〜 『 罪の償い 』 〜  
 
 
「……やる」  
 そう言ってぶっきらぼうに差し出された鍵に、こまちはそっと両手を伸ばす。  
 彼の心がいっぱいに詰め込まれたそれを、はたして自分が手にしていいのかという迷い  
と、そしてそれに何倍する純粋な「喜び」。  
 こまちの中でぐるぐる廻るその2つの想い。  
 ゆっくりと鍵へと伸びる手は、小さな想いが大きな想いにかき消されるにつれ、その速  
度を増す。  
 ほどなく胸の内が暖かなもので満たされ、こまちはその鍵をナッツの手から受け取った。  
 受け取ったそれにわずかに残るナッツの温もりが、すぐに自分のそれへ取って代わる。  
 
「……き……です……」  
「ん?」  
 
 鍵を大事そうに胸にかき抱き、うつむくこまちの口からわずかな呟き。  
 聞き取れぬ大きさのそれに、ナッツが今一度聞き返そうとするや、その前にこまちが顔  
を上げる。  
 真っ直ぐに自分を射すくめるその視線にナッツは思わずたじろぎさえしてしまう。  
「……こまち?」  
 まばたきもせずナッツを見つめながらしかし、それだけでこまちは言葉を発しない。  
 そして言葉の代わりにこまちの両眼からみるみる涙が潤み出し、その頬を濡らしていく。  
「っ!?」  
 自分が泣いていることに気づいたこまちは慌てて顔を背け、袖口でごしごしと顔を拭う。  
「どうしたんだ、何で泣くんだ、こま……」  
 ナッツの言葉を遮り、こまちは勢いよくナッツの胸に飛び込む。その左手に鍵をしっか  
りと握りこんだまま。  
 
「……好き、です」  
「こまち!?」  
 
「好きですっ! ナッツさん。ずっと、ずっと前からあなたが好きなの。離れたくないっ!  
どこにも行かないでっ! 私の側に居てくださいっ!」  
「……こまち……俺は……」  
「言わないでっ!」  
 
 すまない、そう言おうとしたナッツの言葉はしかし、やはりこまちに遮られる。  
 
「わかって、る……わかってるの、自分のわがままってことくらい。ナッツさんには王国  
を復興させるって大事な使命があることだってわかってる! でも、でも最後だ、って思っ  
たら……嫌なのっ! そんなのイヤっ! もう会えないかもしれない! 二度と会えない  
かもしれない! 顔を見ることも、声を聞くこともできないかもしれない! 二度と……  
二度と会えないなんて……そんなの、そんなの嫌っ!」  
「こまち……」  
 涙の溢れる顔でこまちはナッツを仰ぐ。  
「抱いて……ください。  
 今日だけ……今だけでもいいから、あなたと一緒に居たい……お願い……です……」  
「……こまちっ!」  
 返事の代わりに、痛いほどの力で自分を抱きしめるナッツに負けまいと、こまちは空い  
ている右手で必死にナッツにしがみ付く。  
 
 
 2人に挟まれる形で、こまちの左手に包まれた、2人を繋ぐ鍵が、静かにそこにあった。  
 
− 〜 − 〜 − 〜 −  
 
「……ん……」  
 まどろみの中、近くに人の気配を感じ、ナッツは目を覚ます。  
 見慣れない天井がまず目に入り。次いで顔の横から声がする。  
「目、覚めました? ナッツさん」  
 寝起きの瞬間になぜ彼女の声が聞こえるのか、とナッツは顔を横に向ける。  
「こまち……」  
「……おはようございます、ナッツさん」  
「……ああ、おはよう」  
 
 瞬時に彼は理解した。いや、思い出した。  
 自分は彼女と、  
 
 すぐ横で、同じベッドに入り、頬杖をついてこちらを眺めている全裸の少女と、  
 
 抱き合い、一夜を共にしたことを。  
 
「……胸、見えてるぞ……」  
 ぶっきらぼうな物言いだが、視線はこまちから離れていない。思わず「え?」とした顔  
をしてしまったこまちだが、すぐにその照れたかのようなナッツの頬の赤みに気づく。  
「ナッツさんが見たいなら全然見ていいですよ。あんまり大きくないんで恥ずかしいです  
けど」  
 そう言ってこまちはゆっくりと上半身を起こし、秘めるべき乙女の純情を、大切な、何  
より大切な人の目の前に余す所なく晒す。  
 昨晩の情事の爪跡が僅かに残るその双房は、それでもなお、その美しさを微塵も損なっ  
ていない。絶大に大きいわけではないが、ナッツはそれが自分の手に包まれてなお余りあ  
ることを知っている。  
 身を起こすという動作だけで、その2つの膨らみはナッツの目の前でふるふると揺れ、  
つんと上を向いた乳頭が、はかなげに本体が揺らぐままに揺らいでいる。  
 ココが以前自分に言っていたな、とナッツは思い出す。  
 
