夕凪中のグラウンドでは、今日も夏季大会へ向けてソフトボール部が練習に汗を流していた。  
辺りに他の部活動の姿は無く、既に校庭の大きな時計はその針を垂直180度に開きかけて  
いる時刻だが、未だ梅雨が明けたという知らせが聞こえないためか、久しぶりの晴天を惜  
しむかのようにいつ終わるともない喚声が響いている。  
 グラウンドを取り囲む芝生の、少しばかり小高くなった所へ腰を下ろし、赤い髪の少女  
――霧生満はそんな光景を眺めるともなく見つめていた。特別ソフトボールが好きなわけ  
では無く、人を待っているのだ。ソフトボール部のエースピッチャー兼キャプテンである、  
日向咲を。特に約束があるわけでもないが、ソフトボール部の練習が終わるまで待ち、咲  
と一緒に帰るのが満の日課となっていた。  
 …もう二時間も同じ事の繰り返し、それも毎日・・・よく飽きないものね  
ふと頭によぎった思いに自嘲的な笑みを浮かべる満。やはりまだどこか世の中と言うモノ  
を斜に構えて見ている、そんな自分が疎ましくもあり、何故か安心したような気分にもなる。  
 …ま、それが力になるというのなら否定はしないけれど  
所詮自分は咲の様にはなれないのだから。  
 そんな満を知ってか知らずか、ようやく集合の号令がかかった。今までベンチで退屈そ  
うにしていた一年生達がグラウンドの整備にと駆けだしてくる。  
 
「満さん?」  
ふと、背後から声をかけられ我に返る満。  
「あら・・・今帰りなの?」  
振り返った満の前には大きな荷物を抱えた少女が二人、佇んでいた。一人はポニーテール、  
もう一人は腰までもありそうな髪をオールバックにしてそのまま垂らしている――美翔舞  
と霧生薫だ。  
「少し夢中になりすぎてしまった・・・今夜は舞の家に行くから」  
そう言うと薫は少し困ったような顔で鞄を振って見せた。おそらく画材一式が詰まってい  
るのだろう、次のコンクールへ出展する作品を制作するのに忙しいらしい。  
「薫さんの描く絵って、とても素敵なの・・・もっと見てみたくて」  
薫を連れて行ってしまうことに少し申し訳なさそうな舞だったが、三年生になってからと  
言うもの、薫は学校にいる間中、舞と一緒にいることが多くなっていたのだ。ちょうど、  
去年の自分が居た場所と入れ替わってしまったようにも感じる。  
「えぇ、構わないわ・・・作品、楽しみにしているから」  
中途入部にもかかわらず、薫は美術部員と仲良くやっていけているようだ。自分が知って  
いる彼女は、笑顔なんてほとんど見せなかったのに。  
「じゃあ、明日」  
「お休みなさい」  
舞と薫はほとんど同時に言うと、実に楽しそうに行ってしまった。  
 ただ薫の表情は他人が見る限りとてもその様には見えなかったが、満には解った。社交  
性などまるで無かったあの薫がさっさと打ち解けている・・・あまつさえ美術コンクール  
なんて物に出展しようなどと言うのだから恐れ入るではないか。  
 …ホント、変わった・・・緑の郷の風は、私と薫へ真逆に吹いているみたい  
 
