブという珍奇な名に踊らされた、衆愚の上を行く取材だとは思いますが、  
ひとつお願いしますよ、生徒会長」  
ラウンジで茶を喫しているかれんお嬢に、美香はこう言って頭を下げた。が、これ  
では頼んでいるのか喧嘩を売っているのか分からない。かれんは眉間に皺を  
寄せながら、わなわなと体を震わせ、目を吊り上げた。  
「そッ、それで頼んでるつもり・・・?」  
「ええ、まあ」  
 
美香はおどけた感じで答えた。抗う事に飽き足らない若きジャーナリズムが、  
ブルジョワジを皮肉っていた。ただ、周りにいる生徒たちも、憧れの生徒会長の  
日常を知りたいが為に、二人の遣り取りを注目している。美香を殴り飛ばす事  
は容易いが、後々、面倒があっては困るので、かれんは怒りの矛先を収め、快  
諾する事にした。  
「じゃあ、今度の日曜日・・・取材は拙宅でよろしいのかしら」  
「ええ。ありがとうございます!」  
美香は再び馬鹿ほど頭を下げ、礼を言った。  
 
そして週末、水無月家──美香は時間通りに門扉の前へ立った。  
「うわあ、凄いおうち」  
プロレタリアートを代表し、醜い拝金主義者を弾劾するために、ここへやってきた  
つもりだが、豪奢な家を見て美香はやや気後れした。高級住宅地に建てられた何  
百坪もの豪邸は、見るものを圧巻させ、格差社会に苦しむ貧困層を踏みつける  
姿を思わせる。何千、何万という民から搾取された物で、これが成り立っていると  
思うと、美香は次第にジャーナリズムを取り戻してきた。  
 
老いた執事が美香を屋敷内へ通してくれて、かれんお嬢が出迎えた。今日は  
二人きりの取材を申し込んであるので、いつもの面々はいない。  
「お世話になります、会長」  
「まずはあがって。すぐにお茶を出すわ」  
私服のかれんは質素ながら、品の良い装いだった。豪邸内は外観から察する  
事が出来るように、素晴らしい調度品の数々が置かれている。  
 
とりあえずラウンジでお茶を喫しようとの事なので、美香はかれんと向かい合い  
になってテーブルについた。  
「では、お願いしますね」  
「なんなりと」  
ボイスレコーダーとカメラを用意し、執事が運んできたお茶を一口、飲んでおく。  
こうすると口の滑りが良くなるのだ。  
 
まずはありきたりな質問から始め、徐々にディープな所まで・・・そう思っていた  
美香の体に異変が起きた。  
「あれ、何だか眠く・・・」  
寝不足でもないのに瞼が重い。おまけにかれんの姿が二重に見えている。  
「どうしたの、増子さん・・・ふふふ・・・」  
美香はテーブルに突っ伏すほど、体から力も抜けていた。すでに立ち上がるこ  
とさえ出来なかった。  
 
「しまった・・・一服・・・盛られ・・・て」  
もとより好戦的な態度で臨んだ事、歓迎してもらえるとは思わなかったが、こう  
まで分かりやすい方法を取るとは、慮外の事だった。美香は己の無防備さを  
悔やみつつ、深い眠りに落ちていった。  
 
目を覚ますと、美香は和室にいた。何故か裸で、目の前には和服姿のかれん  
がいる。  
 
「お目覚め?増子さん」  
かれんは和紙に包まれた花を手にしていた。それを鋏で丁寧に整え、美しく仕上  
げようとする。  
「私ね、お花もやるのよ」  
パチン、と枝が一本、無下に落とされた。その音が、局部を開かされた美香を激し  
く怯えさせる。  
 
美香は裸の上、和室の鴨居から垂らされた二本の縄で、両足首を固定されてい  
た。ちょうど、コンパスを九十度に開いて、逆さに吊ったような形である。縄は体に  
も打たれ、身動きも出来なかった。盛られた薬のせいか思考もはっきりとせず、  
頭の中は霞みがかって、未だに夢の中にいるようである。  
 
「実は私、あなたの事、そんなに嫌いじゃないのよね」  
かれんは枝ぶりの良い花を一本、手に取って、哀れにも開脚させられた美香の  
前へ進み出る。そして、処女宮目掛けて、枝先をずぶりと差し込んだ。  
「う───ッ!」  
美香は目を見開き、身悶えた。弛緩しているせいか、呻き声くらいしか出せなかっ  
た。  
 
「従順な子って、ただ疎ましいだけで、面白みがないのよね」  
かれんは花を一本、また一本と女陰に差し込んだ。その度に、美香はぶるぶると  
身を震わせ、大粒の涙を流すのである。花は女陰に十本も差し込まれるともう満  
杯となった為、かれんは次に小さなすぼまりへと花を生けようとする。  
「あうーッ!だめへぇ・・」  
恐慌した美香は涙と涎をたらし、持ち前のジャーナリズムも急速に失いつつある。  
何より自分を花器の如く扱う、かれんの冷淡さが恐ろしかった。  
 
美香の傍らにはスイッチの入ったボイスレコーダーと、セルフタイマーが仕掛けら  
れたカメラが置いてあった。時折、カシャッ、カシャッと無慈悲にシャッターが切ら  
れている。カメラはノートパソコンに繋いであって、断続的にシャッターを切るよう  
プログラムされているようだった。  
 
「今日はたっぷりと、私の日常に付き合ってもらうわね、ふふふ・・・」  
かれんは汗ひとつかいておらず、平然と花をすぼまりに突き刺している。美香は  
もう観念し、なすがままだった。排泄器官を傷つけられぬよう、せいぜい弛緩して  
花を受け入れるしかなかった。  
 
