「ねえココ。ふぇらちおってなに?」
「…………」
ナッツハウスの自室で採点していたら、のぞみがやってきた。
そして静かだったこの部屋に、いきなり核クラスの爆弾を落としてくれた。
「……どこでそんな言葉を?」
「増子さんに知ってる?って聞かれたの」
「なるほど。あの新聞部は明日職員会議にかけるとして、それでのぞみはなんと?」
「知らないって言ったのに答えを教えてくれないの」
「そっか……知らなかったのか」
「ね。教えて」
「りんに聞いてくれ」
「りんちゃんがね、ココに聞きなさいって」
しまった、先手を打たれたか。
僕は今ごろゆうゆうとお菓子でも食べてるであろう、りんの顔を憎々しげに思い浮かべた。
「じゃあ、うららに聞いてくれ」
「のぞみさんが大人になったら教えてあげますって」
「じゃあ、こまちに……」
「真っ赤になって走って逃げちゃった」
「じ、じゃあ、かれんに……」
「聞いた事もないって」
「じ、じゃあ……」
「知ーりーたーいー!」
しまった、答えをはぐらかしていたら、好奇心が我慢の限界を迎えてしまった。
ああもう、子どもみたいに手足房をバタつかせて……。
「いやこの場合、子どもの方がなんぼかありがたいんだが」
「なんの話?」
「あ、いや、なんでもないよ」
「それより教えてよ。もしかして、ココも知らないの?」
首を傾げて僕の顔を見るのぞみの表情は、純粋そのものだった。
うっ、そんな無垢な瞳で見つめられると……自分が悪い大人みたいじゃないか。
「いやまあ、はは……そうなんだ、実は知らないんだ」
「ふ〜ん、ココも意外と物を知らないんだね。ダメだよ、国語の先生なのに」
ふんがー。まさか、のぞみにダメ出しをされるとは思わなかった。しかもこんな事で。
でも、とりあえず危機は脱した。あとは違う話題に持っていてやり過ごそう。
「あれっ? もしかして、採点してるの?」
と思ったら、都合よく向こうから話題を変えてくれた。
「うん、この間の小テストのね」
「わっ! 私、頑張ったんだあ。ねえねえ、何点だった?」
「こらこら、返すまで見ちゃダメだよ。他の子の答案もあるんだから」
「いいじゃない、私のだけ見せてよ。ねえ、ココ〜」
「こ、こら、ダメだって!」
遮ろうとしたら、のぞみがじゃれつくように机の上に手を伸ばしてきた。
それを抑えようとして、のぞみの手を握る。
「あ、邪魔しないでよ! もう、私とココの仲でしょ」
「どういう仲だよ。公私混同するなって言ったのはのぞみだろ?」
「いいの! 私だけは特別!」
「こらーっ! 何が特別なんだっ!」
押し合いへし合いしていたら、のぞみが圧し掛かってきた。
イスに座っていた僕は、危うくバランスを崩しそうになる。
「う、うわっ」
「キャッ」
僕の体を起こす動きと、のぞみの体を引く動きが重なって、そのままドシン!と後ろに倒れる。
「っつう〜……」
「あででで……」
気がつくと、僕の体の下でのぞみが頭をさすっていた。
って、この態勢は……。
さっきまであんな話をしていたせいで、余計な考えが頭をよぎる。
「いたたた……ココ、大丈夫?」
いや、脳内があまり。
その返事を飲み込むのと同時に、僕の頭の上に何かが落ちてきた。
「あっ、これ! 私のテストだ!」
「えっ?」