 「みーちるっ」  
 羨望と嫉妬とが複雑に交錯し、どこか遠くを見つめる満の視界が間延びした声と共に急  
に遮られる。  
「おまたせっ♪」  
背後から忍び寄って来たのは満が待ちに待っていた、咲その人だった。  
「咲・・・ずいぶんと頑張っていたのね、お疲れ様」  
先程までの気分を、少し驚いた仕草と共に吹き飛ばして柔らかく微笑む満。  
「さっき舞達と一緒に帰っちゃっても良かったのに」  
手を差し出しながらそう言う咲に、  
「どこへ? 帰る場所なんて無いのに」  
皮肉っぽく返す満。無論、悪気などこれっぽっちもないのだが。  
「あ・・・そっか・・・ごめん」  
心底済まなさそうな咲に冗談よ、とあわてて訂正する。  
「強いて言えばそうね、泉の郷が私達の帰る場所かしら?」  
咲の家へと向かう帰路、そんなことを語り出す満。泉の郷ではフィーリア王女を始めとす  
る大勢の精霊達が自分たちのやって来る日を楽しみにしていること、なによりムープ、フ  
ープがそれはもう熱烈に待ち望んでいることを。ただやはり、この緑の郷では相変わらず  
宿無しだということも。  
「じゃあさ、うちで住み込みのバイト、ってのはどう? みんな喜ぶと思うよ」  
「だ、ダメよそんなの・・・私だけじゃ、無いんだし」  
咲の提案に対して即座に首を横に振る満。  
「あぁ・・・さすがに二人はムリだよね・・・部屋だってそんなにないもん」  
照れ笑いを浮かべる咲。満一人に言ったつもりだったのか、単に薫のことを忘れていただ  
けなのかまでは解らなかったが。  
 『気持ちだけ受け取っておくわ、有難う』  
ほんの僅か、揺らいだ気持ちを吹っ切る為にそう言おうと満が口を開いたときだった。  
「あ・・・雨」  
いつの間にか真っ黒な雲に覆われていた空を仰ぐ咲の声に見上げると、なるほど、大粒の  
雨がぼつぼつと音を立てて降り出してきた。  
「ぅわっ・・・もうちょっと待ってよっ!」  
「そんなこと言ったってムリよ」  
みるみるうちに強くなる雨足に、たまらず駆け出す咲。つられて満も走り出す。  
 …なんか、楽しい  
何故か心惹かれる少女と走る夕立の中は、満が今まで感じたことのないほどに可笑しくて  
たまらなかった。  
 
 ようやくPANPAKAパンの軒先に辿り着く頃には、既に二人ともずぶ濡れだった。  
「あーもぅ、最悪・・・ちょっと待ってて」  
手櫛で髪を整え、ユニフォームを搾る咲。手近にあった雑巾を満に投げてよこすと、そう  
言い残して家の中へと消えていった。  
「この嫌な気分も全部洗い流してくれればいいのに・・・」  
咲が行ってしまうと、満は雑巾を掴んだまま鞄を拭うでもなく、激しく降り続く雨に向か  
ってつぶやく。  
 …どうかしてるわ  
自分が発した言葉に少しだけ驚き、軽く頭を振ると濡れた鞄を丁寧に拭き始める。  
「オッケー、満ぅー」と、咲がタオルを振り回しながら戻ってきた。何がOKなのかと聞  
く前に満を室内へと押し込む「さー、入った入った」  
「ちょっ・・・何?」  
突然のことに混乱する満をお構いなしに家の中まで上げると、ようやく咲が手を止めた。  
「満、なんか元気無さそうだったから・・・このままバイバイしちゃうと、消えちゃいそ  
うな気がして、怖くて・・・」  
「咲・・・」  
あまりに真剣な眼差しで見つめられ、思わず息をのむ満。まるで時が止まったかの様に見  
つめ合う二人。  
「あら霧生さん」  
沈黙を破ったのは沙織だった。先程咲が放り出してきたユニフォーム片手に顔を出す。  
「ずいぶん派手に濡れたわねぇ・・・あぁほら、風邪引くといけないからお風呂入っちゃ  
いなさいな、着替えなら咲のがあるから」  
一揃いの服が入った籠をもう片方の手に抱え、そのまま奥へ消えてしまった。  
「そうそう、『家に誰も居ない』んだったら泊まっていきなって」  
わざと奥へ聞こえる様な声でそう言い、咲がにっこりと笑って片目を瞑って見せる。  
「・・・そこまで言うなら、お言葉に甘えようかしら」  
苦笑いを浮かべて少し戸惑いながらも、まんざらでも無さそうに頬をゆるませる満を、今  
度はしっかりと手を取って奥まで連れて行く咲。さながら、貴婦人をエスコートする少年の様に。  
 