和室にはにじり口が設えられていて、いかにも茶室の趣なのだが、何故かそこが  
開けっ放しになっている。この豪邸にはかれんと執事以外には、人がいないはず  
だが、どうした事かその辺りから何やら誰かの息遣いが聞こえてくるので、美香は  
身が焦がされるような羞恥を覚えた。誰かにこの痴態を覗かれていると思うと、死に  
たくなった。  
 
かれんが花を生け終えると、不意に口笛を吹いた。すると、一メートル半はあろう  
かというドーベルマンが、にじり口から入ってきたではないか──  
「ひいッ!」  
「こっちへおいで、よしよし・・・」  
真っ黒いドーベルマンは、かれんの傍らに寄り添った。相当、慣らされているよう  
で、座れと命じられるとぴたりとして微動だにしない。美香は先ほどの息遣いの  
正体が、この恐ろしげな犬である事を知ると、身震いした。  
 
「そんなに怯えなくても良いわ。可愛い私の弟で、太郎って言うのよ。ほら、増子  
さんに挨拶なさい」  
かれんにそう言われると、ドーベルマンは美香の乳房をぺろりと舐めた。  
「きゃあ!」  
「増子さん、叫ぶと太郎が驚いて、あなたに噛み付くわよ」  
「いやあ!会長、やめさせて!」  
ぬめぬめと生温かい犬の舌が、美香は恐ろしくて仕方が無い。泣くわ喚くわで、  
犬の太郎も躊躇している。  
 
「太郎は賢いから、騒がなければ傷つけたりしないわ」  
「ああ、やだァ・・・」  
ドーベルマンに乳房を舐められる──まだ口づけすら知らぬこの乙女にとっては、  
拷問にも等しい所業を、かれんは笑ってやってのけた。おまけに太郎というやつ、  
犬畜生のくせに中々の技巧者で、美香の乳首を甘く噛んだりもした。  
 
「あはァ・・・会長、やめさせてぇ・・・」  
ぬるみを帯びた女陰から、花が数本、落ちた。だが、落花無残の有り様だというの  
に、かれんはぽっと頬を染め、口元を歪めている。何故なら茎の部分に、白く濁っ  
た粘液を認めたからだ。  
 
犬のやる事である。美香の乳首は、いつまでも舐められていた。たまに噛まれたり  
すると苦悶の表情も浮かべるが、またその後に優しく舐められたりすると、頬を染め、  
ああ、ああと身悶え始める。北斎漫画で蛸が女を襲う作品があるが、まさにその様  
を惨憺たる生々しさで再現しているのだ。  
「ほほほ・・・増子さんたら、大洪水よ」  
「見ないで、会長!太郎もやめてぇ・・・」  
両足を強制開脚の上、犬の愛撫で興奮する姿を見られては、人として生きていけな  
かった。まして、その様をボイスレコーダーとカメラに収められては──  
 
いまや美香はか弱い一人の少女になっていた。薬の効き目が切れてきたが、もう  
逆らう気は無い。許しを乞い、一刻も早くこの地獄から抜け出したかった。  
「会長、いいえお姉さま、私がわるうございました!どうかお許しを!」  
「ほほほ、やっと気づいたのね」  
かれんがすっくと立ち上がり、大声で笑った。  
「人はね、私を性奴会長とも呼ぶのよ。性奴とはすなわち、私の子猫ちゃんたち・・・」  
かれんが美香を指差し、太郎に向かって叫んだ。  
「やっておしまい。この子、あなたのお嫁さんにしてあげるわ」  
「そ、そんな!」  
美香は顔面蒼白となった。まさか、そんな事が出来るのだろうか。にじり寄ってくる  
太郎と顔を突き合わる美香は、身震いが止まらない。  
 
「実を言うと太郎はね、セックスショー用に躾られた犬なのよ。人間の女を犯す  
犬としてね」  
かれんの言葉はすでに、美香の耳には届かない。先の尖った犬の肉棒が、女  
陰を割って入ろうとしていたからだ。  
 
「いや──────ッ!」  
処女宮に侵入する、畜生の肉棒──これが一旦、胎内に入ると根元が大きく  
膨らんで、抜けないように栓の役割を果たした。そして、断続的に行われる射精。  
この状態がしばらく続くのである。美香は最早、失神寸前。全身は痙攣し、意識  
はほとんど飛んでいた。  
「ほほほほほ、いい様ね!おほほほほほ・・・」  
この日、かれんの高笑いはいつまでもやまなかったという───  
 
翌朝、サンクルミエール通信がいつものように、掲示板へ張り出された。見出し  
はかれんお嬢様の日常と題されていて、増子美香の訪問取材の様子が書かれ  
ていた。記事は学内の同性愛者たちからも好評で、美香は一応、面目を立てる  
事が出来たが、はしゃいだ様子は見られなかった。むしろ、傍らにいるかれんの  
ご機嫌を伺うが如く、小さくなっている。  
 
「いかがでした?お姉さま」  
「まあまあね。点数で言うと七十点かしら」  
かれんはこれで、小うるさいジャーナリズムを排斥し、ますますその地位を固め  
る事が出来た。すでに学内は平定したも同然で、誰一人として彼女に逆らう者は  
いないだろう。  
「今度、またうちへいらっしゃい。太郎も寂しがってるし」  
「はい、お姉さま・・・」  
美香はうっとりとしつつ、かれんを見送った。すでにジャーナリストの魂は失せた  
のか、それはまるで恋する乙女のような顔であったという。  
 
おちまい  
 

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