ゴクリと音をたてて唾をのむ。落ち着け。頑張れ、わたし。教室の扉の前に立ち尽くし、少女は大きく  
深呼吸をした。  
(タイミングが肝心なんだよね・・・)  
毎度の事ながら、この瞬間は何度やっても慣れるということが無い。遅刻常習犯 日向 咲は今まさ  
に始業時間のとっくに過ぎた教室の扉を開けようとしていた。もうこれで連続10日間の遅刻であった。  
篠原先生のカミナリは覚悟しなければならないだろう。・・・いや、それで済めば良いが。1時間目は先  
生の担当教科である英語。その後、数学、国語、社会と苦手科目が続く。今日は咲にとって辛く長い一  
日になりそうだった。  
(ああ・・・今日は絶不調ナリ・・・)  
気分はなさにお通夜。だけど、グズグズしていても仕方ない。意を決して扉を開けようとしたその瞬間、  
背後から  
「何してるの?」  
と、声をかけられ飛び上がるほど驚いた。  
「わあっ! びっくりした・・・満に薫。どうしたの、二人揃って?」  
そこにいたのは、最近転校してきたばかりの霧生 満と 霧生 薫の二人だった。  
「だから、それはこっちの台詞だって」  
「わたしは・・・その・・・てへへ。あっ、もしかして二人も遅刻組・・・なわけないよね」  
「当たり前でしょ。私達はお手洗い」  
と、満が相変わらず無表情(若干、呆れ気味に)に応える。  
咲は  
「だよね。とほほ・・・」  
と、頭を掻くしかない。  
「走ってきたの? 骨折り損ね。慌てる必要なかったのに」  
「えっ?・・・それって、どういう・・・」  
満と薫が何も言わないまま、扉を開ける。教室の雰囲気は始業時間が過ぎたとは思えないほど、のんび  
りとしていた。みんな、おもいおもいの場所で話しをしたり、本を読んだり。中にはメールに夢中になってい  
るクラスメイトもいる。  
(これって、どういうこと・・・)  
混乱している咲の肩をたたき、薫が黒板を指差す。そこには白いチョークで大きく『自習』と書かれていた。  
「・・・ええっ、これってまさか篠原先生、今日もお休みなの?」  
咲は目を丸くして驚いた。  
「それが、学校に来てはいらっしゃるようなんだけど・・・」  
と、咲の姿を見つけた舞がやって来た。  
「他の先生方の話しだと、朝早い内に学校に来て気分が優れないとかで、いま保健室で休まれてるらしいの」  
「そ、そんな・・・」  
正直、昨日お休みされたことさえ意外だった。人一倍、健康管理に厳しくて元気な篠原先生。その先生が二日  
にわたって病に臥せっているということが、事態の深刻さを物語っているようであった。とても、自習なんてして  
いる気分じゃない。  
「わたし、保健室行ってくる」  
「咲?」  
「とにかく、一目でいいから先生の顔をみたいの。先生のこと心配で勉強どころじゃないもん」  
遅刻魔、物忘れ魔の言う台詞ではないが、咲は本気だった。  
「わたしだって先生のこと、心配よ。咲が行くなら、わたしも行く」  
「舞・・・」  
教室のあちこちから、「じゃぁ、俺も」、「私も」と声が上がり、結局、クラス全員で保健室へ向かうことになった。み  
んなの想いは一つ。  
(早く元気な篠原先生に逢いたい!)  
 