 「舞の家みたいに広くないけど、二人くらいならヨユーだよね?」  
確かにあまり広いとは言えない部屋には洗面台と奇妙な箱が並んでいた。・・・この箱は  
確か、洗濯機とか言うものだったはず。未だ濡れた制服姿の満がそんな事を考えている横  
で、咲はさっさと下着姿になっていた。  
「ほら満も脱いで」  
濡れて肌が透けて見える満のブラウスに手をかける。  
「脱ぐの? ・・・服を?」  
満はそんな咲にキョトンとした顔で返すと、あらためて周囲を見回した。  
「お風呂って・・・何?」  
「へ?」  
さすがの咲も驚きを隠せない様子でポカンとしてしまう。  
「もしかして・・・初めて?」  
「えぇ」  
当の満といえば、可愛らしく首をかしげるだけである。  
「え・・・っと・・・」  
目線を泳がす咲が一瞬の沈黙の後、「とにかく、説明するより実際に入った方が解るか  
ら!」と、立ちつくすだけの満をあっという間に半裸にしてしまった。神業とも言える素  
早さである。  
「さすがに下着は自分で外してね」  
言い、水分を吸って肌に貼り付いたスポーツブラに悪戦苦闘しながら全裸になると、服を  
着ている時とはまるで予想できない程に豊かな双丘が顕わになった。走って帰ってきた為  
か、白い素肌に僅かに差す紅が、一際色を増す。  
「ぅわ・・・ベタベタ・・・」  
汗と雨とが入り交じってじっとりと重くなった下着を洗濯籠に放り込む咲の挙動を、一通  
り観察し終わると満もそれに習って全裸になる。  
「これでいいのかしら?」  
こちらも咲に勝るとも劣らないボディを惜しげもなく見せ付ける。首筋から鎖骨を通り、  
肩を結ぶ曲線、柔らかな胸のふくらみを描き腰から脚に抜ける艶やかなラインに思わず咲  
の目が釘付けになる。  
「ん? どうかした?」  
「はぇ? あ、い、いや別に何でも・・・」  
特に恥ずかしがる様子もなく、一糸纏わぬ姿で堂々と次の指示を待つ満に促されて我に返る。  
「じゃ、入ろう」  
 
 ひととおりのお風呂講義を終えると、二人で入るには少々手狭な浴槽に、向かい合う格  
好で沈む咲と満。取り留めのないおしゃべりに花が咲く。  
「でもさ、お風呂入ったこと無いって割に、いつもキレイだよね?」  
「あら、何も身体を洗ったことがないなんて言ってないわよ?」  
「え、じゃあ海とか川とかで? ・・・寒くなかった?」  
「そんなものだと思ってたから、特にどうって事はないわ・・・悪くないわよ、『太陽の泉』なんだし」  
そう言う満に、あぁそうか、と妙に納得する。真冬の海がフェアリーキャラフェの無い状  
態でも太陽の泉として存在しているのか、という疑問は多少なりともあったが、少なくと  
も満がそれで良いなら構うまい。・・・幸い、ミミンガ騒ぎの時の様な対応に困る噂も流  
れていないのだからしばらく様子を見てもいいじゃないか、と。  
 それより何より、海水で髪なんか洗ってたら大変なことになっちゃうんじゃないのか、  
だとか、服がいつも奇麗なままなのはプリキュアの衣装と同じ原理なのか、とかそんなこ  
とを考えずにはいられなかった。  
 