 胸は大きさじゃない、美しさだ! と。  
 
 拳を握り締めて自分に熱く語っていたココを鼻であしらったものだが、今ならココの心境  
が痛いほどよくわかった。  
 
「……大きさは関係ない。胸の基本は美しさだ。それにこまちのが小さいなら、この星の  
女性は全員胸がないことになるぞ」  
「ふふっ、ナッツさんたら。誉めても何も出ませんよ」  
「こまちほど綺麗な胸は今まで見たことがないんだがな」  
「ありがとう、嬉しいです。好きな人に自分の身体を誉めてもらえるなんて」  
 そう言い、こまちはゆっくりと身をかがめる。  
 僅かに目を見開いたナッツだが、特に抵抗することもない。  
 
 ゆっくりゆっくりと、2人の唇が静かに触れ合う。  
 唇同士の軽いキスが3秒ほど続き、こまちはナッツから顔を離す。  
 
「……もっと、いいですか?」  
「……こまちのしたいようにするといい。俺は別に反対しない」  
 その言葉にこまちはにっこりと笑い、再びナッツの唇に狙いを定める。  
 ちょん、と唇が触れるや、こまちはそっと舌を突き出し、ナッツの唇を割る。  
 抵抗せずこまちの舌を受け入れたナッツは自分のそれをこまちに絡めていく。  
 小さな水音とこまちのくぐもった声がベッドの上から響きだし、こまちは唇を離すこと  
なく、その身をナッツの身体に重ね合わせる。  
 
 ひとしきり、ナッツの唇を貪ったこまちは、ふぅ、とため息とも喘ぎとも取れる声と共  
に、ナッツから身を離す。  
 覆いかぶさるような体制はそのままに、ナッツを見下ろすこまち。  
「……初めての」  
「ん?」  
「恋人の朝、ですね」  
 
 溢れる笑顔。ナッツに否定するつもりは毛頭ない。  
 
「そうだな」  
 
「……そして……最後の朝、ですね」  
 
「……ああ、そうだな」  
 
 その言葉にもやはり、ナッツは否定することはできなかった。  
 
 自分のすぐ目の前で笑顔を見せるこまちの、瞳から流れる涙を拭ってやることも、  
 
 やはり彼にはできなかった……。  
 
− 〜 − 〜 − 〜 −  
 
 のぞみの、りんの、うららの、かれんの、そしてこまちの腕のピンキーキャッチュが光  
へと姿を代え、空に七色の道を作り上げる。  
 
 パルミエ王国へと繋がる道。  
 
「王国への道が出来たココーっ! さぁ、みんな行くココーっ!」  
 わぁっと歓声が上がる中、手に鍵を握り締め、こまちは笑顔を作ることができなかった。  
 
(ダメ……みんなに、ナッツさんに迷惑がかかる、ちゃんと、ちゃんと笑ってお別れ……  
しないと……ダメ……なのに)  
 
 うつむき、きゅっと拳を握り締めるこまちの前に、人の気配。  
 こまちがはっと顔を上げると、そこには人へと変身したナッツの姿。  
 
「……こまち」  
「……ナッツ、さ……ん」  
 
 ゆっくりと2人が重なる。  
 わぁっと、先ほどとは違った歓声が沸き起こる。  
 
「こまち」  
「……はい」  
 
「……愛してる」  
「ナッツさん!?」  
「こまちは、俺を愛してくれるか? 国を滅ぼすきっかけを作ったこんな俺を」  
 瞬く間に目から涙を溢れさせたこまちは、それを見られまいと、必死にナッツの胸に顔  
を埋める。  
「はひっ、わたっ、しは、ナッツさんっがっ、好きですっ! 好きですっ! 大好きですっ!!!」  
 