 
「あらあら、どうしたのあなたたち。いま授業中でしょ」  
保健室の扉が開くと、その向こうには新任の保険教諭 水下先生がいた。淡いブルーのツーピースの  
上から大きめの白衣を無造作に羽織っている。いたって普通のファッションだけれど、この先生が着て  
いるとどんな物でも派手で扇情的に見えて、目のやり場に困る感じがした。  
「わたしたち、篠原先生が心配で。ここにいらっしゃるんでしょう?」  
「ええ、いま薬を飲んで休まれているところよ」  
「逢わせて下さい。先生を元気付けてあげたいんです」  
「駄目よ」  
と、水下先生が厳しい声で一同を制した。  
「篠原先生は、過労による心因性のストレスで倒れられたの。いまはゆっくりと休ませてあげるのが一  
番なの。気疲れさせるようなことは認められないわ」  
考えてみれば、水下先生の言う通りだ。良かれと思っていたことは、却って篠原先生に余計な負担をか  
けさせてしまう結果になりかねない。  
(わたしって、やっぱり馬鹿だな。それくらいのことも気付かないなんて・・・)  
落ち込む咲を見かねてか、水下先生が  
「とはいえ、みんなの気持ちも分からないわけじゃないわ。なんとか先生に面会させてあげられるようにし  
てみましょう」  
「本当ですか!?」  
「ただし」  
と、付け加える。  
「面会は休み時間中に限る。3〜4人ずつ、面会時間は30秒ほど。一切、喋らない。先生に話しかけたり  
しない。どう、約束できる?」  
「はい、もちろんです」  
「それじゃ、いまは教室にお戻りなさい。学生の本分は勉強よ」  
みんなで話し合った結果、出席番号順に行くこととなった。アイウエオ順なので咲も舞もかなり後になりそ  
うだ。休み時間、面会を済ませたクラスメイトの話を聞くと、やはりかなり具合は悪いらしく、咲はじれったく  
てやきもきしていた。咲と舞の順番は結局、放課後になった。  
音を立てず慎重に保健室に入る。カーテンで仕切られたベッドに篠原先生はいた。  
(先生・・・)  
三日前に逢った先生は、いつもと同じように元気に教師としてソフトボール部の顧問として張り切っていた。  
しかし、いま二人の前にいる先生は、まるで別人のようだ。氷嚢を額にのせ、掛け布団を首までスッポリと掛  
けているので良く分からないが、顔色は明らかに悪く、やつれた印象がある。眠っているのか身動き一つしない。  
声が聞きたい。一言でいい。『先生は大丈夫よ』と言って欲しかった。声をかけたい。たった一言。『先生』と呼  
びかけたかった。しかし、水下先生との約束がある。面会を特別に許可してくれた先生の誠意を裏切るような  
行為は出来なかった。  
肩を叩かれた。『もう時間よ』ということだ。後ろ髪を引かれるような思いで、保健室を退出する。  
「水下先生」  
保健室を出てすぐ、咲は言った。  
「なあに?」  
「あの、篠原先生のこと、よろしくお願いします」  
ちょっとびっくりしたような表情をしたが、すぐに  
「もちろんよ。それよりこれから部活でしょ? 注意散漫になって怪我なんかしないでね」  
舞と別れ、ソフトボール部の練習のためグラウンドに向かう。そこでも、みんな途方にくれたような表情をしていた。  
先生がいない。それだけのことで大なり小なりのショックを受けているのだった。  
「みんな、練習しよう!」  
咲が激を飛ばした。  
「咲?」  
「先生だって病気と戦ってる。私達がここで落ち込んでる場合じゃないよ。もうすぐ黒潮中学との練習試合がある。  
厳しい試合になると思うけど、頑張って勝つの。そして先生を安心させてあげようよ。いまの私達に出来るのは、こ  
れくらいしかないもの」  
これは、ここへ来るまでの道すがら咲が決意したことであった。  
「そうね、咲の言うとおりよ。やりましょう、みんな」  
「泉田キャプテン」  
「ようし、ファイト、夕凪中ソフト部! 打倒黒潮中! 練習開始!」  
先生のいない不安を、みんなの気持ちを一つにして士気を高めることで跳ね除けようとしていた。  
(篠原先生。わたしもう遅刻しない。宿題もちゃんとやる。ソフトの練習も頑張る。だから早く元気になって戻って来て下さい)  
咲は、先生のいる保健室に目を向け、ボールを握り締めながら祈った。  
 
 
その頃、保健室では  
(わたしのせいで、みんなに心配をかけて・・・ごめんなさい。先生、教師失格だわ)  
サツキがベッドの中で声を殺して泣いていた。  
一方、水下は笑いをこらえるのに必死のようだった。  
「プハハッ! 泣かせてくれるじゃないか。あんたのところの生徒ってば本当、先生思い  
のいい子達ばっかりなんだねえ。極め付けに『篠原先生のこと、よろしくお願いします』っ  
てさあ。いいじゃないか。可愛い生徒さんたちのたっての頼みだ。しっかりと、よろしくお願  
いされてあげるわ!」  
(非道いです・・・お姉さま)  
今朝方にかけて繰り広げられた陵辱以来、サツキは何も身に付けていない。掛け布団  
一枚下には、一糸まとわぬ全裸の女性がいるのだった。  
水下に、『せめて下着だけでも』と懇願したが、拒絶された。おかげで今日一日は、まるで  
生きた心地がしなかった。生徒だけでなく先生方まで見舞いに来ていたのだ。  
(もし、全裸だということがばれたら・・・一体、なんと言えばいいのか?)  
水下からは、『ちょっとでも妙な素振りを見せたら、遠慮なく布団を剥いであげる』と脅され、  
呼吸一つにも気を使わなくてはいけなかった。人がいる間は、掛け布団を掴み眠ったふり  
をし続けた。  
(誰かが布団を持ち上げないよう、お姉さまが布団を剥いでしまわないよう・・・)  
しかし、その内  
(いっそのこと、私自身の手で布団を剥いでしまいたい!)  
と言う破滅的な衝動が沸き起こり、それを押さえ込むのに必死にならねばならなかった。  
(馬鹿馬鹿しい! そんなこと出来るわけない。でも・・・もしそうなったら、みんな私のこと、  
どういう目で見るんだろう・・・)  
そう考えただけで・・・  
夕陽が差し込み紅く染まった保健室。水下が布団の中に手を忍び込ませ、股間を弄った。 
反射的に太腿を引き締めガードしようとしたが、強引に割り込まれ指が秘裂の中に侵入  
してきた。  
「ひああっ!」  
ぐちゅりっ、と湿った音がサツキの耳にも届いた。たちまち羞恥で真っ赤になる。  
それを見て、とうとう堪えきれなくなったらしい。水下が爆笑した。  
「あらまあ、これじゃまたシーツの交換をしなけりゃいけませんわ」  
引き抜かれ目の前に突きつけられた指は、薄暗がりの夕陽の中でもキラキラと輝き糸を引  
いていた。顔を背けようとするが、指はそのまま無遠慮に口の中にねじ込まれた。咽返りそ  
うになるが、容赦はされない。  
「言ったでしょ。自分で汚した物は自分で綺麗になさい」  
喉の奥近くまで突っ込まれた指はほろ苦く少し錆臭い味がした。目が涙で滲み、周囲の風  
景がぼやけていった。  
 