 「それにしても・・・満の肌ってすごくキレイ・・・スタイルだって良いし」  
満の背中を流す咲の手が止まる。  
「私が男の子だったら絶対ほっとかないよ」  
「そう? 私は咲みたいに健康的な肌の色も好きよ?」  
「でも・・・これだよ?」  
にゅ、と満の眼前につきだされる咲の腕。ちょうどユニフォームから露出している肘から  
先、手首までの部分が他よりも一段と焼けている。  
「これから夏になるともっとヒドいことになるんだから」  
「別にいいじゃない、咲が人一倍練習を頑張ってるって事でしょ?」ぶーぶーと不満をた  
れる咲を嗜める様に言う満がふっ、と表情を曇らせる「私は・・・何もしていないだけよ」  
「満・・・」  
うつむく満を咲が後ろから抱きしめる。  
「何があったのか解らないけどさ、焦ることなんてない・・・満だって、きっとやりたい  
こと見つけられるよ」  
普段はどこか抜けているくせに、いつも肝心なところで自分の何歩も先に立っているこの  
娘は、どうしてこんなにも自分の事を見透かしてしまうのか。それだけが解らない、初め  
て出会ったときから今まで。悔しいけれど。  
「・・・不思議ね、咲に言われると、すごく安心する」  
自分を抱きしめる手を握り、答える満。  
「でも胸で背中を洗うのはいかがな物かしら?」  
「ばっ・・・!」  
言われてあわてて身体を離す咲。耳まで真っ赤にして肩をすくめるも、逆に谷間を強調す  
る形になってしまう。  
「・・・いじわる・・・」  
「でも驚いた、咲ってこんなにグラマーだったのね」  
すっかりいつもの調子に戻った満が今度は咲の背中に回る。  
「ちゃんと押さえてないと揺れて大変なんだよ・・・ボールのコントロールにだって影響するし」  
自分で自分の胸を持ち上げ、落とす。たゆん、と柔らかく弾んで元に戻る。  
「去年から急におっきくなってさ・・・変身の影響かな、なんてちょっと思ったけど・・・私だけだし」  
「贅沢な悩み、って奴かしら? 大きい方が喜ばれるんじゃないの?」  
「肩にかかる負担だってバカにならないのっ」  
ムープ達が夢中になっていた下世話なワイドショー類の影響か、満の言葉に思わずムキになる。  
「そりゃ・・・いつまでもペッタンコじゃカッコ悪いけどさ」  
鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめて頬を染める。舞にも言われたことがあるけど、  
確かに歳の割に、色っぽいのかも知れない。  
 
 少々ゆっくりとし過ぎたのか、風呂から上がる頃には二人ともすっかりとのぼせ気味に  
なってしまった。  
夕食もそこそこに咲の部屋でくつろぐ・・・筈だったのだが。  
「あ〜・・・疲れた・・・」  
すっかりくたびれた様子でドアの方を見る二人。突然の来客に元気一杯はしゃぐみのりを、  
先程ようやく大介が助け船とばかりに連れて行ってくれたのだ。  
「みのりちゃん、やっぱり薫の方がお気に入りみたいね」  
さすがの満もいささか参ってしまった様子で苦笑いを浮かべる。みのりが部屋を出て行く  
とき「今度は薫お姉さんも一緒にね」などと言い残していったのだ。  
「むしろ薫に全部お任せしちゃいたいよ・・・」  
「それは良い考えね」  
 