見上げようとする前に、のぞみの手がいち早く僕の頭の上から紙片を奪い去る。
「あっ、コラ! 見ちゃダメだって……!」
「わっ! 私、70点! また70点代だ!」
が、僕の声を無視してのぞみの表情がぱっと明るくなる。
「ね、見て。70点! 二回目だからまぐれじゃないよね」
「あ、ああ、そうだな」
「えへへ、ココのテストで70点……嬉しいなあ」
「まあ、よく頑張ったな」
「うん……ココに誉めて欲しかったから」
そう言って、テストを見つめる彼女の目が嬉しそうに細まった時、僕の中で何か切れる音がした。
「あ、あのね、のぞみ……さっきの話だけど」
「うん? さっきの? 何だっけ」
「さっきの増子さんの……」
「ああ、あれ! 何々? 教えてくれるの?」
「その……こういう……」
僕はずっと握っていた彼女の手に込める力を、ぎゅっと強めた。
僕もそれなりに恥ずかしいけど、彼女の純粋さを見てると、落ち着いてくる。
「ほへ?」
「こういう事」
「え? こういうって……」
みるみるのぞみの顔が赤くなっていく。
強く握られる手と、少し近付いた僕の顔で、ようやく彼女も気がついたみたいだ。
ああ、もう鈍いんだから……。
「こ、こういう事って……どういう、事……?」
「こういう繋がりの上にある事」
「へっ? そ、そうなんだあ……あはははははは」
のぞみは笑ってごまかそうとしたが、僕はそのまま彼女の首筋に顔をうずめる。
「ひゃっ!」
息を吹きかけられた彼女は、くすぐったそうに体を強張らせた。
自分の動きにのぞみの体が反応する事がたまらなく嬉しい。
「こ、ココ、くすぐったいよ……」
「うん、くすぐってるから」
「そ、それに、ちょっと……」
「どうしたの?」
「恥ずかしいよ……」
のぞみが僕の下で、膝をきゅっと合わせるのが分かった。
赤みの差した顔に、少し戸惑うような表情が浮かぶ。
っていうか、かわいすぎる。
「うん、恥ずかしい事してるから」
「ええっ!?」
「どうしたの?」
「は、恥ずかしい事なんだ……」
のぞみの目が困ったように視線を僕から外す。
だけど、僕のシャツを握るその手は、僕を押しのけようとはしなかった。
これってずるいのかなあ……。
僕はそのまま彼女のキャミソールの裾に手を忍ばせる。
「ま、待って! わ、私……」
「嫌かい?」
「う、ううん、ココ、ならいいの……私……」
本日二度目の何かが切れる音がする。
っていうかさっきから、ぶちんぶちん色んな所が頭の中で切れまくってる。
くも膜下出血で死ぬんじゃないかってくらいだ。
「でも、その前に……ココ、の気持ち……まだ分からないから……」
「のぞみ……」
「…………」
「僕はのぞみの事……好きだよ」
「好き?」
「うん」
「どういう風に?」
「ど、どういう風? え、ええと、とっても好き」
「それじゃ分かんない」
「南無八幡大菩薩、我が嘘偽り申さばこの世のあらゆる災厄に見舞われん事お約束いたします。御照覧あれ」
「なんか嘘くさい」
「のぞみだけが好き」
「私だけ? ホントに?」
「うん。のぞみしか見てない」
「だってココって皆に優しいから……」
「皆に優しい僕は嫌い?」
「ううん、好き……」
ぐじっと何かをすする音がした。
な……泣いてる?