 
それからのサツキは昼と夜、二つの顔を持つようになっていった。そしてそれにより、かつてないほ  
ど忙しない毎日を送る事になっていった。  
日中は教師として子供達の授業を受け持ち、放課後はソフトボール部の顧問として指導にあたり、  
そして深夜には・・・水下の『患者』として個人診療を受ける日々。まさに激務といえた。並の女性な  
ら精神に異常を来たすか、体力の限界により倒れて二度と立ち上がれなくなっていただろう。しかし、  
サツキにとって不幸だったのは、彼女が並の女性より精神的にも肉体的にも遙かに強い人間だった  
ことだろう。これまでの人生、幾多の困難を『ネバー・ギブアップ!』の精神で戦い、勝ち抜いてきたこ  
とがサツキを強靭な女性に仕立て上げていった。  
しかしこの夏、サツキの身に降りかかった災厄は、彼女の自我を少しずつ崩壊させていった。あのプ  
ールでの悪夢から、まだ数週間しか経過していないのに水下の前で全裸になり跪くことに、なんの抵  
抗もなくなっていった。彼女の言うとおりに振る舞い、嘲笑され、罵倒され、陵辱されることを、ごく日常  
的なこととして受け止めるようになっていった。  
私は『玩具』。お姉さまに悦んでもらうためだけの存在。お姉さまを退屈させないための道具。それが私  
のこれからの生きる道。そんなどこか自虐的な意識が芽生えつつあった。  
サツキが水下の呪縛から逃れられない理由が、もう一つあった。  
身体が・・・疼く。水がゆっくりと時間をかけて湧き上がるとき立つ気泡のように、身体の奥深い箇所から  
肉体をチリチリと刺激する疼き。サツキは、しばらく前からこの疼きに悩まされていた。それは時も場所も  
選ばずに襲いかかってきた。自分の身に起こっていることなのに、彼女自身にはどうすることも出来ない。  
ただ、じっと症状が治まっていくのを待つしかなかった。これのやっかいな所は疼いている間中、性的興奮  
に近い反応が現れることだった。乳首が勃起し、股間は熱くなり蜜が染み出してくる。呼吸が荒くなり、汗が  
噴き出す。どうにも堪えきれずにトイレに駆け込んで処理をしてしまうことも、しばしばだった。一人でいる時  
はまだいい。これが授業中や職員会議の最中などは、ひたすら我慢するしかない。まさに生き地獄だった。  
(私・・・病気なのかも?)  
不安になって、水下に相談すると  
「それはね、脱皮よ」  
と、診断された。  
わけが分からず  
「脱皮・・・ですか?」  
と、問い返した。  
「そう。いまサツキの身体の中では、急激に子供から大人になるための変化が始まっているの。その変化の  
度合いが余りに激しすぎて、肉体的にも精神的にも不安定な状態にある。それが『疼き』という症状になって  
現れてきたのね。安心なさい。別に病気ってわけじゃない。これは良い兆候よ」  
そう言われても、活火山のマグマのように始終吹き上がる性欲を抑え込むのは至難の業だった。ところが、水  
下のそばにいるとこれが自然と治まっていくのだった。水下に見つめられ、触れられ、抱きしめられているだけ  
で、不快な疼きは甘い陶酔に変わり痺れるような悦楽になる。水下がサツキの性欲の暴走を抑え、コントロール  
し、最も効率のよい形にしてくれているようだった。  
そうしている間に、サツキの水下への気持ちも徐々に変わっていきつつあった。最初は憎悪、侮蔑、恐怖、畏怖。  
だが、いまでは憧憬、思慕、愛情へと。  
考えてみれば、サツキにとって水下は性への導き手であり処女を捧げた相手でもある。潜在的に惹かれていった  
としても、なんの不思議もない。  
 
『教師』と『玩具』というサツキの二重生活は続いていき、それは学校が夏休みに入ってからも変わることはなかった。  
 
 
 

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