 と、不意に沈黙が訪れる。時計の秒針が動く音だけが妙にはっきりと耳に付く。  
 …ドキドキする・・・どうして・・・?  
何故か身体の奥が熱い、今まで経験したことのない不思議な感覚が満を捉えていた。『お  
風呂』とはそこで温まった体が冷めても、こんなにも胸の奥から熱を発する物なのか。  
もちろんそんな訳がない事くらいは解っている。おそらく原因は今自分が身につけている  
服・・・少し体を動かすだけで、長年にわたって染みついた咲の体臭が鼻の奥をくすぐるのだ。  
 …咲に抱きしめられているみたい  
浴室ではあんな事を言ってしまったが、多分自分の心は、もっと咲のことを求めているの  
かも知れない・・・もしかしたら心だけでなく、身体も。  
 奇妙な静寂の中、横目でそっと隣に座る咲の方を見れば、よほど疲れていたのか、ベッ  
ドにもたれながら軽く船を漕いでいた。そっと近づいてその顔を見つめてみる。  
 特に手入れをしているわけでも無さそうな眉と対比して奇麗に整った長めの睫毛、まだ  
あどけなさの残る、美人と言うよりも可愛らしい目鼻立ち。そして何よりも、少し湿って  
艶のある唇・・・思わず自分のそれと重ねようとして、止まる。  
「ん・・・みちる・・・?」  
気配を感じ、咲が目を覚ましたのだ。すぐ目の前にあった満の顔に驚くでもなく、僅かに  
微笑むと軽く顎を上げて再び目を閉じた。  
「・・・満なら、いいよ」  
「咲・・・」  
ほんの一瞬、触れ合う唇。満が身体を離すと、咲がゆっくり目を開ける。  
「キス・・・しちゃったね」  
悪戯っぽく笑うと、ただ呆然とする満を、今度は正面から抱き寄せてきた。  
「キス・・・?」言い、自分の唇に触れる満「・・・濡れて、る?」  
僅かに湿った自身の唇を確認し、我に返る。  
「咲・・・私・・・」  
「いいの、私も、満と同じ・・・」  
戸惑う満の耳元に囁き、そのまま首筋に唇を這わせる。  
「んっ・・・」  
初めての刺激に思わず身体が跳ねる満を、咲は優しく捕まえたまま耳たぶを甘噛み、背中  
に回した手で刷毛の様に繊細に、敏感な部分を撫でる。  
「は・・・あぅ・・・」  
ぞくぞくと全身を駆け抜ける電撃の様な感覚。それはやがて快感の波となって、満の筋肉  
を弛緩させていく。  
「ふぁ・・・咲・・・」  
すっかり力が抜けて崩れそうになる身体で何とか咲にしがみつく。自分を見つめる咲の瞳  
に映る、何とも言えない表情に僅かにプライドが反応して、少しだけ力が戻ってくるのを感じた。  
 …私、なんて顔してるのよ・・・  
そんな満を許さないとばかりに、今度は咲の唇が満の唇を奪う。  
「可愛いよ、満・・・っ」  
「んむ・・・ッ・・・」  
二度目のくちづけは、実にあっさりと満の思考を奪い去ってしまった。見つめ合ったまま  
夢中で唇を吸い合い、舌を絡め上げるられ、また口腔内に押し込まれる度に、あふれ出る  
唾液がじゅるじゅるといやらしい音を立てて、こぼれる。  
 …どれくらい経ったの? 五分?十分?・・・それとも、一時間?  
時間の感覚も無くなるほど濃厚なディープキス。いつの間にか満の身体はベッドの上に横  
たえられており、着ているパジャマのシャツは開けて形の良い乳房が夜気に晒されていた。  
 