「の、のぞみ? 怒ってるのか?」
「違う……」
彼女が小さく首を横に振った。
「だって、ココに私の事独り占めして欲しいんだもん……」
「のぞみ……」
「私はココだけのシンデレラだもん」
「のぞみ」
そこで完全に全部の血管が切れた。死ぬな、これは完全に死んだ。
死ぬなら想い残す事がないようにしておこう。
僕はのぞみの服の裾から手を入れると同時に、彼女の背中をそのまま抱き締める。
「こ、ココ!?」
「大丈夫。僕はのぞみしか見てない」
「ココ……」
「本当だよ」
声を塞ぐように、首筋を軽く歯で挟む。
のぞみがまた、震わせるように身を固くした。
今度はただの体の反応ではなく、明らかに体の内に熱を込めて。
「のぞみ……」
「ま、待って!」
「ん?」
そのままのぞみの正面に顔を持っていったら、手で顔を押さえつけられた。
あれ? なんかちょっとショック……。
「ご、ゴメン! あの、ね。ココなら何をしてもいいけど……キスはちょっと待って!」
「え? 普通順番が逆じゃないか?」
「お願い、あと少しだから……もうちょっとだけ待ってて」
なんだろう。とりあえず、完全に拒否された訳じゃないみたいだ。
ちょっと腑に落ちないけど、のぞみがそこまで言うならキスは我慢しよう。
代わりに、キャミソールをめくるように差し入れた腕を徐々に胸元まで上げていく。
「こ、ココ……恥ずかしいよ……」
「だから、恥ずかしい事をしてるんだってば」
「分かってるけど……!」
ぽかぽかと頭を叩かれる。ははは、のぞみの力はかわいいなあ。
あんまりかわいいから、もう片方の手を使って、完全に胸元まではだけさせてしまった。
「あうっ! み、見ないでっ……」
「それは無理だよ……」
薄いピンクのブラを手で包むと、思ったより弾力のある感触が伝わってきた。
のぞみ……その、結構……あるんだな……。
その感触を更に確かめるように、手に圧力をかける。
「んっ……」
「くすぐったい?」
「えと……そんなでもない……」
「そっか」
不安そうに胸元を見つめるのぞみの頭を撫でて、額に軽くキスをする。
いつもは守られてばかりだけど……今は僕が彼女を守りたい。そう思った。
「のぞみ……好きだよ」
「う、うん……嬉しい」
両手をブラジャーの下から持ち上げるように、リズムに合わせて胸を揉んでいく。
まだ心配そうに見つめてるのぞみにイジワルがしたくて、親指を胸のある一点に合わせた。
その部分を揉む動きに合わせて、軽く掻いてみる。
「んっ」
小さな息をのんで、のぞみが目をつぶった。
反応したのが分かったらしい。驚いたように僕の指を見る。
「こ、ココ、そこ……」
「なんだい?」
僕は分かっているけれど、彼女のそこを弄るのを止めない。
親指をクニクニと動かして刺激を与える。
「んっ、んっ……こ、ココ……」
「なんだい?」
「な、なんか……くすぐったい……」
「くすぐったいの?」
「……のとも、ちょっと違う……から、変、な感じ……」
のぞみが口に手を当てて僕の手の動きを見つめる。
僕は彼女のブラの紐に指をかけ、肩の下へと落とした。
「あっ! こ、ココ……! 見えちゃうよっ……!」
「見たいんだ、のぞみの」
「ああうっ……は、恥ずかしい……よ……」
顔に手を当てていやいやをするのぞみだが、僕は片方だけで己を支えている、彼女のブラジャーに再び指をかけた。
「のぞみ……」
「は、恥ずかしいよっ……!」
その紐を肩から落とそうとした時……。
「ただいま」
階下で無愛想男の声がした。
慌ててブラを着け直すのぞみ。そして何故か元の姿に戻る僕。
「シュークリーム買ってきてやったぞ」
そして奴が部屋に来る頃には、なんとかのぞみの身支度も整っていた。
「ん? のぞみも来ていたのか」
「あ、あははー。どうも〜」
「ココは……ほら、シュークリームだ。感謝しろ」
誰がするか。
出来る事ならこいつの喉元に手刀を突き刺してやりたい。心からそう思った。
「で、二人で何をしていたんだ? なんだか散らかっているが」
「な、なんでもないよ! ちょっとココに質問しに来ただけ!」
「何を聞きにきたんだ?」
「えっと、ふぇらちおって……」
「そ、そういう事を聞いちゃダメココー!」
「あっ、そっか」
慌てて口を押さえるのぞみを見て、ナッツは一瞬不審そうな目をしたが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻してこう言った。
「陰茎を口に咥えて愛撫する事だ」
僕は元の姿に戻って、心置きなく奴の喉に手刀を突き刺した。