 大きく、ひとつ頷いたナッツは、こまちを抱いたまま、顔だけで後ろを振り向く。  
 ココを、ミルクを、のぞみ達を、パルミエ王国の住民達を振り向く。  
「ココッ!」  
 そして、呼ぶ、親友の、新しく国王となったその友の名を。  
 
「すまない、俺は……俺はパルミエ王国には戻らない!」  
 
「「「「「「「「「「「「「「「 っ!? 」」」」」」」」」」」」」」」  
 
「なななな、何を言ってるミル、ナッツ様っ! ナッツ様はこれからココ様と一緒にパル  
ミエ王国を蘇らせるという大事なお役目があるミルっ! お二人で力を合わせてがんばら  
ないといけないミルっ!」  
 真っ先に異を唱えるミルクを筆頭に、他のパルミエの住民達からも同じような声。  
   
 こまちの想いを知るのぞみ達がどうしていいのかとおたおたする後ろで光が走り、彼女  
達が振り向くと、ナッツと同じ様に人の姿をとったココがそこに居た。  
 
「ナッツ……」  
「すまない、ココ。俺は…………すまない、俺にはパルミエ王国より大切な……」  
 そこまで、とでも言いたげに、ココはナッツの眼前に手をかざす。  
 そして、普段の彼からしても想像のつかない、凛とした、力強い声がその口から発せら  
れた。  
 
「私はパルミエ王国、新国王ココである! これよりパルミエ王国を一度は滅ぼすきっか  
けを作った、罪人ナッツに対する裁きを申し付ける!」  
 
「「「「「「「「「「「「「「「 っ!? 」」」」」」」」」」」」」」」  
 
 驚きとどよめき。騒然とした声。  
「コココ、ココ様っ、な、何を言ってるミルか!」  
 それらの声を背に受け、しかし半ば無視するように、ココは言葉を続ける  
 
「王国はこれから復興の道を辿る大事な時期だ。かつての過ちを2度と繰り返すわけには  
いかない!  
 パルミエ王国を滅ぼしたナイトメアはここにいるプリキュア達のおかげで退けることが  
できた。しかし、かといって王国を滅びへと導いたナッツ王子の罪が消えるわけではない!」  
 
「!?ココ様、それは違うミル!」  
「ちょっとココ、言いすぎだよ! ナッツはナイトメアに騙されただけなんだよ!」  
 ミルクとのぞみを始め、皆から異口同音の声。  
 が、ココはそれらを一蹴。  
「静まれっ!!  
 私はパルミエ王国の新しい国王だ。誰も私の決定に異を唱えることはできない!」  
 自ら選んだ新しい王の言葉にミルク以下パルミエの住民達は黙り込む。  
 
「さて、ナッツ。お前は自分の罪を認めているな?」  
「ココ……」  
「ココさん……」  
「認めているかと聞いているんだ、被告ナッツ!」  
「……認めて、いる」  
 頭を垂れるナッツにココは満足そうに頷く。  
「よろしい、では被告ナッツにはプリキュア無きこの世界を守護する任を命ずる!」  
 
「「「「「「「なっ!?」」」」」」」  
 
「パルミエ王国が復興するまでナッツにはパルミエの地を踏むことを許さない。晴れて王  
国が復興なるまでこの世界をお前が守れ。そして王国の復興の暁には私はそこにいる夢原  
のぞみを妻にめとる。その時まで、かの者を守ることを命ずる! いいな!」  
 
 指差した当人と、顔を真っ赤にしている指差された当人ののぞみ以外の全員があっけに  
取られた顔でココを見つめている。  
 誰も口を開かない中、ココはにやっと笑ってナッツの肩をぽんと叩く。  
「しばらくのぞみのことは任せたぞ、ナッツ。それからこまちを幸せにな」  
「……ココ」  
 
「よーし! みんなーっ!!」  
 
 ぼんっと煙を伴い、ココが本来の姿に戻る。  
 
「パルミエ王国に帰るココーーーーーーーーーーーっ!!!!」  
 
 数瞬の後に、  
 
 湧き上がる歓声。  
 
 いまだ抱き合うナッツとこまちと、そしてこまちの握る古びた鍵とに、祝福の七色の光  
が降り注いでいた。  
 
   
〜 『 罪の償い 』 〜  FIN  
 
 

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