「ぷはっ・・・」  
ようやく解放される満の唇。はっ、はっ、と肩で息をしてだらしなく緩んだ口端から二人  
の混ざり合った唾液が糸を引いて垂れるが、拭うこともままならない程、力が入らない。  
「こういうキスも、初めてだったの?」  
まるで自分はそうでない、とでも言いたげな口調で問いかけてくる咲に、こくん、と力無  
く頷く。その目はどこかうつろで頼りなく、普段の満からはとても想像できない。  
「満って・・・何でも出来るけど、何も知らないんだね・・・」  
生きている時間が違うんだから、仕方ないじゃない・・・はっきりしない頭でおぼろげに  
そんなことを考える満の全身を愛おしそうに眺めると、咲も着ている物を放り出した。  
「だから、全部、教えてあげる・・・ね?」  
妖しい微笑み。俗っぽく言えば、『スイッチが入った』状態なのだろうか、満同様、今の  
咲の姿もどこかいつもと違って見える。  
「大好きだよ、満」  
満の耳に届いたその言葉を、一瞬遅れて理解すると一際胸が高鳴るのを感じた。もっと触  
れられていたい、もっと触れていたい、初めて感じる感情が窒息しそうなほど切なく、そ  
れでいてとろけそうに心地よく心を満たしていくのが解った。  
「咲・・・さきぃ・・・」  
上気した顔で愛しい名前を呼ぶと、身体を重ねてきた咲の胸が、ちょうど満のそこと密着  
してむにむにと形を変えて絡み合う。桜色に充血した乳首同士が擦れ、また新たな刺激を  
満に与えていく。  
「ッ・・・っあ・・・!」  
キスとは違う、もっと直接的な性感に思わず艶を含んだ声が出る。咲はそんな満に満足し  
たのか、身体をずらして開いた隙間に手を滑り込ませると、満の乳房を直接揉み始めた。  
「ひゃ・・・っ・・・んふぅ」  
声にならない声を漏らす満の口を塞ぐかのように、三度重ねられる唇。先程の様な激しい  
ものではなく、唇の感覚を確かめているような、そんな柔らかなキスに、たまらず甘い吐  
息がこぼれる。  
「おっぱい、弱いんだね」  
潤んだ瞳で自分を見る満の、柔らかな胸をまさぐりながら嬉しそうな笑みを浮かべると、  
今度はその胸に顔を埋める咲。ツン、と上を向く乳首にそっと舌を這わせる。  
「ひぅ!」  
咲の愛撫を受けて敏感になっていた箇所への局所攻撃を受けて悶える満。  
「ふぁ・・・っ・・・あぁっ!」  
じんじんと硬くなる乳首を舐めるだけで飽きたらず、口に含むと舌先で転がしてみたり、  
ちゅう、と音を立てて吸い付いては軽く歯を当ててみせる。そのたびに、満の身体は敏感  
に反応して逃れようとするのだが、力の入らないくねくねとした動きでは、かえって咲の  
攻めを駆り立ててしまう。  
「もぅ・・・っくふ・・・ゆるしてぇ・・・ぁん・・・」  
今にも泣き出してしまいそうな、情けない声を出すことしか出来ない満の身体から名残惜  
しそうに上体を起こすと、咲は再び満の顔を覗き込んだ。  
「こんなトコでギブしちゃダメだよ・・・これから、もっと気持ちよくなるんだから」  
「・・・え・・・?」  
咲の言葉に、不安と期待が混ざった複雑な顔を見せる満。はぁはぁと肩で息をして真意を  
探ろうと咲の目を見つめ返す。  
 
「怖くないよ・・・優しく、するから」  
言い、咲がするすると手慣れた様子で満のズボンを降ろすと、ストライプの入った真新し  
いショーツが現れた。  
「こんなに濡れてる・・・満も私と変わらないんだね、良かった」  
「何のこ・・・ぁあっっ!」  
何が変わらないのかを聞こうとする満の言葉を遮って、咲の顔が太股の間に押し込まれる。  
生まれながらに戦士として鍛えられた肉体の、だがそれでもどうしようもなく弱い部分に  
突然熱い吐息を浴びて満の身体が跳ね上がった。  
「そんな・・・とこ・・・ッ!!」  
自慰も知らぬであろうぴったりと閉じられた満の割れ目を、たっぷりと汁気を含んだショ  
ーツ越しに鼻先で擦る咲。ふんふんと匂いを確かめ、時折布に染みだしてくる蜜を舌で丁  
寧にすくい上げる。  
「ひゃっ・・・! ・・・んぅ・・・!」  
それまでと比べ物にならない刺激に満の声が裏返る。自分の身体だというのに、何故こん  
なにも自由が効かないのか・・・そんな事を考えて気持ちを落ち着けようとしても、咲の  
執拗な攻めの前には為す術なく蹂躙されてしまう。  
「ゃあっ・・・さ、きィ・ッ・・・!」  
「満のここ・・・キレイ・・・」  
身もだえる満を余所に、咲は布越しでは満足できなくなったのか、満の味をひとしきり堪  
能すると、下着をずらし、とろとろと蜜を流し続ける秘裂の柔肉を左右に押し開く。ひく  
ひくと小刻みに震えるそこは、突然晒された空気に対して少し抵抗するように萎縮して、  
強烈な処女の匂いを漂わせていた。  
「ふぁっ・・・ん・・・ゃあ・・・」  
思わず舌を這わせると、またじわじわと奥から新たな蜜が溢れてくる。  
「ぁあぁぁッ!!!」  
全身を紅潮させて悶える満。両手で顔を覆い、未知の快感に飲み込まれていく。  
「あっ・・・ふぁ・・・っ」  
と、おもむろに顔を上げる咲。口のまわりにまるでヒゲの様に付着した満の汁を手の甲で  
拭うと、もはや穿いている意味のない満のショーツを完全に脱がしてしまった。  
「そろそろ、イイかな」  
「・・・まだ、するの・・・?」  
投球前のウォームアップでもしているように、右手をわきわきと動かし始める咲を、更に  
不安な面持ちで見つめる満。五本の指がまるで意志を持っているかの様にうねうねと動き  
まわり、これから起こるであろう事態を、何となく予感させる。  
「まだ、じゃないよ・・・これから」  
脅える満をなだめる様にそっとキスをして、再び身体を重ねる咲。左手こそ先程と同じよ  
うに胸に添えられているが、右手の場所は、いまだ止め処なく蜜を溢れ続けている、秘所。  
「いっぱい、キモチ良くなって、ね?」  
「ひぁ・・・・・・ッ!!」  
つぷ・・・と、先ず押し込まれる中指。ぬぷぬぷと縦筋を掻き分ける様に柔らかな肉壁を  
かき回していく。  
「はぅ・・・ッ!!!」  
次いで親指が、ちょうど秘裂の始まる部分、乙女の、最も敏感な場所にあてがわれ、少し  
硬くなった芯を中心にくにくにと円を描く様に律動する。  
「ひゃあっ!! あぁっ!! あぁぁーッ!!!」  
再び瞬間的に全身を巡る電撃に、たまらず弓なりになる満の身体。だんだんと激しさを増  
していく攻めに、じゅぶじゅぶと湿った音を立て続ける蜜壺が咲の指技から逃れようとし  
ているのか、それとも更なる刺激を求めているのか、満の意志とは無関係に腰が上下してしまう。  
「さ、さきぃ・・・っ! 何か・・・ッ 何か・・・来ちゃうぅっ!!」  
「キモチイイの? イッて、満っ! いいよ、イッていいよっ!」  
指だけでなく掌までも使って満を攻め立てる咲の右手。機械の様にリズミカルな動きに合  
わせてじゅぶじゅぶと淫らな音を立てる。  
「ッ・・・あっ!ふぁっ! ぁあぁぁーーーーーっ!!!」  
びくん、と一際大きく波打ち、弓なりになったまま硬直する満の身体。絶頂の高まりと共  
に吹き出した潮が、咲の指の隙間からぼたぼたと流れ落ちる。  
「スゴい・・・奥まで入れてないのに、吸い込まれちゃいそうだよ」  
「ぁ・・・はぅ・・・・・・ん」  
咲が柔肉をかき回す指を引き抜くと、泡立ち、濁った液体が実に名残惜しそうに糸を引い  
て、シーツに染みを作っていく・・・  
 
 「はぁ・・・はぁ・・・咲・・・私、どうなっちゃったの・・・?」  
自分の身体に何が起こったのかも解らずに絶頂の余韻に浸る満。気持ち良くないと言えば  
嘘になるが、気持ち良かったのかと言われても、それも今一よく解らない。ただ少なくと  
も、嫌では、なかったが。  
「満がすっごく可愛いから、ついガマンできなくなっちゃって・・・」  
あまり答えになっていない返答をしながら、自分で自分を慰め始める咲のそこは、既に弄  
る必要もないほど、しとどに濡れていた。  
「んぁ・・・今度は、一緒にイこ?」  
秘所を擦り上げながら恍惚とした表情で満に迫っていく。  
「・・・一緒に、って・・・?」  
「こっちで、『キス』するの」  
これを聞いた満が身体を硬くするよりも一瞬早くその両脚を開くと、合間に自らの腰を滑  
り込ませた。むんむんとした雌の匂いを放つ百合の花弁が二つ、重ねられる。  
「ぁん・・・」  
「ひぁっ・・・!」  
くちゅ、と湿った音がして密着する咲と満。  
「ん・・・ここ、かな・・・?」  
ちょうど具合の良い場所を探して咲が少しずつ身体をずらしていく。ぬるぬるとした柔肉  
が擦れ、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった満を再び激しい刺激が襲う。  
「あぁッ!!」  
今度ははっきりと、快感として捉えられる感覚に一気に高みまで押し上げられてしまう。  
「ぁはっ・・・スゴいっ! ピッタリっ!」  
咲が裏返った声で腰を動かすと、あふれ出す汁が柔肉の隙間を埋め、まるで一体化してし  
まったかのように二人を繋ぎ止めてしまった。  
「ヤダっ、止まんないっ! 舞とした時より・・・キモチイイっ!!」  
ぐいぐいと腰を前後させる咲の言葉を、飛んで行ってしまいそうな意識の中でも妙に冷静  
に『やはりそうだったのか』と認識する満。次の瞬間には無意識のうちに声が出ていた。  
「イヤっ・・・私のことだけ・・・ッ! 考えてっ!」  
思いがけず発せられたその言葉に一瞬咲の動きが止まる。少し見つめ合った後、満面の笑  
みを浮かべて更に激しく腰をグラインドさせてくる。  
「ん・・・満が一番だよっ」  
「あぁっ・・・さきぃ・・・」  
狭いベッドが時折ぎしぎしと悲鳴を上げるが、お構いなしに絡み合う白い肢体。二人の少  
女にはもう、相手の姿しか見えず、その声しか聞こえていない。  
「あっ・・・! あぁっ! またっ・・・!」  
自らの意志で腰を動かし始めた満の声が一段高くなる。再び訪れた絶頂へのカウントダウ  
ンを、今度は素直に受け入れていく。  
「ぁん・・・私も・・・ッ! もぅ、イきそ・・・っ」  
上体を仰け反らせ、咲も声をうわずらせてそれに応える。激しい動きに、豊満な乳房が円  
を描いて揺れる。  
「ひぅ・・・っ! んっ!ゃあぁぁっ!!」  
「はっ、あはっ・・・! っぁ・・・!!」  
唄う様に喘ぎ、タイミングを合わせる息づかい。  
「さきっっ! さきぃっ!!」  
「イクよっ!みちるっ! イクよぉっ!!」  
ぬちゅぬちゅと濡れた音とお互いの名前を呼ぶ二人の嬌声。  
 そして―――  
 
「「んゃあぁああぁーーーーーッ!!!!!」」  
 
 
 ・  
 ・  
 ・  
 
 翌朝。すっかり晴れた空の下にいつも通りの声が響く。  
「遅ぃい刻だぁあ!」  
思いきり焦った声を上げ、ユニフォーム姿の咲が愛用のスポーツバッグ片手に駆けだして  
行く。土曜日のため授業は無いがソフトボール部の練習は相変わらずな様だ。  
「まったく・・・少しは学習しないのかしら」  
沙織が苦笑混じりにつぶやけば、  
「お母さーん、おねーちゃんグローブ置いてっちゃったよー!」  
みのりが軒先に干してあったグローブを見つけ、叫ぶ。  
「あぁもう・・・あのおっちょこちょい・・・」  
呆れかえって頭を抱える沙織に満が声をかけた。  
「まだ、間に合いますよね?」  
グローブを抱えて表に出る。  
「あぁ・・・じゃあ悪いけどお願いしちゃおうかしら」  
「いえ、いいんです」どこか嬉しそうに答える満「どうも、お世話になりました」  
軽くお辞儀をして走り出す。沙織とみのりの暖かい声を背中に受けて切る風は、昨日とは  
全く違う物の様に感じられた。  
 …こういうのも、悪くないわ、ね  
『月ってね、太陽の光を受けて輝いているんだよ』  
不意に浮かんだ誰かの言葉。咲の様になれないならせめて影から支えたい。咲の光を浴び  
て自分が輝けるなら・・・そんなことを考えながら駆け抜ける世界にふと、自分の進む道  
が見えた様な、そんな気がして、満の心はたまらなく晴々とした気分になっていった。  
 
fin.  
 
 

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